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2017/12/28 05:00  | 回顧と展望 |  コメント(4)

2017年の回顧


年末ということで今年を振り返ってみたいと思います。

まず、こちらは私が年始に書いた今年の展望です。

「2017年の展望」(1/5)

年始の時点では、何と言っても16年のビッグイベントがBREXITとトランプの勝利であったことから、それが世界にどのようなインパクトを与えるのか・・という点に大きな関心が集まっていました。

そして、アジアでは中国共産党大会という最大の政治イベントが予定されており、それも考慮しながら、米中関係が世界を動かす一大テーマになることを指摘しました。

さらに、中東ではイラン大統領選があり、その展望もおさえつつ、オバマ政権で進展した米・イラン関係がトランプ政権で後退する可能性が高い点を指摘しました。

最後に、トランプ政権がイスラエルに大きく肩入れする可能性があることも指摘していました。

今1年が経ったところで見ると、我ながら(笑)、この展望はかなり正確にポイントをとらえていたと思います。

もっとも、サウジなど予想を超えて大きく変革が進んだところもありました。

今回、あらためて今年の重要な出来事を振り返りつつ、今年の世界情勢がどうだったのか、私なりの視点で描いてみます。

なお、過去の関連記事をいくつか引用していますが、バックナンバーを読みたいと思った方はこちらをご確認ください。

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2017年の回顧
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今年1年を振り返ったとき、まず重要なポイントとして指摘すべきは、強権的なリーダーが数多く出現したことです。

その中心にあるのは、二つの大国である米中のリーダー、トランプ大統領と習近平国家主席です。

そして、この二人のリーダーが率いる米中両国がいかなる形で対峙するのか・・この点が世界を動かす大きな軸になったことに留意すべきです。

●トランプ旋風

まず、米国のトランプです。今年はトランプに始まりトランプに終わった・・それくらい世界は彼一人に振り回されました。

政権発足して間もないうちに、フリンバノンという「異端派」が出ていき、マクマスター・マティス・ティラーソン(MMT)ら「主流派」が中枢を固め、外交面では、意外にも世界におけるリーダーシップの発揮を唱えるようになりました。日本をはじめとする同盟国との関係を重視し、伝統的な共和党政権のスタイルに近づきました。

「トランプ政権のシリア攻撃」(4/10)
「スティーブ・バノンの解任(1)/(2)」(8/22・23)
「トランプの国連演説(1)/(2)」(9/26・27)

大統領選のときと比べてトランプの姿勢は明らかに変貌を遂げました。少なくとも外交面では、内向きな孤立主義という意味での「アメリカ・ファースト」は大きく後退しました。

ただ、トランプの根っこの部分は変わっていません。それは、強烈なナルシシズムとマキャベリズムです。

自らの美学への強いこだわりとそのために手段を選ばないえげつなさ・・これが過去のどの大統領と比べても飛び抜けています。それが、「組織」よりも「個人」の強調、強権的なリーダーシップに投影されます。

その行動原理を理解することはそれほど難しくありません。しかし、具体的なアクションには予測不能な部分が出てきます。ナルシシズムとマキャベリズムがあまりにも度を超えているため、「まさかそこまではやらないだろう」という我々の「常識」を飛び越えてくるからです。

米国の大統領の権力は、実はかなり限定されています。特に内政面で最強の権力をもっているのは議会であり、議会の支持なくして大きな政策を実現することはできません。その議会は大統領の所属政党である共和党が支配していますが、トランプは共和党を自由に操ることができません。

このため、トランプは、不規則にツイッターを連発し、共和党指導部を叩き、民主党に接近するなど創造性豊かな(笑)スタンドプレーで引っ掻き回します。

しかし、結局、立法面で成し遂げたのは税制改革だけでした。その他の成果としては、ゴーサッチ最高裁判事の就任、環境規制の緩和、オバマケアの修正などがありますが、いずれも共和党が実現したかったことに乗っかっただけと言えば、それまでです。

しかし、外交・軍事面では、大統領には相当の自由が認められています。このため、TPP離脱、北朝鮮への挑発、エルサレム首都認定など、政権の主流派であるMMTの方針から明らかに逸脱する場面が出てきました。

「米国のエルサレム首都認定(1)/(2)/(3)」(12/12・13・14)

とはいえ、この1年間の動きを見る限りでは、これも、主流派がマネージできる範囲にはおさまっていました。敵・味方を峻別し、同盟国との関係を重視する傾向は伝統的な共和党政権のスタイルと合致しており、むしろ好都合だった面もあります。

「トランプ政権の北朝鮮外交」(8/15)

そういうわけで、派手な個人プレーは目立ちましたが、まず1年が終わってみると、内政、外交ともにその強権は組織と制度によってかなりの部分制御されていた・・と総括することができるでしょう。

では、そうだとしても、来年はどうなるのか・・これは、来年掲載する「2018年の展望」で解説します。

●習近平の君臨

次に、中国の習近平です。こちらはリーダー個人の人間性が表に出てくることはほとんどありません。ある意味でトランプと対照的です。海外の報道では、習近平がどのような人間なのかさっぱり分からない、東洋の神秘のベールに包まれている・・といわれることがあります。

中国の支配者はあくまで「共産党」であって、最高指導者といえど、あくまでも党の一機関としての役割を果たしているに過ぎない・・これが基本構造です。共産党システム、特に鄧小平以降の集団指導体制において、個人の「独裁」は認められません。

しかし、外形的にはこの建前を守りつつ、実質的には独裁に限りなく近づいている・・これがこの1年間で起こってきたことです。

「習近平体制2期目(1):『皇帝』の誕生」(10/31)
「習近平体制2期目(2):新たな『中華』世界の構築」(11/1)

トランプは、強権的なリーダーとして振る舞っているようで、実はその権力は強い制約を受けていました。一方、習近平は、個人としての側面を一切出すことなく、すさまじい権力集中を実現させています。一見すると二つの国はともに強力なリーダーを誕生させたようですが、権力を抑制する制度の違いがこれだけの違いを生みだしています。

では、独裁体制を固めた習近平は何を目指すのか。共産党大会が終わったところで、前出記事のとおり見通しを示しましたが、時間が経つにつれ、少しずつ姿が見えてきました。これも、「2018年の展望」で解説します。

●MbSの台頭

米中以外にも、ロシアのプーチン、トルコのエルドアン、インドのモディ、フィリピンのドゥテルテなど、古顔から新顔に至るまで、世界各地で強力なリーダーの存在感が目立ちました。安倍首相も、海外ではこれらに並ぶ強いリーダーと見なされています。

その中でも、新たな「世界の顔」とも言うべき、若きライジング・スターがサウジのムハンマド・ビン・サルマン(MbS)皇太子です。

MbSのような強権的、積極的、瞬発的なリーダーはかつてサウジにはいませんでした。その台頭の背景にあるのは、中東の世代交代でしょう。

サウジの人口は30歳未満が7割を占め、MbSは、これらの若者から絶大な支持を得ています。そして、サルマン国王、クシュナー、アブダビのムハンバド・ビン・ザイド(MbZ)皇太子らの支援を受けて、過去に例を見ない改革に乗り出しました。

「サウジアラビアの新時代(1)/(2)」(10/3・4)
「サウジの強権発動の衝撃」(11/14)
「クシュナーとサウジ皇太子」(12/20)

サウジの積極的で大胆な外交により、イラン、イラク、トルコ、エジプト、イスラエル、カタール、イエメン、そして米国、ロシアと中東の関係国の関係は大きく動きました。「イスラム国」は駆逐され、中東の秩序はサウジとイランの対立を軸に動く構造がより鮮明になっています。

「カタールの国交断絶とトランプ政権の混沌(1)/(2)」(6/14・15)
「トランプ政権の新イラン戦略」(10/17)

●民主主義とポピュリズム

こういった強いリーダーの興隆を民主主義の後退とみる向きもありますが、民主主義だからといって、強権が必ずしも否定されるべきではありません。民主主義は「交代可能な独裁」と言われます。選挙を通じて正統性を得たリーダーが強い指導力を発揮すること自体は認められるべきでしょう。

むしろ、気になるのは、なぜそのような強権的なリーダーが出てくるのか、なぜ求められるのか・・という部分です。これは、簡単には言えませんが、ラフに言えば、経済発展の方向性に一つの答えがなくなり、しかも変化が激しく、もはや数年後の状況も見通すことができない時代の中で、いち早くクリアーな答えを出すことが政治に求められているからと思います。

かつては拒否権(veto)をもったプレイヤーを多く設定し、少数者の利益を守ることが重視されましたが、今の時代では、それによってもたらされる非効率を許容できないのでしょう。

これはこれで一つの方向性としてあるとしても、次に出てくる問題は、ポピュリズムです。

16年から欧米で吹き荒れたポピュリズムは、17年になっても大きな問題として続きました。

「ポピュリズム」は言葉だけが独り歩きし、何を問題にしているのか定かではない議論も見かけますが、私は現代におけるポピュリズムの問題は、多元主義の否定にあると思います。これが強権のリーダーシップと結びつくとき脅威になります。この点は、来年の記事で解説します。

●「アメリカ・ファースト」と「一帯一路」

最後に、米中両国の対峙の状況について述べます。

トランプは、発足当初こそ、中国に対する強硬姿勢を前面に出しましたが、北朝鮮問題での連携の必要性、習近平の融和姿勢もあり、その態度を軟化させ、11月の訪中では「貿易赤字は米国の過去の政権の責任」というトンデモ発言まで飛び出しました。

「トランプのアジア歴訪」(11/13)
「米中のアジア外交」(11/20)

しかし、これによって米国の方針が変わるとは考えられません。中国との経済関係に対するフラストレーションは構造的で根深い問題であり、トランプ政権に特有のものではないからです。

安全保障面でも、「国家安全保障戦略」において、中国は「現状打破勢力(revisionist power)」として明確に脅威と位置付けられました。

「トランプ政権の国家安全保障戦略」(12/25)

米国は、日本とともに「インド太平洋戦略」を打ち出し、日米豪印(the Quad)を中心とする多国間の連携で対抗しようとしています。

しかし、今年1年を振り返ると、世界的にみれば、中国のイメージ戦略に軍配が上がったと言わざるを得ないでしょう。

中国は、「一帯一路」を前面に掲げて、アジアを中心にインフラ外交を推進し、「アメリカ・ファースト」はじめ欧米で保護主義の動きが高まる中、自らがグローバル化の担い手となることを堂々とアピールしています。

「中国のインフラ外交(1)/(2)」(11/29・30)

まさか米国が一国主義と保護主義を唱え、中国が多国間主義とグローバル化を掲げる時代になろうとは・・もちろん、これは多分にイメージの問題であって、中国の実態を見ればレトリックに過ぎないことはすぐに分かります。しかし、アジアの国々はこの中国のイメージ戦略に圧倒的な影響を受けています。

私はアジアの国々を頻繁に訪れていますが、どこでも耳にするのは「一帯一路」への高い期待です。「一帯一路」は、実際のところ看板に過ぎず、現実には個々のプロジェクトがそれぞれ別個に動いているのですが、この看板が各国に与えるインパクトは、我々の想像を超えるものがあります。

それに比べると、「インド太平洋戦略」は、残念ながらアジアの国々には響いていません。私が思うに、この言葉の問題は、あたかも主役は日米豪印の4か国であって、他の国々は周縁に位置付けられてしまうように見えることです。韓国が消極姿勢を見せたことが取り上げられましたが、他の国々にも微妙な反応が見られます。

米国のTPP離脱、トランプの不規則な言動もあり、「一帯一路」対「インド太平洋」の対峙は、日米にとって分が良い勝負とは言えなかったと思います。

ただ、ここで最近注目される動きは、日中関係が改善に向かい、日本政府も「インド太平洋」と「一帯一路」の連携に言及するようになってきたことです。これについても、「2018年の展望」で取り上げます。

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2017年の注目記事
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前出記事に加えて、読者の皆さんからの反響もふまえて、個人的にぜひ読んで欲しい記事をピックアップしてみました。特に傑作と思うものは「◎」を付けています(自画自賛ですが・・(笑))。

●米国

「ロシアゲートとトランプ弾劾の行方」
「シャーロッツビル事件と南部の文化」
「バノン主義とトランプ政権・共和党(1)(2)」
「バージニア州知事選と共和党・民主党の将来」
「アラバマ州上院補選」

●中国

「中国とインドの対立(1)(2)」
「王岐山とバノンの秘密会談」
「中国政治の読み解き方」

●北朝鮮

「北朝鮮の核実験(『ICBM搭載用水爆』の開発)(1)(2)」
「北朝鮮の核・ミサイル問題の補足」
「北朝鮮と中国、ロシア」
「トランプのアジア歴訪と北朝鮮」

●東南アジア

「ロヒンギャ危機とアウンサン・スーチーの苦境」
「ロヒンギャ危機と中国・ミャンマー」
「ドゥテルテの訪日」
「ASEAN50年の光と影(1)(2)」

●趣味

「ドラマ『ブレイキング・バッド』」
「忙しい人向けのトレーニング・フィットネス」

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あとがき
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1年の動きを私なりにストーリーにしてみました。大胆にポイントを絞ったつもりですが、いかがだったでしょうか。

日経新聞の「私の履歴書」の江夏豊。面白いですよね。「江夏の21球」、私はリアルタイムではありませんが、ノンフィクションやテレビの特集で何度も見ていました。80年代になると私も小学生から中学生になり、記憶が鮮明になってきます。

この時代はスポーツといえば野球と相撲が圧倒的な人気でしたから、野球も一つ一つの試合が時代を投影しているような味わいがあって、本当に思い出深いですね。

広島といえば86年の西武との劇的な日本シリーズとか、近鉄といえば88年の伝説のダブルヘッダーとか。ちなみに私は当時ファミスタにハマっていたので、ついでに学校近くのゲーセンの思い出もよみがえります(笑)。

今年もあとわずか。明日の記事が今年最後の記事になります。

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4 comments on “2017年の回顧
  1. ぺルドン より
    又一年か

    時間的には・・
    半年・・
    年齢的には二歳年を取った気分だな・・
    来年は・?!
    JDの上半身に‥こちらの顔を張り付けて新年に出すか・・
    それで口説き落とせたら・・
    電気を切って真っ暗闇にせねばならない・・
    ( ^ω^)・・・(笑

  2. 空の財布 より
    戯言

    顔、体、逆の絵も見てみたい…か、見たくないか…悩ましい…(笑)…こりゃ失礼…。

  3. ぺルドン より
    文大統領閣下も・・

    暗闇で・・
    日韓条約の事実上の破棄を・・
    絶叫したのでしょう・・
    関白閣下の切り替えし口上・・
    何でしょうねぅ・・

    JDの分析聞きたいなぁ・・
    ( ^ω^)・・・(笑

  4. KB より
    回顧

    時代の潮流、変化をとらえた、ダイナミックな「回顧」、楽しく読みました。

    この1年、特にメルマガでは、各国のリーダーの政治的な顔、人間的な顔、様々なキャラクターや思想・思考に触れることができ、とても有意義でした。

    それに、国や地域を跨いでいるけれど、どこかでつながっているような、パラダイムシフトを予感させる”変化”にも気づかされました。

    目の前のニュースだけでなく、それを繋ぐための知識や教養、見方が示されて、世界が少しだけ広がった気もします。

    自分自身を回顧すれば、「分かっているようで、分かっていなかった」ことに気づいた1年でした(笑)

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