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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/06/15 00:00  | 中東 |  コメント(4)

​カタールの国交断絶とトランプ政権の混沌②


「カタールの国交断絶とトランプ政権の混沌①」の続きです。

●世界情勢と国際経済に与える影響

カタールは世界最大のLNG輸出国です。このため、まずはLNG価格への影響が気になります。

ここは色々な分析がありますが、断交した国々への輸出量はそれほど大きくないこと、スエズ運河をエジプトが封鎖する動きがありますが、スエズ運河を経由する輸出量はそれほど大きくないことから(迂回も可能)、短期的に大きな影響が出ることはないという予測が有力です。

世界情勢に与える影響ですが、この状況が続けばカタールはイランに接近し、地域のパワーバランスが崩れる危険があります。

とはいえカタールは小国であり、世界全体に与える影響は限定的とみられます。

今後の展望ですが、カタールは、断交した国々から物資に依存しており、当面は空路・海路での輸送でしのげますが、この状況を長く続けるだけの体力はないでしょう。この状況が続けば、2022年のワールドカップ開催も危うくなるかもしれません。

おそらくカタール側から妥協を求めざるを得なくなります。具体的には、アルジャジーラを諦めることが最も有効な譲歩でしょう。

また、関係の修復にあたっては、クウェート、オマーン、米国らキープレイヤーの仲介の動きが注目されます。

●トランプ政権の混沌

ところが、ここで注目されるのは、カタールにとって本来は最も頼りになるはずの大国である米国がカタールの立場を考慮して仲介してくれるのか、見通しが分からない状況になっていることです。

そもそも、なぜサウジがこのタイミングでカタールとの断交に踏み切ったかは、5月23日にカタールのタミーム首長がイランとの関係改善を訴えたことがきっかけといわれますが、これについてカタールは「フェイクニュース」と否定しています。

それよりも、有力な見立ては、トランプ大統領のサウジ訪問が引き金になったというものです。トランプのサウジへの急接近を受けて、サウジが自信を深め、米国の後ろ盾があれば何でもできる・・・と考えたというものです。

もう一つトリガーになった可能性があるのは、今回の断交の直前に起こった駐米UAE大使のメールのリーク。これによると、UAEがカタールのイメージを傷つける情報操作を行っており、そこに米国の親イスラエルのシンクタンクが関与していたことが暴露されています。

米国がサウジの決断を後押しした可能性があることは、トランプがツイッターで「So good to see the Saudi Arabia visit with the King and 50 countries already paying off. They said they would take a hard line on funding…」「…extremism, and all reference was pointing to Qatar. Perhaps this will be the beginning of the end to the horror of terrorism!」と発言し、国交断絶を支持したことからも示唆されます。

ところが、カタールは伝統的に米国にとって重要なパートナー国であり、米軍基地もあります。「テロ支援国」どころか、テロ対策において重要な役割を果たすという位置づけです。

したがって、カタールを孤立化させることは米国の伝統的な外交政策とはまったく整合しません。ティラーソン国務長官とマティス国防長官は、カタールとの関係を重視し、カタールの利益のために仲介することを述べています。

ところが、トランプの発言はこれら閣僚の方針と明確に矛盾するシグナルを送っています。トランプは、ティラーソンとマティスの発言後、仲介を申し出る旨述べ、いったんは方針を修正したかに見えました。

「湾岸諸国は団結を」 トランプ米大統領、サウジのサルマン国王に電話(6月11日付CNN)

しかし、6月9日には、記者会見という公の場で、再びサウジを支持しカタールを批判する旨発言しました。

トランプ米大統領、カタールが「テロ資金援助」 断交を支持(6月11日付CNN)

ホワイトハウスと国務省・国防総省の間で連携がとられず、矛盾するメッセージを発することは今に始まったことではありませんが、今回は、中東の秩序を揺るがすインパクトを与える可能性があります。

また、トランプ政権内の分裂が明らかになり、相互不信、機能不全が深刻化する契機になるとみられます。

このように、今回の一件は、カタール一国の問題を超えて、中東の秩序とトランプ政権の両方に混沌をもたらす可能性を秘めています。

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4 comments on “​カタールの国交断絶とトランプ政権の混沌②
  1. ペルドン より
    藪にらみのトランプ

    状況は常に変化・・
    その時に来た大波を乗るだけ・・
    トランプにも判らない・・
    イランを藪にらみで・・見つめている・( ^ω^)・・・(笑)

  2. リコパパ より
    ありがとうございます

    カタールを取り巻く情勢がよくわかりました。
    中東情勢について理解を深めるオススメの文献等がございましたら推薦をお願いします。

  3. Kosei より
    展望

    結局損するのはサウジ自身とライバル潰しに加担した
    UAEなんでしょうが、色々良く分かりません。
    アメリカとしてはイランとのバランスもあるでしょうし、
    サウジを混乱させても得るものはあまりない気がします。
    ドバイ失墜で、結局またロンドンが得するんでしょうか。

  4. Zucci より
    なるほど。

    解り易い連載記事、ありがとうございます。

    14日に、カタールは米国政府からF15 戦闘機を購入することを決めていますが、この辺り、トランプ大統領の外交や中東情勢などとは全く別の次元で起こっていることなのでしょうか?
    トランプ大統領が「中東を引っ搔き回している」と見るのは、浅い見方ですか?

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