2017/06/14 00:00 | 中東 | コメント(3)
カタールの国交断絶とトランプ政権の混沌①
■ 中東主要国が「テロ支援」でカタールと断交、イラン反発(6月5日付ロイター)
サウジをはじめとする中東の主要国が突然にカタールと国交断絶。中東に激震が走りました。
その理由は、カタールが「テロ支援国家」であることです。たしかにカタールはハマスやムスリム同胞団を擁護する言動を行っています。しかし、どこまで具体的な支援が実際になされているかは定かではありません。
ヒズボラやイエメンのフーシ派に対する支援については、何の証拠もなく、言いがかりに近い印象を受けます。第三者からすれば、「(アルカイダを育てた)お前が言うのか」とツッコミを入れたくなるところでしょう(笑)。
真の理由は、カタールの独立路線に対するサウジの制裁でしょう。カタールは、サウジを盟主とする湾岸協力会議(GCC)のメンバーで、小国でありながら、LNG輸出で経済力を上げ、宿敵イランとの関係を維持し、王政の脅威であるハマスとムスリム同胞団を支持し、中東で圧倒的な発信力を誇るアルジャジーラを育てるなど、独自の動きを展開してきました。
こうしたカタールの動きをサウジが厄介で小賢しいと思っていたことはほぼ疑いありません。(次回述べますが)米国のバックアップを受けて(少なくともサウジはそう考えて)、今回の決断に踏み切ったとみられます。
●GCCのパワーポリティクス
そもそも、GCCは、サウジ、バーレーン、UAE、クウェート、カタール、オマーンの6か国からなる地域協力機構で、もともとはイラン革命を契機に、革命の脅威から地域を防衛することを目的として1981年に発足しました。
経済同盟の構想もありますが、基本的には、王政が体制を維持するための同盟です。その中心は地域の大国①サウジアラビア(サウド家)です。
その国力が圧倒的であるがゆえに、他のGCC各国の特徴は、サウジとの距離をどうとっているかという視点からみるとわかりやすいです。
まず②バーレーン(ハリーファ家)はサウジにべったりで、その強い影響下にあります。
バーレーンは、国民の7割がシーア派であるにもかかわらず支配者であるハリーファ家はスンニ派であることから、サウジから支援を受けてイランの侵食を食い止めることが死活的に重要な状況にあります。
2015年1月にサウジがイランと断交しましたが、このときも真っ先にサウジと同調してイランと断交しました。
次に③UAE(7首長)と④クウェート(サバーハ家)は、基本的にはサウジと歩調を合わせますが、独自の動きもします。
③UAEは、基本的にはサウジとの関係が強いですが、ドバイがイランの中継貿易を担ったこともあり、イランとの経済関係が深まっています。一方、イランとは領土問題も抱えています。
また、カタールからはLNGを輸入しています。そして、事実上のトップであるアブダビのムハンマド・ビン・ザイド(MbZ)皇太子は独自の戦略とリーダーシップを発揮する、湾岸きっての個性的な実力者です。
こうした背景もあり、イランともカタールとも断交まで至らず、外交関係の格下げにとどめています。
④クウェートは、現首長のサバーハ4世が87歳で在位10年に及び、GCCではオマーンのカブース国王(在位45年)と並ぶ長老として影響力をもっています。
このため、サウジから距離をとる傾向がさらに強く、イランとの関係も維持しており、今回のカタールとの断交にも加わっていません。
最後に⑤カタール(サーニ家)と⑥オマーン(ブー・サイード家)は、サウジに従うことなく、独自の外交を展開します。
⑤カタールは、1995年にクーデターで父から国を奪ったハマド前首長の強い個性に影響されています。
ハマド前首長は、アルジャジーラを設立し、女性に投票権を与えるなど、中東の王政の中では異例ともいえるリベラルな思想をもっています。一方、サウジら王政が敵視するムスリム同胞団とも良好な関係を築いています。
⑥オマーンは、イバード派というスンニ・シーアとも異なる宗派であり、このためサウジを中心とするスンニ派連合からは一歩距離をとっています。
サウジのイランとの対立には明確に反対しており、イエメン空爆にも加わっていません。
サウジにとって、カタールとオマーンは、自らの権威に従うことがなく、ある意味でフラストレーションを感じる存在でした。特にカタールのムスリム同胞団への支援とアルジャジーラに対しては、相当に頭に来ていたとみられます。今回の「テロ支援国家」指定も、これらを念頭に置いたものでしょう。
長くなってしまったので、続きは次回に述べます。
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3 comments on “カタールの国交断絶とトランプ政権の混沌①”
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アルジャジーラと引き換えに・・
妥協を図るべきでしょうね・・
国と引き換えにする程・・
民主国家じゃないでしょう・( ^ω^)・・・(笑)
いつも分かり易い記事をありがとうございます。
今回も、日頃のモヤモヤがとてもスッキリしました。
次回、の記事にアップされると思うのですが、カタールもアメリカのバックアップ、というか協力関係にある、と何かで読んだ記憶がありますが。(対ISの指令センターの設置とか)
サウジとカタールで、「どちらがアメリカと協力関係・親密関係にあるのか合戦」をしているというところなのでしょうか?
次回も楽しみにしています!
キリスト教には皇帝による公会議が開かれ、正当派の説を決めていましたし、異端審問所などの記憶もあります。元々難解な成り立ちなので、純理論的な説が出てくるのだと思いますが、審問という伝統は貴重だ。
イスラムの各派は、教えが難解ではないのに生まれてきたというのは、世俗領主的な都合の要素が大きかったのでは。教義ではなく。キリスト教よりも。別に異端ともみなされず、戦闘で決着しているのでは。笑
各地の領主ごとに派があり、つまり少数派が多い印象です。大きくはスンニ・シーアなのでしょうが、そのなかでも別れている。しかし本当は教義の違いは後でとってつけた理由に思えますね。だから本来はキリスト教より妥協しやすいはず。
大きな視野で見ると、昔はモンゴルが侵入してきて王朝がより乱立したが、今はアラブ人、イラン人、トルコ人の3極体制に、米露が絡むという構図に見える。またJDさんの精緻で大局的な分析期待してます。以前の分析も良かったが、もうオバマを持ち上げる必要はありませんよ。笑