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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/12/25 00:00  | 今週の動き |  コメント(2)

今週の動き(12/25~31)


クリスマスですね。そろそろ仕事納めモードに入ってきました。

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先週の動き
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12/17(日)
・チリ大統領選決選投票(ピニェラ前大統領が勝利)

12/18(月)
・トランプ政権が国家安全保障戦略を発表
・オーストリアの国民党と自由党(極右政党)による連立政権が発足
・インドのグジャラート州選挙(与党BJPが勝利)
・南アフリカの与党ANCの党首選(ラマポーザ副大統領が勝利)

12/19(火)
・ペンス副大統領がエジプト、イスラエル訪問を延期
・トランプ大統領が国務次官補(東アジア太平洋担当)にスーザン・ソーントン国務次官補代行を指名

12/21(木)
・カタルーニャ州議会選挙
・米国のエルサレム首都認定の撤回を求める国連決議が採択

12/22(金)
・税制改革法が成立
・米上下両院がつなぎ予算案を可決
・国連安保理が北朝鮮に対する追加制裁決議を採択

1/23(土)
・米議会が休会(~18年1/2)

12/24(日)
・自公両幹事長が訪中(〜29日)

米国ではギリギリのタイミングで税制改革とつなぎ予算をクリアして議会はクリスマス前に無事に休会。また、国家安全保障戦略の発表がありました。それから、オーストリア、インド、南ア、スペインでそれぞれ大きな政治の動きがあったので、順に取り上げます。

●税制改革

予定どおり、無事に可決し、すぐに大統領の署名を経て成立しました。これまで毎週のように書いてきたとおり、法人税と所得税の軽減が好調を続ける米国経済をさらに押し上げることは疑いありません。

ただ、企業と富裕層を優遇し、メディケイドなど社会保障費を削減し、個人の保険加入義務を撤廃してオバマケアの実効性を奪い、財政の均衡も担保されない・・減税の一点を実現するためにこれだけの犠牲を払うことが果たして正しいのかについては議論があります。

そして、最大の問題は、この議論を回避するために、公聴会や専門家のレビューを一切経なかったことです。 これが過去のレーガン、ブッシュの減税との大きな違いであり、このため、この税制改革がどれだけ負の影響を与えるのか、実際のところ誰もわかっていない・・と言われます。

民主党から一人の支持も得られなかった点も過去の減税と異なります。世論調査では国民の反対が支持を上回り、共和党は中間選挙で不利になると予想する専門家も少なくありません。中間選挙はまだ1年も先ですから何とも言えませんが、今回の「成果」が共和党にとってプラスに働くと言い切ることは難しいでしょう。

●政府閉鎖の回避

今回もギリギリで新たなつなぎ予算を可決し、来年1月19日まで予算の効力を延長することで政府閉鎖を回避しました。これで今年の議会は終了し、年明け早々の1月3日に再開してすぐに次の予算協議に取り組むことになります。

●トランプ政権の国家安全保障戦略

国家安全保障戦略(National Security Strategy, NSS)」は、法令(86年のゴールドウォーター・ニコラス法)により、政権から議会への定期的な報告が義務付けられている文書です。

過去に大きな話題を呼んだのは02年のブッシュ政権のNSSで、これは「先制攻撃(pre-emptive strike)」の必要性を打ち出し「ブッシュ・ドクトリン」と呼ばれました。この思想は03年のイラク戦争で現実化することになります。

今回のトランプ政権のNSSは、中国とロシアを脅威と位置づけ、北朝鮮とイランを「ならず者国家(rogue regime)」と呼び、これに日本を含む同盟国と一致して対抗する、というスタンスを明確にしています。イメージとしてはレーガン政権の「新冷戦」を彷彿させます。

全体として、 米国の価値、世界における影響力を重視しており、内向き志向になっていないところは、 国連演説で示された「トランプ・ドクトリン」に沿った内容です。

「トランプの国連演説①/

マクマスター大統領補佐官、マティス国防長官が率いる安保の専門家チームが主導して作成したことは明らかであり、特に驚く点はありません。安全保障戦略であるにもかかわらず、自由で公正な貿易といった経済的側面が強調されているのがユニークですが、これはトランプの「アメリカ・ファースト」のこだわりに配慮したのでしょう。

ただ、税制改革という、トランプ・共和党政権にとってもしかしたら最初で最後となるかもしれない内政アジェンダを達成した状況で、あらためて仮想敵国に対する強硬姿勢をアピールした点には留意が必要です。今後、これらの国々、特に北朝鮮とイランに対して、今後どこまで具体的なアクションをとるのか気になるところです。

まずはイランがどうなるか。年明け早々に制裁のウェイバー署名と議会報告の期限を迎えるので、その対応が注目されます。

●オーストリアの連立政権

10月の下院選でセバスチャン・クルツ(31歳)が率いる国民党が勝利したことは以前お伝えしていました。

「今週の動き(10/16~22)」
「今週の動き(10/23~29)」

クルツはもともと反移民・反難民の立場であり、極右政党である自由党との連立は予想されていました。自由党は元ナチス党員が中心になって結成した政党です。80年代に党首となったイェルク・ハイダーは過激な言動と強烈なカリスマで世界的に有名な人物でした(08年に交通事故で急死)。

国民党は中道右派政党で、親EU路線を採っており、他の欧州の国のポピュリズムのようにEU離脱という方向にはならないでしょう。しかし、内向き志向を強めること、欧州の他の極右政党の勢いに波及することが懸念されます。

なお、戦後のオーストリアで極右勢力が台頭する文化的背景を感じられる映画に『愛の嵐』(『The Night Porter』、リリアーナ・カヴァーニ監督、1975年)があります。

私は大学生の頃、ヴィスコンティ、パゾリーニ、フェリーニ、ベルトルッチといったイタリア人監督の退廃と倒錯に満ちた映画を好んで見た時期がありました。ネットもなく情報も簡単には手に入らなかった時代、ハリウッドや日本の映画では見られない独特の世界観と映像美に接して、これが欧州の精神性なのか・・と圧倒されたものです。

この監督と作品も、その流れに連なるものとして強い印象が残っています。こうして20年経って、現代欧州の政治情勢を見ながら取り上げることになるとは思いも寄りませんでした。感慨深いものがあります。

●インドの州選挙

与党BJPがグジャラート州とヒマーチャル・プラデシュ州で勝利し、29州のうち19州の議会でBJPが多数をとることになりました。単独の政党がここまで全土の州で支持を得たことはインド史上ありません。ナレンドラ・モディ首相は「全盛期のインディラ・ガンジーでさえ18州が限界だった」と自らの政党の隆盛を讃えました。

モディ首相が国民から絶大な支持を得ており、BJPが連勝を重ねていることはこれまで述べてきたとおりです。

「インドの州議会選挙:モディ首相の政党が圧勝」
「イヴァンカのインド訪問」

今回の選挙もその勢いがそのまま続いた結果のように見えます。ただ、選挙の結果をよく見ると、グジャラート州でのBJPの議席は115から99に減少しています。

グジャラート州は、モディ首相が州首相を10年続け、BJPが20年間与党を守っている鉄壁の州であり、今回もBJPは当初120~150議席を目標に置いていました。それが、事前の世論調査では接戦に追い上げられ、BJPの敗北すらあり得ると言われました。

したがって、今回の結果は、よく言ってBJPの辛勝、厳しく言えば後退とも言えるものです。もしかしたらここからBJPの後退トレンドが始まるのでは・・という見方もあります。

来年は、カルナータカ、マディヤ・プラデシュ、ラジャスタンという大型州の選挙が予定されています。ここでどこまでBJPが勝てるかが19年総選挙に向けた試金石になります。

●南ア与党の党首選

現職党首のジェイコブ・ズマ大統領は、10年の長きにわたり党首を続け、前妻のドラミニ・ズマを後継党首にしようとしましたが、シリル・ラマポーザ副大統領がこれを破りました。

ズマは非常に問題が多いリーダーでした。汚職、縁故主義、レイプの疑惑、無能の批判・・それでも支持を保っていたのは、「歌って踊れる大統領」(笑)という親しみやすいキャラクターにあり、それに尽きる・・と言われます。

これでズマの時代が終わる(19年に大統領の任期満了)のは朗報です。もっとも、党内でのズマ派の力は依然として強く、後継党首で次期大統領の有力候補となるラマポーザは労組の運動家から実業界に転身して成功を収めた人物ですが、自身が取締役を務めた鉱山会社の労働者が警察に殺された事件(マリカナ事件)に関わっていたといわれています。

それにしても、ズマもラマポーザもかつてはネルソン・マンデラとともに反アパルトヘイトの闘士として活躍し、ズマはマンデラと同様、投獄もされましたが、今や二人とも巨万の富をもつ権力者になりました。黒人が統治する国になったとはいえ、今は黒人の間での格差拡大と政争が激化し、混乱が続いています。

マンデラは傑出した知力、政治力、高潔さを備えた、世界的にみても稀有な指導者でした。その偉大なリーダーシップは、以下の記事で述べたとおり、映画『インビクタス』とその原作で描かれています。

「映画『インビクタス』」

そのマンデラは13年に亡くなりました。今の状況を見たらどう思うでしょうか。まずは今回の選挙を経て国が良い方向に向かうことを期待しましょう。

●カタルーニャ州議会選挙

独立派政党が過半数を獲り、混乱した状況が続くことになりました。州議会選挙の実施を決定したのは中央政府であり、いわば賭けに敗れてしまった格好です。

これによってまた独立宣言といった極端な事態に発展することは想定できませんが、中央政府は何らかの形で対応せざるを得ないでしょう。以前の記事で述べたとおり、自治権の拡大を念頭においた交渉を検討する可能性があります。

「今週の動き(10/16~22)」

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今週の動き
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12/27(水)
・韓国政府が慰安婦合意検証報告書を発表

●慰安婦合意

慰安婦合意は15年末でしたから、ちょうど2年になるのですね。

「慰安婦問題の最終的・不可逆的な解決①//

この記事で書いた時点から韓国の内政状況は大きく変化しました。何となく予想できた展開だったとはいえ、どうしようもないですね。

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あとがき
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今週は仕事納めモードということで、日々の政治経済ネタから離れて、読者の方からのコメントを受けての意見交換、今年の回顧、歴史・文明の話など、肩の凝らない記事をお届けしたいと思います。

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2 comments on “今週の動き(12/25~31)
  1. KB より
    最初で最後・・・

    最初で最後かもしれない、、、。
    だから是が非でも、爪痕を残したくて、公聴会など何もかもぶっ飛ばして税制改革を滑り込ませた。としたら、本当になりふり構わず、ですね。
    来年どうなるのでしょう・・・?

    書店では、来年を占う雑誌などが書棚をにぎわせていますが、その中で、「選挙にも大勝したし、インド経済にかなり前向き」な経済誌が散見されています。

    もちろん、経済成長や産業などには伸びしろがあるでしょうけれど、JDさんのような、今回の選挙結果が事前予想と乖離していたことや、来年以降の大型選挙に注目、という指摘は、見当たらなかったですねぇ(笑)

    新興国にとっては、このような側面を理解しておくこともとても重要と感じます。

    このメルマガにあるように、丁寧に複眼的に見て、ポジショントークに踊らされず(笑)、判断する力をつけないといけないですね!

    勉強になります。

  2. ぺルドン より
    クリスマスプレゼント

    豚児がどうした事か・・
    クリスマスケーキを注文し・・受け取って来た。
    全員・・
    クリスマス用デコレーションケーキを喜ぶ年ではない。
    処が開けると・・注文した品とは違うデコレーションが鎮座していた。

    息子が慌てて店に電話すると・・返金します・・
    そのケーキは召し上がって下さい・・と店・・
    そんな経緯で・・
    思い出せない程昔々食べた・・クリスマスケーキを又食べさせられた。息子と一緒に・・結構美味かった・・無料だった所為なのか・・家族全員だった所為か・・
    よく分からないが・・
    ( ^ω^)・・・(笑

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