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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/11/20 00:00  | 今週の動き |  コメント(4)

今週の動き(11/20~26)


このところ慌ただしい日々が続いており、ウェブの更新はしばらくの間、少しスローになるかもしれません(メルマガはこれまでどおりのペースで配信します)。

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先週の動き
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11/11(土)
・TPP11の大筋合意の閣僚声明が発表(ダナン)
・日中首脳会談(習近平)(同)
・中韓首脳会談(同)
・米韓海軍合同演習(日本海、〜14日)

11/12(日)
・米越首脳会談(ハノイ)
・中越首脳会談(同)
・日・マレーシア首脳会談(同)
・日・インドネシア首脳会談(同)
・イラン・イラクの国境地域で大地震

11/13(月)
・ASEAN首脳会議(マニラ)
・米・ASEAN首脳会議(同)
・米比首脳会談(同)
・日中首脳会談(李克強)(同)
・日米豪首脳会談、日豪首脳会談、日比首脳会談(同)
・日・ASEAN首脳会議(同)
・中・ASEAN首脳会議(同)
・日米合同軍事演習
・トランプ大統領が厚生長官に元製薬大手幹部のアレックス・アザー氏を指名

11/14(火)
・東アジアサミット(マニラ)
・ASEAN+3(日中韓)首脳会議(同)
・RCEP首脳会議(同)
・日印首脳会談(同)
・安倍首相がミャンマーのアウンサン・スーチー国家顧問と会談(同)

11/15(水)
・ティラーソン国務長官がミャンマー政権幹部と会談
・ジンバブエ軍が国営放送局を占拠

11/16(木)
・米下院が税制改革法案を可決
・カンボジア最高裁が最大野党の解散を命じる判決
・アル・フランケン上院議員がラジオ司会者の女性に不適切な行為をしたとして謝罪

11/17(金)
・中国共産党対外連絡部の宋濤部長が習近平国家主席の特使として北朝鮮を訪問
・NAFTA再交渉第5回会合(メキシコシティ、~21日)
・自宅軟禁下にあるジンバブエのムガベ氏がハラレで行われた大学の卒業式典に出席

11/18(土)
・レバノンのハリーリ首相がフランスを訪問

11/19(日)
・チリ大統領選

今週も、アジア、米国、アフリカとネタは多いですが、掘り下げた考察は後日にして、本日は軽めにコメントします。

●米中のアジア外交

例年、この時期は、ASEAN首脳会議にあわせてアジアの首脳外交が活発化しますが、今年は、トランプ大統領の初のアジア歴訪、習近平体制2期目、北朝鮮、ロヒンギャ・・と盛りだくさんでした。

最大のポイントは、これまでの記事で述べてきたとおり、米中のせめぎ合いでした。

全体としてみると、中国が得たものは大きかったといえるでしょう。

特に「貿易赤字の責任は中国ではなく米国の過去の大統領にある」というトンデモ発言をトランプから引き出したのは、中国にしてみれば快挙といえます。

また、南シナ海問題についても、ASEANが一体となり、これに日米も加わって中国にプレッシャーをかけるのが恒例でしたが、明らかにトーンダウンしました。

トランプは、「インド太平洋戦略」をアピールして、安全保障面ではアジアとの連携を謳いますが、経済では多国間主義を否定し、各国が国益を追求することの正しさを強調しました。

これは、東南アジアの小国からは、一見フェアのようで、実態は「大国による小国いじめ」だろうと受け止められるおそれがあります。

トランプの唱える「アメリカ・ファースト」は、単純な孤立主義ではなく、米国の利益にかなう形での貿易拡大、中国への対抗を志向しており、そこには日本と東南アジアが連携する余地があります。しかし、トランプの素朴なリアリズムがこの連携を妨げ、結果として中国につけ入る隙を与えています。

一方、トランプは、これまでの振る舞いから予想されていましたが、人権と民主主義への無関心をあらためて示しました。

以下の記事で、アジア歴訪前に、ロヒンギャとカンボジアについてどのような対応を見せるか注目されると書きましたが、ロヒンギャ問題にはほとんど言及しないばかりか、どちらかといえばミャンマー政府の取組みを評価する旨述べました。

「トランプのアジア歴訪と北朝鮮」

さらにインパクトがあったのは、カンボジアのフン・セン首相に対する友好的な姿勢です。トランプはフン・センと会うと笑顔で親指を挙げるしぐさをし、フン・センは「あなたを尊敬している」とトランプを讃えました。

以下の記事で述べたように、フン・センは選挙対策のため反対勢力を強権で抑え込み、米国から強い非難を浴びていました。

「カンボジアの強権統治と米中との関係」

しかし、トランプ自身は、国務省の方針と異なり、これをまったく意に介しない態度を示しました。フン・センは、昨年の米大統領選の前に「トランプの勝利を祈る」と述べた数少ない世界のリーダーの一人でした(あとはプーチン金正恩、それに後述するジンバブエのムガベ)。この展開を予想していたのでしょう。

今回の一連の首脳外交の直後、カンボジアでは最大野党の解散を命じる判決が下されました。このままカンボジアは強権の道を突き進み、欧米は特恵関税の停止といった措置をとることが予想されます。

これは、トランプの信念である自国中心主義が内政不干渉という形で表れているのでしょう。

ドゥテルテとの間でも、すでに予想していたとおり、人権問題を意に介さず、友好関係を演出しました。これに対しドゥテルテは、「米国の最高司令官の命令だから」と言って夕食会で得意のカラオケを披露するほどのサービスで応えました。

「ドゥテルテとトランプ」

こういった内政不干渉は、民主主義を強引に押し付ける外交でアジアの反発を買うよりはマシ、という実利的な考えもあります。柔軟なリアリズムは日本外交の得意とするところでもあり、それ自体がダメというものではありません。

ただ、トランプは無軌道なので、うまくコントロールできるかという問題はあります。そこは、安倍首相の腕の見せ所でもあります。

無軌道という意味では、今回、トランプは中国の熱烈な歓迎を受けて、上記のとおり、貿易赤字を問題にしないような発言も出ましたが、これもまったくあてにはできません。トランプは米国に帰れば再び中国の批判を始めるでしょうから、せいぜい中国にとっては時間かせぎに過ぎず、そのことは彼らも分かっているはずです。

ということで、今回の首脳外交を経て、これまでの状況が大きく変わったところはありませんが、中国がアジアにおける影響力を高めるトレンドがさらに強まり、反面、米国に対するアジアの信頼感は揺らぎつつあることがさらに鮮明になったといえます。

ただ、米国が中国と「取引」するという見方は安直で、二つの大国のつばぜり合いは今後も続くでしょう。

●税制改革

下院の法案がわずか2週間というスピード審議、しかも共和党員の反対票をわずかにおさえて可決。

ただ、これから両院協議会での調整が行われますが、上院の法案との隔たりは大きく、難航が予想されます。

年末か遅くとも来年早々には成立する可能性が高いという見方が有力ですが、悲観的な見方も増えています。

●米政界のスキャンダル


ロイ・ムーア
上院議員の性的スキャンダルについては先週お伝えしましたが、ムーアは疑惑を否定し、共和党や社会的保守からは擁護する声も出ており、依然として大きな問題になっています。

「今週の動き(11/13~19)」

ところが、今週、今度は民主党のアル・フランケン上院議員の性的スキャンダル問題が発生しました。これも、米国では大きなニュースになっています。

フランケンは元々『サタデー・ナイト・ライブ』にも出ていた人気コメディアンでしたが、10年前、テレビ番組の制作中、共演していた女性タレントにキスを迫ったり、寝ている間に痴漢をしていたということをこの共演者の女性が主張しました。フランケンはキスを迫ったことは否定しながら、痴漢については証拠写真もあり、謝罪しました。

フランケンはリベラルとして知られ、女性の地位向上に熱心に取り組んでいたことから、その評判を大きく損なうスキャンダルになりました。フランケンからこれまで激しく非難されてきたトランプはここぞとばかりにツイッターで「フランケンの写真は大問題だ」と大々的に取り上げました。

最近、米国では、政界のみならず、シリコンバレーやハリウッドで性的スキャンダルが相次いでいます。一人告発する女性が現れると、自分も告発する勇気が出たということで、連鎖反応が起きているといわれます。

こうしたモラルの荒廃は、以前からあったことで、それが明るみに出ているだけという見方もありますが、政治面で注目すべきは、こうしたスキャンダルが党派対立の題材になっていることです。

すなわち、ムーアに関しては、公職もはく奪されてもおかしくないほど深刻な問題であるにもかかわらず、共和党議員やフランクリン・グラハム(ビリー・グラハムの息子)のような有名な宗教指導者が擁護しています。これは、保守主義者はムーアのような超保守を何としても議員にしたいからです。

一方、フランケンの行為は、ロイ・ムーアや映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタインの行為に比べれば、ずっと軽いものです。それなのに、トランプや保守派は猛烈な攻撃を加えています。

同じ性的スキャンダルであっても、政治的地位によって反響が大きく異なり、それが国民的な党派対立を助長する。これも米国の分断を象徴するイベントといえます。

●ジンバブエ政変

アフリカを取り上げることはほとんどしていませんが、この件は、海外では大きな注目を集めており、毎日アップデートが報道されているので、少しだけコメントします。

ムガベは1980年に白人支配のローデシア共和国が選挙を経て終結し、現在のジンバブエ共和国が成立してから現在にいたるまで37年も最高権力者として君臨しています。現在、93歳。

強烈な白人敵視、同性愛嫌悪で知られ、アフリカの独裁者の典型といえます。ジョージ・W・ブッシュは、かつてイラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼びましたが、その後、ジンバブエ、ベラルーシ、キューバ、ミャンマーを弾圧国家に加えました。

アフリカは中国の経済進出が目覚ましい地域ですが、ジンバブエはその中でも特に際立っています。

たとえばこの国は、自国通貨を廃止して外国通貨を法定通貨としていますが、その中でも人民元を最重要の通貨として公式に指定しています。これは中国のインフラ外交について別稿で解説するとき取り上げます。今回の政変でも、中国の影がちらつきます。

なお、ムガベにとどまらず、アフリカには任期が長い独裁者が数多く存在します。

現職では、カメルーンのビヤが35年、ウガンダのムセベニが31年、チャドのデビが27年。過去の例では、05年に死去したトーゴのエヤデマが38年(現在はその息子が大統領)、09年に死去したガボンのボンゴが42年(これも現在はその息子が大統領)、旧ザイールのモブツが32年、ケニアのモイが24年。

アジアで現在これらに匹敵するのは首相在位32年のカンボジアのフン・センだけです。

アフリカの独裁については以下の記事で取り上げたことがあります。ご興味あればご覧ください。

「オバマ大統領のアフリカ訪問」

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今週の動き
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11/20(月)
・ASEM外相会合(ネピドー、~21日)

11/22(水)
・ロシア・トルコ・イラン首脳会談(ソチ)

11/23(木)
・サンクスギビング
・IAEA理事会(ウィーン、~24日)

11/24(金)
・EU東方パートナーシップ首脳会議(ブリュッセル)

●ロシア・トルコ・イラン首脳会談

米国と関係が悪化している3大国が集まると何か不穏な感じがしますが(笑)、会議の目的はシリア和平です。

シリア内戦はアサド政権、複数の反政府勢力、「イスラム国」が混在し、複雑を極めていますが、ロシアのアサド政権へのテコ入れと空爆により「イスラム国」が駆逐され、米国も、アサド政権を容認はしないまでも和平プロセスから排除まではしないという方向に傾く中、和平交渉が本格化することが期待されます。

ただ、反政府勢力は様々で、欧米が認める勢力とロシアらが認める勢力は異なり、相互に対立するケースもあります。ここでも大国間のパワーゲームが展開されることになるでしょう。

シリア内戦とロシア・トルコ・イランの連携については以下の記事をご覧ください。

「ロシアによるシリア空爆」
「ロシア・トルコ・イランの三国連携」

●サンクスギビング

今週の米国議会はサンクスギビング(感謝祭)ということで休会です。来週から上院で税制改革法案の審議が始まります。

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あとがき
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読者の方から沢山メールをいただいていますが、現在、すぐに返信するのが難しい状況です。少しお待ちください。

ご質問やご要望は記事を書く上で大いに参考になっています。引き続きよろしくお願いします。

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4 comments on “今週の動き(11/20~26)
  1. KB より
    忙しい人の・・・

    ご多忙のご様子、お察しいたします。

    とはいえ、冒頭の決意・・・。

    そんな中、週4回メルマガを配信するのは、JDさんの時間の使い方なのか、強い信念なのか、両方なのか、、、?

    凡人には分かりませんが、お時間のある時に、「忙しい人の~」シリーズで、「忙しい人の、タイムマネジメント」とか「忙しい人のメンタルトレーニング」とか、お願いしたいところです。

    本題からそれましたが、今週はとうとうアフリカまで網羅。ご本人は「軽くコメント」と仰っていますが、、、この内容。敬服します!

  2. ぺルドン より
    こうして羅列すると

    大きな外交のウネリが・・
    一目瞭然となる・・トランプの中国への発言は・・
    率直に米国の戦略の不備・欠陥・あるいは無さを認めたもので・・
    バノンの分析と一体だろう。
    次に・・
    そこでトランプ・米国はどうするか・・となる・・
    中国の外交的勝利・トランプ外交の未熟とはならない・・勿論職業外交官からすれば・・身震いする言動とはなるが・・・(笑

  3. JFKD より
    これから

    トランプは米露同盟で安全保障をやりたいが、支配層は米中同盟だから上手くいかない。だから中国にプレッシャーをかけられない。議会でももう民主党と折り合いをつけた方が手っ取り早い。
    ロシアゲートなど中国ゲートに比べたら、本当は問題にもならないのだが、誰も中国ゲートのことは言わない。チベット・ウイグルの事も問題にしなくなって久しい。中国の巨大市場の威力だ。
    ロシアも米国が原油価格を下げられると苦しいが、ベネズエラもデフォルトらしい。まあ中国も返済より現物・地権などの代物弁済が目的だからどうということはないかもしれないが、AIIB融資でもこの手だろうから、日本は参加しても馬鹿を見る。
    まあ日米は中国に敗れたと言えるが、JDさんもぺルドンさんもそれは織り込み済みだ。北朝鮮にメドがついたら、トランプは動くのでは。バノンは確かに別動隊になった印象だ。

  4. ぺルドン より
    世界情勢ブリーフィング

    PCを修理中で・・
    今ノートを使っているので・・世界情勢ブリーフィングが来ず・・おかしいなと
    思っていたら再読コーナーを思い出し・・再現・!
    頑張って書いてますね。

    チベット旅行は非常に貴重な体験です。何にでも使えますよ。万能の調味料。
    僕の世代は「一日一ドル旅行」小田誠の全盛時代。ナホトカからシベリア鉄道に
    乗って欧州にが定食コースだった。五木寛之もそれで始まった。

    下痢は往生しましたね。「尾籠な話」で書いたけれど。水に砂糖を入れて飲用するのが応急手当・・僕はコカコーラで助かった。

    パキスタン人の映画監督の話・・面白いですね。僕は「ババラクサイ」を思い出した。
    しかしそれだけバックパック旅行の経験を積んでいて・・外交官を辞めたのは勿体無いな。弁護士にはなったし復職の道はないのかな・?憲法改正なれば・・今とは異なるタイプの外交官が必要になるけれどな・・

    処で浮いた話が出てこないけれど・・僕は書きすぎだと奥方に睨まれているけれど・・・(笑

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