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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2018/12/10 00:00  | 今週の動き |  コメント(2)

今週の動き(12/10~16)


クリスマスと年末の雰囲気が本格化してきましたね。私も年末に向けてラストスパートという気分になってきました。

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先週の動き
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12/1(土)
・フランス各地でマクロン政権の燃料税引き上げ等に反対する大規模デモ(3週末連続)

12/2(日)
・国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)が開幕(ポーランド・カトウィツェ、~14日)
・スペインのアンダルシア自治州議会選挙(極右政党「ボックス」が12議席獲得)

12/3(月)
・トランプ政権が米国による中国への追加関税の引き上げの90日間の猶予は12月1日から始まる(通商協議の期限は19年2月末)と表明
・トランプ大統領が対中交渉の責任者にライトハイザーUSTR代表を指名
・バイデン前副大統領が20年大統領選挙への出馬意欲を表明
・カタールがOPEC脱退を表明
・ユーロ圏財務相会合(ブリュッセル)

12/4(火)
・トランプ大統領が自らを「関税マン」と呼び中国との交渉期間は「延長されない限り」90日であり合意できなかった場合には追加関税を拡大するとツイート
・英議会でBREXIT協定案の審議開始
・英下院が法務長官から受けていたBREXITに関する法的助言の全文公開にメイ政権が応じないことは議会侮辱にあたるとする決議を可決
・EU司法裁判所の法務官が英国による一方的なBREXIT撤回は可能との見解を示す
・フランスのフィリップ首相が19年1月に予定していた燃料税の引き上げの6か月延期を発表し、さらにその後19年中に増税はしないと発表
・NATO外相理事会(ブリュッセル)
・EU財務相理事会(同)

12/5(水)
・カナダ司法省が華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼CFOを12月1日に逮捕したと発表
・ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領の国葬(国民追悼の日)
・英国のメイ政権が法務長官から受けていたBREXITに関する法的助言の全文を公開
・英下院デジタル委員会がフェイスブックから大量の個人情報が流出した問題の調査の一環として同社の内部資料を公開
・韓国の光州高裁が三菱重工業に対する元女子勤労挺身隊員の損害賠償訴訟の控訴審判決

12/6(木)
・OPEC総会(ウィーン、〜7日)
・国連主導のイエメン和平協議(スウェーデン・リンボ)
・エクアドルのモレノ大統領が12年から在英大使館で保護している「ウィキリークス」創設者アサンジを近く退去させる方針を発表

12/7(金)
・トランプ大統領が次期司法長官にウィリアム・バー元司法長官、次期国連大使にヘザー・ナウアート国務省報道官を指名
・米国で12月21日までの歳出を可能にする「つなぎ予算」が成立
・ドイツ与党・キリスト教民主同盟(CDU)党首選(クランプ=カレンバウアー幹事長が選出)
・OPEC加盟国と非加盟国が日量120万バレルの減産で合意(ウィーン)
・ロシア・ギリシャ首脳会談(モスクワ)

12/8(土)
・トランプ大統領がケリー大統領首席補佐官の年末までの退任を発表
・トランプ大統領がダンフォード統合参謀本部議長の後任にミリー陸軍参謀総長を指名するとツイート
・フランス各地でマクロン政権に対する大規模な抗議デモ(4週末連続)
・日EU・EPAが国会承認(19年2月1日に発効の見通し)
・改正入管法が成立

トランプ政権の人事刷新

トランプ大統領がセッションズ前司法長官の後任にウィリアム・バー元司法長官、ヘイリー国連大使の後任にヘザー・ナウアート国務省報道官を指名。さらにダンフォード統合参謀本部議長の後任にマーク・ミリー陸軍参謀総長を指名するとツイート(ダンフォードの任期が終わるのは19年9月30日だが交代が早まる可能性がある)。

そしてついにケリー大統領首席補佐官の年内退任が発表。一気に人事刷新が進められた一週間になりました。

バーはジョージ・H・W・ブッシュ政権で司法長官を務め、生粋の共和党員として尊敬を集めてきた人物。ただロシアゲート捜査に関してはトランプを擁護する趣旨の発言をしたことがあり、上院の承認がどうなるか不透明な面があります。一方、公平中立な姿勢に疑いはないという見方もありますが、そうした姿勢を貫けば、やはりトランプに攻撃されて前任の二の舞になるのでは・・という懸念の声も聞かれます。

ナウアートは元FOXキャスターのジャーナリスト。大変な美人で、国務省報道官としては堅実な仕事を見せていましたが、実績は乏しく、国連大使に指名されたのは驚きです。トランプの好みと他に適当な人材が見つからなかったことが大きかったと推測されます。

ダンフォード統合参謀本部議長の後任発表は衝撃を呼んでいます。任期を1年近く残しながら発表したことは早期退任を示唆するものであり、トランプもその可能性を否定していません。一説ではマティス国防長官・ダンフォードは慣例に従い空軍参謀総長の起用を望んでいましたが、トランプはその意見を受け入れず、自らの希望を優先させたといわれています。他の軍高官も一気に交代されるという情報もあり、ここは今後の展開が注目されています。

最後にケリー首席補佐官の事実上の解任。もはやタイミングの問題といわれていたので驚きはありませんが、これでトランプ政権で「大人たち」といわれたエスタブリッシュメント・タイプの重要メンバーはマティス国防長官ただ一人になりました。ダンフォードの人事を含め共和党議員の懸念は相当に高まると考えられます。共和党が「トランプ党」化している中でただちにトランプ政権が揺らぐとは考えられませんが、これまで以上に注意深いフォローが必要になります。

●ファーウェイ副会長の逮捕と米中の「ハイテク戦争」

米中首脳会談で「休戦」が成立した12月1日、カナダでは、華為技術(ファーウェイ)孟晩舟・副会長兼CFOが逮捕されるという衝撃的な事態が発生していました。

「米中首脳会談」(12/3)

その容疑はファーウェイが子会社「スカイコム」を通じてイラン制裁に違反する取引を行っており、金融機関に虚偽の申告をしたというもの。禁固刑30年に相当する罪状といわれています。孟晩舟は創業者である任正非CEOの娘で、後継者と目されている重要人物です。

ファーウェイについては本メルマガでも何度か取り上げていますが、中国で最も成功をおさめた企業であり、世界的にもトップクラスの通信機器メーカーです(通信機器の市場シェアは世界1位、携帯電話販売数はサムスンに次いで2位)。ファーウェイとともに二大メーカーといわれる中興通訊(ZTE)と比べても従業員は2倍、収益は6倍と圧倒的な規模を誇り、「中国製造2025」が中核と位置付ける第5世代移動通信システム(5G)の覇権を握る上でも最も重要な役割を担っています。

一方、創業者である任正非は元々中国人民解放軍の技術者であり、ファーウェイには中国共産党の事実上の傘下にある「国策企業」という性格があります。このため数年前から米国の安全保障関係者は、ファーウェイの製品が安全保障上の脅威になる懸念を表明してきました。

4月にはZTEがイランと北朝鮮への制裁に違反する取引を行ったことで米国から制裁を受けましたが、ファーウェイが次の標的になるとみられていたことは以下の記事で指摘していました。

「ZTEの制裁と華為の捜査」(4/30)
「第3回米中通商協議とZTE制裁解除」(6/11)
 
8月にはファーウェイ、ZTE、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)海能達通信(ハイテラ)の5社の製品による政府調達を禁止することを盛り込んだ国防授権法(NDAA)が成立しました。

「今週の動き(8/20~26)」(8/20)
 
今回の逮捕はイラン制裁違反を理由とするものであり、クドロー大統領補佐官は対中交渉とは関係ないと発言していますが、大きな構図としては、米国が中国に仕掛ける「ハイテク戦争」が背景にあるとみられ、ボルトン大統領補佐官もそうした見方に沿った趣旨の発言をしています。以下の記事などで述べてきたとおり、「ハイテク戦争」は、米国の政財界にあった長年のフラストレーションを反映したものであり、ある意味で「貿易戦争」より重要な意味をもつものです。

「ボアオ・アジアフォーラムと米中の『貿易戦争』」(4/16)
 
では今回の逮捕劇は米中の「貿易戦争」の「休戦」に影響を与えるのか。「貿易戦争」と「ハイテク戦争」の関係はどうなるのか。米中首脳会談の補足とライトハイザーUSTR代表の対中交渉トップ指名の意味とともに解説します(※メルマガに限定)。

●マクロン政権の苦境

フランスで11月17日から始まった燃料税引き上げに対する抗議デモ(黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)運動)が勢いを増し、一部で暴徒化して死者も発生。マクロン政権はついに19年中の燃料税引き上げを断念しました。

しかしデモは燃料税にとどまらずマクロン政権そのものへの批判に広がりを見せ、12月8日のデモも予定どおり行われました。マクロン大統領とフィリップ首相の支持率は低下を続け、12月4日発表の世論調査によればそれぞれ23%と26%。これはフランス史上最も支持率が低い大統領といわれた13年末のオランド前大統領と並ぶ低水準といわれています。

その背景には、マクロン政権のエリート意識に対する市民の反発の高まりがあるとみられます。マクロン政権のEV優遇は「燃料が高いならEVを買え」というメッセージと受け止められました。デモが激化する中でダルマナン公会計相の「パリのレストランで食事をすればワインなしでも200ユーロ(約2万6000円)はするのに月950ユーロ(約12万円)で生活するのは大変だ」と発言したことも火に油を注いでいます。

マクロン政権の苦境は極めて深刻ですが、これがルノー・日産問題にどのような影響を与えるのかも気になるところです。

●CDU党首選

ドイツ与党CDUの党首選では、先週の記事で予想したおり、アンネグレート・クランプ=カレンバウアー(通称AKK(アーカーカー))が勝利しました。

「CDU党首選」(12/3)

AKKは「ミニ・メルケル」といわれるほどメルケルに近い政治家で(ただし本人は「ミニ」と言われるのを嫌がっている)、メルケル首相がヘッセン州議会選挙で党首選への不出馬を決めたのは自らの路線の継続を実現するための一手であることは以下の記事で解説していました。その狙いどおりの結果になったといえます。

「ヘッセン州議会選挙」(11/5)

CDU党首はほぼ確実にドイツの首相になりますが、ドイツは欧州のトップに立つ国ですから、その首相になるCDU党首は事実上の欧州のリーダーといえます。したがってCDUとAKKの動向は欧州の動きを見通す上で非常に大きな意味をもちます。今回の選挙結果をふまえて説明を補足します(※メルマガに限定)。

●カタールのOPEC脱退とOPECプラスの減産

カタールは、17年6月のサウジ、UAEらによる断交後、対抗措置に走ることなく抑制した対応をみせることで外国投資家を安心させ、サウジらが孤立化を図ったにもかかわらず、着実に経済を回復させることに成功しました。18年上半期の経済成長率は+2.2%(前年同期比)と断交前を上回る水準に達しています。

「カタールの国交断絶とトランプ政権の混沌(1)/(2)」(17/6/14・15)
「ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の訪米」(3/19)

その中でサウジが事実上のリーダーであるOPECを脱退するという決定に踏み切りました。さらに今週、リヤドで開催される湾岸協力会議(GCC)首脳会議にはサウジの招待によりカタールが参加することになりました。これらの動きが意味するものを解説します(※メルマガに限定)。

なお10月までの中東の動きについては先月発行した総集編でまとめています。まとめて頭を整理したい方はぜひご覧ください。

「総集編第3号:中東の新時代」(11/16)
 
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今週の動き
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12/9(日)
・GCC首脳会議(リヤド)
・アルメニア総選挙

12/10(月)
・EU司法裁判所が英国による一方的なBREXIT撤回の可否について判断
・EU外相理事会(ブリュッセル)
・リビア大統領選挙・議会選挙
・ノーベル賞授賞式(オスロ)

12/11(火)
・英下院がBREXIT協定について採決
・EU総務理事会(ブリュッセル)

12/12(水)
・NY連邦地裁がトランプ大統領の元個人弁護士マイケル・コーエンの選挙資金法違反等の容疑について判決
・WTO一般理事会(ジュネーブ、~13日)

12/13(木)
・EU首脳会議(ブリュッセル、~14日)
・ECB定例理事会(フランクフルト)

12/14(金)
・韓国の光州地裁が三菱重工業に対する元女子勤労挺身隊員の損害賠償訴訟の控訴審判決

●BREXIT協定の英国議会での採決

ついにBREXITの運命を決める英国議会の投票が行われます。

投票を目前に控えた先週、英下院はメイ政権がコックス法務長官から受けていた法的助言を公開しないことが議会への侮辱とする決議を可決し、これを受けて法的助言を全文公開。助言の中には「バックストップ」が発動されると英国はEUとの関税同盟から脱出できなくなるおそれがあると書かれており、これがすでに公開されていた抜粋にはなかったということで問題視されました。このバックストップの問題については以下の記事で解説していたとおりです。

「BREXIT協定の行方」(11/23)
 
さらに保守党の有力議員が議会で否決されることは確実ということで投票延期を求め、1922委員会のグラハム・ブレイディ委員長もこれを支持しました。異常な動きが続発しています。

こうした状況を見て「せっかくEUと合意できて安心と思ったのに不穏な状況になっている」という論調を見かけますが、本メルマガではEUとの合意が成立する以前から「BREXIT協定を英国議会が可決する可能性は極めて低い」と指摘してきました。今さら言うまでもない話であり、その意味で先週の一連の混乱も驚きはありません。

「EU首脳会議とBREXIT交渉」(10/22)
 
議会の否決後の展望については以下の記事で述べたとおりです。

「BREXIT協定の行方」(11/26)

投票延期というシナリオが加わってきましたが、その可能性は低く、仮に延期したところで事態の改善は望めないでしょう。そうなれば上記記事で述べた「BREXIT交渉の延長」シナリオにもリンクしますが、国内でいくら調整したところでEU側が受け入れることは期待できない、という壁にぶつかります。

先週、EU司法裁判所の法務官が英国による一方的なBREXIT撤回は可能との判断を示し、今週、EU司法裁判所が正式な判断を下します。EU側は、再交渉を認める余地はなく、BREXIT協定が承認できないなら合意なき離脱かBREXIT撤回か二者択一だ、という姿勢を鮮明に出しています。分かっていたことですが、ついに抜き差しならぬところまで追いつめられた感があります。

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特別レポート
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メルマガにのみ掲載しています。

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あとがき
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【写真特集】カタルーニャ伝統クリスマス恒例の排便人形「カガネル」(12月5日付AFP)

カタルーニャの文化も謎・・いやユニークですね。こんなの、現地に行ったら・・絶対に買うでしょう(笑)。

それにしてもアラレちゃんやパックマンが今どき人気なんですかね。過去にはドラゴンボールやマジンガーZもあったらしく、全体的に権利関係が面倒そうですが・・大丈夫ですよね、さすがに.

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2 comments on “今週の動き(12/10~16)
  1. KB より
    いろいろ

    毎回、現地レポートでは、冷静でバイアスがない分析の中にも、常に建設的な目線が入っていて、個人的にとてもワクワクします。続編も楽しみにしています!

    このタイミングでライトハイザーが名実ともに表舞台に出てくる面白さ、一方で政権の重要メンバーがまたいなくなってしまう不安・・、とても興味深く読みましたが、いつまでもトランプ政権のメンバーは落ち着きませんね(苦笑)
    トランプの「興味」とエスタブリッシュメントが考える「脅威」とのギャップ、非常に分かり易く、ただ個人的には「終りなき戦い」かなぁ、などと考えます。
    しかし、今週はジョージ・H・W・ブッシュ元大統領の偉業を見たり聞いたりしたためか、トランプの危うさ、独特のキャラの濃さがいつも以上に気になり、なんだか不安です・・

    先週のサウジの外交技術の話も目からうろこでしたが、カタールの外交手腕もとても興味深いですね。総集編も含め、JDさんのおかげで、だいぶ中東各国のキャラがイメージできるようになりました!

  2. ぽよんぽよん より
    とうとう Huaweiも・・・

    やっぱ、安全保障とか考えてる人にとっては、インフラを海外製品で統一されるのは怖いよね

    電話機なんかはどうでもいいけど、Huaweiが明日お前の国の保守やめるぞって言っただけで、ほとんどの国で、AppleやSamsungのスマホも全部動かなくなっちゃうからね。

    携帯電話がなくたって即座に飢え死にするわけじゃないんだからってことで、安くて速いものを使うのか?
    携帯電話がなきゃ人間は生きていけないんだから1人月に何万円かかろうが国産の交換機を使うべきだと考えるか?

    国やキャリアによって考え方にいろいろありそうで、楽しみだ♪

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