2018/11/16 05:00 | 総集編 | コメント(6)
総集編第3号:中東の新時代
過去の記事の総集編の第3弾です。今回は中東情勢をテーマにしています。
今年10月までのメルマガとブログの記事のうち、中東に関するもので、今読んでも示唆に富む重要なものを網羅的に厳選し、一つに統合した上で加筆修正しました。分量は約200ページです。
主に最近メルマガを読み始めた方向けに作成していますが、構成を工夫しており、加筆修正や書き下ろし部分も多いため、最初から購読している方にも楽しんでいただけるものと自負しています。
また、メルマガの読者でない方も購読が可能です。定期購読を検討する上での参考として読んでいただければと思います。
冒頭に「中東の基本構造」という書き下ろし記事を掲載しています。その中で、読者の方からのご要望にお応えして、中東を理解する上で役立つ参考文献も紹介しました。
なお、過去の総集編はこちらです。
・第1号「トランプ政権の1年」(18/1/31)
・第2号「習近平の帝国とアジアの激動」(18/8/24)
中東は政治の激動が激しい地域です。民族、宗教、資源、権威主義と民主主義・・様々な要素が複雑に絡み、イラン、サウジ、トルコ、エジプト、イスラエルといった大国が莫大な富と武力をもってお互いを牽制し、そこに湾岸諸国やシリア、イラク、クルドなどが巻き込まれ、むき出しのパワーポリティクスが展開されています。世界全体に与えるインパクトも大きく、今や日本にとっても目が離せない重要な地域です。
その変化は激しく、解説書を読んでも最新の状況までフォローできていないことが多々あります。特にサウジ、イラン、トルコの3つの大国は、かつてない変革に挑もうとしており、この1年間のうちに状況が激変しています。
この総集編を読めば、こうした激動を理解し、正確な知識に基づいて今後の展望について考察することができるようになるでしょう。
なお、本総集編では、前述のとおり参考文献を紹介していますが、多くの文献は時系列に沿って重要なイベントを解説しています。その流れに従って歴史を「勉強」することは、非常に有意義ですが、一方、まずは現代において何が起こっているのかを把握し、それを念頭に置きつつ、現代史、さらに前近代・・という流れで自分の頭を「整理」することもお勧めします。
そうすることで思考が鍛えられ、自分なりの世界像をもつことにつながり、本質的な理解と今後の見通しについて考える視点が養われるからです。また、その方が知的刺激に富み、歴史の授業を聞いたときのように眠くなる・・ということもないでしょう(笑)。
そのためには、手前味噌になりますが、まずはこのメルマガを精読いただくのが最も近道と思っています。おそらく、眠くなったり退屈することはありません(笑)。
「すぐわかる・・」「そうだったのか!・・」といった専門家でない人が概略だけを書いた本は勧めません。歴史の教科書のダイジェストとニュースの切り貼りに過ぎず、専門家ならではの視点と分析がないからです。一知半解なミスリーディングな記述もあります。これでは物事の本質や今後の見通しを得ることはできません。
予備校の教材のようなもので、基本知識を確認するために一冊ぐらい読んでも良いと思いますが、このメルマガの読者の皆さんであればすぐに物足りなくなるでしょう。こういうお手軽な本を何冊読んでも同じことの繰り返しで、新しいものは何も出てきません。その時間があれば、腰を据えて、ここでご紹介している本物の文献と本メルマガを熟読することをお勧めします。
内容は以下のとおりです。
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総集編第3号:中東の新時代 - サウジ、イラン、トルコの挑戦
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0.中東の基本構造(※書き下ろし)
1.サウジアラビア
(1)サウジアラビア
・「ムハンマド・ビン・サルマンの皇太子就任」(17/6/23)
・「サウジアラビアの新時代(1)」(17/10/3)
・「サウジアラビアの新時代(2)」(17/10/4)
・「サルマン国王のロシア訪問」(17/10/9)
・「サウジ・イラク首脳会談」(17/10/30)
・「ティラーソンの中東訪問」(17/10/30)
・「サウジの強権発動の衝撃」(17/11/14)
・「サウジの文化改革」(17/12/18)
・「サウジの人事異動」(18/3/5)
・「ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の訪米」(18/3/19)
・「ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の訪米」(18/3/26)
・「サウジの映画解禁」(18/4/16)
・「サウジ・カナダ関係の悪化」(18/8/13)
・「サウジアラムコのIPOの延期」(18/8/27)
・「サウジ記者のトルコでのサウジ総領事館における殺害疑惑」(18/10/15)
・「サウジ記者のトルコでの総領事館における殺害事件」(18/10/23)
・「カショギ記者殺害事件」(18/10/29)
(2)アラビア半島
・「カタールの国交断絶とトランプ政権の混沌(1)」(17/6/14)
・「カタールの国交断絶とトランプ政権の混沌(2)」(17/6/15)
2.イラン
・「トランプ政権の新イラン戦略」(17/10/17)
・「イラン核合意」(17/12/18)
・「イランの反政府デモ」(18/1/4)
・「イラン核合意」(18/1/8)
・「イランの反政府デモ(1):国内政治への影響」(18/1/10)
・「イランの反政府デモ(2):米国との関係」(18/1/11)
・「トランプ外交の先鋭化:イラン核合意の行方」(18/1/17)
・「米国のイラン核合意離脱(1):トランプの思惑とイランの対応」(18/5/15)
・「米国のイラン核合意離脱(2):世界への影響と米国・民主主義の将来」(18/5/16)
・「ポンペオ国務長官のイラン戦略」(18/5/28)
・「イラン制裁の包囲網」(18/7/2)
・「トランプとロウハニの舌戦」(18/7/30)
・「米国とイランの対立と対話」(18/8/6)
・「イラン制裁法の復活」(18/8/13)
3.トルコ
・「トルコのクーデター未遂と非常事態宣言」(16/7/27)
・「米・トルコのビザ発給停止」(17/10/19)
・「米・トルコ関係」(17/11/13)
・「トルコによるシリアのクルド攻撃」(18/1/30)
・「シリアとトルコの激突の危機」(18/2/28)
・「シリアでのトルコ進軍」(18/3/26)
・「米・トルコ外相会談とクルド軍の撤退」(18/6/11)
・「トルコ大統領選挙・議会選挙」(18/6/18)
・「トルコ現代史(1):アタテュルクとエルドアン」(18/7/20)
・「トルコの政策金利の据え置き」(18/7/30)
・「トルコ現代史(2):エルドアンの憲法改正」(18/8/3)
・「トルコ現代史(3):新たなるエルドアンの時代(米国との衝突と通貨危機のリスク)」(18/8/15)
・「トルコリラの下落」(18/8/20)
・「トルコリラの展望」(18/8/27)
・「エルドアンのイラン訪問の可能性」(18/9/3)
・「トルコ中銀の利上げ」(18/9/17)
・「トルコの米国人牧師の拘束」(18/10/8)
・「トルコにおける米国人牧師の釈放」(18/10/15)
4.エジプト
・「エジプトでのテロ」(17/11/27)
・「エジプト現代史(1):栄光と革命」(18/5/4)
・「エジプト現代史(2):大統領選挙」(18/5/9)
5.イスラエル
・「米国のエルサレム首都認定(1):背景」(17/12/12)
・「米国のエルサレム首都認定(2):意図」(17/12/13)
・「米国のエルサレム首都認定(3):影響」(17/12/14)
・「米国のエルサレム首都認定(補足):クシュナーとサウジ皇太子」(17/12/20)
・「米国大使館のエルサレム移転」(18/2/26)
・「安倍首相のイスラエル訪問とネタニヤフ首相のチョコレート」(18/5/11)
・「米国大使館のエルサレム移転」(18/5/21)
・「ドゥテルテのイスラエル訪問」(18/9/10)
6.イラク
・「クルドの独立投票とイラクの進軍」(17/10/24)
・「クルドの独立問題と内戦の危機」(17/11/10)
・「イラク議会選挙(1):『イスラム国』との戦い」(18/6/1)
・「イラク議会選挙(2):ムクタダ・サドルの挑戦」(18/6/6)
・「クルド議会選挙」(18/10/1)
・「クルド議会選挙」(18/10/8)
7.シリア・レバノン
(1)シリア
・「『イスラム国』の崩壊」(17/10/23)
・「ロシア・トルコ・イラン首脳会談」(17/11/20)
・「プーチンのシリア・エジプト・トルコ訪問」(17/12/18)
・「シリアをめぐるグレートゲーム」(18/4/9)
・「米英仏のシリア攻撃」(18/4/16)
・「トルコ・イラン・ロシア首脳会談」(18/9/10)
(2)レバノン
・「レバノンの混乱」(17/11/13)
・「レバノン現代史(1):『歴史的シリア』と宗派体制」(18/6/8)
・「レバノン現代史(2):独立と内戦、シリアの盛衰」(18/6/13)
・「レバノン現代史(3):ヒズボラと総選挙」(18/6/22)
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あとがき
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中東は、我々日本人にとって遠い地域です。その遠さは、物理的のみならず心理的にもかなり大きいのではないかと思います。
その歴史、文化、宗教・思想は、日本とまったく異なります。欧米も遠い地域ですが、それでもその価値観や文化はなじみ深いものです。日本が自ら積極的に取り入れたこともあるでしょう。
中東には、そうした共通の精神的基盤がありません。専制的な王政、軍のクーデター、ユダヤとアラブ、イスラエル・・こういったテーマは多くの人にとって別世界の話のように聞こえるのではないでしょうか。
また、イスラム教の前近代的な性格と原理主義、武力紛争、テロの問題は、とても理解できないというネガティブなイメージを多くの人に与えていると思います。
さらに、欧米との関係の複雑性がさらに理解を困難にさせています。冷戦期のパワーゲーム、資源の争奪戦、そして今なお米国、ロシア、欧州など域外の大国は様々な形で自らの都合で地域に介入し、絶えざる合従連衡を生じさせています。
しかも、日本では中東に関する情報が極めて限られています。たとえば米国でワシントン・ポストなど代表的な新聞を読むと中東に関する報道が大きな部分を占めています(その代わりアジアに関する報道は極めて少ない)。日本から見える風景は、日本企業や日常生活に直接関わりのあるものに重点が置かれているため、米国から見える風景、それは世界の重心がどこにあるかをほぼそのまま示したものといえますが、それとはズレていることが分かります。
また中東に関するニュースは、他の地域に関するニュースと比べて客観的で公平中立といえるものが少ない状況にあります。国家や組織など関係者が意図的に情報を操作しているからです。それはメディアやNGOも例外ではありません。このため「ニュースを読むリテラシー(能力)」が他のトピックと比べてよりシビアに求められます。
このように非常に難解な地域です。しかしこの地域は、今や私たちにとっても座視することができない、非常に重要な地域になっています。
かつては石油危機を契機に、資源外交の観点から重視されました。近年ではこれにテロとの戦いが加わっています。また、欧米の外交戦略とイスラエル・ロビーなどを見極めるためには中東の動きを知る必要があります。さらに近年は、トルコの工業化、サウジの改革、イランの制裁解除(これは状況が変化)により、日本企業にとって新たなビジネスチャンスも生まれています。
かつて日本の外務省では、アラビア語使いや中東専門家は傍流に追いやられ、人気もありませんでした。それが、近年は、存在感が急速に大きくなり、もはや花形のポジションになっています。中東を知らずして米国や外交を語ることはできない・・という雰囲気すらあります。私が官庁に入った90年代と比べると、時代が大きく変わったことを実感します。
実際に現地に行ってみると、中東の人々の親日感情に驚かされます。私がイランを訪問したとき、当時放送されていた数少ない外国のテレビ番組が『おしん』と『キャプテン翼』でした。
この二つのコンテンツの人気はすさまじく、『おしん』が放映されている時間帯には通りから人が消え、最高指導者(当時)のホメイニ師の演説にも人がこないので、ホメイニが激怒した、というエピソードがあるほどです。私もイラン人の子どもたちからあるキャラクター(私の名前と響きが似ている選手)の名前で連呼され、なぜかどこに行っても人気者でした。
イラン以外の国でも、日本に対する尊敬の念やシンパシーを強く感じました。当時の私には中東は「よく分からない」「危ない」「怖い」というイメージがあったのですが、その固定観念は覆され、地域に対する猛烈な興味と愛着がわきました。私の海外に対する好奇心を開いてくれたのは中東だったような気すらします。
かつてフランクリン・ルーズベルトは、世界恐慌の最中に大統領に就任した際、「我々が恐れなければならないものはただ一つ、恐れそのものである」と述べました。人間は、未知なこと、分からないことに恐れを抱きます。これは中東を見る目にも通じる面があると思います。
知識を得て、実際に現地を見て、人々と交われば、私がそうであったように、中東に対するイメージは変わるでしょう。この総集編とメルマガがそうした体験を得る上で少しでも役立つことを願っています。
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6 comments on “総集編第3号:中東の新時代”
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ご了承のうえ、ご利用ください。
ついにきましたね、総集編・中東!早速拝読しています。
書き下ろし部分の「中東の基本構造」、これは保存版ですね。(Evernoteに即保存しました笑!)これだけでも相当な価値があると思いました。
JDさんによる構成と加筆が施されたことで、日々の出来事や、メルマガ記事に横串が刺さり、より一層世界情勢が奥深く捉えられるのが、総集編の良いところですよね。続きは週末じっくり読みます(笑)
ミャンマーに行っている間に
また新たなミャンマーに関する知識を
分け与えられるのだろうと思い
その間にミャンマーの知識を
増やそうと思っていました
結果
何もやっていない(笑)
帰ってくるのが早い
冗談です
現在、ムスリムを勉強しておりまして
ちょうどよいと思うのですが
JDさんの文章は
基本的な知識がないと
眠くて読めない、というのは
実感しておられていたのですね
事象などは
軽く調べれば背景がわかるのですが
固有名詞は
もう、文字が並んでいるようにしか
思えない
これ
理解しようと
思うのなら
ある程度の知識がないと読めない
でも
今回はその点を修正したのですね
期待しています
でも
今回も
やることが多すぎ
年末に3部全部まとめて
読もうと思います
できるだけ早く
購入し読みます
どうも小生
ウェブの文字は
信用できない
というのが
心にあるようで
本にしていただけると
ありがたい
出版社さえみつかれば
ある程度
売れると思いますが。
あと
理解していない身からすると
あちこちに
リンクが張っているのが
非常に面倒
この辺
どうにかならないかな
と思っているけど
精進せよ
だよね(笑)
私も、もう少しのんびりしたかったですが、残念ながら余裕がなく・・現地では丸3日間かけて調査できたので、十分な情報は得られたと思います。追ってお伝えします。というか、ミャンマーにもご興味あったのですね。
出版は、私もできたら良いな・・と思っています。編集部に伝えておきます。
リンクはすみません、前に書いたことと重複しているので・・ずっと読んでいらっしゃる方であれば見なくとも大丈夫ですよ。
小生もご多分に漏れず、これまで幾度となく、歴史をおさらいするような書籍を読んでは眠くなっていました。
ただ、総集編を拝見すると、活字になっている部分で大きな流れを捉え、さらに「今週の動き」で登場するようなスポットの出来事もきちんと網羅されている。その一方で、「これってなんのことだっけ?」と記憶があやふやな部分には、参考リンクが貼ってあるので、痒いところに手が届く。加えて、重要な地域は歴史的背景が理解できる記事が付されているので、過去と現在が繋がってくる・・、と非常に有意義な構成です。
電子書籍に近い媒体だからこそできる、網羅的でありながら、読み手が情報の取捨選択もできる、という非常に貴重で、様々に活用しやすいと思っています。
あまりにも幼稚な質問で恐縮なのです
サウジ問題が
土日のネタ切れでにぎわしていますが
そもそも大使館内というのは
そもそも大使館と領事館の違いもよく知らないが・・・
治外法権ではないのですか
義務教育でそういうものだ
ということを学習して以来
そのエビデンスなど
興味がなかったので
ふとした疑問です
治外法権外に
テープやビデオを設置することは
国際法上どうなのでしょうか
それとも
日本国内の大使館内だけが
治外法権なのかな
とも思ったり(笑)
違法だとしたら
トルコは窮地になるはずですが
アメリカは配慮している訳ですよ
そもそも
幼稚な事件を起こす
サウジに全面的な非が
あることは確かですが
トルコ国内の
外交施設に
警戒の動きなんか
普通はあるはずだと思います
でも
エルドアンが独裁とか言っていた連中は
そのさらなる上を行く
独裁のサウジには
なーんも言わない
アホか、
ダブルスダンダートと思いますね
それと
ミャンマーは
旧宗主国がイギリスだから
興味があるのです
そもそもミャンマーで起こる事件は
いつも想定外のことばかりですので
私の認識が間違っていると考えています
やはり
やり直さなければ
と常々、おもっています
ご質問ありがとうございます。
メルマガの方でお答えしますので、少しお待ちください。
ミャンマーはおっしゃるとおり不確定な部分が多く、私も現地であらためてその複雑さと面白さを実感しました。追ってお伝えします。