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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/10/16 00:00  | 今週の動き |  コメント(4)

今週の動き(10/16~22)


突然に冬のような寒さになりましたね。風邪など引かないよう気をつけましょう。

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先週の動き
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10/7(土)
・トランプ大統領が北朝鮮に関し「1つのことだけうまくいく」 とツイート

10/8(日)
・トランプ政権が議会指導部に移民制度改革に関する指針を示す
・コーカー上院議員がトランプ大統領は「第3次世界大戦」を起こすとして非難
・米国とトルコが相互にビザ発給停止

10/9(月)
・カタルーニャ州議会が本会議を招集
・第5回BREXIT交渉開始(ブリュッセル)
・ノーベル経済学賞発表(シカゴ大学のリチャード・セイラー教授)

10/10(火)
・プルイットEPA長官がオバマ前政権が進めた石炭火力発電所規制(クリーン・パワー・プラン)の撤廃案を発表
・カタルーニャ州首相が独立宣言延期を表明
・朝鮮労働党創建記念日
・台湾双十節(辛亥革命記念日)

10/11(水)
・7中全会(北京、~14日)
・トランプ大統領が国土安全保障長官にキルステン・ニールセン氏を指名
・米・カナダ首脳会談(ワシントンDC)

10/12(木)
・トランプ政権がユネスコからの脱退を発表
・トランプ大統領がオバマケアで義務付けられた条件を満たさない安価な保険商品の購入を可能にする大統領令に署名
・ハマスとファタハが分裂解消で合意(カイロ)
・G20財務相・中央銀行総裁会議(ワシントンDC、~13日)

10/13(金)
・トランプ大統領が新イラン戦略を発表(ワシントンDC)
・米財務省がイラン革命防衛隊を制裁対象に指定
・世銀・IMF年次総会(ワシントンDC、〜15日)

イベントが盛りだくさんの一週間でした。

トランプ政権とトランプ個人が色々なところで起こしている衝突、カタルーニャ、ノーベル経済学賞という切り口で見てみましょう。

●トランプ政権対イラン

トランプ大統領が新たなイラン戦略を発表。イランが核合意を遵守しているとは「認めない」と述べました。

※イラン核合意については「イラン核協議:枠組み合意の成立①/」を参照。

イラン核合意については、米国内法上、政府がイランの遵守状況を90日ごとに判断し、議会に報告することが義務付けられています。トランプ政権は過去に2回、イランの合意遵守を認める報告を行ってきましたが、今回、10月15日に3回目の期限を迎えるにあたり、おそらく今回は認めないのではないか、と推測されてきました。今回の発表は、その大方の予想に沿った内容で、サプライズはありません。

議会は、政権の報告を受け、60日以内に制裁を再発動するか判断することになります。

また、今回の13日の発表に先立ち、報道によれば、トランプはイラン革命防衛隊をテロ組織に指定することを検討していました。これについては、米財務省が今回の発表と同日に制裁強化を発表。イランに強いプレッシャーをかける行動に出ています。

このトランプ政権の対応は、非常に複雑で微妙なニュアンスを含んでいます。イランに対する強硬姿勢を示していることは明らかです。しかし、核合意については、やろうと思えば、政権は自ら制裁を再発動して合意を破棄することができるのに、あえてそれはせず、議会に対応を預けました。革命防衛隊への制裁も、やるやると言われていたテロ組織指定はいったん見送りました。

これら一連の対応が意味するところは何か。また、トランプは、これ以外にも、オバマケアの骨抜き、クリーン・パワー・プランの撤廃など、オバマ政権の政策の否定に熱心に取り組んでいます。これらとあわせ、今週取り上げます。

●トランプ政権対トルコ

米国とトルコが相互にビザ発給を停止するのは、極めて異例の事態で、両国の関係悪化の深刻さを示唆するものです。

今回の措置は、昨年7月のクーデター未遂事件の黒幕とされる在米のイスラム指導者フェトゥラ・ギュレン師とつながりがあるとの疑いで、トルコ当局が米総領事館の職員を拘束したことに端を発しています。

トルコは、クーデター未遂事件後、米国に対し、米国に居住するギュレン師の引き渡しを求めていますが、米国はこれに応じず、両国の関係を損なう大きなイシューになっています。これについては、クーデター未遂直後に「トルコのクーデター未遂」で解説したとおりです。

米国とトルコの関係は、ギュレン師問題のみならず、クルド、民主主義、ロシア・イランとの関係をめぐって、いくつもの難しさを抱えています。これらの問題のポイントと今後の展望について今週解説します。

●トランプ政権対ユネスコ

突然のユネスコ脱退ですが、その理由は、ユネスコが反イスラエル的であること、米国の未払い分担金の総額の増大でした(米国は11年にユネスコがパレスチナを完全な加盟国と認めたことに反発して支払いを停止している)。

トランプ政権の親イスラエル、多国間主義の軽視を象徴する決定といえます。

ただ、そもそも米国には国連に対する根深い不信感があります。それは、米国は最も金を払っているのに、自らの意向が反映されていないというフラストレーションと国家主権を重視するリアリズムの思考に由来しています。ユネスコとも、米国は過去にたびたび対立しており、1984年には東側寄りという理由で脱退しています。

つまり、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」だけに矮小化すべき話ではありません。もっと構造的な問題を含んだものです。トランプ政権と「アメリカ・ファースト」については「トランプの国連演説①/」をご覧ください。

●トランプ対メディア(ティラーソン・ケリーの辞任報道)

トランプが、安全保障に関する政権内部の会合で「10倍の核兵器が必要」と述べ、また、ティラーソン国務長官がトランプを「ばか(moron)」と呼んだとの報道。

これに対しティラーソンは記者会見を開いて全面否定。トランプも否定し、ツイッターで、「フェイク・ニュース」を報道するNBCの放送免許剥奪を示唆。ついでにトランプは、ティラーソンとIQテストをやるのも良いとも発言。

さらにケリー首席補佐官の辞任の噂も出ましたが、これもケリーが記者会見を開いて否定。

トランプ政権の内部対立のリークと政権のあわただしい対応。見慣れた光景ですが、今回の騒動は、いつにもまして不毛で、メディア側の次元の低さもうかがわせます。

政権内部の会合での発言など、白熱すればいくらでも率直な物言いになるでしょうし、それを一つ一つ取り上げるなどナンセンスです。ましてトランプの衝動的な性向など誰もが分かっていることですから、いちいち相手にすべきでないのも分かり切った話です。

要するに、どうでもいい話ですが、これを大げさに取り上げて政権の評価を下げようとする、ある意味日本のメディアに似た次元の低さを感じさせます。

政権の意思は表に出た公式な発言だけで見るべきです。トランプ、ティラーソン、ケリーの一挙一動を取り上げて、政権内の不和を強調する報道には、強い悪意を感じざるを得ません。

さらに言えば、リークしているのが誰かといえば、トランプと主要高官の仲を裂くことで利益を得る勢力、すなわちバノン一派であることは明白です。つまりメディアはバノン一派に踊らされているとも言えるでしょう。

こうした報道は、メディアと米国民の感覚の乖離を生じさせるだけで、メディア不信をかえって増幅する結果になります。それは、バノンの狙いでもあるわけです。まあ、これによって部数が伸びて、私のようなウォッチャーや専門家の仕事も増えるので、それはそれで良いかもしれませんが・・(笑)。

なお、ティラーソンやケリーがすぐに辞任する事態はまずあり得ないとみられています。その理由は色々ありますが、一番の決め手はトランプの言動です。トランプは、メディアが彼らとの不和を報道するたびに、ツイッターで、彼らは「素晴らしい(fantastic)」人々だと最大限の賛辞を送って擁護しています。トランプは、良い意味でも悪い意味でも率直で、個人的に嫌悪する人に対してこういう言葉を与えることはしません。

過去にトランプ政権から追放されたのは、スキャンダル、主流派との争い、トランプ自身の嫌悪から踏みとどまれなくなった人々ですが、ティラーソンとケリー、またマティスやマクマスターはいずれにも当てはまりません。

ただ、ティラーソンについては、長い目で見ると不安があります。「ティラーソン国務長官の孤立」で述べたように、ティラーソンは自らの組織である国務省内で信頼を勝ち得ていないからです。

ティラーソンが辞任すると、後任がどうなるかによって、北朝鮮外交に影響が生じる可能性もあります。これについては近いうちに取り上げます。

●トランプ対ボブ・コーカー(共和党)

ボブ・コーカー上院議員は、上院外交委員長を務める共和党の重鎮ですが、トランプに対して、シャーロッツビル事件への対応などをめぐり、かねてより公然と批判を行ってきた人物です。

そのコーカーがトランプの北朝鮮政策を強い言葉で批判したことに対し、トランプが猛烈な反撃を開始。コーカーは次の選挙の不出馬を表明していますが、それは自分(トランプ)が彼を推薦しないと述べたからだ、彼は選挙を戦う度胸がない、などとツイッターで言いたい放題。

トランプはこれまで、共和党との関係でも、指導部や自らに批判的な議員に対して公然と批判していますが、今回の非難の応酬はかなり目立つものです。こういう動きが何を意味するかはよく見る必要があります。

その一方で、スティーブ・バノンが、これから自分はテッド・クルーズを除く共和党の現職議員を落選させる、という発言をしています。

実際、アラバマ州上院補選の予備選では、「アラバマ州上院補選」「アラバマ州上院補選(補足)」 で述べたように、バノンが支持する候補(ロイ・ムーア)がトランプと共和党が支持する候補を破るという結果になりました。

こうしたトランプ、共和党議員、バノンの動きから何が見えるかについて今週解説します。

●カタルーニャ州の独立投票

プチデモン州首相が「独立宣言の発効を数週間停止したい」と発言。とりあえず事態は沈静化に向かいそうで、マーケットも落ち着きを見せています。

中央政府の強硬姿勢、さらに主要都市バルセロナでの35万人という未曽有の独立反対デモが効いたのでしょう。そもそも今回の住民投票は有権者の半数が投票しておらず、投票前の世論調査では独立派はせいぜい45%でした。

今回の騒動の落としどころと考えられるのは、カタルーニャ州に徴税権を認めることです。カタルーニャにはバスク州に認められている独自の徴税権がありません。バスクもカタルーニャもその経済力が中央に搾取されていることに大きな不満があり、バスクは独自の財源が認められることで独立の機運は大きく下がりました。カタルーニャにおいても、これが取引材料になる余地は十分にあります。

ラホイ首相は強硬姿勢を貫き、自治権を停止すると述べてプレッシャーをかけています。最初のうちから妥協はできないので、まずは最大限圧力を高めた上で交渉という流れが予想されます。

●ノーベル経済学賞

私が学生のときは行動経済学はまだまだ異端の学問でしたが、時代は変わるものですね。

行動経済学に興味がある方には、とりあえず、リチャード・セイラーと並ぶ大家であるダニエル・カーネマンの著書『ファースト&スロー』がお勧めです。

もっとも、ポストモダンを知るにはモダンを知る必要があるように、しっかり勉強するには、まずは本流たる近代マクロ経済学の標準理論をおさえるべきと思います。流行りものに飛びつくのではなく、土台を作ることが大切です。まあ、私が保守的な人間ということもあるのでしょうが・・(笑)。

セイラーは、映画『マネー・ショート』にもコミカルな解説役(本人役)として、セレーナ・ゴメスとともに登場していましたね。これも面白い作品でした。

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今週の動き
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10/15(日)
・オーストリア下院選

10/16(月)
・日米経済対話・第2回会合(ワシントンDC)

10/17(火)
・米・ギリシャ首脳会談(ワシントンDC)

10/18(水)
・中国共産党大会(北京、〜24日頃)

10/19(木)
・EU首脳会議(ブリュッセル、~20日)

10/20(金)
・チェコ下院選(〜21日)

●日米経済対話

牛肉セーフガードについては、すでに動いている話ですから、具体的な議論に踏み込むとみられますが、日米FTAについては進展がないでしょう。その理由は「トランプ時代の日米関係」でお伝えしているとおりです。

●中国共産党大会

7中全会が14日に閉幕し、いよいよ本番の党大会が始まります。今週、この展望について、最新の情報をふまえてあらためて解説します。

●欧州の選挙

オーストリアとチェコの下院選、いずれも難民・移民受け入れとポピュリズムがポイントとなっています。

オーストリアでは5月に二大政党の社会民主党と国民党が連立を解消。国民党は31歳のセバスチャン・クルツ外相をリーダーに立て、難民・移民受け入れに抑制的な政策を打ち出して支持を集めています。また、極右の自由党が引き続き勢力を拡大し、第2党になる可能性も指摘されています。

チェコでは「チェコのトランプ」ともいわれる実業家出身のアンドレイ・バビシュ率いる新興政党が1位になる勢いを見せています。ただ、バビシュは、バックグラウンドはトランプと似ているものの、主張はそこまで過激ではなく、他の欧州のポピュリズム・極右勢力と一緒くたにされる人物ではありません。

いずれも世界全体に大きなインパクトを与えるものではありませんが、欧州のポピュリズム・ナショナリズムの展望をみる上では見逃せないイベントです。

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あとがき
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「今週の動き」は、読者の方々のご要望もあり、世界の重要イベントはとりあえず網羅するような形になってきました。

このため長文になっていますが、ここを見ればまず世界の潮流はつかめる・・というページにできればいいなと思っています。ご要望やコメントがあればぜひご教示ください。

※この後、四方山話を書いていますが、メルマガのみ掲載します。

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4 comments on “今週の動き(10/16~22)
  1. ペルドン より
    米艦隊を集結させ・・

    トランプは・・
    14日に始まる人民大会を・・
    北のミサイルから護衛している様子かのですね・・
    日本のイージス護衛艦も行っているでしょう・・

    米艦隊から守られて始まる・・中国の人民大会・・
    この後が怖いですね・・
    同盟を組むのでは・?
    習思想が認められた。主席も認められたとなる・・・
    ( ^ω^)・・・(笑

  2. KB より
    週末気になっていたことが

    網羅されていて、今週も楽しみです。
    すごいハイペース&広範囲で、一体どうやって書かれているのでしょう、、、?

    たぶん触れていただけると思いますが、イラク軍がクルド人支配地域に進攻したとか。原油価格の動きにも影響があるようですし、こちらも近いうちにアップデートしてください。

  3. JFKD より
    米艦隊から守られて始まる中国の人民大会

    まあ国の成り立ちを表わしてますね。表立って同盟を結ぶまでもない。裏同盟は健在だ。別宅の妾としてはつらい立場だ。
    そして北に核を持たせた意義があった。よかったよかった。笑 中朝はいいバランスだ。
    ただここ数年の核とミサイル技術の急進は、プーチンが主なんでしょうね。ウクライナに攻め込まれたプーチンとしてはどんな戦略を描いているのかな。シリアにも北朝鮮にもと忙しい。原油価格低迷で苦しいはずだが、草を食っても軍事強化というのは、ロシアも北朝鮮も共通か。中国には無理なのでは。そんな人民ではない。中国は脆い。満州など潜在的に危険だろう。プーチンだって米国だっていざとなれば手をだしやすいのでは。新疆・チベットにだってISを入れることも一策だ。一帯一路の陸路は危険な地帯だ。港戦略の方が有効だ。

  4. JDKD より
    ありがたい分析です

    タイムリーで網羅してあって、冴えていると思います。

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