2015/04/13 00:00 | 中東 | コメント(12)
イラン核協議:枠組み合意の成立②
前回のイラン核協議の記事には沢山のコメントをいただきました。皆様の関心と識見の高さを見て、私自身、大いに刺激を受けました。
そこで、これも当初は書く予定のなかった記事ですが、仮に核協議について最終合意に達した場合、米イラン関係が核問題を超えて広い意味で改善する可能性があるのかについて、考察を述べます。
●イランの核開発を止める期間
まず前回の記事でキーポイントの一つとして挙げた「合意期間」とは、イランの核開発に制限を課す期間を意味します。現状10年間と言われていますが、これはすなわち、イランが核兵器開発を行うのに必要とする期間(ブレークアウト期間)を1年以上とする制限を課すのは10年間に限る、ということを意味します。
ということは、10年経過した時点でイランの核開発が制限される保証はないということになります(細かく言えば、15年、25年の制限を定める項目もありますが、ここでは割愛します)。このことを米国議会やイスラエルは問題視しています。当然の懸念です。
しかし、10年経てば状況がどうなっているか分からない、今は何よりも、どんどん進行する核開発を止めるのが大事である、という「lesser evil(まだましな方を選ぶ)」的な発想によるものです。合意をまとめるためのギリギリの選択といえます。
これ以外にも、イランが合意を履行していることを検証することが必要になります。そのためにはIAEAの抜き打ち査察を認めさせることが不可欠である、というポイントがあります。しかし、イランはそのための手続である追加議定書に署名はしていますが、批准はしていません。これも重大な課題です。
また、現状明らかになっている核施設以外に本当に核施設はないのかという問題もあります。たとえばフォルドゥは2009年に明らかになった第二の濃縮施設ですが、地下施設であり、他に同様の施設があったとしても発見困難と考えられます。これは、最終的にはイランを信じるしかありません。
●ハメネイの姿勢
前回の記事で、ハメネイ最高指導者のコメントを確認することが最も重要と指摘しましたが、枠組み合意から1週間後の9日、ようやく公表されました。枠組み合意を「支持も反対もしない」という、中立的なコメントでした。
しかし、ハメネイは先月まで、枠組み合意・最終合意という二段階合意の方式に強く反対し、演説においては、聴衆の「Death to America」(※)の連呼に対し「その通りだ!」と応じて煽っていました。それに比べると、トーンはだいぶ変わっています。
※ホメイニ前最高指導者が米国を侮辱するのに使ったスローガン。テヘランの旧米国大使館は、米国の悪行を説明する展示施設になっているが(革命防衛隊が管理)、その壁の全面には、プロパガンダのため、ペルシア語で「Death to America」、英語で「Down with the USA」と書かれ、星条旗の星がドクロに、ストライプがミサイルの落下に変更されたアートが描かれている。テヘランの観光名所の一つ。
(出所:Wikipedia)
さらに、保守派の重要人物のコメントを見ても、国会(ラリジャニ議長)、軍(フィールーズアバディー参謀総長)、そして革命防衛隊(ジャファリ司令官)までが合意を支持する旨発言しています。これらの保守派はハメネイの支配下にあるので、ハメネイの意を汲んだ発言とみて良いと思います。
以上を考慮すると、ハメネイは、国家の尊厳を代表する最高指導者として、米国に弱みを見せないようにしながらも、実質的には合意を容認していると見ることができます。少なくとも自分がディール・キラーになるつもりはない、ということです。
●核開発はイラン国民の誇り
それにしてもなぜイランはここまで核開発にこだわるのか。それは、エネルギー事情(代替エネルギーの必要)、エネルギー安全保障(自給自足体制(核燃料サイクル)の確立)、そして(本当に核兵器開発の野望があるとすれば)孤立する環境の中で核抑止力を必要とするからですが、これらに加えて、国民の誇りをかけたプロジェクトである、という面があります。
前回の記事で説明したとおり、イラン人は、人類を代表する偉大な文明の継承者であることに強い誇りをもっています(このことがアラブ人やアフガン人への蔑視にもつながります)。
さらに近年の政権は、「イラン人」であるという民族ナショナリズムを国民統合のために利用する傾向があります。本来、イランのナショナリズムは(革命政権がその正当性の根拠とする)イスラム主義とは両立しないはずものでした。
イラン革命が倒したパフラヴィー朝は、ペルシア帝国の後継者を自認しており、その民族主義の強調をホメイニは強く否定しました。また、イスラム主義は本来的に普遍的なものであり、民族主義とは相容れない性格をもっているからです。
しかし、近年の政権には、イスラム主義によるアピールの限界を意識し、両方のバランスをとろうとする傾向があります。国民は、ほぼすべてが、イラン人の誇りに訴えかけるものとして、核開発プロジェクトを強く支持しています。核開発は国民の支持を高めるツールとしても有効に機能する、ということです。
●米イラン間の信頼関係はある程度進展
米国とイランは、2013年9月から今回の合意に至るまで、粘り強く交渉を続けてきました。革命以来国交を断絶し、イランをテロ支援国家に指定して、交渉を拒否してきた米国と、その米国を「Great Satan(大悪魔)」とまで呼んだイランが、これだけ長きにわたり交渉を続け、お互いに妥協と譲歩を行ったことは、注目に値します。
交渉開始直後には、イラン革命以来初めてとなる首脳会談(電話会談)も行われました。また、今回の枠組み合意成立直後にオバマ大統領のスピーチがイランでも放映されましたが、米国大統領のスピーチをライブ中継したのは史上初とのことです。まだ最終合意には至っていませんが、今回の交渉が、両国の相互不信を相当程度和らげ、信頼関係を進展させることに貢献した、ということはいえます。
では、本題として、今後、核協議の合意を超えて、米イラン関係は広い意味で改善するのか。長くなってしまったので、これは次回にまわします。
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12 comments on “イラン核協議:枠組み合意の成立②”
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このように項目建てして書いていただくと非常によく分かります、ナイスです。イランとしては、多少年数がかかってもいずれ核兵器を持つことになるのかなあ。取りあえずは経済制裁を解除して国の経済を立て直すのが先決ということなのでしょうか。イランとしては北朝鮮やパキスタンが核を持てるなら自分だってと思うのは当然と思っているのでしょう。当然イスラエルは黙っていないでしょうがね。それと核兵器がテロリストに渡ったらと思うと恐怖です。パキスタンあたりはほんとに管理できるのでしょうか。
初めまして!JDさんのところには、初めて投稿します。
以前、グッチーさんのところに、「JDさんの文章が、あまい!」と書いた
バカ者です。(投稿した後でシマッタ!と思ったのですが…、グッチーブログの
気軽さゆえ失礼なことまで気軽に投稿してしまいました。申し訳ありません
でした。)
でも、ちょっと考えてみてください。JDさんとかは、一般人からすると「偉
い人」という感覚がありますからなんか違うなと思っても、そのことを指摘
したり出来ませんし、まあ指摘しなくても自分に実害はないので黙っていま
す。同僚や友人知人関係でも、お互い良い人間関係を維持するために私事を
指摘し合ったりはしないでしょう。そうすると、どうなるかと言いますと「
成長が止まってしまう!」可能性が高くなると言う事です。
人間、何歳からでも勉強すれば成長するんじゃないでしょうか!
作文などは、3ヶ月くらい基礎を勉強して普段から良い構成の文章を読んで
勉強(マネ)するようにすれば数年で、相当上達すると思います。
しっかりとした能力を身に着ければ、その後一生使える訳ですから是非がん
ばってほしいと思います。←なんだか、説教になってしまいましたが…、そ
のまま投稿します。(この文章は、ドラフト3ですがもう面倒になってきま
した…)
JDさんのことは、まったく知りませんがグッチーさんのご友人だということ
で信頼できるお方ではないかと想像しています。応援してます!
注意:投稿者の名前は、毎回変えるようにしています。(理由は、主に、ビ
ッグデータの餌食にならないためにです。接続もTor経由です。)
イスラムで純粋に一番信仰心があるのが異端シーア派のイランだと思います。キリスト教の異端はかえって東方教会的正統か原典主義ですが、教義のはっきりしているイスラムでの異端は完璧な異端です。思考がキリスト教的で、血統にのめり込んでいる。本家アラブ人を蔑視するのも理解できますが、一番信心深く異端なのですからもっと自分に合ったレベルの高い宗教を創り直すべきです(ゾロアスターじゃだめなんですか)。対照的なのが現実的なNATO同朋のトルコです。御本家にとっては単なる生活様式で、征服者モンゴルでさえこの地域で建国すると改宗してしまう。私もスンニ派には心を揺さぶられずレベルが宗教とは思えない。シーア派がなくなればISILを援助する国もなくなる。かつてトルコがイスラム世界の盟主となったときもイランは征服できなかった。現代は石油王の御本家サウジと仇敵イスラエルが複雑な関係を持とうとしている。変数が多すぎる。米イラン関係のずれた思い込みがこの地域の平和に資するのか、米国次期政権まではわからない。
イラン核協議関連ニュースを追っているうち、このブログにたどりつきました。
イランとアメリカの関係は、イラン革命までは良好でしたね。 日本も、戦後、必要量の石油が手に入らない時、出光興産がイランに交渉して、イギリスやアメリカの邪魔を振り切って、日本に持ち帰って以来、日本とは良好な関係で、日本の高度成長期には、日本に対する最大の石油輸出国でしたが。
経済制裁によって困窮したイランではありますが、天然資源が豊富ですから、捨てる神あれば拾う神あり、何とか食いつないできましたね。 AIIBにも創立メンバーとして入り、中国の新シルクロードプロジェクトの要でもあります。そして今年は上海協力機構の正式加盟国にもなると言われていて、つまるところ、中国の広大なユーラシア構想を実現するための協力国でもあります。
イランと中国との関係は紀元前にさかのぼりますが、シルクロード交易を通じて、友好関係を築きました。さらに、これは、ロシアも加えてのことですが、欧米から「不当な扱いを受けてきた」という意識がこれらの国には共通です。
このところアメリカは外交で失態続きです。オバマ大統領も何とか実績を作ろうとキューバと国交回復を画策したりと焦っているみたいですね。
次回の本題が楽しみです。期待していますよ。
アメリカの外交問題評議会の会長リチャード・ハースとかジョセフ・ナイとかは、中東地域での現在の混乱は、17世紀のヨーロパで起きたカトリックとプロテスタントの30年戦争に似ていると言っていますね。どちらも単なる宗教間の争いではなく、民族、国家が複雑に絡まった入り組んだ争いで、決着が出るまで、数十年はかかるとも見立てです。
イランは、中国ロシアと同盟的な関係になりそうですし、トルコ、インド、パキスタンとも石油、ガスの供給で良好な関係を築いているので、将来的に安定した国家になると思います。教育レベルも高いし、女性が社会に進出しているし、投資はあちこちから入るだろうし。
ところで、善と悪、黒か白かという古代ゾロアスター教の世界観は、キリスト教にも入り込み、ジョージ・ブッシュの世界観にもなりました。
すみません。名前が、「始めまして」となってしまいましたが本当は
「初めまして」でした。JDさんのところに投稿するのには、だいぶ勇
気が要ることなので、てんぱってしまいました。
*自分の投稿、出なかったのでボツになったと安心してましたら出たの
でウレシハズカシイ気分です!←本当は、JDさん絶対「怒ってるヨ」と思って、
どうしようかと考えていました。(笑)
自分では、ろくな作文も書けないのに偉そうなことを言ってすみません。
言い訳をしますと、自分では、歌を上手に歌えないけれど他人が喉自慢
で歌っているのを聴いて「うまい」とか「もうちょいだな」と分かるよ
うな感じで、他人さまの文章を批評しつつ読んでいます。
それから、どうしてJDさんの文章を指摘するようなことを書いたのかと
言いますと「もっと洗練された文章にできる」と思ったからです。
せっかく良い情報をお持ちなのに勿体無いじゃないですか。
グッチーさんのご友人だということで、気楽に指摘した次第であります。
そうでなければ、ほっときます。
ところで、ネットでは酷い作文が溢れかえっています。東京大学の学長
のメッセージにしても有名企業のトップメッセージにしてもダメだろーヨと
いうのばっかりです。さらには、外務省など官庁や政府のサイトでもろ
くな作文になっていません。田舎の自治体の広報並にヒドイです。サイトの
運営を民間企業に丸投げしているのでしょうか?いづれにしても、せっか
く良い情報があるのに伝達方法がまずいと伝わりませんから勿体無いですネ。
最後に、最も重要なのは、JDさんがどの読者層をターゲットに記事を書か
れているかということです。現在のままでも良いという読者もおられます
から、現在のままで良いということにもなります。
失礼しました。
読ませる文章でなければ、どんなに良いことを言っていても読まれないということです。ミリオンセラー作家になって下さい、という願いから言ってます。どなたかが簡単だと言っておりますが…そうなんでせうか(笑)?
政治家に知恵を付ける筈の官僚。ところが
日本の政治家は、相手国も日本人と同じ思考をする筈だという前提で外交し、失敗を重ねている。
外務省には国ごとの外国人取扱いマニュアルがないんでせうか?民族、歴史毎の分析の蓄積がないように見える。
イランについては深く考えたことはありません。対イスラム国でアメリカはイランに融和的になって来たと思うが、なんせ北朝鮮の技術を核に使ってる。アメリカが手綱を緩めない理由。
当時6ヶ国協議は、北朝鮮に核開発の時間を与えるだけだという知見は見棄てられ、その通りになってしまった。
細川政権で細川さんが突然辞任。当時クリントンが北朝鮮を攻撃しようぜと言ってきた。細川さんは、戦争を始めた政権と言われるのが嫌で突然辞任したと言われてますが…本当ですか?
イランの核開発計画は日本と同じ1950年代で、これも日本と同じ米国の援助で始まり、70年代にアメリカの傀儡シャーが王になったころには、20機以上の原発設置、プルトニウム導入などの計画をアメリカは推進していました。
核の平和利用ということで。
しかし1979年のイラン革命後のアメリカの撤退と、ホメイニの「核は悪魔」という方針で、イランの核開発は頓挫。
1989年のホメイニーの死後,再開しようにも西側からの援助は求められないので、ロシアの技術援助を求め、開発計画再開。 ブッシュ政権の頃には、北朝鮮の関与もあったみたいですが、基本的に軍事はロシアが提供。サウジもパキスタンへの経済援助と引き換えに、核開発を依頼。サウジはイランの核開発には反対していません。
イスラエルは、70年代に秘密裏にフランスの関与で核兵器を保有したとされますが、核拡散防止条約に加盟していないので、詳細は分かりません。保有数も不明ですが、現在80発ぐらいですかね。
私個人は、日本と同じく、地震国イランには原発は向いていないと思うのですが
コメに逐一回答するのも一つの方法であろうかと。マジに回答する必要もない。答えられる所を一言で。
>人格攻撃でない限り
回答が消えてますが(笑)…
私の友人は上司から毎日、人格攻撃されてると
「お前なんか死んじまえ」
外務省は上品なんですな。宮仕えですから。友人は
「役所で正義を喋ると、砂漠に飛ばされる」
と。実際にエチオピアに飛ばされた。
ストレス貯まらん?と聞いたことが。友人は
「ストレスは貯まらない。ストレスは全部、上司に」
このくらい心臓に毛が生えてないと、官僚は勤まらないんでせうな(笑)。
その中には戦前の日本も含まれていたと思いますが、戦後民主主義と復興支援を受けてそこから離脱しました。今ではいかに米国に従属していてもそれが存立基盤であり、彼らの価値観にはもうなじめず、まっぴら御免というのが本音でしょう。水野和夫氏はシーパワー勢力としての先進資本主義国経済は今の金利低下の長期トレンドを見ても解る通りもう行き詰まっており、これからはユーラシア勢力の誘いに乗るべきだと言っています。しかしAIIB設立でも懸念されるようにまっぴら御免の価値観には追いていけるはずもなく尻拭いか共倒れがオチでしょう。米国がいなければ身ぐるみはがされて身代金要求か。老獪な欧州は今回捨て金でオプションを買い、日本には現物買いしろということでしょう。創ったばかりのBRICS銀行では対等構成身分で使い道が自由にならず、AIIBで金を分捕ろうというほど困りだしているのでは?世界一の外貨準備があり余っているはずじゃなかったのか?ドル高も効いているのか。まあ中国を育てているのは米国なので日本は追いていくしかないでしょう。欧州は口だけは出すんですかね?
換日記一つの方法かもしれないが、コメに逐一回答されたら投稿した側は気持ち悪いぜ。愛の交換日記ではないんだから。それならsnsででもやってくれ。