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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2017/10/02 00:00  | 今週の動き |  コメント(3)

今週の動き(10/2~8)


10月になりました。シャツ一枚だとちょっと寒くなってきましたね。

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先週の動き
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9/24(日)
・ドイツ議会(下院)選挙
・フランス上院選挙
・ロス商務長官が中国、香港、タイ、ラオスを訪問(~29日)
・NFLの選手が試合前の国歌斉唱でトランプ大統領に抗議の姿勢を示す

9/25(月)
・イラクのクルド自治区で独立を問う住民投票
・北朝鮮外相が「米国が宣戦布告」と発言(NY)

9/26(火)
・トランプ大統領が北朝鮮への軍事力行使は「第2の選択肢だが、準備は万全」と発言(ワシントンDC)
・米上院がオバマケア改廃法案の採決を見送り
・アラバマ州の上院議員の補選の共和党予備選の決選投票(ロイ・ムーアが勝利)
・サウジアラビア国王が女性の自動車運転を認める勅令を発表

9/27(水)
・トランプ大統領が税制改革案(政権・共和党の統一案)を発表
・タイの最高裁がインラック前首相の職務怠慢容疑について判決(5年の実刑、海外逃亡中のインラックは欠席)

9/28(木)
・ティラーソン国務長官が訪中(~30日)
・ロシア・トルコ首脳会談(アンカラ)
・臨時国会召集、衆議院解散

9/29(金)
・プライス厚生長官が辞任
・中国共産党が孫政才氏の党籍剥奪を決定

9/30(土)
・トランプ大統領がプエルトリコの首都の市長を非難するツイート

●ロス商務長官の訪中(王岐山・バノン会談)

これについては「王岐山とバノンの秘密会談」(9月29日)で解説しました。

記事で詳しく書きましたが、ウィルバー・ロス商務長官とロバート・ライトハイザーUSTR代表が率いる通商チームは、「アメリカ・ファースト」というムーブメントを超えて、米国の政財界に蓄積してきた中国に対するフラストレーションを解決すべく、中国に構造改革を迫るという意気込みが見えます。

これはトランプ政権だけでなく、民主党やシリコンバレーにとっても関心の高い大きなアジェンダであり、米国が簡単に丸め込まれる話ではありません。中国は80年代の日本のように厳しいプレッシャーにさらされるでしょう。

なお、これについては、最近、私も、中国の政府関係者から意見を求められる機会があり、「大変と思いますが、日本も苦労したので、頑張ってください」とエールを送りました(笑)。

ところで、王岐山・バノンの会談の謎解きについては、予想通り(笑)、コメント欄でペルドンさんから鋭いツッコミをいただきました。

たしかに、習近平国家主席とトランプ大統領というトップ同士の密使という見方はあります。二人ともトップの個人的信頼が群を抜く点は共通しているからです。

通商ではなく北朝鮮が主要なアジェンダとみることもできるでしょう。このHPで何度も指摘しているとおり、中国の北朝鮮離れは今最も注目すべきファクターです。米中は、ポスト北朝鮮のシナリオも念頭に置きつつ、どこで握れるか探っているところですから、そのためのバックチャネルだった可能性はあります。

ただ、だからといって、これがどこまで現実の政策に影響があるかについては、また違った分析が必要です。これまで述べてきたとおり、バノンに政権内の影響力はなく、王岐山は郭文貴問題で傷を負っており、次の党大会で引退するという見方が有力です。

つまり2人の影響力は限定されており、首脳の密使だったとしても、メッセンジャーを超えた役割を果たすことはできません。いくつかあるバックチャネルの一つに過ぎないということです。そういうわけで、この会談が実質的にどれだけ意味があるかといえば、結論はやはり記事で述べたとおりです。

あと、王岐山引退を打ち消すためという説は、メルマガでもすでに書いていますが、どうでしょうね。こういうリークをされれば不利に働くのはどっちなのか・・もしそこまでの狙いが本当にあったとすれば、どちらかといえば、王岐山が苦境にあることを示唆するとみるのが自然でしょう。そうでないなら、もう王岐山はそういう心配をする必要がない、つまり引退が既定路線になっているとみることもできます。

●アラバマ州上院補選

オバマケア撤廃法案の採決はまたしても失敗。

また、アラバマ州上院補選の予備選はトランプ大統領と共和党指導部が支持したルーサー・ストレンジが敗北し、ロイ・ムーアが勝利。いずれも先週「今週の動き(9/25~10/1)」で述べた見通しのとおりです。

この二つが共通して示しているのは、共和党指導部、特にミッチ・マコーネル上院院内総務に対する党内の風当たりが強くなっていることです。

アラバマ州上院選は、一見トランプが敗北しているように見えますが、実は今回勝利したムーアは、トランプ的ポピュリズムを体現する超保守で、バノンが支持しています。つまり、実態は、共和党指導部対トランプ主義であり、最大の敗北者は共和党指導部でした。

アラバマでここまでトランプ主義が盛り上がっているということは、来年の中間選挙で、アリゾナ、テネシー、ワイオミングなど他のレッド・ステートはどうなるのか・・ジェフ・フレークなどトランプに反対する穏健な現職がナショナリストないしティー・パーティータイプの候補に敗北する可能性が高まります。

そういう候補が共和党候補になれば、穏健な州では民主党候補に敗れる可能性も出てきます。また、共和党指導部の指導力がこれだけ批判される状況になると共和党全体にとって大きなマイナスになります。

アラバマ州上院選の本選は12月12日。この州で共和党が負けることはまずないので、ムーアが勝利すると予想されますが、それでもたとえば接戦になるようなら、これは・・ということになります。要注目です。

補選は、中間選挙と異なるダイナミズムがあるので、あまり単純には論じられないのですが、トランプ主義の勢い、州の動向、来年の中間選挙を見る上で示唆に富みます。

●トランプ対NFL

トランプ大統領は、先週、このアラバマの予備選の応援のため現地を訪問した際、NFLの選手が国歌斉唱のとき膝をついて人種差別に抗議する姿勢を示すことを問題視しました。それに対して、NFLは選手、チーム、団体が猛烈に反発。トランプの抗議のために選手は膝をついてアピールし、全面戦争状態になっています。

これ自体は大した話ではありません。国歌斉唱のとき膝をつくことに対しては、実際のところかなり多くの米国人が違和感をおぼえていました。しかし、問題は、トランプが政治的意図をもってこういった文化的対立をあおる行動に出ることです。

オバマケア改廃が失敗し、税制改革も統一案を発表したとはいえ見通しが厳しい中で、自らの支持層を鼓舞するために、挑発的な言葉で国を分断するセンシティブな問題に塩を刷り込む。大統領選から見てきた相変わらずのトランプのやり方です。

最近、政策に直結する部分では過激なツイートは抑えられていますが、こうした文化的社会的な場面では、これまでどおりのトランプ流が続くということでしょう。

●トランプ対プエルトリコ市長

トランプ流といえば、今度はトランプ大統領はプエルトリコの首都の市長を非難するツイート。プエルトリコは先週上陸したハリケーン・マリアにより深刻な被害を受けていますが、市長は連邦政府に文句を言うばかりで、民主党と結託して自分(トランプ)を攻撃していると非難しました。

プエルトリコは 5月に財政破綻しているため、 今回のような災害が起こると連邦政府に助けを求めるしかありませんが、人口数百万の上、住民には選挙権がないため、冷たい扱いを受けがちです。こういうところで挑発的な言動に及び対立をあおるのも、前述のトランプの流儀でしょう。

ただ、プエルトリコが本当に危機に瀕し、フロリダに難民が流入するようになると、人口動態が激変し、スイング・ステートからブルー・ステートに変わる可能性があります。その観点から、政治的には無視されてきたこの小さな島に注目が集まっています。

※スイング・ステートについては「米国大統領選の注目点(1):激戦州」(16年7月1日)参照。

●プライス長官の辞任

トランプ政権では沢山の人間がクビになっていますが、閣僚の辞任は初めて。大きな事件です。

ただ、プライベート・ジェットの公費使用で即クビというのは行き過ぎではないかという声があります。それを言うのなら、同じような問題を抱えたプルイットEPA長官、ジンキ内務長官、ムニューシン財務長官はどうなのかと言われます。

実際は、トランプ大統領は、プライスがオバマケア撤廃に力を尽くさなかったことに不満をもっており、「忠誠心」を疑っていたことを問題にしたようです。かつてのセッションズ司法長官に対する攻撃も忠誠心テストだったことをうかがわせました。あらためてこの政権の特徴が見えたといえます。

●クルド独立投票

予想通り、イラクとの関係が大きく悪化し、かなり不安定化しています。クルド自治区への空路が封鎖され、現地ビジネスにも影響が出ています。

私もウォッチしているのですが、今の状況はかなり流動的です。タイミングを見て取り上げます。

●サウジアラビアの変革

女性に運転を認めるとの決定。まさかここまでやるのかと、中東関係者に大きな衝撃を与えました。

この件含め、サウジには数々の変革の動きが起こっており、まさに国が転換点を迎えていることを実感させます。そこには危うさも潜んでいます。この点を今週解説します。

●インラックの裁判

インラック前首相が海外逃亡し、欠席判決となりましたが、これは軍政にとってもタクシン派にとってもウィンウィンの結末。おそらく軍政が逃亡を容認したのでしょう。タイの「半分の民主主義」はますます盤石のものとなります。

●欧州の選挙

ドイツではメルケル首相率いるCDU・CSUが勝利したとはいえ後退。マクロン大統領も上院選で後退。

ポピュリズム・ナショナリズムの隆盛を憂える論調が目立ちますが、それは前から分かっていたことです。昨年のムーブメントの時期と比べれば、その衝撃はずいぶん薄れた印象があります。米国もそうですが、これからはこういった勢力もそれなりに議会での声をもつようになり、もはや長期的観点からそれとどう折り合いをつけていくか考えざるを得ない、そういう段階に入ったということでしょう。

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今週の動き
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10/1(日)
・スペインのカタルーニャ州で独立を問う住民投票

10/3(火)
・米・タイ首脳会談(ワシントンDC)

10/4(水)
・トルコのエルドアン大統領がイラン訪問

10/6(金)
・ノーベル平和賞発表

●カタルーニャの独立投票

クルドに続いて注目される独立投票。もちろん一緒には論じえませんが、両方とも共通するのは、民族主義に加え、自身の経済力が中央政府に不当に搾取されているという不満感です。

スペイン経済は好調ですが、その成長を牽引してきたのがGDPの2割を占めるカタルーニャ。クルドの投票は法的拘束力がありませんが、カタルーニャは地方政府が公式な投票と主張しており(連邦政府は違憲と主張)、独立支持の結果が出れば独立宣言が出されるとのこと。そうなれば相当の混乱が生じることが予想されます。

●プラユット首相の訪米

タイは14年5月のクーデター以来、オバマ政権から冷たい扱いを受けており、なんと今回がプラユット首相の初の公式訪問。このへんもトランプ政権になってからの変化を感じさせます。

東南アジアと米中の関係については色々なトピックがあり、これから取り上げたいと思っています。まずはドゥテルテとトランプの関係について解説する予定です。

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あとがき
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小池旋風・・「希望の党」ではなく「野望の党」とか・・『野望の王国』を思い出しますね(笑)。

たしかに政治的嗅覚とムーブメントを作り出す力はすごいと思いますが、中身はといえば・・。見ようによってはトランプや欧州のポピュリズムに擬せられるのかもしれませんが、ナショナリストのアジェンダを前面に出していないこともあり、良い意味でも悪い意味でもそこまでの衝撃はありません。そういう意味では、個人的には、こういうタイプのムーブメントが起きるのは循環的なもので、まあよくあることかな、という印象も受けます。

この後四方山話を書いていますが、メルマガのみ掲載します。

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3 comments on “今週の動き(10/2~8)
  1. JFKD より
    隠してますね

    ロス商務長官が行く寸前にバノンが王と会談。政権から出た人間ではあるが、腹心であることはまちがいないだろう。今、水を得た魚に変わった可能性がある。ぺルドンさんの読み通リなのでは。対中経済戦争と言っている男を、無役の身分で呼ぶところがミソなのでは。会談している相手がまた生臭すぎる。笑

    JDさんは、聞かれたのはあたかもロス長官関係の話だと言わんばかりだが、確かに意味深の不自然さですね。だったらなぜバノンなんかが王岐山と会談なんかしているのか。仙人の茶飲み話じゃあるまいし。今わざわざ無役とやりますか。笑 言えない事もあるでしょうが、当然ぺルドンさんは食い付きますわな。時期が時期だけに。ここぞという時ですから。

    王岐山は直接北にパイプはないし、プーチンもいるわけだし、中国が単独でも共同でも北朝鮮に軍事行動起こすとは思いませんが、現状では引退かどうかにかかわらず、会談自体はぺルドンさんの見方をせざるを得ない。メルマガで言える時もそのうち来るのでは。でないと分析がお粗末ということになる。待ってます。笑

  2. 下北のねこ より
    雑感

    ●インラックの裁判
    タイって、言っちゃ何だけど、独特の不正が普通のこととしてまかり通る世界じゃないかなあって、感じます。
    何回か旅行行ったけど、チップをせびられる国ですし、値段のごまかしも普通にあります。
    お金持ちも日本で見る以上に目立ちます。失礼ですがタイ王室ですら、あれだけの無茶苦茶な資産を持っているのはプミポン国王の才覚だけとは思えません。乗せて受け取る仕組みがあるんだろうなあって思います。
    だから、結局、最後、命取りにならないレベルでなあなあですんじゃうんだろうなあ。
    ●ドイツの選挙
    メルケルさんが生き残ったことにホッとしてます。メルケルさんの強さは大義名分がメルケルさんの方にあること。それと政治家として包容力があることだと感じます。特に後者は、トップに立つ女性政治家に絶対に必要な要素だと思います。
    難民問題やロシアのプーチン大統領に対する態度など、メルケルさんは女性政治家の理想像と言っていいと思います。日本だったら、昔の土井たか子衆院議長が近いものを持ってたような気がします。資質は大分違いますが、野田聖子さんが比較的許容範囲が大きい方に見えます。

    ●小池旋風
    逆にダメなものはダメ、嫌いなものは嫌い、受け入れられないものは絶対に受け入れないのが小池さん。
    そういう方に、生殺与奪権を交渉事とはいえ、与えちゃった前原さん、弱いですね。私が個人的に思い出すのは山崎豊子さんの『華麗なる一族』のラスト数ページです。合併した銀行が、さらに強い銀行に喰わされ消えていく運命に置かれるシーンです。モデルになった太陽神戸銀行あたりも財閥系の三井や住友と再合併する過程で行員のみなさん選別にあったんじゃないでしょうか。
    民主党も合併される金融機関のような立場の悲哀をいきなり思いっきり味わわされているようで哀れです。選挙結果次第で党内多数派を形成できればチャンスがあるのかもしれませんが、主だった幹部を最初からパージされてはそれも望み薄そう。

  3. 下北のねこ より
    アメリカンマラソン

    そういえば、以前、コメント欄に筑紫哲也さんのアメリカンマラソンについて書いたことありましたけど、昔、アメリカ民主党のリベラリズムが大義(cause)を失いかけ、その再構築にリベラル派が苦闘する様子が描かれていましたが、日本に至ってはようやくこの国のリベラルというものが、アメリカのと同義の方向になってきたなと思った矢先、左翼的なものとして小池さんにパージされる悲惨なことになっちゃいましたね。
    できれば、小池さん、もう少し包容力のある方であってほしいんだけどなあ。
    許容範囲が狭いのも、女性の一つの典型的な姿ではあるんですが。

    アメリカの民主党が、ケネディの伝統的リベラリズム(そんな用語あったかな)から現実に適応したオバマのプラグマティックリベラリズム(適当です)に再構築して、党勢立て直しに成功したように、日本においても護憲をキーにした平和主義、社会民主主義的なものは生き残って欲しいと個人的には思うんですが。
    これから厳しそうですね。

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