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2020/08/10 00:00  | 今週の動き |  コメント(1)

今週の動き(8/9~15) 米国の対中攻勢、経済対策の大統領令、ベイルート爆発、スリランカ選挙


すっかり夏ですね。今週はお盆。コロナで帰省を悩まれる方もいるでしょうが、マスクや消毒などで十分に予防しながら、家族との貴重な時間を大切に過ごしたいものです。

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先週の動き
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8/3(月)
・トランプ大統領が米企業によるTikTok買収を条件付きで容認する(買収価格の一部を政府が受け取るべき、9月15日までに実現しなければ利用禁止)と表明
・スペイン前国王のフアン・カルロス1世が国外に移住する意思を現国王のフェリペ6世に伝えたと王室が発表(ドミニカに滞在中との報道)

8/4(火)
・アザー厚生長官が近く台湾を訪問すると発表(後に8月9日と発表)
・韓国の元徴用工訴訟による日本製鉄への資産差押えの公示送達の効力が発生
・レバノンのベイルートで大規模な爆発
・アルゼンチンが債務再編交渉で米欧の債権者団と合意したと発表
・ペルー議会がビスカラ大統領が任命したカテリアノ首相の新内閣に対する信任投票を否決

8/5(水)
・トランプ大統領がネバダ州における郵便投票を認める法律の制定を受けて同州の郵便投票は「大惨事」になると批判(トランプ陣営は法律の発効の阻止を求めて提訴)
・フェイスブックがトランプ大統領の新型コロナウイルスに関する投稿を削除したと発表(ツイッターもトランプ陣営が投稿した同じ動画の閲覧を制限)
・ポンペオ国務長官が「クリーン・ネットワーク」プログラムを発表
・トランプ大統領が次期駐日大使に指名したハドソン研究所所長のケネス・ワインスタイン所長が上院外交委員会の公聴会で証言
・香港の裁判所がデモ参加者を扇動した罪で民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏に有罪判決
・UAEのアジュマン首長国で大規模な火災が発生
・スリランカ総選挙(ラジャパクサ派の政党SLPPが勝利)

8/6(木)
・トランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づきバイトダンスとテンセントとの取引(TikTokとウィーチャットに関わる取引)を45日後に禁じる大統領令に署名
・トランプ大統領がカナダから輸入するアルミの一部に10%の追加関税を発動すると表明(オハイオ州クライド)
・米中国防相電話会談
・米財務省、FRB、SEC等で構成される作業部会が米国に上場する中国企業の監査状況の検査の厳格化をトランプ大統領に提言
・米国務省がフック・イラン担当特別代表の辞任を表明
・NY州のジェームズ司法長官が全米ライフル協会(NRA)の解散を求め提訴
・バイデン前副大統領が広島への原爆投下から75年にあわせて核のない世界を目指すとの声明を発出
・ブレント・スコウクロフト元大統領補佐官が死去
・香港当局が民主活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏を含む24人を天安門事件の追悼集会に違法に参加した容疑で起訴
・フランスのマクロン大統領がレバノンを訪問

8/7(金)
・トランプ政権が香港の自治と香港市民の弾圧を理由に香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官、香港マカオ事務弁公室の夏宝竜主任ら11人に制裁を科すと発表
・米国家情報長官室が11月の大統領選挙への外国政府による干渉についての分析結果(中国はトランプ大統領の再選を望まず、ロシアは同大統領の再選を望んでいる)を発表
・韓国大統領府の盧英敏秘書室長ら幹部6人が辞意を表明
・北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が南西部・黄海北道の洪水現場を視察したと国営朝鮮中央通信が報道

8/8(土)
・トランプ大統領が失業手当の週400ドル追加、住居からの退去の猶予、学生ローンの利払いの猶予、給与税の納税の猶予を定める4つの大統領令に署名
・中国全人代常務委員会(~11日)
・レバノンで大規模な反政府デモ

●米国の対中攻勢

トランプ政権の対中攻勢がさらに強まった1週間でした。経済・技術・外交の各方面で以下のとおり大きな措置がとられました。

(1)アザー厚生長官の訪台発表

アレックス・アザー厚生長官が8月9日に台湾を訪問すると発表しました。台湾のコロナ対応への支持を伝え、保健医療面での協力を強化することが目的とされています。

閣僚の訪問はマッカーシーEPA長官の訪問以来6年ぶりで、厚生長官はEPA長官より格上なので、過去最高ランクの訪問になります。

(2)「クリーン・ネットワーク」プログラム

ポンペオ国務長官が「クリーン・ネットワーク」プログラムを発表しました。米国の通信技術・インフラを信頼できないアクターから保護することが目的であり、4月に打ち出した「5Gクリーン・パス」構想を強化する位置づけです。

以下の5つのイニシアティブで構成されます。

・クリーン・キャリア:中国の通信キャリアを米国の通信ネットワークに接続させない
・クリーン・ストア:米国のモバイルアプリストアから中国製アプリを排除する
・クリーン・アプリ:中国の企業(例:ファーウェイ)が製造したスマートフォンへの米国製アプリの事前インストールまたはアプリストアからのダウンロードを阻止する
・クリーン・クラウド:中国企業(例:アリババ、バイドゥ、テンセント)のクラウドに米国のデータを保存させない
・クリーン・ケーブル:米国とグローバルなインターネット通信をつなぐ海底ケーブルに対する中国の侵害を阻止する

またポンペオは、同盟国やパートナー国、外国企業にも参加を呼びかけています。

(3)TikTokとウィーチャット禁止の大統領令

トランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づきバイトダンステンセントとの取引(TikTokウィーチャットに関わる取引)を45日後に禁じる大統領令に署名しました。

なお、トランプは、これに先立ち、米企業によるTikTok買収を容認する、ただし買収価格の一部を政府が受け取るべき、9月15日までに実現しなければ利用を禁止すると表明しました。現在、マイクロソフトによる買収交渉が行われているところです。

(4)中国企業の上場規制強化の提言

米財務省、FRB、SEC等で構成される作業部会が米国に上場する中国企業の監査状況の検査の厳格化をトランプ大統領に提言しました。

その内容は5月に上院が可決した「外国企業説明責任法案」(以下の記事参照)とよく似ています。

「米国における中国企業の上場規制強化」(5/25)
 
(5)香港行政長官への制裁

香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官、香港マカオ事務弁公室の夏宝竜主任ら11人に制裁を科すことが発表されました。

米中対立については、以下の記事で、おそらくこれからの1週間でトランプ政権は一気に攻勢をかけてくること、具体的に考えられる措置、そしてTikTokの利用禁止・買収についても大きな動きが起こることを指摘しましたが、予想どおりになりました。

「米中総領事館の閉鎖とポンペオの対中政策演説」(7/28)
「ウイグルの新疆生産建設兵団への制裁」(8/3)
 
それにしても、中国事業、台湾、香港と各方面で続々とアクションがとられました。当然ながら中国は反発していますが、あまりにも動きが速いので、具体的な報復の動きはまだ出てきていません。現時点では、少なくとも公式には、中国は対話を呼びかける姿勢を強調しています。

一方、米中閣僚級通商協議(ライトハイザーUSTR代表、劉鶴副首相)が今週、オンラインで行われると報じられています。トランプ政権の対中攻勢が強まる中で、この動きだけは米中の協力が続けられることを示唆しています。

これらの動きの意義と今後の展望について、明日解説します。

●米国の経済対策(大統領令)

米国の経済対策第4弾については、以下の記事でお伝えしたように、共和党と民主党の立場に大きな隔たりがあり、調整が難航しています。先週もその状況は変わらず、第3弾(CARES法)の追加失業手当(週600ドル)が失効したままの状況です。

「新型コロナウイルスの感染拡大(米国の対応:経済対策第4弾)」(7/27)
「新型コロナウイルスの感染拡大(米国の状況)」(8/3)
 
上院は8月10日から休会のため、今週中に何らかの法案を可決したいところですが、その見通しは不透明です。その中で、トランプ大統領は、法律ではなく大統領令で対応するとして、(1)失業手当の週400ドル追加、(2)住居からの退去の猶予、(3)学生ローンの利払いの猶予、(4)給与税の納税の猶予を定める4つの大統領令に署名しました。

この大統領令の意義と今後の展望について解説します(※メルマガに限定)。

●ベイルートでの爆発

レバノンのベイルートの市街地近くの港湾で大爆発が発生しました。10キロ離れた建物が被害を受け、240キロ離れたキプロスでも爆発音が聞こえたとのこと。死者数は158人、負傷者数は6000人を超え、経済損失は数百億ドルにも上ると試算されています。

爆発の発生直後からネット上で衝撃的な映像が相次ぎました。1度目の爆発による煙の後、火花が散り、2度目の爆発で赤い煙が上がって、ドーム状の衝撃波が生じたのが見えます。

爆発の原因は捜査中ですが、倉庫に保管されていた2750トンの硝酸アンモニウムによってもたらされたとレバノン政府は発表しています。硝酸アンモニウムは化学肥料に使われますが、火薬や爆薬の材料にもなる物質です。

本件が意味するものについてコメントします(※メルマガに限定)。なお、本件を理解するためのバックグラウンド情報となるレバノンの政治・経済については以下の記事を参照下さい。

「総集編第3号:中東の新時代」(18/11/16)
・「レバノン現代史(1)/(2)/(3)」(18/6/8・13・22)

●スリランカ総選挙

マヒンダ・ラジャパクサ首相を党首とする「スリランカ人民戦線(SLPP)」が議会(定数225)の過半数の議席(145)を得て勝利しました。これにより、ラジャパクサ一族による支配体制の復活が完成しました。

スリランカの喫緊の課題は、コロナにより打撃を受けた経済の復興にあり、政権はまず観光業の回復やすでに受けているIMF支援の継続に向けた措置に取り組むことになります。マヒンダは大統領だったときに親中路線を推進しており、中国との関係強化にも取り組むでしょう(一方、インドとの関係も重視しており、以前よりはバランスをとった形で進めると予想されます)。

また、SLPPは、同盟関係にある政党を加えれば、憲法改正に必要な全体の3分の2(150)を確保するとみられます。今のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の前の政権では、憲法改正により大統領の任期や権限に制限がされたのですが、おそらくマヒンダは憲法改正を行い、自身が大統領だったときと同じ政治体制に戻すでしょう。これでスリランカは完全に旧体制に戻ることになります。

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今週の動き
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8/9(日)
・アザー厚生長官が台湾を訪問
・ベラルーシ大統領選挙
・レバノン支援に関する国際会議(テレビ会議)

8/11(火)
・ポンペオ国務長官がチェコ、スロベニア、オーストリア、ポーランドを訪問(~15日)

8/12(水)
・EUがカンボジアに対する制裁(特恵関税の一部停止)を発動

8/13(木)
・19年度国防授権法(NDAA)で定めた米政府機関によるファーウェイ、ZTE、ハイテラ、ハイクビジョン、ダーファの製品・サービスでの調達禁止の最終施行規則が施行

8/14(水)
・韓国の慰安婦記念日

8/15(金)
・米中閣僚級通商協議(オンライン会議)(報道ベース)
・台湾高雄市長補選
・韓国の光復節(文在寅大統領が演説)
・北朝鮮の解放記念日
・インドの独立記念日
・終戦記念日

(今週のどこか)
・バイデン前副大統領が大統領選挙の副大統領候補を発表

●アザー厚生長官の訪台と米中閣僚級通商協議

これらについては「今週の動き」で説明しました。

●バイデンの副大統領候補の発表

バイデンが副大統領候補を発表する予定です。ポイントは以下の記事で述べたとおりですが、8月第1週に発表すると言いながら直前に延期するあたり、バイデンがかなり悩んでいる様子がうかがわれます。

「トランプの大統領選延期発言と郵便投票、バイデン副大統領候補」(8/4)
 
●ベラルーシ大統領選挙

ベラルーシで大統領選挙が行われます。ポイントは以下の記事で述べたとおりです。

「ベラルーシ大統領選挙」(8/3)
 
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あとがき
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デザイナーの山本寛斎氏、白血病で死去 デイヴィッド・ボウイ氏の衣装制作(7月28日付BBC)
ボウイが愛した日本のスタイル、日本が愛したボウイ(16年1月16日付BBC)

先月の山本寛斎氏の訃報ですが、4年前にデビッド・ボウイが亡くなったとき、山本氏との交流も話題になりましたね。

ステージ衣装に「出火吐暴威」の漢字が見えます。そういえばロックバンドのBOØWYもデビュー当初は「暴威」という名前だったそうですね。バンドの名前はデビッド・ボウイが由来ではなかったそうですが。

記事にも書かれていますが、ボウイのファッションが「文化の盗用」とみられることはないように思います。なぜなのか。やはり、日本への深い理解と愛情が感じられるからなのでしょうね。

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One comment on “今週の動き(8/9~15) 米国の対中攻勢、経済対策の大統領令、ベイルート爆発、スリランカ選挙
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    おめでとうございます

    JDさんのメルマガに出会って、内容が見通し通りになることもすごいのですが、「どうやって見通しを立てていくか」を、自分自身が考えることができる(考えようと思える)ようになったのはとても大きいですね。

    ツイッタランド内で話題の、メルマガ3周年おめでとうございます!

    トランプが巻き起こす「嵐」の中を、JDさんの指針を頼りに進んでいますが、仮にバイデンになろうと、トランプが続こうと、米中・コロナ・外交・政変・・・この世の中の変化には「世界情勢ブリーフィング」は必携だと思っています。

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