2016/09/02 00:00 | ロシア | コメント(8)
ロシア・トルコ・イランの三国連携
ロシア、トルコ、イランの三つの国は、いずれも欧米との間で対立を深めていますが、これらがお互いに接近するという動きが起こっています。
●ロシアとトルコ
まず、ロシアとトルコですが、この二つの国は、 かねてからクルド人への対応をめぐって不一致がありましたが(トルコはクルドを攻撃したいが、ロシアはアサド政権を支えるためにクルドを支援)、昨年11月のトルコ軍によるロシア機撃墜事件により決定的に悪化します。撃墜事件後、エルドアン大統領とプーチン大統領は激しい誹謗中傷合戦を続けました。
しかし、「ロシアとトルコの激突」で述べたとおり、もともとエルドアンとプーチンの個人的な関係は良好でした。そして両国は欧米への対抗という点において共通の利益を見出します。
エルドアンは、6月頃からすでに関係改善の道を探っており、プーチンに対して謝罪の書簡を送りました。これに対し、ロシアも、7月、制裁の段階的解除とトルコへの渡航禁止解除という措置で応えます。
そして、クーデター未遂事件が起こると、両国はさらなる関係改善に動きます。まず、クーデター未遂事件直後にプーチンがエルドアンに電話し、真っ先に支持を表明しました。
さらに、クーデター未遂事件後のエルドアン政権による大粛清に対しては、ロシアはトルコを非難することを一切行わず、欧米とのスタンスの違いを鮮明にしました。
一方、トルコは、EUとの間では、3月の難民対策の合意の履行が難航し、また死刑制度復活発言をめぐって対立を深めます。また、米国との間では、ギュレン師の引き渡しの交渉が折り合わず、これまた緊張した関係が続いています。
そして、8月9日、エルドアンはサンクトペテルブルクを訪問しプーチンと面談。トルコ・ロシア首脳会談が実現します。
首脳会談では、ロシア機撃墜事件後に中断されたトルコ・ストリーム計画の再開や原発計画の推進が話し合われました。しかもシリア問題への対応においても連携を開始した節がみられます。
トルコは、「イスラム国」とクルドが勢力争いを続けているジャラブラス、マンビジュを攻撃しますが、この目的は、「イスラム国」の排除よりもクルドのこの地域への進出を阻むことにあるとみられます。トルコによるこの地域に対する攻撃は、これまでロシアが認めたことがなかったところなので、衝撃を与えました。
さらに、トルコは、8月20日、これまでの方針を転換して、アサド政権を暫定的に容認するという衝撃的な発表。これらの一連の動きは、クルドを排除したいトルコとアサド政権を守りたいロシアが、お互いに妥協して、クルドの抑制とアサドの容認をそれぞれ認めるという取引を行ったことを推測させます。
●ロシアとイラン
ロシアとイランは、シリア問題への対応(アサド支援)をめぐり従来から連携した行動をとってきました。
イランは、1月に核合意が発効したものの、その後の制裁解除プロセスが難航していることから、米国に対する不満を高め、また、ミサイル実験、シリアとイエメンへの介入といった行動をとり続けることで、米国側の不満も高めています。このため、米・イラン関係は悪化している状態にあります。
こうした中で、ロシアとイランのさらなる連携強化を示唆したのが、ロシア軍機によるイラン基地の利用です。
■ ロシア軍機がイラン基地使用、シリア空爆で初 IS拠点など攻撃(8月17日ロイター)
もっとも、イランのような警戒心の強い国が他国(それもロシア)の軍を自国の基地に駐留させるのは、やはり政治的な抵抗が相当に強かったようです。ロシア軍の基地使用はわずか3日間に終わりました。
■ 露空軍の基地使用をイランが停止(8月23日ロシアNOW)
このように、ロシアとイランも、米国への対抗から関係を強化するという構図が明確になっています。一方で、この接近は構造的な現象ではなく、あくまで戦術的意図からの短期的な現象ではないか、という見方が有力です。
●トルコとイラン
トルコとイランも接近しています。もともとトルコは、イランとの経済関係が深く、特に天然ガスの欧州向け輸出やガス田の開発において協力しています。
政治的にも、イランが核開発疑惑問題により国際社会から制裁を受ける中、仲介役を買ってでて、国連安保理の制裁決議に反対票を投じるという行動もとりました。このように、両国はもともと良好な関係にありました。
クーデター未遂事件後にはイランのザリーフ外相がトルコを訪問し、トルコとロシアの関係改善を歓迎する旨発言したように、ますます関係を深化させています。近い将来、エルドアンがイランを訪問するという噂もあります。
●今後の展望
以上のとおり、中東では、主としてシリアをめぐる動きを軸にして、欧米との対立を深めるロシア、トルコ、イランという三つの大国が連携するという、欧米からみると極めて不気味な動きが進展しています。なにやら、自由主義体制と権威主義体制の対立という構図に見えるのも不穏なところです。
しかし、トルコに関していえば、米国とEUとの関係はあまりにも重要であり、これらの国々との関係を犠牲にしてまでどこまでロシアとイランとの関係強化を進めるのか、という疑問は残ります。
また、トルコとロシアは、エルドアンとプーチンという絶対的な指導者がおり、いずれも権力基盤は当面安泰ですが、イランの内政事情は複雑です。
鍵を握るのは、17年5月のイラン大統領選でしょう。ここでロウハニ大統領が再選し、改革派が勢いをつければ、米国との関係改善に向かう可能性も期待できます。17年にイランと向き合う米国の大統領はヒラリー・クリントンと予想されるので、イランが関係関係に向けたシグナルを送れば、これに米国が応えることも期待できます。
こうした展開によっては、ロシア、イラン、トルコの三国連携は、長くは続かないかもしれません。
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8 comments on “ロシア・トルコ・イランの三国連携”
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乗り出してきませんか・?
絶好のタイミング・・?!
小学生のような疑問ですが、なぜ世界中の人々は喧嘩(戦争)せず、仲良く暮らせないのでしょうか?
自然界最高高等動物の持つ宿痾を感じます。
ギャクじゃないですが、「病気やなあ…」
民族というカテゴリーがあるから、堂々と殺し合うのか?
国内で殺人が非合法なのは先進国で…。
世界がひとつの国だったら?
働く奴、働かない奴、所詮人間全員が善人に生まれない限り、また育たない限り、絵空事…。
結局、元々怠けようとする重力の法則?に反するエネルギー保存の法則??が規制で、それを逆手に取る奴が出てきて???(何のこっちゃ?)
どこまで行っても、「人間って奴は…(苦笑)」
>イタリア地震で倒壊した小学校、ドイツが再建を約束
まったくワケ分かりません。
イタリアって、後進国でしたっけ?
いずれどこかで取り上げて下さい。よろしくお願いします。
>首相「モーレツ社員否定の日本に」 働き方改革に意欲
霞が関官僚の皆さんはこれをどう受け止めているんでしょうか?
2020年東京オリンピックを目指すアスリートに向かって訓示出来るのか?
シンクロ井村監督は「アホちゃうか?!」とでも仰るんでしょうねえ、まあ、我々皆同じことを思うわけですが…。
グローバリズムに伴う中産階級の破壊は世界に社会不安を
撒き散らしてますね。
カナダ・トルドー首相が習近平に人権擁護呼び掛け、
同時に12億加ドル相当の契約締結
人権問題は一応言ってみただけの格好づけですね
記事の順番が逆だわ(笑)
ベルドンさんの古代史は現代にも役立つ
JD様は、核合意が成立した際、イランとアメリカの関係改善に期待されていましたけど、米国民に一番危険な国とみなされているのがイランということで、私は悲観的でした。「イランはならず者国家」というイメージがすっかり定着しているのですしょう。
来年の選挙では、ロウハ二の穏健派は後退するのではないでしょうか。国民の間に核合意に対する期待が高かった分、相変わらずの実質的な制裁の延長に失望も大きいのではないかと思います。EU 内の銀行も、アメリカから役人がやってきて、イランとは取引しないようプレッシャーをかけたりしていて、イランとのビジネスには非常に用心深くなっているそうです。エアバスもボーイングもイランに飛行機を売りたいのですが、ワシントンからの圧力が非常に強く、あれこれ邪魔が入っていますし。
それで、イランの対米強硬派は、アメリカに騙されたということで、最近また強硬な態度をとってきています。ヒラリーは、イスラエル擁護派で、イラン攻撃厭わずと宣言していますから、彼女が大統領になったら、核合意をひっくり返すかもしれません。
イランは対抗策として、トルコアゼルバイジャンなど周辺国だけでなく、ロシア中国インドなど近隣国とも友好関係を強めていますね。来年あたり、上海協力機構の正式メンバーにもなるのではないでしょうか。トルコもいずれそうなると思います。これらの国々は、対イスラム過激派で、結束せざるを得なくなるでしょう。
イランの老朽化したインフラへの投資はロシア中国インド韓国などが積極的ですね。韓国も経済低迷していますから、アメリカのやめとけの脅しが効かないのね
> これらの一連の動きは、クルドを排除したいトルコとアサド政権を守りたいロシアが、お互いに妥協して、クルドの抑制とアサドの容認をそれぞれ認めるという取引を行ったことを推測させます
ロシアはアサド政権に対する配慮以外にも、同じくクルドを抱えているイラクやイランの思惑も考慮したのではないでしょうか。クルドの動きによっては、中東全体が更に混乱する恐れがあります。シリアのクルド人にしても、全員が独立を望んでいるわけでもないし、イスラム国を撃退するのが彼らの本来の目的でもあります。 ロシアは、これら4か国ともクルドとも良好な関係を保ちながら、中東でのプレゼンスを高めようと図っているように見えます。
アメリカはクルドとその他の勢力を使って、イスラム国の本部のラッカを攻めようとしていますが、クルド人のいない町のために、クルドが彼らの命を懸けることをするだろうか疑問です。アメリカにしても、ロシアにしても、クルドの人たちへの同情があるでしょうが、それぞれの国益の方が優先されるのでしょう。