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2015/10/13 00:00  | 中東 |  コメント(2)

ロシアとイランの連携


イラク、対ISISでロシアやシリアと情報共有(9月28日付CNN記事)

シリア問題への対応の連携のため、イラクがバグダッドにロシアとイランと情報を共有するためのセンターを設置したとのこと。

イラン部隊、地上戦に向けシリア入り アサド政権支援=関係筋(10月2日付ロイター記事)

かねてよりアサド政権に資金面・軍事面で援助してきたイランが本格的に地上軍投入を開始するとの報道。

How Iranian general plotted out Syrian assault in Moscow(10月6日付Reuters記事)

また、イラン革命防衛隊のコッズ・フォース(国外での活動を担当する特殊部隊)の司令官カセム・ソレイマニ(イラン国内で絶大なカリスマを誇る伝説的な軍人)がモスクワを訪問してシリア領内での攻撃について協議したとのこと。

ロシアによるシリア領内の反政府勢力への空爆から、ロシアとイランの情報共有強化、イランによるシリアへの派兵、そしてロシアとイランの軍事交流強化と、アサド政権支援とロシアとイランの連携が急速に進展している状況が明らかになっています。

最近シリア国内ではこんなポスターも貼られているようです。

左からナスラッラー(ヒズボラ指導者)、ロウハニ(イラン大統領)、バシャール・アサドプーチン

アサド政権は、2011年の内戦開始以来、「イスラム国」や他の反政府勢力に国土の大半を奪われ、末期的な状況にあると言われながら持ちこたえてきました。米国は、従来より、アサド政権を除外することを前提とする和平プロセスを構想してきましたが、ここにきてアサド政権はイランとロシアの強力なバックアップを受け、さらにしぶとく強固な体制を維持することが予想されます。

そうなると、米国としても、アサド政権を取り込んでシリアを安定させるというプランを考えざるを得なくなるのかもしれません。そもそもバシャール・アサドは、もともと兄が事故で死亡しなければ権力の座につくことはなかった人物であり、父のハーフィズ・アサドのような強権的な手法一辺倒ではなく、市民の支持も(積極的とまではいえないまでも)一定程度得ていました。

前回の記事で述べた文献は、バシャール・アサドの体制はアラウィー派(ハーフィズ・アサド政権以来の支配層でシリア国内では少数派の宗派)の権力独占のカラーは弱く、分権的な構造である点を指摘しています。

現在の厳しい状況でもちこたえているのも、イランとロシアの支援によるところは大きいのでしょうが、政権自体の統治力の高さも一つの要因と考えられます。「悪の枢軸」発言に象徴されるブッシュ政権のアサド敵視政策は妥協を許さないものでしたが、オバマ政権になってからは、他の中東の権威主義体制と比べて交渉不可能の政権とは考えられていませんでした。

そのアサド政権を容認しがたい存在に変えてしまったのは、11年のアラブの春から始まる民衆蜂起です。しかし、これについては、反シリアの欧米・中東メディアの偏向した報道のためにアサド体制の非道と反体制派の大義が不当に強調された面があります(実際には、反体制派は現在の「イスラム国」やアルカイダまがいの残虐行為を行っており、どこまで市民の支持を得ているのか不明でした)。

そんなわけで、エジプトと同様、シリアも、従来からの権威主義体制を温存し、徐々に分権的・多元的な構造(市民社会の発展)を実現させていく方が最初から現実的だったのかもしれません。もっとも、それはロシアとイランの勢力拡大を意味し、米国はもとよりサウジアラビアなどGCCにとっても容認しがたい事態ですから、現時点では実現困難なシナリオではあります。

ただ、今回のシリア問題をめぐる対応を含め、ロシアとイランの接近には注目すべきものがあります。もともとロシアはイラン核問題ではイランに融和的、シリアではかねてよりアサド寄りとイランと同じ方向を向く場面が多く存在しました。ただ、伝統的に両国の関係は、経済的には強いつながりがある一方、政治面での協力はほとんど進展していませんでした。

この関係が変わりつつあるとすれば、そのきっかけはイラン核合意かもしれません。核合意がロシアに与える影響については、「米国・ロシアとイラン・ウクライナ」で少し述べましたが、ロシアはイランが国際社会に復帰すれば原油供給の面で不利な立場に置かれるにもかかわらず、非常に建設的な役割を発揮して米国とイランに恩を売りました。

合意成立後はビジネスの発展が予想されていましたが、交渉過程からの信頼関係構築を経て、ロシアとイランは政治的・軍事的にも協力を深める(そして米国に対抗する)方針を固めたのかもしれません。そうであれば、ここでもイラン核合意は一種のゲーム・チェンジャーになったことになります。

最後に、イランとシリアの関係について。両国の協力はシーア派同士の連携に由来するものととらえられることが多いようですが、アサド家らシリアの支配層が所属するアラウィー派は、もともとはシーア派とも認められなかった異端の宗派でした。シーア派の権威から一応シーア派と認められるようになったのは73年のことです。

また、アサド政権はバース党という世俗組織を権力基盤としており、基本的には世俗的な政権です(アラウィー派による支配は宗派的というよりは一族支配の性格)。両国の連携は、宗派的というよりはむしろ戦略的なものであり、イラクのフセイン政権への対抗、サウジらGCCへの対抗、ヒズボラへの支援といった局面で共通の利害関係を有していたことに由来します。ここはなかなか分かりにくいところなので一応言及しておきました。

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2 comments on “ロシアとイランの連携
  1. ペルドン より
    プーチンの狙い・・

    戦略は・・何処にあるのでしょうねぇ・・
    オバマより・・深く読んで・・駒を動かしているようですが・・
    サウジ国防相とプーチンの会談・・
    オバマの読み・・浅い感が・・どうしても・・浮かんでくるのですが・・・(笑

  2. JD より
    プーチン・プー

    プーチンの狙いは、米国への戦略的対抗、欧米への分断という対外的な面と、自国内のイスラム過激主義対策という対内的な面の両方があるとみられます。シリアをイランとともに牛耳りつつあり、かなりクレバーに物事を運んでいると評価できます。経済的には苦しい状況ですが、欧州側も制裁にはかなり嫌気がさしています。オバマは、シリアに関しては、多くの人が失敗したとみています。

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