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2015/08/21 00:00  | 中東 |  コメント(5)

アフマディネジャド元大統領の復活(核合意と米国・イランの内政)


Iran’s Ahmadinejad seeks political comeback(8月3日付AP記事)

アフマディネジャド元大統領が政治活動を開始したとのこと。アフマディネジャドは、13年に大統領を退任した後、大学教授をしていたのですが、上記記事によれば、政治集会を開いており、地方で支持を集めているとのことです。

ちなみに、アフマディネジャドは、その保守強硬派・ポピュリストのイメージからすると意外かもしれませんが、工学博士の学位をもっています。現在のイラン政権も、ロウハニ大統領、ザリーフ外相、サレヒ原子力長官はじめ、欧米でPh. D.を取得している閣僚が何人もおり、実は世界的に見てもトップレベルの高学歴内閣です。なお、サレヒ原子力長官はMITでPh. D.を取得しており、核交渉の相手方だった米国のアーネスト・モニツエネルギー省長官(MIT教授)とは同窓生の仲です。

イランでは、16年2月に国会議員選挙が予定されています。イラン核合意の履行プロセスについては、以下のタイムラインが想定されていますが、国会議員選挙はこの後に続いて行われることになります。

①8月15日にイランがIAEAに報告書を提出
②9月上旬に米議会が核合意のレビューを終了
③10月15日にIAEAが報告書の精査を完了
④12月15日にIAEA理事会に報告書を提出
⑤16年1月頃から制裁解除

イランの国会は、最高指導者のハメネイ支持派が現在7割を占めており、保守派が主導している状態です。改革派としては、核合意によりもたらされるメリットを強調して票を伸ばしたいところですが、上記のタイムラインのとおり、制裁解除が開始されるのは早くとも16年1月ですから、どこまでアピールできるか難しいところです。

そんな中で、上記のとおり、アフマディネジャドが復活するかもしれないとのニュースです。政界復帰が実現し、強硬な保守派勢力が勢いを増せば、核合意の履行に支障が生じかねません。

さらに、イランでは、17年に大統領選挙が予定されています。まだだいぶ先のことなので、現時点では何とも言えませんが、当然のことながら、核合意の履行、さらに米イラン関係の将来にとっては決定的に重要なイベントです。

ここで注目したいのは、米大統領選とイラン大統領選が毎回1年違いのタイミングで実施される点です。振り返ると、97年にイラン大統領に就任した改革派のハタミは、穏健な「微笑外交」を展開し、当時のクリントン政権もこれに応えたことで、両国の関係は一時的に改善しました。

しかし、01年に米大統領に就任したブッシュは、就任当初こそ9・11テロとその後のアフガン戦争においてイランと協力したものの、02年に突然に「悪の枢軸」演説を行い、ハタミを凍りつかせます。これを契機に、両国の関係は決定的に悪化します。

そして、05年にイラン大統領に保守強硬派のアフマディネジャドが就任し、イランは核開発の道を突っ走ることになります。核協議の再開は、13年のロウハニの大統領就任まで待たなければなりませんでした

こうして振り返ると、米・イラン関係は、実は一貫して対立してきたわけではなく、お互いに歩み寄ったポイントがいくつも存在したことが分かります。それがことごとく崩れたのは、一つには、お互いの大統領選がタイミング悪く政策変更を招き、すれ違いを生じさせたためです。

そういうわけで、今回も、まずは16年の米大統領選が注目されます。ここで気になるのは、共和党候補者がいずれも核合意を批判していることです。

上記タイムラインのとおり、9月上旬に議会レビューが予定されていますが、おそらく議会は合意の内容に反対の決定を下し、それに対して大統領が拒否権を行使する展開になるでしょう。

そうすると、共和党としては、合意に反対した、という結果が残ることになります。とすれば、次期大統領が共和党候補者であった場合、核合意がひっくり返されるリスクがないとは言えません。たとえばスコット・ウォーカーは、次期大統領は就任初日にイランを攻撃する必要があるかもしれないと発言しています。

そして、17年のイラン大統領選です。現在のところ、ロウハニ大統領はハメネイ師とラフサンジャニ体制利益判別評議会議長という2人の権力者と良好な関係を保っており、有力な対抗馬がいない状況ですが、ここにきて、今回のアフマディネジャドが復活するかもしれないとの報道です。こちらもどうなるのか予断を許しません。

核合意、さらに米・イラン関係の行方は、イラン・米国の内政状況、特に選挙に大きく左右されるということです。今後の選挙の見通しに要注目です。

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5 comments on “アフマディネジャド元大統領の復活(核合意と米国・イランの内政)
  1. ペルドン より
    二つの大統領選

    トランプ・・
    言明・・
    最初に四人の米国人人質を開放させる・・

    強硬派が出てくれば・・
    イランも・・出てくる可能性がある・・
    行くつく処に・・
    可能性ある・・
    米国・イラン戦争でしようか・・JD先生・・・(笑

  2. JD より
    米・イラン戦争

    スコット・ウォーカーが大統領になったらヤバいかもしれませんね。笑

    実際のところ、大統領が決まる頃には、相当の数の企業がイランに入っていて、ビジネス界の意向を無視できなくなる、という展開があり得る気がしますね。

  3. ペルドン より
    ???

    観光が・・
    まず・・来る・・
    ビジネスも・・憑いてくる・・
    にしても・・
    人質事件・・無視出来得ない・・
    双方・・
    二枚舌・・常用者・・・(笑

    また・・バテ気味・・
    目も体も覚める・・のがクラブに来ないのかなぁ・・・(笑

  4. light より
    う~ん

    民主党、共和党と政策が違うのはわかるのですが、
    前大統領の時に核合意したのに、共和党に大統領が変わっただけで、今までの
    政策をひっくり返し、再び対立するなんてことがあるのでしょうか?
    大統領が変わったとたん、戦争になるなんて経済的な面からみても合理性が
    あるとは思えません。

  5. JD より
    lightさん

    さすがに、私も戦争はないと思います(スコット・ウォーカーの発言も、よく読むと「自分が大統領になったら攻撃する」とは言ってません)。コメント欄で書いたのは冗談です。すみません・・

    次期大統領が合意をひっくり返す可能性は、私自身は(希望的観測も込めて)低いと思っていますが、ないとは言い切れません。そのぐらい共和党のイラン合意に対する非難は強烈です(中間合意が成立する前、共和党議員47人が、合意が成立しても次期大統領は合意を破棄するかもしれないよ、としてハメネイ宛にイランを脅す書簡を送りつけています)。

    ビジネス界はこのリスクを非常に懸念しています。とはいえ、欧州企業のイラン詣ではすさまじいものがあり、日本企業も先を越されてはまずいと焦っている状況です。

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