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2015/08/19 00:00  | 東南アジア |  コメント(1)

タイの爆弾テロ事件


バンコク中心部で爆発、外国人含む死傷者多数(8月18日付ウォールストリートジャーナル記事)

タイの治安は、昨年5月のクーデターにより発足した現暫定政権下において、小規模なテロ事件(本年2月のサイアム・パラゴンでの小型爆弾の爆発と3月の刑事裁判所の前での手榴弾の爆発)と従来から頻発している深南部でのイスラム系独立主義過激派によるテロはありましたが、一部の南部地域を除けば、バンコク含め、比較的安定していました。

そんな状況の中で発生した今回の事件は、バンコク中心部(観光、商業、行政すべてが密集している地域で、2006年のデモ(タクシン派)と2014年のデモ(反タクシン派)で封鎖された地域でもある)で起こり、これまで例がなかった規模(爆弾の破壊力、死傷者数)であったことから、衝撃を与えています。

タイの経済は、暫定政権下で停滞を続けており、特に今年は20年ぶりの干ばつにも見舞われ、ちょうど事件のあった17日、タイ政府が本年の成長見通しを3.0~4.0%から2.7~3.2%に引き下げたところです。唯一、観光業の復調が頼みの綱でしたが、今回の事件はまさにその観光業に直接打撃を与えるものですから、より厳しい状況になりそうです。

暫定政権の経済政策は評判が悪く、近く内閣改造も行われると言われていますが、治安を安定させた点だけは高く評価されてきました。それも、今回の事件で評価を下げることになりそうです。

さて、気になるのは犯人ですが、以下の可能性が指摘されており、様々な憶測があるものの、現時点ではよく分かりません。

①深南部のイスラム系独立主義過激派
②外国人テログループ
③タクシン派
④保守派の内部対立

①については、たしかに過激派は今でも活発に動いていますが、この勢力の活動は地域に限られており、バンコクでテロを行った例はありません。タイ政府も、爆弾の種類が違うとして、この勢力による犯行を否定する見解を示しました。②については、インドネシアやマレーシアとは異なり、タイで「イスラム国」などの過激勢力とのつながりが問題になったことはありません。③については、テロの一報を聞いたとき、最初に頭に浮かんだ可能性です。

というのも、最近、タイでは憲法起草委員会(CDC)がドラフトした新憲法の草案が公表されており、8月26日までに最終案が国家改革評議会(NRC)に提出され、9月6日までにNRCが採択する(予定どおり進めば、来年1月に国民投票が行われ、9月頃に総選挙が行われる)ことになっていますが、この草案は、政党勢力の力を著しく低下させる(保守派の権力維持を可能にする)仕掛けが施された内容になっているため、タクシン派や政党勢力から強い批判が寄せられていました。

つい数日前には、タクシン元首相自身がyoutubeでこれを激しく批判し、さらにタイ貢献党(タクシン派の政党)、インラック前首相も批判を述べたところです。さらに、12日には、タクシンの警察階級をはく奪するとの発表がありました。

上記の経緯から、特にこの数日間、何となくバンコクには不穏な空気が高まっていました。しかし、そうは言っても、いきなりこんなテロを起こすものなのか、疑問を感じずにはおれません。今までのパターンに照らせば、まずデモを行ってその主張を明らかにするのが自然でしょう。実際、この見解を唱える人はあまり多く見かけていません。

④については、一部の識者の間では有力な見解とされています。保守派の中で派閥争いがあることは、(かなり細かい話になり、インサイダー情報にも及ぶので)ここでは詳しく書きませんが、従来から認識されていました。

ただ、テロを起こして何を得るのかといえば、①治安の悪化を理由に軍政を長期化させる、②現政権の評判を落とす、といったことが考えられるものの、迂遠というか、やや陰謀論めいている印象は否めません。

そんなわけで、色々な情報は錯綜していますが、今一つ合理的な説明がつく見解が見当たらないのが現状です。もう少し様子を見たいと思います。それにしても、この一ヶ月間、東南アジアでは色々な出来事が目白押しです。

マレーシアの内閣改造(7月28日)
●インドネシアの内閣改造(8月12日)
ミャンマーのUSDP党首解任と内閣改造(8月12日)

これに続いてタイでは今回の事件(8月17日)。さらに、9月12日にはおそらくシンガポールで総選挙が行われる見通しです。

「東南アジアの不安定化」で指摘したリスクが様々な形で顕在化している状態です。色々と目が離せません。。

ちなみに、私は9月初めにタイに行く予定です。バンコクではなく南の島なので、影響はないと思いますが、昔、エジプトのシャルム・エル・シェイクに行こうとしたとき、クーデターが起きて断念したことを思い出しましたね・・・(苦笑)。まあせっかくの機会なので、できる範囲で情報収集もしてみたいと思います。

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One comment on “タイの爆弾テロ事件
  1. ペルドン より
    南の島・・

    やはり・・
    食べに行くのか・・
    ハーレムか・・

    バンコック事件・・
    街頭カメラで犯人らしい人物・・捕えられているので・・案外早い・・解決かもしれない・・

    初物・・あまり・・
    食べ過ぎないように・・・(笑

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