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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2015/05/12 00:00  | 東南アジア |  コメント(1)

東南アジアの不安定化②


「東南アジアの不安定化①」の続きです。

ASEAN原加盟国であるインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ(ASEAN5)は、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム(CLMV)の4か国と比べると経済発展のレベルが高く、「ASEANの先発国」として評価されています。

インドネシアの新政権

インドネシアでは、昨年10月に初めての「庶民派」大統領ジョコ・ウィドドの政権が成立しましたが、その支持率が1月時点で42%まで低下しています(コンパス紙の4月の世論調査では81%から61%に低下)。

ジョコ政権は、成立して最初の3ヶ月の間に、経済改革では一定の成果を挙げ、社会保障、外交においても実績を残しました。しかし、汚職の撲滅については、次期警察長官に指名した人物に汚職疑惑が指摘され、指名が撤回されるという事態が生じました。

この背景には、ジョコ大統領が所属する闘争民主党の党首メガワティへの配慮があると言われており(警察長官に指名された人物がメガワティと近い関係にあったため)、ジョコ大統領の党内における政治基盤の弱さを露呈させました。この混乱は、ジョコ大統領の汚職の撲滅に対するコミットメントに不安を抱かせ、支持率を低下させる大きな要因になりました。

与党は国会において劣勢であり(44%)、国会運営も困難な状況です。もっとも、与野党の対立については、最大野党のゴルカルの内紛(アブリザル・バクリアグン・ラクソノの2人の党首が選出されており、それぞれが自らを正当と主張している)、大統領選で敗れたプラボウォの政権への接近、その他有力野党の取込みなどもあり、協力体制が整う兆しがあります(ただし妥協的な政治に陥るリスクも指摘されています)。

やはり大統領にとって最大の懸案事項はメガワティとの関係です。これについては、党幹部が、大統領の側近3人(ルフット・パンジャイタン大統領首席補佐官、アンディ・ウィジャント内閣官房長官、リニ・スマルノ国営企業大臣)を名指しで批判し、最近では、党大会において、閣僚を交代すべきとの意見も出され、物議を醸しています。近く実施されると噂される内閣改造がどのようなものになるかが注目されています。

インドネシアは、1998年のスハルト退陣から、混乱を経験しつつ、10年にわたるユドヨノ政権の統治を経て、安定した民主主義が実現しました。これはこれで評価すべきことですが、一方で、あまりにも利権政治家の力が強くなりすぎて、既得権を克服する改革が困難になっています。

特に、インドネシアが最も必要とするインフラ開発に対する大きな障害になっています。民主化を実現した国が直面する課題に苦しんでいる状態といえます。

マレーシアの強権

マレーシアは、2009年に成立したナジブ政権の支持率が1月時点で44%まで低下しています。もともとナジブ政権は、2008年の選挙で与党UMNOが独立以来最低のレベルに議席保有率を低下させるという「敗北」により退任に追い込まれたアブドラ・バダウィ首相の政権を受け継ぐかたちで成立しました。

ナジブ首相は、従来のUMNOのマレー人優遇政策に替えて、「ワン・マレーシア」という人種宥和政策を掲げましたが、これはマハティール元首相をはじめとする党内保守派に批判されました。先月には、マハティールが公然とナジブ首相の退任を求めました。

また、自身がアドバイザリー・ボードの議長を務める政府の投資会社1MDBの巨額の負債も批判の対象となっています。さらに2月には、かつてマハティールの後継者と目されながら、アジア通貨危機をめぐる対応によりマハティールと対立し、失脚したアンワル・イブラヒム元副首相の有罪判決(同性愛罪)が確定しました。

野党連合を率いるカリスマだったアンワルの退場は、野党連合にとって大きな打撃ですが、その政治的思惑が透けて見える判決の確定については、UMNOそして政権に対する国際社会(特に米国)から強い批判が寄せられています。次の総選挙は2017年であり、政権は当面安泰と見られますが、政権への支持は、党の内外、国民いずれにおいても揺らいでいます。

フィリピンの武力衝突事件

フィリピンでは、これまで絶大な支持を誇ったベニグノ・アキノ大統領への支持率が3月時点で42%まで低下しています。これは、1月に起こったミンダナオ島ママサパノでの警察特殊部隊44人がイスラム系武装組織との衝突で死亡するという事件が大きく影響しています。

この事件は、①ミンダナオ島のイスラム武装組織との和平プロセスを危機に追いやり、②アキノ政権の支持をゆるがせ、③来年予定される大統領選の候補者の支持率にも影響を与えています。

①については、政府とMILF(モロ・イスラム解放戦線)という自治を主張するイスラム武装組織との間で昨年成立した包括合意に沿って、来年の大統領選と同時期に総選挙を行うことができるかが注目されます。総選挙が大統領選より後に行われると、アキノ大統領の後任の大統領がミンダナオ島のイスラム住民の自治をどこまで認めるのか疑わしくなるからです。現在国会で審議されているバンサモロ和平法案の成立時期がその鍵を握ります。

②については、アキノ政権は政権最大の危機といわれるほどの批判にさらされました(弾劾は回避されました)。

③については、アキノ大統領の後任と目されるロハス内務自治大臣が支持率を大きく下げ、また、今回のミンダナオ島での事件の調査を主導したグレース・ポー上院議員の支持率が向上しています。現在の支持率1位はビナイ副大統領ですが、30%台と極めて低く、決定的ではありません。

ベトナム、カンボジア、ラオス、ブルネイでは、上記の国々と比べると、目立って大きな問題は発生していません。しかし、言論の自由化などに伴い、長く統治を続ける権威主義体制に対する不満は高まっています。

また、ベトナムについては、米国との国交正常化20周年を迎えており、TPP交渉(東南アジアではベトナム、マレーシア、シンガポールのみ交渉に参加)、武器禁輸解除などをめぐり、米国との関係の強化が注目されます。

東チモールは、2002年にインドネシアから独立した国家ですが、2月、独立以来大統領・首相を務めてきたカリスマ的指導者であるシャナナ・グスマンが引退し、野党党首であったアラウジョが首相に就任しました。

小さな独立国家であり、ASEANにも加盟していないことから、忘れがちですが、石油資源とインドネシア政治との絡みもあり、最近の原油安から経済の不安定も予想され、情勢が急変する可能性も否定できません。

なお、東チモールはスハルト政権の崩壊を契機に、ある意味タイミングよく独立を果たしましたが、インドネシアには同様にアチェ、パプアにおいて同様の自治独立問題が存在しており、その不安定化のリスクには注意が必要です。

以上のとおり、今回は、東南アジア全体の状況について簡単に概観しました。駆け足だったので、分かりにくいところも多かったかと思いますが、これから、各国の状況について、歴史もふまえながら、一つ一つ詳しく説明していきたいと思います。

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One comment on “東南アジアの不安定化②
  1. ぺルドン より
    不安定化②

    各国に触手を伸ばしている中国の実態も・・と余計な事を・・・(笑

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