2015/08/18 00:00 | 東南アジア | コメント(1)
ミャンマー・シュエマンUSDP党首の解任
■ ミャンマー与党のシュエ・マン党首を解任(8月13日付CNN記事)
先週木曜、治安部隊が出動し、与党USDP党首であるシュエ・マンが拘束されたとの一報。また国軍の強権発動かと衝撃が走りました。
その後、シュエ・マンの拘束はUSDPの会議に参加させないための一時的なものであり、国軍の大規模な出動もなかったらしいとのこと。とりあえず安心しました。
シュエ・マンは、2011年の民政移管の前の軍事政権では国軍序列ナンバー3の地位にあり、当時国家元首だったタン・シュエの後継者と目されていた人物。ところが民政移管を前にしてタン・シュエが大統領に指名したのはシュエ・マンより下位のナンバー4だったテイン・セインでした。
タン・シュエの軍事トップとしての権限は国軍最高司令官となったミン・アウン・フラインに譲られました。前体制でテイン・セインより格上だったシュエ・マンは、名目上USDPの党首となり、下院議長におさまります。
テイン・セインは、ミン・アウン・フライン(国軍)と協力し、安定した統治体制を維持して、民主化と経済自由化を積極的に推進します。これに対し、シュエ・マンは、テイン・セインが任期を終えた後に大統領を目指すことを公言します。
そんな両者の間に不協和音があることは長らく指摘されてきました。本年11月8日に予定される国会議員の総選挙が近づくにつれ、両者の権力闘争が激化している様子は外部から見ても明らかでした。
シュエ・マンが大統領への意欲を示す一方、テイン・セインは出馬の意思を明らかにしない状態が続きますが、これはおそらくUSDP内で上位にあるシュエ・マンとの関係を配慮したためだったのでしょう。最近には、テイン・セイン引退説が流れ、それを大統領府が否定するという一幕もありましたが、これはシュエ・マン側の揺さぶりだったのではないかと考えられます。
また、シュエ・マンは、国軍の政治的役割を低下させる憲法改正を実現させ、さらに、大統領を含む閣僚の選挙活動を制限する法案を提出するなど、明らかにテイン・セインを狙い撃ちにするような手段をとってきました。その上、アウンサン・スーチー率いる野党NLDに接近することも模索していました。
そして、8月12日、シュエ・マンは、総選挙のために提出するUSDPの候補者リストからテイン・セインを外し、しかも、退役軍人の立候補者159人のうちわずか59人しか認めないという挙に出ます。候補者リストの提出期限は14日なので、これを止めるタイミングは13日しかありません。そこでテイン・セイン派は今回の解任に踏み切ったとみられます。
大統領は国会議員でなくとも就任資格があるので、テイン・セインは必ずしも総選挙に出馬する必要はありません。大統領候補者は、上院・下院・軍人出身議員それぞれからの推薦者3人となるので、国軍と一体的な関係にあるテイン・セインが軍人出身議員から推薦される可能性は十分にありました。また、国会議員になりたいのであれば、無所属で出るという手もあります。
したがって、USDPのリストから外されても大統領を目指すことは可能です。このため、12日の時点でこのような事態に至るとは考えられていませんでした。とはいえ、いかにテイン・セインの権力基盤が強力であっても、シュエ・マンがUSDPを代表することになればUSDPの票は割れることになりますから、野党NLDに遅れをとる可能性が高まります。
また、テイン・セインのみならず、国軍出身議員を軽視するシュエマンの振る舞いが国軍の反感を買ったことは明らかです。そんなわけで、今回の突然の事態に至ったのでしょう。
もっとも、シュエ・マンは引き続きUSDPに所属し、下院議長も続けるようです。シュエ・マンは自身のFBで、執務を続けている写真を掲載し、政治活動を続ける旨表明しています。
今回の事件が与える影響ですが、まず国際社会の評価が気になります。軍が背後にいて強権を発動したと見られれば、米国の制裁解除に影響しますし、政情不安と見られれば、外資の進出にも影響します。
この点については、シュエ・マンがどのような状態に置かれているのかが重要です。軟禁されて政治活動が制限されるようなことになれば、かつてのアウンサン・スーチーと同様、政権が民主化を阻止するものと見られ、米国の態度は硬化するでしょう(もちろん、野党指導者のアウンサン・スーチーと体制の中核にいたシュエ・マンを同一視することはできませんが)。
シュエ・マンは拘束された状態にはなく、政治活動も制限されないようです。そうであれば、単なる政党内の意思決定の一つに過ぎませんから、国際社会から批判されるいわれはありません。現在のところ、米国は、在ミャンマー大使館が治安部隊の出動に対して懸念を表明し、説明を求めるとしていますが、それ以上にステートメントを出すことはしていません。現状が続くようなら、米国の政策に影響が及ぶことはないでしょう。
また、テイン・セインは、汚職疑惑の多いミャンマーの政治家の中で、清廉潔白な指導者と言われており、その政権は、民主化、経済自由化、内戦対策等において成果を挙げ、国内外で高く評価されています。最近も、洪水被害への対策が、2008年のサイクロン・ナルギスへの対応と比べると格段に優れており、さすがと言われていたところです。
これに対して、シュエ・マンやその取り巻きには評判の悪い人たちが多かったので、テイン・セインの権力基盤が強化されるとすれば、政情はむしろ安定化すると見ることができます。おそらく外資の進出にマイナスの影響を与えることはないでしょう。
次に11月の選挙の見通しですが、USDP内のドタバタが国民に対してネガティブな印象を与える可能性はあります(候補者リストを14日一日でちゃんと作成できたのかも気になるところです)。
もっとも、上記のとおり、評判の悪かった幹部が追放され、信頼を得ていたテインセインの求心力が高まるとすれば、プラスに働く可能性も十分にあります。シュエ・マンが独自の選挙戦を展開すれば、USDPの票が割れることも予想されますが、もしシュエ・マンがNLDと連携することになれば、NLDの評判が悪くなる可能性もあります。
結論としては、今の時点ではいずれの方向に働くことも考えられますが、個人的には、何となくUSDPに有利に働く可能性の方が高いような感じがしています。
最後に、雑談的な話をすると、ミャンマーの人名には姓と名の区別がありません。「アウンサンスーチー」が一つの名前であり、中点をつけて区切るのは、日本国内での便宜のための表記に過ぎません。
似たようなことはインドネシアにもあてはまります。インドネシア人も、基本的には、姓と名の区別がありません。「ジョコ・ウィドド」のように名前の区切りはつけますが、いずれも本人固有の名前(いわばファーストネーム)であり、どちらの名前で呼びかけても違いはありません。なお、フォーマルな状況で礼儀正しく呼ぶ場合には、全部の名前を読み上げることになります。
もっとも、これは国民の過半数を占めるジャワ人、スンダ人の慣習で、スラウェシ島などには姓のある民族もいるそうです。また、最近は欧米の慣習にならって自分で一部の名前を姓としている人もいます。
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One comment on “ミャンマー・シュエマンUSDP党首の解任”
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日本の影響力・・
どの程度か・・
教えて下さい・・
全く・・ありませんか・・
70キロ程度なら・・行けるのでは・・・(笑