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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2015/05/11 00:00  | 東南アジア |  コメント(1)

東南アジアの不安定化①


前回の記事でご紹介したとおり、リー・クアンユーの死去は東南アジアの一つの時代の終わりを感じさせるものでした。東南アジアでは、これに限らず、本年に入って様々なイベントが発生しています。

これらをもってリスクが顕在化している状況にあると評価して、東南アジアが不安定化していると指摘する報道や識者の意見を見受けるようになりました。たとえば、以下の記事が挙げられます。

Trouble at home – Political instability returns to South-East Asia(3月14日付The Economist)
Mekong authoritarianism a growing test for Western partners(3月25日付The Financial Times)

前者のThe Economistの記事は、1997年のアジア経済危機後、大きな問題を経験しなかった東南アジア各国がそれぞれの国内事情により不安定化し、このためASEAN統合が停滞している、と述べています。タイ、ミャンマーが抱える民主化の問題とインドネシア、マレーシア、シンガポールの政権が不安定化している状況を手際よくまとめています。

後者のFTの記事は、メコン地域の各国が非民主的体制であることに由来する限界に直面している、と指摘します。The Economistの記事ではカバーされなかったベトナム、カンボジアを取り上げ、権威主義体制にある国々の課題とは何か、という切り口で問題を整理しています。

現在、東南アジア各国が様々な問題を抱えており、本年に入ってそのリスクが顕在化していることは、私もかねてから感じていたことでした。しかし、欧州や中東で起こっている派手な事象と比べると、東南アジアで発生している事象は、一つ一つは小粒というか、地味であり、日本のメディアはなかなか取り上げません。

欧米の報道も、日本よりはだいぶましですが、それでも物足りないものがあります。このため、現地メディアの報道や識者の論稿を丹念に見ていかないと何が起こっているか把握することが難しく、また全体のトレンドや重要なポイントが見えにくくなっています。

そこで、今回は、東南アジア全体の状況を概観すべく、ASEAN主要国の最近の状況を整理することにしました。

まず、タイ、ミャンマー両国は、伝統的に軍が大きな力をもっています。タイでは、クーデターのたびに(1932年の立憲革命以来13回のクーデターが発生)、軍が暫定政権をつくり、民政復帰を繰り返すというプロセスをたどっています。ミャンマーでは1962年のクーデター以来、軍事政権による統治が続いてきました。

タイの総選挙

タイでは、昨年5月のクーデター以来、軍の主導により成立した暫定政権による統治が継続しています。現在焦点になっているのは、民政復帰がいつ、どのように実現するかです。

民政復帰は、国家平和秩序評議会(NCPO)が策定した「ロードマップ」に従い、新憲法が採択され、総選挙を行うことで実現しますが、時期については、当初は本年中と言われていたのが、来年初め、もしくは、新憲法草案の国民投票を行う場合には、来年4月まで延期される見通しとなっています。どのように民政が実現するかについては、先月17日に新憲法草案の内容が明らかになりました。

小選挙区・比例代表併用制(単独過半数政党が出現しにくい選挙制度)、非民選の首相と上院議員を認めるなど、政党勢力(特にクーデターにより軍が倒したタクシン元首相派)の政治力を削ぎ、軍を中心とする保守派が引き続き実権を握ることを容易とする制度が含まれており、国内で大きな反発を呼んでいます。

その中で、1月、(軍の影響下にある)議会や検察庁がインラック元首相(タクシンの妹)を弾劾・起訴したり、反タクシン派であるアピシット元首相の昨年のデモ鎮圧に対する責任を追及する動きが出てきています。また、爆弾テロ事件が2件発生し、暫定政権による強硬な措置とそれに対する反発が目立つようになり、情勢が不穏になっています。

経済も悪化しています。当初、ビジネス界はクーデターをむしろ歓迎する向きもありましたが、暫定政権の経済政策の内容が合理的ではなく、暫定であるがゆえに中長期的なビジョンが期待できないとして、次第に失望が広がっています。また、国王の健康問題も大きなテーマとなっています。

タイは、昔から「半分の民主主義」と言われますが、実際のところ、民主主義が確立しているとは言い難い状況にある国家です。国を動かしているのは官僚であり、エリートと庶民との間の分断は深刻なものがあります。こうした権威主義的体制においては、経済発展に伴い中産階級が実力を高め、民主化の原動力となるのが通常ですが、タイでは中産階級が国民の2割程度に過ぎず、特権階級としてエリートとともに保守派を形成している状態にあります。

この「タイ式民主主義」は、国王による裁定や外国企業をうまく働かせる経済政策もあり、それなりの成功をおさめてきましたが、ここにきて保守派・政党勢力・中産階級との間での利害調整が混乱し、国のビジョンも定かにならず、行き詰まりを感じさせつつあります。

ミャンマーの総選挙

ミャンマーでは、2010年に総選挙が実施された後、2011年に新政府が成立し、軍事政権からの民政移管が実現しました。現在焦点になっているのは、本年後半に予定されている総選挙です。注目されるポイントは以下の3点です。

①連邦団結発展党(USDP)と国民民主連盟 (NLD)のいずれが多数を得るか。現在両勢力は拮抗しているところ、単独過半数を得ることができない場合には少数政党とどのような連立が組まれるか。

アウンサン・スーチーに大統領資格が認められるか。憲法改正が必要だが、その実現可能性は極めて低い。

③少数民族との内戦がどこまで終結できるか。3月、16の主要武装組織との停戦合意草案が調印されたが、全ての武装組織が参加してはおらず、一部の武装組織が交渉から離脱するおそれもあり、また、中国系コーカン族との衝突が懸念されている。

ミャンマーのポテンシャルに対するビジネス界からの期待についてはご存じのとおりです。上記3点のポイント、米国の制裁解除がいまだ不透明な状況にありますが、多少の混乱はあっても、現在の流れが大きく阻害されることはないでしょう。

続きは明日掲載します。

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One comment on “東南アジアの不安定化①
  1. 良い名前が思い浮かばないので、匿名にて より
    記事を楽しみにしています

    JDさんの記事、すごく読みやすくなりました!
    やはり、頭が良い方はスゴイですネ。

    でも、敢えて申し上げますとこの記事でもファイナルコピーとしては難アリなところがあって歯痒い思いをしているのですが、JDさんも人間ですから、面倒になったり他にやることがあったりするでしょうから我慢します。

    *参考になるかどうか分かりませんが、記事を書くときは実際にいる人物を思い浮かべながら書くとよいです。例えば、「仲の良い後輩のために記事を書く」とかです。
    それから、作文をするときは一行目から書く必要はないです。
    結論からでも、サポーティングアイデアからでも、思い浮かんだ部分をサッと書いておいて後で並べ替えたり、加筆修正、不要な文章は削除してしまいます。(パソコンは、これができるから本当に便利です。)

    個人的に、東南アジア情勢、興味深いです。
    先進国以外の地域で、良質な情報を得ることは情報源にコネがない限りは困難だとは思いますが期待しています。

    難しい話題には、ついて行けませんがJDさんの記事を楽しみにしています。

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