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2015/08/12 00:15  | 東南アジア |  コメント(2)

シンガポール建国50年


シンガポールが建国50周年、花火やパレードで盛大に祝う(8月10日付ロイター記事)

8月9日はシンガポールの建国記念日でした。本年は建国50周年を迎え、盛大なイベントが開催されたとのこと。シンガポール人の私の友人も、今年は8月7日(金)から休み10日(月)まで休み、イベントが盛り沢山で楽しいと大はしゃぎでした。

今年はリー・クアンユーの死去という大きな出来事もありました。その影響や1965年の独立以降のシンガポールの歴史については、『リー・クアンユー回顧録』の書評で述べたとおりです。

政治的に注目されるのは、近い将来実施されるであろう総選挙です。The Straits Timesの7月29日付記事によれば、9月12日に選挙(8月26日に解散)と予想されています。今のところこれが最新の情報で、私も現地の色々な人から話を聞いていますが、特に事情の変更がなければ、この日に実施ということでほぼ間違いなさそうです。

建国以来絶対的優位を維持してきた与党PAPですが、前回の2011年の総選挙での得票率は史上最低の60.1%(ただし議席数は87議席中81議席を確保)、12年と13年の補欠選挙では敗北と事実上の3連敗を喫しており、今回の総選挙は正念場となります。

シンガポールの足もとの経済は良くありませんが(第二四半期のGDP成長率はマイナス4.0%)、リー・クアンユーの死去、建国50周年、最近の社会保障政策の強化などPAPへの追い風となる事情は多く、これまでの劣勢を大きく覆す結果になるかもしれません。

ところで、シンガポールは1965年にマレーシアから分離して独立したわけですが、その歴史的経緯や、一党優位の権威主義的民主体制(その一党優位に陰りが見えていること)、民族構成、経済発展について類似点があることから、一緒に取り上げられることも多いです。

そういう観点から最近目を引いたのが以下のFTの記事。

Malaysia can learn from Singapore’s governance(8月9日付The Financial Times記事)

政治体制について、シンガポールも問題はあるけど、マレーシアの危機的状況に比べたら比較にならない、公正なガバナンス(汚職対策)と民族統合の点でマレーシアはシンガポールに学ぶべきだ、という内容です。

たしかに、シンガポールの最大の長所の一つは、汚職がないことです。権威主義体制には開発独裁という点で合理性が認められるにしても、腐敗のリスクは避けられません。しかし、この問題がシンガポールにはまったく存在しない。いかにPAPの支持率が落ちているとしても、PAPの公正さと有能さに対する国民の信頼は絶大です。

その理由は、もちろんシンガポールが徹底的に腐敗を防止する体制をとっていること(公務員の破格の厚遇を含む)、リー・クアンユーをはじめとするリーダーたちの清廉な人柄が大きいわけですが、構造的な視点をいえば、国の規模の小ささ(人口600万人)が効いているのでしょう。

『リー・クアンユー回顧録』の書評でも述べたとおり、シンガポールは一つの大企業であって、コーポレート・ガバナンスのごとき統治が実現しているわけですが、これがマレーシアのように3,000万人の人口を擁する国において実現できるとは思えません。

逆にいえば、巨大な国になるほど、権威主義体制によるガバナンスにはリスクが生じてくるわけです。『巨龍の苦闘』の書評でも述べたとおり、多くの権威主義体制・独裁体制が過去に滅んできたことから、中国共産党もすさまじい危機感をもっているわけですが、いかに数字上の経済発展を実現しようとも、今の政治体制の下でこれだけ巨大な国の社会を安定させられるのかについては、根本的なところで疑問が残ります。

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2 comments on “シンガポール建国50年
  1. 二宮金太郎 より
    政治家の給与

    優秀な人材を確保することに非常に苦労したと書いてありましたね。
    日本も責任ある立場の公務員なり政治家なりにはもっともっと高い報酬を出すべきなのだろうと思います。
    愚かな民意に迎合して、大幅な給与減を公約に掲げるなど言語道断。
    財源は、定数削減で(笑)

    我が市の議員給与は手取り28万とのこと。
    いくら議員年金分が大きいとはいえ、これじゃあね。

  2. JD より
    給与

    シンガポールのような国の場合、企業が高額でCEOを雇うような感覚なんでしょうね。そういう人材のマーケットもありますし。
    日本は、そもそもそういう人材がいないのかもしれませんね。苦笑

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