本日はいよいよミニ・スーパー・チューズデー。フロリダ、イリノイ、ミズーリ、ノースカロライナ、オハイオで予備選、北マリアナ諸島で党員集会が行われます。

●フロリダとオハイオ

何度も書いているとおり、最も注目すべきはフロリダとオハイオです。代議員数はそれぞれ99と66という大票田、そして初めて出現する勝者総取りの州です（サウスカロライナも勝者総取りでしたが、部分的に比例配分制が導入されており、純粋な勝者総取りではありませんでした）。

この二つの州での予備選の結果は今後の選挙戦を大きく左右します。天王山と言っても過言ではありません。トランプが両方の州で勝利すれば彼が最終的に共和党候補として指名される可能性は極めて高くなります。ほぼ確実と言って良いかもしれません。

これに対し、地元候補であるマルコ・ルビオがフロリダ、ジョン・ケーシックがオハイオで勝利すれば、このあとトランプは過半数（1,237）の代議員を獲得するためにはこれ以降の予備選で6割近い代議員を獲得する必要があります。そうなると、トランプが最終的に過半数をとれず、ブローカード・コンベンションに持ち込む可能性が出てきます。

しかし、世論調査をみるとフロリダではトランプがルビオを大きくリードし、オハイオではケーシックが僅差でトランプをおさえています。相変わらずトランプは強いです。

●テレビ討論会（フロリダ）

3月9日に行われた共和党のテレビ討論会は、これまでの中傷合戦からうって変わり、それぞれの候補者が静かに政策を語る場になりました。今までの討論会が『Jersey Shore』（オラオラ系の男女が過激な共同生活を送る様子を放映する人気リアリティ・ショー）のようだったのに対し、今回の討論会はPBS（米国のNHK）あるいは議会の公聴会のようだったと言われます。

トランプは自らの圧倒的優位を固めるべく、これまでの過激な言動を抑え、主流派の支持を狙いにいったのでしょう。機を見てスタイルを柔軟に変える、相変わらず恐るべき政治センスです。

ルビオは自らのジョークがデトロイトでの前代未聞の見苦しい討論会を招いたことを反省し、本来の自分のスタイルに戻りました。サブスタンスを語る場になったのは、本流派のルビオとケーシックにとっては良い機会であり、いずれの候補も良いパフォーマンスを見せたといえますが、現状の流れを変えるまでには至らなかったとみられます。

●トランプ政権

「ミシガン、ミシシッピー、アイダホ、ハワイ」でトランプ政権が発足した場合の外交チームについて書きました。これについて補足すると、最近の注目すべき動きとして、デトロイトでの討論会でトランプ以外の候補者全員がトランプが勝利した場合は彼を支持すると述べたこと、ベン・カーソンがトランプ支持を表明したことがあります。

これは、トランプが勝利した場合、共和党は分裂の危機に瀕する可能性がある一方で、実際には大部分の共和党幹部はトランプ政権に参加すると予想されることを示しています。トランプの政策は内容的には支離滅裂で、実現可能性がないものばかりですが、全体的な特徴としてイデオロギー性がないこと、プロ・ビジネスであることが指摘できます。

政策の具体的な内容を決め、実行に移すのは何と言っても閣僚やその下を支える実務家にかかっていますが、こうした政権を支える人たちは、イデオロギーやグループの相違を超えて、実業界を中心に幅広く柔軟に登用される可能性があります。結果としてバラバラで一体感のないチームになるでしょうが、ある意味で党派を超えて経験豊富なビジネスマンと実務家がそろうオールスターチームのようになるかもしれません。

●ヒラリー・クリントン

「ミシガン、ミシシッピー、アイダホ、ハワイ」でヒラリー・クリントンがバーニー・サンダースにミシガンで敗れたことは番狂わせだったと書きましたが、ここでキーポイントとなった選挙戦の大きなテーマは自由貿易と雇用です。トランプもサンダースも、アウトサイダー候補は、グローバル化、その象徴ともいえる自由貿易協定により米国労働者の雇用が奪われていることを有権者にアピールしています。

ヒラリーをはじめとするエスタブリッシュメントはそうしたグローバル化、自由貿易を進めた輩であり、これに対して反撃する、ということで強い支持を得ており、これがミシガンでのサンダースの勝利につながりました。ヒラリーはサンダースに対抗すべく、これまで曖昧にしていたTPP反対姿勢を明確に打ち出しました。

TPPに対して共和党は当然反対（ルビオは留保）、そして民主党ですら立場が割れている中で、民主党きっての国際派であるヒラリーが明確に反対となれば、TPP批准は本当にあやうくなります。「スーパー・チューズデー（補足）」で書いたとおり、これは日本にとっても看過できない事態です。

おそらく日本にとって最も頼りになる次期大統領候補はヒラリー、次にルビオですが、そのヒラリーがここまで立場をシフトするのは残念なことです（もっとも、これも彼女一流の現実主義であり、実際に大統領に就任すればまた立場を柔軟に変えることを期待したいところですが）。

また、最近のヒラリーの言動で注目されているのは、自分は夫（ビル・クリントン）やオバマ大統領のような「natural politician」ではない、彼らに匹敵するほどの政治的才能はない、と述べたことです。ヒラリーの率直な考え、不器用さをうかがい知ることができる興味深いエピソードです。

選挙戦への影響についていえば、弱音を吐いているともとられかねませんが、こうした率直な真情の吐露は米国人には好意的に受け止められます。特にヒラリーの場合、2004年の予備選で見せた女の涙に類する効果も期待できるかもしれません。

最後に注視すべき点としてメール問題があります。予備選ではヒラリーの民主党候補者指名の獲得が確実になりつつありますが、ヒラリーにとって疑問とも言えるメール問題は未だに広がりを見せています。最悪のシナリオはFBIによる起訴で、これはヒラリー一発退場というリスクをはらんでいます。ここは今色々な動きがみられるところですが、タイミングをみて取り上げたいと思います。