2016/03/04 00:00 | 米国 | コメント(10)
米大統領予備選挙:スーパー・チューズデー(補足)
昨日の「スーパー・チューズデー」の記事の補足です。
●反トランプの一本化
ドナルド・トランプを止めることができない主な要因は、反トランプ陣営が一本化できないことにあると書きました。トランプ以外の候補は、テッド・クルーズが4勝、マルコ・ルビオが1勝。ならば、ルビオが降りて、クルーズに一本化すべきではないかと思われるかもしれません。
しかし、ここで考えないといけないのは、クルーズはトランプよりマシなのか、ということです。「共和党の序盤戦」で、クルーズは「学識と経歴をパワーアップさせたトランプ」であると書きました。保守主義のあらゆる極端な要素を寄せ集め、石油産業とゴールドマン・サックスとの間に太いコネクションをもち、21時間の演説で政府閉鎖に追い込むなど手段を選ばないえげつなさを備えた人物です。
そんなクルーズは、ある意味でトランプ以上に議論を呼ぶ存在です。トランプは曲がりなりにも連邦議会議員や州知事の支持を受けつつありますが、クルーズを支持する議員は一人もいません。
このため、共和党としてはルビオ一本化しか選択肢がありません。しかし、そのルビオが弱すぎる(笑)。そういうわけで、三つ巴の戦いはこのまま続くことになるでしょう。
●共和党全国大会での調停
三つ巴の戦いが続くと、取りざたされるのは党大会でのブローカード・コンベンション(党大会での調停)の可能性です。昨日の記事でも、党大会で予選の結果を無視して適当な人物を候補として決定する、という話を書きましたが、説明を補足すると、これは、いずれの候補も過半数(1,237)の代議員数を獲得できない場合にとり得る措置です。
通常、予備選では、ある候補が優位に立つと、他の候補には強烈に撤退の圧力がかかるので、どんどん脱落していきます。そうすると自然に最後の候補に一本化するので、いずれの候補も過半数を獲得できないという事態にはならず、したがって党大会での調停が問題になることはありません。
党大会での調停が行われたのは、共和党ではトーマス・デューイ(1948年)、民主党ではアドレー・スティーブンソン(1952年)が最後です。ところが、今回の予備選がユニークなのは、トランプ以外の候補に撤退の圧力がかからないことです。
少なくともクルーズとルビオは選挙戦を続けるでしょう。こうなると、トランプが過半数を獲れない可能性が万が一にもあるかもしれません。これがトランプを止める最後の希望ともいえるでしょう。
しかし、仮に党大会に決定が委ねられたとしても、トランプを外すことは至難の業です。なぜなら、昨日の記事で述べたとおり、トランプの勝ちっぷりがあまりに見事だからです。
●大統領本選
マイケル・ブルームバーグの出馬に関連して、近年の米国は保守とリベラルの二極分化が激しく、中道の候補が票をとりにくいという話をしました。かつては、有権者の多数が中道に集まっていたので、予備選では保守とリベラルそれぞれの思想が強い候補が有利である一方、大統領本選になれば、いずれの候補者も中道に寄らざるを得ず、結果としてバランスのとれた候補が勝つという仕組みがありました。
この仕組みが今の米国ではうまく機能しない状況にあります。「Divided States of America」といわれる所以です。といっても、さすがにあまりにも極端に走ると、真ん中にいる有権者を一切獲れないことになるから、これも限度があります。
現在の候補者で最も右に位置するのはテッド・クルーズ。左に位置するのはバーニー・サンダース。両方ともこれ以上ないレベルに極端な位置にいます。こういう候補は本選では勝てません。
ヒラリー・クリントンは、サンダースに対抗する必要もあって、立場を思い切り左に寄せてきました。ここはさすが百戦錬磨、TPP、ウォールストリート規制、最低賃金、いずれにおいても勝つためには手段を選ばず、これまでの自分の立場を柔軟に変えているわけです。予備選での勝利が確実となった今、今度は本選に向けてベストの位置取りを模索するでしょう。
トランプは・・論じるまでもなく、どこの位置なのか分かりません。そしてまんべんなく支持を集めています(苦笑)。こういったいいとこ取りのポピュリストは珍しい例ではありませんが、トランプの場合、ツイッター・ポリティクスと言われるように、天才的な話術を現代のコミュニケーション・ツールに載せて、広く大衆のはけ口をくみ取ったことが成功の要因と思います。これが現代型というか新しい点と言えましょう。
●TPP
TPPの批准が本当にできるのか・・・これは本当にマズい状態です。
「TPPの大筋合意と中国」で述べたとおり、TPPは米国のアジア戦略の要といえる政策です。これによって米国はアジアのマーケットを米国のルールの下におき、ゆくゆくは中国を取り込もうとしているわけです。これが挫折するのは、米国はもちろん、日本、またベトナム、マレーシア、それにTPPに参加する予定の韓国や台湾にとっても大きな痛手です。
TPPの交渉は5年の長きにおよび、私の元同僚や友人も大変な苦労を強いられました。これが挫折すれば、もう一度やり直すというモメンタムは到底起きないでしょうし、少なくとも相当の年月が必要になるでしょう。私もTPPに関する寄稿や講演をたくさんしているので、むなしくなりますね・・笑
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10 comments on “米大統領予備選挙:スーパー・チューズデー(補足)”
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ここは・・
稼ぎ時・・同じ原稿・・使える・・
果報・・寝て待て・・・₍笑
①CNN放映
免責受けたヒラリー秘書・・十人ばかりの係官に囲まれて・・聴取室に・・
異様なのは・・何故・・暗殺を恐れるかのような・・物々しい光景・・
②この時期に・・聴取だけなら・・秘密裏に出来る・・
③CNNで元司法長官と司法の重鎮・・討論・・
只のEメール問題ではなかった。
側近にモグラの存在を示唆。
機密や極秘のマークを外し・・普通のメールで数千通送付。今でも22通は国務省公表を拒否。非常に重要な内容らしい。
立件出来たら・・大変なスパイ事件になる。
④司法省からのヒラリーへの警告とも考えられる。
⑤トランプ・・逮捕されるのに・・ヒラリーは大統領選挙に出るんだ・?何かを掴んでいる雰囲気がある。
JDさん・・どうなるのでしょうねぇ・?
発展次第で・・ヒラリー辞退も起り得る・・自動的に・・サンダース・・・(笑
ぺルドンさん怖いなー。トランプに次いでまた当てるんですか。まともな神託も出してくださいよ(笑)。サンダースVSトランプとなると、ブルームバーグの出番なんですか。JDさんはそれでもブルームバーグは勝てないと仰ってますが、もうこれは緊急事態です。共和党本流もライアンを担ぎ出して、ルビオを副大統領候補にして、間に合わせないとまずいんでは。もう無理ですか。
ヒラリー・・
まだ判りませんよ・・
司法省で秘書出頭の放映後・・ヒラリー所在不明とCNN・・
真面な分析は・・JDさん・・流石です・・・
Eメールは、現状では何とも言えませんが、これまでのポイントはFBIの狙いが側近なのかヒラリー本人なのかでした。さすがにヒラリーまでは無理という判断なら側近に的を絞ったという見方もあります。
サンダースになるのは、民主党にとっても米国にとっても悪夢。それならブルームバーグが出てきます。
私はヒラリー対トランプならブルームバーグは無理と言いましたが、サンダース対トランプの場合も無理とは言ってませんよ。アウトサイダーの激突なら独立候補の勝算は見えてきます。だからブルームバーグはサンダース対トランプなら出馬すると言っている(らしい)のです。ヒラリー対トランプでは勝てるか分からない、だから彼も出馬するかどうか悩んでいるのです。
先程・・
CNN・・元オバマ閣僚・・
Eメール問題・・(サンダースが取り上げない事に)・・そんな簡単な事ではない・・もっと考えるべき由・・発言・・
側近だけなら・・あんな仰々しい警護・・しかも放映させる・・ないのでは・?・
時期が時期だけに・・
待っていた感も・・
百人のFBI捜査官が従事・・結論は出さねばならない・・重大な疑惑を抱えたまま・・
もし・・ヒラリーがこのまま・・大統領になったら・・現場の焦りは大きいでしょう・・
ル・カレ好みかな・・(笑
サンダース・・
あれでも芸達者・・スペシャリストの役者・・
主役になれば・・舞台を・・壊す事はしない・・
ただ・・台本は誰が描くのだろう・・・(笑
ということは、実は神託が出ていてブルームバーグとぺルドンさんが、最悪の組み合わせを想定していたということですね(笑)。しかし誰もがジョークだと思っていた組み合わせでは、独立候補の勝算も心配になってきますね。ぺルドンさんの言うピューリタンはサンダースの方ばかりでなく、トランプの方にもいると思われるので、まさに反知性主義が文字通りにならない事を祈るばかりです。そもそもピューリタンはミードの分類ではどこに属するのか、以前の宗派の記事でもどの位いるのか、そのあたりから彼らの分析をお願いしたいです。
余計な差し出口ですが・・
ブルムバーク出馬・・
既に世論調査が出ている。
サンダース&トランプでも・・勝てないと出ています。
ですから・・愛国心が燃えれば・・勝敗抜きに出る以外・・ブルムバークには残されていない。それに・・世論調査が総てではない。
勝てるかも知れない・・
どれ程の愛国心か・・測れない。
それに・・ブルムバークの政策に・・総ては罹っている・・・(笑
オバマは「どの同盟国が攻撃されても絶対に参戦しない」を公約に当選した人物です。そのオバマより内向きと見られるトランプが、ISISに対して核兵器を使おうと発言したこともあり政策が不明。
しかし、同盟国を見捨てると思われているアメリカに誰がついて来ますかいな。ASEAN諸国にアメリカに従わない国が出始めてる。平和の念仏を唱えてる家に泥棒は侵入する。ここに至ってやっとオバマはアメリカの地位が中国に脅かされているのを知った。
アメリカ大統領は、およそ6つの強力な私的利益集団を代表している。その代表をしないトランプは、これまでで、最善の候補者かも知れない、伝統を破って、国民の利益に役立とうと決めるかもしれない金持ちで試してはどうかと、アメリカ国民は考えてるかもしれない。歯に衣着せぬ発言を有権者が喜ぶことをトランプは学んだが、様々な問題を理解していないと有権者は思ってるかもしれない。
アメリカ支配層が推し進めるグローバリズムと格差社会。格差社会を是認するアメリカに中国共産党は親和的。しかし、
「理解しなければならないことがあります。世界的に、中流階級は弱体化しています。大企業はそれをまだ認めてはいませんが、それは誰にとっても長期的な利益にならないことを認識する必要があるのです。中流階級は市場なのです。そしてもし、中流階級が弱体化し続ければ、究極的に、各企業が、つけを払うことになります。顧客がいなくなるのです。ヘンリー・フォードはかつてこう言いました。“わが社の労働者全員が、フォード自動車を買いにゆくのに十分な賃金を支払いたい。” 」
おかしいものを、おかしいと言うトランプは、好きです。話せば分かるならですが(笑)。