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2016/01/06 00:09  | 中東 |  コメント(2)

サウジアラビアとイランの国交断絶


サウジ、著名シーア派聖職者ら47人を処刑(1月3日付ウォースストリートジャーナル記事)
サウジがイランと断交、死刑執行で緊張高まる(1月4日付同記事)

従軍慰安婦問題の話の続きを書く予定でしたが、中東情勢が激しく動いているので、中断して、急遽取り上げます。中東には大晦日も正月もないから油断できないと書いていましたが、年明け早々に火を吹いてしまいました。正月気分も吹き飛びましたね。

今回の事件を契機に、サウジ対イランの軍事衝突、スンニ派対シーア派の全面戦争に至るのではないかと危惧する見解もあるようです。しかし、私はそこまで事態はエスカレーションしないと思います。

まず、サウジがニムル師らの死刑執行を行った理由について、イランとの対決や国際的な宗派対立の深化を狙っていたのではないかとみる見解があります。この見方の背景には、サウジの外交方針が、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子への権力集中が進んでから、これまでの消極的・慎重なものから一転して、イエメン空爆、「イスラム軍事同盟」結成など、積極的・先制的なものになった・・・という見立てがあります。

しかし、そもそも注意すべきは、ニムル師らの死刑自体は3年前の判決の時点から決まっていたものであって、その執行は、本質的にはサウジの国内行政に属する事項である、ということです。これ自体は外交に属する事項ではなく、またサルマン副皇太子が昨年に権力を握ったこととは関係がありません。

とはいえ、なぜこのタイミングで行ったのかという疑問はあります。この点については、今月に予定されているイランの制裁解除との関係を勘ぐる向きもあります。たしかにサウジは、核合意による制裁解除によってイランが米国はじめ国際社会に認められることに対して、強い危機感をもっています。

イランを挑発し、国際的な宗派対立を煽り立てれば、イランがヒズボラなどテロ組織への援助など強硬姿勢を強めることが予想されます。2月26日に予定されているイラン国会議員選挙においても保守派が勢いを増すかもしれません。そうなれば、核合意の履行に暗雲が生じます。

しかし、サウジによる集団処刑に対しては、そもそも人道上の観点から、米国はじめ国際社会から強い非難が浴びせられていました。実際に執行すれば、サウジと米国の関係が悪化することは明らかでした。

さらに、今回のイラン群衆によるサウジ大使館襲撃事件は、後述するように、イラン国内でも評価が割れており、計算外の面があります。したがって、サウジが今回の事態をどこまで具体的に予見できたのかといえば、消極に考えざるを得ません。

以上にかんがみると、結果の予見可能性が低い中で、米国との関係を危険に晒すリスクを負ってまで、サウジがイランをことさらに狙い撃ちしたとみるのは不自然です。むしろ、サウジの決断の背景にあったのは国内事情だったとみるのが合理的です。

すなわち、サウジとしては、アルカイダによるテロの脅威、東部のシーア派住民のデモ、緊縮財政(補助金の削減)による国民の不満の高まりを憂慮していました。そこで、過激派、反体制派、一般国民に対し、断固たる姿勢を示すことにより国内的結束を高めるという意図で処刑を断行したものと考えられます。

このことは、処刑された47人のうち43人がスンニ派の過激派(テロ関係者)だったことも重要な事情になります。むしろ、スンニ派だけを処刑するとスンニ派の反発をかうので、バランスをとるためにシーア派も加えたのではないかとの憶測もあるほどです。

また、ニムル師は、たしかにシーア派の権威であり、イラン滞在期間が長く、ハメネイらイランの権力者とも極めて近い関係にありますが、あくまでもサウジ人であり、2011年の「アラブの春」において、シーア派の多いサウジ東部の自立(さらには隣接するバーレーンのシーア派との協力)のための政治改革を主張し、デモを主導した人物です。そのバックグラウンドと活動は、サウジとイランの対立とは一線を画しています。

次に、イランの対応ですが、まず自国領内における外交使節への攻撃は決して許されるものではないという認識は、イラン国内で広く共有されています。ロウハニ大統領は、大使館襲撃は暴徒によるものであって正当化できないとして強く非難しました。これは、イラン革命後の米国大使館占拠事件におけるホメイニの暴徒に対する寛容な態度とは対照的です。

もちろん、襲撃した群衆が政権の保守派とつながっている可能性は否定できません。しかし、少なくともイラン国内で評価が割れているのは事実であり、改革派にとって今回の事態が計算外だったことは間違いありません。

このように、サウジもイランも今回の事態を積極的に望んでいたとは考えられません。ある意味で計算外、偶発的だったとみるのが合理的です。したがって、両国とも、軍事衝突・全面戦争に突入する決意や意図はまったくないでしょう。

たしかにサウジは自国のメンツがかかっているため、強硬な姿勢を打ち出しています。一方、イラン、イラク、ヒズボラは、サウジを非難しながらも、事態を悪化させる動きに対して自制を促しており、慎重な対応をとっています。

とはいえ、バーレーン、スーダンがサウジに同調して国交を断絶し、UAEも大使を召還したように、事態は国際的な広がりを見せています。クウェートら他のGCC、イラク、ヒズボラらの対応も懸念されますし、シリア和平、「イスラム国」対策、イエメン内戦の解決、イランの制裁解除にも悪影響が及ぶことでしょう。イラン・サウジの直接衝突の可能性は低いとしても、中東を一層不安定化させる可能性は否定できません。

ここで、域外において、事態の収拾に最も貢献できるのは、もちろん米国ということになりますが、これまでサウジに不信感を抱かせてきたオバマ外交がどこまで効くものか、疑問を感じずにはおれません。これはイラン核合意の負のゲーム・チェンジャー効果ともいえるでしょう。

また、ロシアの動きも気になるところです。ロシアは昨年、サウジアラビアに急速に接近するとともに、イランとの連携も深めてきました。その意味では、仲介者としては最も力があるプレイヤーともいえますが、一方で、ロシアは、米国とNATOを自国にとって最大の脅威とみなす認識を明らかにしています。

ロシアの影響力拡大が、世界の安定にどんな影響を及ぼすのか、これは考え出すと気分が暗くなるというか、判断が難しいところです。

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2 comments on “サウジアラビアとイランの国交断絶
  1. ペルドン より
    JDさん

    2015年8月5日・・
    オバマ大統領・・世界の警察官放棄宣言・・(如何に政治音痴か)
    この日から・・米国と世界は変わった・・
    後釜を・・露西亜と中国が狙っている・・・(笑

  2. アリチン より
    中東や欧州について

    中東や欧州については、なかなか日本国内には正確な情報や報道が無く、
    理解することは難しいですが、とても参考になります!

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