2015/07/01 00:00 | 中東 | コメント(3)
サウジアラビアとロシアの接近
先日、「サルマン副皇太子・プーチン会談」という記事において、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子のロシア訪問とプーチンとの会談について書きましたが、これは会談前の話でした。今回は、会談後の報道をふまえた上で思ったことを書きます。
■ ‘Nothing could prevent S. Arabia from buying Russian defensive weapons’ – Saudi FM(6月21日付RT記事)
■ Russia and Saudi Arabia ink nuclear energy deal, exchange invites(6月20日付同記事)
ロシアの報道ですが、これらの記事を読むと、原子力開発と武器供与について話し合われたことが分かります。まず原子力について。ロシアは、原子炉開発の技術に絶大な自信をもっています。原子炉を輸出できる技術をもつ企業は世界を見ても非常に限られており、GE、ウェスチングハウス、アレヴァ、そしてロシアの国営企業ロスアトムぐらいしかありません(あとかろうじて韓国の斗山)。サウジは代替エネルギーへの関心が高いようで、後述するフランス訪問においても、やはり原子力開発が重要なテーマになっています。
次に武器供与について。ジュベイル外相のいう「defenseive weaspon systems」が何なのかはっきりしませんが、会談直前のタス通信の記事によれば、この武器は弾道ミサイル「イスカンダル」のようです。
イスカンダルは、ロシア人であれば誰でも知っているほど知名度のある兵器で、ロシア人の間では、「制裁なんか平気だ」という姿勢をアピールするとき、「イスカンダルをなめるなよ」(Don’t laugh my Iskander)というTシャツを着るのが流行っているほどです。このアンナ・セメノビッチ(元フィギュアスケート選手、現在セクシーモデル)の着こなしとか素敵ですね。
しかし、サウジとロシアの接近は、両国の関係を知っている人からすれば、ちょっと驚きの事態です。前の記事ではシリア内戦への対応をめぐる対立に焦点を当てましたが、対イラン政策においても両者の立場は真っ向から衝突しますし、サウジのイエメン空爆に対してもロシアは非難しています。
そもそも、ソ連が崩壊したのは、米国とサウジが連携して原油価格を下落させたためですから、ロシア人はサウジに対して良い印象をもっていません。今の原油安も、米国がサウジと連携してロシアを追い込もうとしているため発生している、という向きもありますが、まさに歴史は繰り返す、ということでしょうか・・もっとも今回の相手はプーチン大帝である点が違いますね・・笑。
ソ連崩壊後も、両国の関係が劇的に発展することはありませんでした。ではなぜ、ここにきて両国が接近するに至ったのか。まず、米国に対するロシアの対抗とサウジの失望が背景にあるのでしょう。
サウジが米国のイランへの接近に対して大きな不満を抱いていることはこれまでも何度も書いてきたとおりです(「イラン核協議:枠組み合意の成立①」、「米・GCCサミットと2人のムハンマド」参照)。
さらに、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子がサウジの実権を握ったことも関係しているように思われます。若き君主が新しい時代の外交路線の追求を開始した、ということかもしれません。
■ Opinion: The Russians are coming to Saudi Arabia (6月21日付ASHARQ AL-AWSAT記事)
■ Opinion: What happened in Russia?(6月20日付同記事)
これらは、アッシャルク・アル・アウサト紙というサウジ資本のメディアの論評です。いずれも、サウジは、これまでとは異なる外交を展開しようとしていると興奮気味に語っています。このメディアはサウジ王室の意向を汲んだ報道を行うので、ここからサウジ政府の考え方を読み取ることができます。
そうすると、まさに米国とイランの接近がゲーム・チェンジャーとなったといえそうです。とはいえ、この接近が米国からの離反を意味するものとは思えません。
ロシアからいくらイスカンダルを入手しても、これをもって米国の安全保障を代替することはできません。サウジとしては、米国以外のパートナーを増やすことはできても、米国から離れることはできないわけです。
ペルドンさんは、サウジ・ロシアによる原油生産の協調の可能性を指摘されていますが、それは米国との関係でもつのか疑問です。米国の意思に反してまで、サウジがルビコン川を渡る可能性は低いように思います。
最後に、サルマン副皇太子は、ロシア訪問の後、フランスを訪問し、オランド首相やファビウス外相と会談しています。
■ Saudi Arabia, France agree major deals on back of Deputy Crown Prince visit(6月24日付ASHARQ AL-AWSAT記事)
こちらでも原子力開発について話し合ったようです。フランスは、ご承知のとおり、原子力大国、アレヴァという大企業を擁する国ですから、サウジへの原子炉供与はまさにウェルカムでしょう。サウジとしては、対ロシア外交と同様、米国以外のパートナーを増やすねらいがあるものと見られます。
それにしてもこれだけ外遊して各国の首脳と次々に会談し、完全にサウジの顔のごとく振る舞う副皇太子。サルマン国王はもう隠居同然なのでしょうが、ムハンマド・ビン・ナイフ皇太子の影が薄いです。
とはいえ、このまま権力承継がスムーズにいくのかといえば、サルマン副皇太子の権力基盤はまだまだ盤石とはいえません。色々な不安材料があり、ライバルもいます。この点はまた別途説明します。
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3 comments on “サウジアラビアとロシアの接近”
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>>米国がサウジと連携してロシアを追い込もうとしているため発生
とも解釈出来る・・
「シェルオイル」
を追いこもうとしている・・
とも解釈出来る・・
ロシアもサウジも・・生産調整しない・・それが続く・・
そろそろ・・
シェルオイルに投資しているファンド・・債権切り替え時期では・?
逃げ足か・・浮き足・・
石油開発の友人に尋ねたら・・
シェルオイル・・特許近くまで進化・・そこは生きのこるだろう・・
ぐっちーオバマを高く評価・・・
砂漠には蜃気楼憑き物・・・(笑
アメリカがドルと金の兌換を止めた時に、キッシンジャーがサウジに飛んだ。
「石油の国際取引はドル決済にしてくれ。してくれたら、アメリカはいくらでもサウジを守ってあげるよ」
かくしてアメリカがいくらドルを刷っても米ドル需要がある。世界が米ドルの罠に嵌まってる。ったく、アングロサクソンのずる賢さといったら、中華の上をいく。
当然、中国は不満な訳で、人民元決済を東南アジア~世界に広めようぜ、とやってます。AIIBが、そうです。日本もかつて、円決済を東南アジアに広めようとしたが、アメリカに潰された。
結局、サウジの狙いは何んなんですか?
歴史と経済がわかる