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2015/05/15 00:00  | 中東 |  コメント(3)

米・GCCサミットと2人のムハンマド


サウジ国王、米・GCC首脳会談に欠席―皇太子を派遣(5月11日付ウォールストリートジャーナル記事)
米大統領がサウジ皇太子と会談―GCCとの首脳会談を前に(5月14日付ウォールストリートジャーナル記事)

イラン核協議の枠組み合意成立直後、オバマ大統領は湾岸諸国協力会議(GCC)の首脳をキャンプデービッドに招待しましたが、サウジアラビアのサルマン国王は直前でキャンセルという冷たい対応。バーレーン、オマーン、UAEも国王・大統領は出向かず、トップを派遣するのはクウェートとカタールだけだったようです。

なお、バーレーンのハマド国王は、会議を欠席して、英国でエリザベス女王のホース・ショーを見る予定とのこと。報道では、サウジの米国に対する不信感の表れと言われていますが(ホワイトハウスはこれを否定)、まあ、普通に考えるとそういうことなんでしょうね。

「米イラン関係の今後」にも書きましたが、オバマ政権は、中東では、自らが手を汚すような形での関与を避け、その代わり、武器供与や軍事訓練といった協力は積極的に行い、当事者による解決に委ねるという、リスク回避に重きを置くドライなアプローチをとっています。「武器供与型アプローチ」とでも言えるでしょうか。

これに対し、サウジはじめGCC各国は、米国が彼らと運命共同体になることを望んでいます。とにかく、体制の安全を保証することにコミットして欲しいのです。「NATO型アプローチ」とでも言えるかと思います。

もっとも、両国の食い違いはアプローチにとどまりません。米国とサウジは、利害関係を共通にする面が多い一方で、根本的に利益が衝突する部分も抱えています。これは主としてジハード主義への対応において先鋭化しますが、ややこしい話になるので、いずれ別稿で詳しく説明します。

ちなみに、サウジが国王の代理として派遣したのが、先月末に新皇太子に指名されたムハンマド・ビン・ナイフ内相で、副皇太子に指名されたムハンマド・ビン・サルマン国防相もこれに同行しました。「2人のムハンマド」が早速に外交の表舞台に立ったことになります。

サウジ皇太子にムハンマド内相指名、体制一新(4月29日付ロイター記事)

振り返れば、先月末にあったムクリン皇太子の解任、ムハンマド・ビン・ナイフ内相の皇太子の指名、ムハンマド・ビン・サルマン国防相の副皇太子の指名は、中東に激震が走った大事件でした。

サルマン国王の同族であるスデイリ家(※)出身の内相を皇太子とし、さらに、実の子である国防相を副皇太子とすることで、スデイリ家による権力固めを行ったことは明らかですが、それにしてもアブドッラー前国王の勅令をこんな短期間にあっさりと反故にするのは、ちょっと考えられないというか、本当に衝撃でした。

※初代アブドゥルアジズ国王の妃ハッサの出身家。その7人の息子は「スデイリ・セブン」と言われ、ファハド(第4代国王)とサルマン(現国王)という2人の国王を輩出した。

もっとも、1月のアブドッラー国王逝去の時点で、甥のムハンマド・ビン・ナイフ内相(スデイリ・セブンの一人ナイフ・ビン・アブドゥルアジズの息子)を副皇太子とし、息子のムハンマド・ビン・サルマンを30歳の若さにして国防相という要職に就けていましたから、このときから既に絵は描かれていたのでしょう。

スデイリ家の力の強さが示されたこと、次期国王が第3世代となることで世代交代が進むことは体制の安定要因といえます。ただ、長期的に見ると、こういった強引な手法が国内でどのような波紋を呼ぶのか、不安を感じさせるところです。ムハンマド・ビン・サルマンが国防相に就任した後、彼の指揮下において、イエメンへの空爆というサウジにしては異例の介入を行ったのも気になります。

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3 comments on “米・GCCサミットと2人のムハンマド
  1. ぺルドン より
    米・GCCサミット

    米とサウジ・・距離の違い・・
    オバマ・・無人機暗殺・・特異・・得意・・
    イラン・・米無人機・・無線ジャク・・目下・・量産中・・近く・・お目見え・・

    責任も取らず・・オバマノ無責任さ・・詰っちゃう・・サウジ国王・・
    ホットな季節・・
    次期大統領に・・オバマバトンタッチ・・アラーアクバル・・・(笑

  2. JD より
    ペルドンさん

    サイバー攻撃も、イランから逆襲されてます。
    GCCはもうオバマを相手にする気はないのでしょう。

  3. ペルドン より
    GCC

    先程CNN見ていたら、サウジの前情報部長官とのインタビュー。
    もはやサウジは友人だが、同盟国ではない。
    イランとは友人ではないが、同盟国だ、
    と言われていると突っ込まれ、いや同盟国ですと応じていましたが、オバマへの風当たりは強いと感じるものがありました。

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