2015/06/19 00:00 | 中東 | コメント(8)
サルマン副皇太子・プーチン会談
金曜日、TGIFですね。
せっかくの週末前ですし、これからは金曜には軽い雑談をしようと思っていたのですが、面白い記事が出てしまったので、ちょっと書いてみます。
■ Saudi defence minister to meet Vladimir Putin for talks on Syria(6月17日付The Financial Times記事)
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(国防大臣)がロシアを訪問しプーチンと会談するとのこと。記事には「on the sidelines of the St Petersburg International Economic Forum」とあるだけではっきりしませんが、おそらくサルマン副皇太子はサンクトペテルブルグ国際経済フォーラムに出席するためロシアに行くのでしょう。同フォーラムは、ロシアいわく「ロシア版ダボス会議」とも言うべき大規模経済フォーラムで、プーチン大帝も出席します。
国防大臣がなぜ経済フォーラムに行くのかと思いますが、実はサルマン副皇太子は経済開発最高評議会のトップにも就任しているのです。同評議会は、最高石油評議会をつぶして、サルマン副皇太子のために用意されました。
4月にムクリン皇太子が突然解任され、サルマン国防大臣が副皇太子に就任したことは「米・GCCサミットと2人のムハンマド」でお伝えしたとおりですが、サルマン副皇太子は30歳の若さにして、いまや軍事から経済にいたるまでサウジのすべての実権を掌握していると言ってもおそらく過言ではありません。
しかも、現在の皇太子は、お伝えしたとおりムハンマド・ビン・ナイフ内相ですが、何らかのかたちでサルマン副皇太子が早期に国王に就任するとも噂されます(ナイフ皇太子が解任される、即位してもすぐに退位するなど)。
これだけの若い王子がこれだけの大国の権力を一手に引き受けるというのは、結構すごい状況だなと思います。このように考えると、米・GCCサミットに対して、サルマン国王ではなくサルマン副皇太子が行ったのは、米国軽視の現れではなく、むしろできるだけ早くに実質的な最高権力者を米国にお披露目させたかった、ということかもしれません。
そんなわけで、国王でも皇太子でもない、形式上はただの国防大臣・副皇太子という30歳の若者ではありますが、サウジの真の帝王に対してプーチン大帝が直々にお会いするのは当然のことでしょう。
さて、何を話し合うかですが、報道によればシリア内戦への対応とのこと。たしかに、ロシアはアサド政権を支持し、サウジはアサド政権を倒そうとする勢力を支援しているので、両者の政策は真っ向から対立しています。
しかし、ロシアのアサド支持は、シリアにおける影響力の維持を目的としているところ、そのために、近年、武力紛争への介入よりも政治プロセスの進展を重視している傾向が見てとれます。具体的には、モスクワでアサド政権と反体制派組織との対話の場を設定するということをやっています。
また、サウジとしても、アサド政権が倒れることで「イスラム国」やヌスラ戦線などアルカイダ系組織が力を増すとかえって困るという事情を抱えています。したがって、両者が政策を調和させる余地はあると考えられます。
「トルコの『ゼロ・プロブレム外交』の挫折」で述べたとおり、シリアの状況が複雑を極めているのは、反体制派組織の中に「イスラム国」やヌスラ戦線などのアルカイダ系組織、それ以外のジハード主義組織、「穏健な反体制派」が混在しているためです。
「穏健な反体制派」とは、過激思想に染まっていない世俗的な勢力を指しますが、実際のところその識別は困難です。しかし、建前としては、サウジ、ロシア、米国らはそうした自分たちにとって都合のよい「穏健な反体制派」だけを選別しようとしています。アルカイダ系組織やジハード主義組織はサウジにとっても(もちろん米国にとっても)今や危険な存在だからです。
また、ロシアは、米国が支援する「穏健な反体制派」を支持することは望ましくないので、それとは別の「反体制派」だけを自分の政治プロセスに呼ぶということをやっています。付け加えれば、トルコはまた別の反体制派を支持、イランはアサド支持ということで、ますますややこしくなりますが、長くなってしまうので、シリアの状況についてはまた別途説明したいと思います。
いずれにしても、ロシアとサウジがこの件を話し合うことは非常に意義深いと思います。ただ、何度も述べているように、シリア問題の難しさは、様々な「反体制派」を識別することができない点にあります。関係国の調整は非常に重要ですが、根本的な問題の解決の糸口はそれでも見えてこないように思います。
来週は、金曜に軽い雑談・・ぺルドンさんが希望する色気のある話(笑)をしたいと思います。この一日乗り切って、良い週末をお過ごしください。
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8 comments on “サルマン副皇太子・プーチン会談”
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そんな相手いれば・・
トカイ片手に・・韋駄天走り・・
いや・・居たんだ・・!!
誰が見ても・・オバマの失策・・目を覆うばかり・・
サウジも捨てておけず・・
先ずは・・右手にコーラン左手に刀・・
イランに事実上の核兵器GO・・与えた・・オバマの無策・・
愛想尽きました・・サウジを舐めんじゃねぇ・・
プーチン大帝と・・固い握手・・
握手ついでに・・新札造りませんか・・・?
横面張られたオバマ・・左頬を差し出すか・・・??(笑
JDさんのブログを読むと、外交のニュースってこんなに面白いんだと思えます。
こういう解説をつけてくれるニュース番組があればどんなに良いでしょうね。
池上彰さんを大人向けに、という感じでしょうか。
イランに事実上の核兵器GO認定は、実は世界の脅威はイラン、中国、ロシアというより素人オバマなのではないかという認識を世界に与えていると思います。ここまで酷いと逆に米国の戦略と推定しろというように思えてくるのですが、JDさんの前回の解説は心証はあるのは解りますが、いかんせん当の本人が自覚していないオバマの擁護でそれ以上は読み取れなかった。外交面でど素人・正義漢を展望のある独特の合理主義ととらえ、イラン・サウジ・イスラエルのリスクを過小評価し、政権2期目も評価するというのは、印パも既に持っているし、スーパーパワーである米国に楽観し過ぎているように思えました。オバマを評価する米国衰退説とも矛盾しているように見える。こういう米国大統領ではサウジもイスラエルも中国もロシアも既にどこかに向かってまっしぐらかもしれません。・・・ぺルドンさん、サウジもロシアと組んで新札でペトロダラーに一撃ですか?怖ろしいことを(笑)ブログの通り大帝プーチンファンですね。関白もちょっと格上げして下さいな。
ご感想、ありがとうございます。うれしいです。
私もニュース番組やりたいです。応援して下さい。笑
どこかの記事に書きましたが、私は政策の当否は基本的に述べないことにしているのです。観察者のスタンスで書いているからです。オバマ外交に対して厳しい批判があるのは事実です。そのへんはこれから紹介したいと思っています。
国家に交戦権を認めないという自己否定のような憲法をいくら議論しても徒労に終わるだけ。このフレーズ、他の近代国家とその憲法に向かっても侮辱しているように聞こえます。他国での閲兵でも失礼なのでは。なぜ憲法学者も日本国憲法は近代国家の憲法に違反していると怒らないのでしょうか。交戦権のない国家が攻撃され占領されたら攻撃国はだれと終戦交渉すれば終わるのか、文言どうり戦争は最初からなかったし、ということはいつのまにか国家もなかったことになり新たな領土が発見される。攻撃され占領されると自動消滅してしまう幽霊国家。これを詭弁だとかおかしいとか言いにくい。むしろこのフレーズが詭弁なのはよくわかる。亡命など考えたこともない島国の住民にはこれが受け入れられる。かつて無謀な戦争を悔いた国民が、今度は詭弁な憲法で悔いる。いや喜ぶのだろう。憲法発布後、ソ連の指示か共産党だけは泣かずはっきりこのことを批判した。その後転向したがまだ同名だ。安倍首相も憲法改正からが筋だが、国民のサボタージュが長すぎて見込みがたたないため現実を優先せざるを得ない。本当は解釈で困るのは憲法改正を否定する野党なのでは。
JDさん充分バイアスがかかっていて当否もはいっていて踏み込んだレポートで感心しています。そうでなければ読む意欲がなくなるしオバマ批判のコメントのしようがない。せっかくのユニークなオバマ寄りの分析(参考になる視点ではあると思う)を、外交に関心がない人なんでしょうね、では困惑です。観察者の視点などと言わず今までどうりでお願します。それと路線逸脱を計っているようですが、ぺルドンさんの悪影響を受けているのでは?badass(笑)JDさんの領域はエンターテイナーなものではないので難しいですよ。
ニュース解説員デビュー、期待してます。
もうひとつ、報道を見てるだけではものすごく判りにくいのが沖縄です。
最初は報道だけが左寄りなのだろうと思っていたら、そうでもなさそうな。
県民の大半が基地を撤退させられると本気で思っているのか、
知事だけでなく県民も頭の中が中国人になってしまっているのか。
基地の物理的な負担だけでそこまで反対意見が盛り上がるものなのか。
何が起こっているのか、お時間のあるときにお願いします!