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2015/11/04 00:00  | 中東 |  コメント(2)

シリアをめぐる多国間協議、米国の特殊部隊派遣、トルコの再選挙


シリア問題 国連主導の和平プロセス支持で合意―外相級協議(10月31日付ウォールストリート・ジャーナル記事)

「アサドのロシア電撃訪問と4か国外相会談」で述べた米国・ロシア・サウジ・トルコの4か国協議の翌日、イラン、エジプト、イラク、カタール、レバノン、EU、フランス等を加えた拡大外相会議を開いたとのこと。記事で述べたとおり、4か国協議にイランとイラクが加われば面白いと思っていましたが、急転直下、本当にその展開になりましたね・・・衝撃です。

「トルコの『ゼロ・プロブレム外交』の挫折」で述べたとおり、中東地域のキープレイヤーはエジプト、サウジ、イラン、トルコの4大国(+イスラエル)です。現在の混沌を収集するには、もはや米国やロシアという域外国ではなく、これら実力のある当事国が自律的に解決することが求められるところ、これらの国々が一堂に会する機会をつくることは、それ自体大きな意義があるといえます。

それにしても、イランの参加を認めることは、以前の米国とサウジにはとても受け入れられるものではなかったでしょう。これもイラン核協議の結果によるゲームチェンジャー効果であることは間違いありません。ただ、欲を言えば、17か国というのはちょっと多過ぎなので、できれば次は真に重要な6〜7か国ぐらいに絞った実効的な会議を設定して欲しいところです。

もう一つ注目すべき動きとして、米国の特殊部隊の派遣。

米軍、シリアに地上部隊派遣へ 対ISISで反政府勢力を支援(10月31日付CNN記事)

いかに50人未満の少数の特殊部隊とはいえ、オバマ大統領自らがシリアに地上軍を送り込むことはないと明言していましたから、かなり大きな決断です。言いつくろってはいますが、大統領がここまで述べていたことを事実上変更するのはかなり恥ずかしい話で、大変な勇気がいることだったと思いますが、反政府勢力の訓練など従来の取り組みがまったく功を奏さなかったので、致し方なく舵を切ったものでしょう。これ自体は評価すべき判断と思います。

さらに、上記記事にあるとおり、派遣先はシリア北部のクルド人地域とのこと。「クルド人の対立・トルコ政局・イスラム国」で述べたとおり、シリアにおけるクルド人軍事組織であるYPGアサド政権と奇妙な連携をとっている関係にありますから、仮にYPGに対する支援を強化するとすれば、これまでの自由シリア軍などの反アサド勢力支援とは異なり、アサド政権の容認に一歩近づく措置に踏み切ったのかもしれません。ここはまだよく分かりませんが。

ちなみにWSJの記事によれば、米国はYPGへの支援をひそかに強化しているそうです。PKK・YPGはトルコから攻撃を受けていましたから、それに対する米国の配慮という側面もあるのでしょう。

そして、トルコといえば、6月の総選挙に続き、ついこの間の日曜、11月1日に再び総選挙が実施されました。

トルコ与党の過半数回復、背景に治安懸念(11月2日付ウォールストリート・ジャーナル記事)

「トルコとクルド」で述べたとおり、エルドアン大統領はクルド人政党HDPを追い込んだ上で選挙を行い、過半数を再獲得することを狙っていました。事前の予想では与党AKPは過半数を獲れないと見られていましたが、ご多分に漏れず選挙予想はあてになりません(笑)。AKPは大幅に支持を伸ばしてまさかの過半数獲得。

さすが選挙の達人エルドアン、前回の敗北で神通力を失いつつあるかと思いましたが、また息を吹き返しそうです。勢いに乗って、再び憲法改正を目指して、議会工作を行う可能性も否定できません。市場は選挙結果を評価し、トリプル高の状況となっていますが、エルドアンの強権的な振る舞いのツケが回ってこないか、かなり不安です。

シリアに話を戻すと、依然として出口の見えない状態(mission creep)が続きますが、これまで考えられなかった様々な動きが一気に出てきているのは事実です。楽観はまったくできませんが、潮目が変わる瞬間にあるように感じられるので、要注視です。

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2 comments on “シリアをめぐる多国間協議、米国の特殊部隊派遣、トルコの再選挙
  1. ペルドン より
    JDさん

    エンディングのように・・総ての役者が舞台に上った・・どんな芝居がはじまるのか・・誰にも分からない。
    ストリーさえ・・予測できない。
    恋愛劇ではない事は確かだが・・愛憎劇・・宗教劇は確かだ・・全員・・石をポケットに詰め込んでいるだろう・・
    まだ・・
    共和党大統領候補者戦・・一列に並んだ候補者の方が分かりやすいか・・・(笑

  2. JD より
    ペルドンさん

    まあ、そうですね。ギリシャ悲劇にならないことを願います(笑)。

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