2021/02/08 00:00 | 今週の動き | コメント(1)
今週の動き(2/7~13) バイデン外交演説(対中政策)、米経済対策、対中投資、ミャンマークーデター、トランプ弾劾裁判
先週の東京は暖かい日々が続きました。春も近づいてきているようですね。
一方、緊急事態が続き、せっかくの好天も外出を楽しめないのが残念なところ。友人はゴルフもキャンセルしていました。
ワクチンはイスラエルでは人口の6割に達し、米国は接種数は4,000万にも上ったとのこと。1日も早く世界に行き渡って欲しいものです。
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先週の動き
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1/31(日)
・WHOの新型コロナウイルスの調査団が武漢市の海鮮卸売市場を視察
・英国が中国返還前に生まれた香港市民向けに英国での市民権を取得しやすくする特別ビザの申請受付を開始
・ロシア各地で反体制派指導者ナワリヌイの釈放を求める抗議デモ
2/1(月)
・バイデン政権がUAEに課していた通商拡大法232条に基づく鉄鋼とアルミの追加関税の維持(1月19日の追加関税の解除決定の撤回)を発表
・中国の海警法が施行
・ミャンマーが非常事態宣言を発令、ミン・アウン・フライン国軍司令官が全権掌握(アウンサン・スーチー国家顧問兼外相、ウィン・ミン大統領、NLDの議員らは拘束)、NLD政権の閣僚解任を発表
・ベトナム共産党大会最終日(ハノイ、1日前倒し)
・英国がCPTPPへの参加を申請
2/2(火)
・バイデン大統領が移民制度の改革に関する3本の大統領令に署名
・米上院がマヨルカス元国土安全保障副長官の同長官就任とブティジェッジ・サウスベンド市長の運輸長官就任を承認
・日米が在日米軍駐留経費の日本側負担に関する実務者協議をテレビ会議方式で再開
・アマゾンのベゾスCEOが9月までの退任を発表
・中国の楊潔チ政治局委員が米国の起業家らへのオンライン講演でバイデン政権との関係改善の主張と内政干渉への牽制を発言
・ミャンマー国軍がミン・アウン・フライン国軍総司令官を議長とする「行政評議会」の設置を発表
・モスクワの裁判所が反体制派指導者ナワリヌイの詐欺事件について14年の有罪判決の執行猶予を取消し懲役3年6月の実刑に切り替える決定
・イランが1月に拿捕した韓国船籍のタンカーの乗員を解放し出国を認めると発表
・ユーロ圏の20年10~12月期の実質GDP成長率の発表(前期比▲0.7%)
2/3(水)
・米豪首脳電話会談
・米ロが新STARTの5年間延長で正式合意したと発表
・米下院が財政調整措置による1.9兆ドルの追加経済対策の可決を可能にする予算決議案を可決
・米下院共和党がトランプ前大統領の弾劾決議案に賛成したリズ・チェイニー下院議員の下院ナンバー3の地位を問う投票を行い維持を決定
・米上院の民主党のシューマー院内総務と共和党のマコーネル院内総務が権力分担について基本合意
・カナダがトランプ前大統領を支持する極右団体「プラウド・ボーイズ」をテロ組織と認定
・G7外相がミャンマーのクーデターを非難する声明を発表
・WHOの新型コロナウイルスの調査団が武漢ウイルス研究所を訪問
・イタリアのマッタレッラ大統領が次期首相候補にドラギ前ECB総裁を指名
・日英外務・防衛担当閣僚協議(2+2)(オンライン)
2/4(木)
・バイデン大統領が国務省で外交政策に関する演説
・米韓首脳電話会談
・米ロ外相電話会談
・米海軍第7艦隊のミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」が台湾海峡を通過
・イエレン財務長官が個人投資家の投機的な売買で株価が乱高下した問題で規制当局(SEC、FRB等)と協議
・米上院がリンダ・トーマス=グリーンフィールド元国務次官補の国連大使就任を承認
・米下院が共和党のマージョリー・テイラー・グリーン議員を教育労働委員会と予算委員会から除籍する決議を可決
・国連安保理がミャンマー国軍による政府関係者の拘束に深い懸念を表明するとの報道声明を発表
・英放送通信庁が中国国際テレビ(CGTN)の英国内での放送免許の取消しを発表
2/5(金)
・バイデン大統領が演説で追加経済対策の早期成立を目指すと表明
・バイデン大統領がCBSのインタビューでトランプ前大統領はもう機密情報の報告を受けるべきではないとの認識を表明
・ブリンケン国務長官と楊潔チ政治局委員が電話会談
・米上下両院が財政調整措置による1.9兆ドルの追加経済対策の可決を可能にする予算決議案を可決
・国連のグテレス事務総長がマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長を気候変動担当特使に任命
●バイデンの外交演説(対中政策)
バイデン大統領が国務省で演説を行い、包括的な外交方針について初めて語りました。
バイデンは、冒頭で「アメリカは戻ってきた」「民主主義が我々の外交政策の中心に戻ってきた」として、同盟国との関係強化と国際社会への関与を強調しました。
そして、中国とロシアの脅威に対抗する姿勢を強調。中国については、「最も重大な競争相手」と呼び、中国からの「我々の繁栄、安全保障、民主的な価値観への挑戦に直接対処する」と述べ、「経済面での濫用」「攻撃的で威圧的な行動」「人権、知的財産、グローバル・ガバナンスに対する攻撃」に立ち向かうと述べました。一方、「米国の国益にかなう場合には協力する用意はある」とも述べています。
同盟国との関係強化については、この2週間で、最も親しい友人であるカナダ、メキシコ、英国、ドイツ、フランス、NATO、日本、韓国、豪州のリーダーたちと話してきたと述べました。そして、世界に展開する米軍の態勢の見直しを行うが、駐独米軍の削減計画は当面停止するとしました。
また、イエメン内戦を終わらせなければならないとして、サウジが主導する軍事作戦への支援の停止を表明。ミャンマーについては、クーデターに対処するために各国と連携してきた、マコーネル上院院内総務とも緊密に連携している、国軍は権力を放棄し、拘束した人々を解放すべきとして、関係者の責任を問うと述べました。
さらに米国のミドルクラスの人々の利益にかなう外交政策を推進し、国内の雇用や産業の保護を重視することを強調しました。なお、バイデンの演説の直前にサリバン大統領補佐官が記者団にブリーフィングを行い、ミドルクラス外交含めて細かいポイントを説明しています。このあたりも、バイデン政権の手堅さを感じさせるところです。
バイデンの演説の翌日、ブリンケン国務長官と楊潔チ政治局委員が電話会談を行いました。バイデン政権になって初めてのハイレベルのコンタクトになりますが、ブリンケンは、米国は新疆、チベット、香港も含め、人権と民主主義を守る、中国もともにミャンマーを非難すべき、米国は同盟国とともに台湾海峡を含むインド太平洋の安定を脅かす中国に責任をとらせると述べたと発表しました。
電話会談の2日前に楊潔チは、米国の起業家らへのオンライン講演で、バイデン政権との関係改善の主張と内政干渉への牽制について述べていたのですが、それに対してブリンケンがカウンターを見舞ったような痛烈な内容でした。なお、中国側の発表では、楊潔チがブリンケンに対して講演と同様の主張を伝えたことが述べられていました。
バイデンの演説と米中関係についてコメントします(※メルマガに限定)。
●米経済対策
上下両院が予算決議案を可決しました。これは以下の記事で説明したとおり、財政調整措置による1.9兆ドルの追加経済対策の可決を可能にするものです。
・「政府閉鎖の長期化(米国の予算制度)」(19/1/22)
上院では、共和党議員は全員が反対したため、50対50の投票結果になり、ハリス副大統領が51票目を投じることで可決されました。バイデン政権になって、副大統領(上院議長)の投票による決定の初めての例になります。
これにより財政調整措置の前提となる手続きが整い、共和党の協力を得ることなく民主党の経済対策案が実現する方向に進みました。これまでの記事で述べてきたとおりの展開です。
・「バイデンの経済対策」(1/18)
・「バイデン政権の始動」(1/26)
私はこのシナリオの可能性が最も高いことを1月中旬から指摘していましたが、先週になって、ようやく日本のメディアも取り上げるようになったようです。しかし、かなり専門的なテーマでもあり、日本の報道では分かりにくい(正しく理解されていない?)印象を受けます。そこで、財政調整措置と今後のポイントについて説明を補足します(※メルマガに限定)。
●対中投資の増加
先月、UNCTADが20年の海外直接投資(FDI)に関するレポートを発表しました。当然ながらコロナによる経済の落ち込みを受け、世界全体のFDIは大幅に減少し(▲42%)、特に米国が1,340億ドルと大幅に減少しています(▲49%)。
しかし中国は1,630億ドルに増加し(+4%)、世界最大のFDI受入国になりました。また、インドはデジタル分野を中心に大幅に増加しています(+13%)。コロナにもかかわらず中長期的な観点からの期待の高さが示されたもので、興味深い結果です。対中投資の増加についてコメントします(※メルマガに限定)。
●ミャンマーのクーデター
ミャンマーで国軍によるクーデターが発生しました。国軍は、昨年11月の選挙でNLDが圧勝した後、国軍と国軍系政党(USDP)は選挙不正の主張を続けていました。そして新議会が開催される2月1日の直前に(26日、27日)、国軍の報道官とミン・アウン・フライン国軍司令官がそれぞれクーデターの可能性を否定しない発言に及び、緊張が高まりました。
その後、30日に国軍は「憲法を遵守する」という声明を出したので、緊張は和らぎ、私を含め多くの専門家は、火種を残しつつも、まずは新議会が始まるとみていました。
それだけに、今回のクーデターは急転直下の展開でした。以下の記事で述べたとおり、ミャンマー憲法は非常事態宣言とその場合における国軍司令官の全権掌握を認めています。08年に制定された現憲法は、国軍が起草したもので、民政移管を実現しつつも、国軍に特権的な地位を認めていました。NLDは憲法改正を追求してきましたが、国軍の反対により憲法改正は実現せず、今回の発動に至ってしまった(国軍の理屈では「憲法を遵守した」ことになる、もっとも非常事態宣言の発令権限は明文上大統領にあるのですが)ということです。
・「ミャンマー現代史(2):民主化と経済発展」(20/12/3)
国軍は選挙の不正を調査せずに審議会を開会するのは憲法に反するとして、「自由で公正な」選挙を行い、そこで勝利した政党に政権を移管すると発表しました。憲法上、非常事態宣言の期間は1年であり(ただし2年に延長可能)、宣言の解除後、6か月以内に総選挙が実施されると定められています。
国軍は「行政評議会」を設置し、ミン・アウン・フライン司令官が議長に就任。NLD政権の閣僚を解任し、新たに閣僚を任命。新たな選挙管理委員会も設置しました。
NLD議員の多くは解放されましたが、アウンサン・スーチー国家顧問やウィン・ミン大統領は無線機の違法輸入・使用の容疑などで起訴され、拘束が続いています。NLDは国軍を非難し、市民の抗議活動も発生しています。
今のところ、大規模な抗議デモや弾圧には至らず、治安はおおむね安定しているようです(ただ週末は人が集まりやすく、抗議活動が活発化する例が多いので、デモがどこまで大きくなるか予断を許さない状況です)。一方、国軍は批判を封じ込めるため、フェイスブックやツイッターへのアクセスを禁止し、携帯電話を通じたデータ通信の使用も制限しました(禁止は一時的な措置と発表)。
米国やEU、日本など西側諸国は「クーデター」と認定し、拘束された人々の解放と選挙結果の尊重を国軍に要求しました。米国とEUは制裁を検討すると発表しています。
今回のクーデターの背景と意義、今後の展望について、明日解説します。
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今週の動き
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2/7(日)
・エクアドル総選挙
2/8(月)
・朝鮮人民軍創建日(建軍節)
2/9(火)
・米上院でトランプ前大統領の弾劾裁判の審理開始
2/12(金)
・G7財務相・中銀総裁会議(オンライン)
・中国の春節(旧正月)(休暇は2/11~17)
●トランプ弾劾裁判
上院でトランプ前大統領の弾劾裁判の審理が始まります。見通しは以下の記事で解説したとおりですが、あらためてポイントを解説します。また、共和党内では、リズ・チェイニーとマージョリー・テイラー・グリーンの両下院議員の処遇をめぐり論争が起きています。これらについてもコメントします(※メルマガに限定)。
・「共和党トランプ派(トランプ弾劾裁判)」(2/1)
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あとがき
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■ ゲストが米大統領選の不正に言及、インタビュー打ち切りに(2月4日付CNN)
右派メディアのNewsmaxが「My Pillow guy(マイピローおじさん)」というCMで有名な枕メーカーのCEOマイク・リンデルを出演させましたが、ドミニオンの投票機の話を始めると、司会が発言を必死に制止しようとするという事件がありました。
しかしリンデルは構わず発言を続け、司会の言葉も遮られ、放送事故のような状態に。最後はなんと司会が番組から姿を消してしまいました。
リンデルは、熱烈なトランプ前大統領の支持者で、選挙不正の疑惑を訴え続けてきた人物です。大統領就任式直前にトランプ大統領(当時)に会いに行き、そのとき持っていたメモに「martial law if necessary(必要なら戒厳令)」と書かれていたことも話題になりました。
Newsmaxも、ドミニオンとスマートマティックの投票機が選挙不正の原因だという説を繰り返し放送してきましたが、昨年12月にドミニオンからデマを拡散しているとして提訴すると通告されると、態度を一変し、「これらの主張を真実として報じたことはない」と発表しました。損害賠償リスクを恐れたのでしょう。今回、リンデルの発言を必死に止めようとしたのもこのためです。
それにしても、なぜNewsmaxはこんな危険な人物を出演させたのか。それは、リンデルのツイッターアカウントが停止されたことを受けて、これを「ツイッター社による検閲だ」と非難するためでした。
ところがその番組の途中で、Newsmaxが彼の自由な発言を禁じることになったわけです。あまりにも皮肉な展開。コメディーをやっているとしか思えません(苦笑)。
なおリンデルの情熱はさめることがなく、今度は選挙不正を扱った3時間にもわたるドキュメンタリーを制作したとのこと。それを別の右派メディアのOANが放映することになりましたが、今度はOANが「この放送枠はリンデル氏が購入したものであり、同氏のオピニオンに過ぎません」との注意書きを冒頭に放映したそうです。
これもまた損害賠償リスクを避けるため自分とは無関係とアピールしたものです。ドミニオンはジュリアーニやシドニー・パウエルに13億ドルの損害賠償請求の訴えを起こしていますが、先週、スマートマティックも27億ドルの損害賠償を請求する訴えを起こしました。NewsmaxもOANも、こんな訴えをされたらたまったものではないということで、「自分とは関係がない」と全力でアピールしているわけです。
しかし、それならリンデルを出演させたり、彼の作品を放映することなどやめればよいのにと思いますが、そこはリンデルから金をもらっているのでしょう。あらためて、茶番の底が知れました。
それにしても、このままリンデルが投票機の不正を主張し続ければ、彼が訴えられるのも時間の問題でしょう。そこまでのリスクを負ってまで主張を続けるのはなぜなのか。知るよしもありませんが、マイピローおじさんは、薬物中毒や離婚といった苦難を経て成功をおさめた人物であり、独特の世界観をもっているようです。そんな彼を虜にするトランプの魅力、やはり悪魔的なものがあるのでしょう。
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ご了承のうえ、ご利用ください。
アフター・トランプで、一気に米国政治の実務的な部分がクローズアップされていますね。一方、TVをはじめとしたメディアは一気にバイデン政権での内側について触れなくなっている感じで、1.9兆ドルに型がついたら、ネタが尽きるんじゃないか、という気すらします。
でも、対中も、経済対策も、もちろん外交も実務レベルでの積み重ねがないと本来はいけないわけで、バイデン政権を題材に、しっかり腰を据えて学ぼうと思います。
マイピローおじさんは宣伝広告費としてお金を払っている可能性があるのですね。人の価値観って、謎ですね(苦笑)