2021/02/01 00:00 | 今週の動き | コメント(2)
今週の動き(1/31~2/6) コロナワクチン接種、バイデン政権の対中外交、米経済対策、共和党トランプ派、ゲームストップ、ダボス、中国海警法
2月になりました。トランプ大統領(当時)のツイッターアカウントが停止されてから20日、バイデン政権になってから10日ほどが経ったことになります。
トランプのツイートがなくなると、ずいぶん静かになったような感じがします。一見すると米国政治のダイナミックさがなくなったようにも感じられるかもしれません。
しかし、実際のところ、バイデン政権になってから、様々な政策やそれに向けた準備が着実に進められており、政治・経済いずれにおいても、実質的な動きは加速しています。誤解を恐れず言えば、トランプ政権の動きは見た目には派手でしたが、ドタバタしているだけで何も進んでいない・・ということが多々ありました。
その最大の要因がトランプのツイッターにあったことは間違いないでしょう。その発信は、率直・素朴・正直だったといえるかもしれませんが、それにしても、衝動的なものが多く、釈明が必要になったり、修正や撤回をするケースが相次ぎました。伝わってくる情報が多い割には、結局何だったのか?という結果に終わることも多かったといえます。
バイデン政権になると、そうしたドタバタがなくなりました。そうすると、政権は効率的に動き、伝わってくる情報も無駄がなく、真に重要なものだけが増えることになります。トランプの挑発的なツイートやそれをめぐる混乱はなくなったので、静かになったように見えるかもしれませんが、米国政治のスピードはまったく落ちておらず、むしろ増しているということです。
一方、いま米国で起こっていることは、より専門的で、おそらく多くの人にとってトランプ時代より分かりにくく見えるようになったと思います。トランプのツイートやそれをめぐる混乱は、いわば「エンタメ」のようなもので、素人目にも分かりやすいものでした。
それだけに日本でも多くの人を惹きつけ、選挙予想にせよ選挙不正疑惑にせよ、あまり意味がない話でも、単に「面白い」という理由で盛り上がった面があったと思います(本当に色々な人たちが色々なことを言っていて、個人的には、なぜ米国のことでこんなに盛り上がるのか?と不思議に(やや冷ややかに)思うほどでした)。
つまり、いま米国では、トランプ時代よりもはるかに実質的な動きが起こっている。伝えるべき情報は山のようにあります。にもかかわらず、日本では、一見して「分かりにくい」あるいはエンタメ的に「面白くない」ため、理解されなかったり、見過ごされている面があるように感じられます。
そういうわけで、トランプのツイートがなくなり、楽になった・・わけではなく、かえって情報も分析も説明も難度が上がり、私の仕事は大変になっています(笑)。しかし、やりがいも大きくなっています。本メルマガやオンラインサロンでの発信も、質量ともにさらにレベルを上げていきますので、よろしくお願いします。
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先週の動き
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1/24(日)
・米仏首脳電話会談
・メキシコのロペスオブラドール大統領が新型コロナウイルスに感染したと発表
・ポルトガル大統領選挙(レベロデソウザ大統領が再選)
1/25(月)
・バイデン大統領が政府調達で米国製品を優先する「バイ・アメリカン」条項の適用を強化する大統領令に署名
・バイデン大統領がトランスジェンダーの米軍入隊を原則禁止したトランプ前政権の方針を撤廃する大統領令に署名
・バイデン大統領が政府が保有する車両約65万台をEVに置き換える方針を発表
・米独首脳電話会談
・米上院がイエレン前FRB議長の財務長官指名を承認
・米下院がトランプ前大統領の弾劾訴追決議を上院に送付
・サラ・サンダース・ハッカビー元大統領報道官が22年アーカンソー州知事選への出馬を表明
・世界経済フォーラム(WEF)のオンライン会合「ダボス・アジェンダ」(習近平国家主席が講演)(~29日)
・インド軍がシッキム州で中国軍と小競り合いが起きたと発表
・ベトナム共産党大会(ハノイ、~2/1)
・トルコとギリシャが東地中海問題に関する協議(イスタンブール)
・EU外相理事会(茂木外相がオンライン出席)(ブリュッセル)
・エストニアの議会がカーヤ・カラス元EU欧州議会議員を首相に選出
・コロンビアのガルシア国防省が新型コロナウイルスによる合併症で死亡
1/26(火)
・バイデン大統領が新型コロナワクチンの2億回分の追加購入を発表
・バイデン大統領が民間刑務所の使用の段階的な廃止を含む人種差別問題の改善に関する大統領令に署名
・米ロ首脳電話会談(新STARTの延長で合意)
・バイデン大統領とNATOのストルテンベルグ事務総長が電話会談
・米上院がブリンケン元国務副長官の国務長官指名を承認
・米上院の商業・科学・交通委員会が商務長官(レモンド)の指名承認公聴会を開催
・米上院がトランプ前大統領の弾劾裁判は違憲とする動議を否決
・ミルズ国連代理代行がバイデン政権はパレスチナとの関係修復に取り組むと国連安保理の会合で表明
・FOMC(~27日)
・中韓首脳電話会談(習近平国家主席)
・ソウル高裁が李在鎔サムスン電子副会長の収賄罪等の裁判の差戻し審で言い渡した懲役6年の実刑判決が確定
・G7外相がロシアによる野党指導者アレクセイ・ナワリヌイの拘束を非難する共同声明を発表
・イタリアのコンテ首相が辞任
1/27(水)
・バイデン大統領が気候変動対策に関する大統領令に署名(気候変動サミットを4月22日に開くと発表)
・ 米財務省がトランプ前政権が打ち出した中国軍関連企業への投資禁止措置について、対象企業と社名が類似している企業への適用を5月に延期すると発表
・米国務省がサウジとUAEへの武器売却の見直しと一時凍結を発表
・米英、米独、米韓、米比、日米外相電話会談
・米上院のエネルギー・天然資源委員会がエネルギー長官(グランホルム)、外交委員会が国連大使(トーマス=グリーンフィールド)の指名承認公聴会を開催
・中国の習近平国家主席と香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が会談(オンライン)
・モンゴルでロブサンナムスライ・オユーンエルデネ官房長官が首相に就任
1/28(木)
・バイデン大統領がオバマケアとメディケイドを強化する大統領令に署名
・日米首脳電話会談
・米国防総省のカービー報道官がタリバンは米国との和平合意を順守していないとの認識を表明
・米共和党のマッカーシー下院院内総務とトランプ前大統領がマール・アラーゴで会談(フロリダ)
・米国の20年10~12月期の実質GDP成長率の発表(前期比年率+4%)、20年通年は▲3.5%)
・中国国防部の報道官が「台湾独立は戦争を意味する」と発言
・パキスタンの最高裁が20年のウォール・ストリート・ジャーナル記者の殺害事件で殺人罪等に問われたオマル・サイード・シェイクらを釈放する決定
1/29(金)
・米国務省のイラン担当特別代表にロバート・マレー元ホワイトハウス調整官(中東・北アフリカ・湾岸担当)が就任するとサキ大統領報道官が発表
・EUの欧州委員会が新型コロナワクチンの輸出制限措置の導入を発表
・ロシアで新STARTを5年間延長する法律が成立
●新型コロナワクチンの接種
新型コロナウイルスのワクチンの接種が一部の地域で本格化しています。1月29日時点でのワクチンの接種(1回のみ)の人口の割合は以下のとおりです(出所は「Our World in Data」)。
1 イスラエル 54%(※フル接種(2回)も20%まで到達)
2 UAE 31%
3 英国 13%
4 バーレーン 10%
5 米国 8%
イスラエルでは、順調にいけば3月末までに国民の大部分がワクチンを接種できる見通しですが、次の選挙は3月23日。ワクチンの効果が期待どおりであれば、ネタニヤフ首相にとっては願ってもない追い風になるでしょう。4度目の正直で、また不死鳥のように復活するのでしょうか。
一方、EUのワクチン接種は、英国と米国と比べて大きく後れをとっています。そうした中で、先週、EUはコロナワクチンの輸出制限を発表しました。ファイザーやアストラゼネカに対し、EU域内で生産されたワクチンを域外に輸出する際に事前承認を義務付けるとしています。
ワクチン接種をめぐる状況と展望についてコメントします(※メルマガに限定)。
●バイデン政権の対中外交
ジョン・ケリー気候変動担当特使、商務長官に指名されたジーナ・レモンド、国連大使に指名されたリンダ・トーマス=グリーンフィールドがそれぞれ記者会見と議会での公聴会で自らの対中認識を語りました。
ケリーは気候変動について中国と協力はするが、他の問題と取引を行うことはないと断言。ケリーほどの大物がブリンケン国務長官・サリバン大統領補佐官のような実務家・専門家タイプとどのような関係を築くかは気になるところでしたが(以下の記事参照)、基本的な認識はしっかり共有されていることがうかがわれました。
・「2021年の展望(バイデン政権)」(1/6)
レモンドは、イエレン財務長官と同様、中国の不公正な通商慣行や技術面での脅威を強調した上で、積極的な対応が必要と発言し、中国への対抗路線を強調しました。一方、ファーウェイのエンティティ・リスト掲載を続けるかなど具体的な措置についてはコメントを避けました。
トーマス=グリーンフィールドの指名承認公聴会も、やはり中国の脅威を強調し、国際機関における中国の影響力への対抗を最優先課題と指摘。19年に孔子学院に招かれて講演したことは「大きな間違いだった」「後悔している」とも述べました。
これまでの動きを踏まえて、バイデン政権の対中外交の見通しとポイントを述べます(※メルマガに限定)。
●米経済対策
上院の権力分担(パワー・シェアリング)について、共和党のマコーネル院内総務と民主党のシューマー上院院内総務が合意しました。民主党の中道議員であるキルステン・シネマとジョー・マンチンがフィリバスター廃止に同意しないと述べたことを受け、マコーネルがフィリバスター維持の確約をシューマーに求めることをやめたためです。
マコーネルとシューマー、双方にとってメンツの立つ決着になりました。おおむね以下の記事で述べた展開でした。
・「バイデン政権の始動」(1/26)
経済対策案の展望については、上記記事で述べたとおりですが、先週の動きをふまえて補足します(※メルマガに限定)。
●共和党トランプ派(トランプ弾劾裁判)
上院でトランプ前大統領の弾劾裁判を違憲とする動議が否決されました(55対45)。共和党で反対を投じたのは、ロムニー、サス、コリンズ、マコウスキー、トゥーミーの5人だけでした。これで弾劾成立の可能性はほぼなくなりました。
民主党も、弾劾成立は無理とみて、ティム・ケイン上院議員が問責決議を行う可能性を示唆しました。以下の記事で述べたとおりの展開です。
・「トランプ弾劾裁判」(1/25)
一方、マッカーシー下院院内総務がマール・アラーゴに出向いてトランプと会談。トランプは中間選挙に向けて共和党への支援を約束しました。
マッカーシーは、いったんは議事堂襲撃についてトランプに「責任がある」と述べ、トランプから距離を置く姿勢を見せましたが、やはりトランプ路線に回帰しました。リズ・チェイニーら10人の弾劾賛成議員はトランプ支持派から激しい攻撃に晒されることになりそうです。
また、マッカーシーは、ペローシ議長の殺害を示唆するSNSへの投稿に「いいね」をしたことが問題視されるなど、過激な言動が相次いで批判されている新人下院議員のマージョリー・テイラー・グリーンと会うと述べています。グリーンはQアノン信奉者として知られ、選挙不正の疑惑を主張し続け、トランプのお気に入りの議員です。共和党議員の大半はグリーンの言動を批判せず、沈黙を守っています。
トランプをめぐる共和党の状況についてコメントします(※メルマガに限定)。
●ゲームストップ「バブル」の波紋
米国の個人投資家がネット掲示板「Reddit」などで結託し、ゲーム小売の「GameStop」や映画チェーンの「AMCエンターテイメント」などの銘柄を買いまくり、暴騰によって空売りファンドのショートポジションを締め上げ、大手ファンドに大損を出させるという異例の事態が発生しました。しかも、手数料無料の投資アプリの「ロビンフッド」が個人取引を制限したことに大きな批判が寄せられました。
マーケットへの影響などの考察は「経済ZAP!!」のSaltさんにお任せしますが、私の方からは、政治的な意味合いと規制政策に与える影響についてコメントします(※メルマガに限定)。
●ダボス・アジェンダ
世界経済フォーラム(WEF)の年次会合「ダボス会議」のオンライン会合が開催されました(5月にシンガポールで「特別年次総会」が開催予定)。
首脳レベルでは、習近平国家主席、プーチン大統領、メルケル首相、マクロン大統領、フォンデアライエン欧州委員長、モディ首相、文在寅大統領、菅首相らが参加。米国からはケリー気候変動問題特使やファウチNIAID所長が参加しました。
習近平は初日に先陣を切って演説を披露しましたが、その内容は、「他国を脅し、制裁すれば世界を分裂させるだけ」「国際法を守るべき」「強者が弱者をいじめてはいけない」というもの。まさに、「お前がいうのか・・」というツッコミ待ちとしか思えないものでした。
まあ、こういう芸風(?)はいつものことですが、豪州のフライデンバーグ財務相は「言行不一致だ」としっかりツッコミを入れていました。最近の中国の対豪外交(以下の記事参照)をみればその思いはよく分かるというもの。
・「中国の豪州に対する抗議」(20/11/23)
しかし、このようにまじめにツッコミを入れるとさらに逆上してくるのが中国。ラッド元首相の「日本は対中外交のモデルケース、見習うべきだ」という発言もありましたが、難しいところですね・・。
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今週の動き
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1/31(日)
・英国が中国返還前に生まれた香港市民向けに英国での市民権を取得しやすくする特別ビザの申請受付を開始
・ロシア各地で野党指導者ナワリヌイの釈放を求める抗議デモ
2/1(月)
・中国の海警法が施行
・ベトナム共産党大会最終日(ハノイ、1日前倒し)
2/2(火)
・バイデン大統領が移民制度の刷新に関する大統領令に署名
・ユーロ圏の20年10~12月期の実質GDP成長率の発表
2/5(金)
・新STARTの期限
●中国の海警法の施行
1月22日に制定された中国の海警法が施行されます。この法律は、中国が主張する「管轄海域」内で違法行為を取り締まるため、海警に退去命令や強制退去の権限を与え、武器使用まで認めることを明記しています。
しかも、中国は南シナ海の「九段線」内を含む広汎な海域で領有権を主張しているので、ここでいう管轄海域は、その領域を念頭に置いていることになります。そうであれば、沿岸国に領海やEEZの権利を認める国連海洋法条約に明らかに反することになります。
当然ながら日本にとっても大きな脅威になります。近年の中国のこうした対外積極姿勢の背景については以下の記事で解説しました。防衛力を高める必要性は言うまでもありませんが、まずはバイデン政権との連携を強め、圧力を高めながら、中国とのコミュニケーションを続けることになります。
・「中国船の尖閣海域への侵入」(20/7/8)
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あとがき
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バイデン大統領がNATOのストルテンベルグ事務総長との電話会談の動画を投稿していますが、編集の仕方のせいでしょうか、どうもドラマの一場面のように見えてしまいます(笑)。
少し前であれば、電話会談の様子を動画にして、それをツイッターで投稿することなど考えられないことでした。ツイッターも動画も、政権の広報ツールとして標準化したのは言うまでもなくトランプ前大統領。バイデンも、菅相含め他国の首脳も、そうした世界からはもはや無縁ではいられないということですね。
ただ、冒頭でトランプのツイートをめぐるドタバタについて書きましたが、こういう形での発信が悪いものでは決してないとは思います。やはり政府が市民に伝えるメッセージの強さは大事です。本文でサリバン補佐官の外交哲学について書きましたが、彼の考えるビジョンも、こうしたツールを通じて実現可能になるものと思います。
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2 comments on “今週の動き(1/31~2/6) コロナワクチン接種、バイデン政権の対中外交、米経済対策、共和党トランプ派、ゲームストップ、ダボス、中国海警法”
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ご了承のうえ、ご利用ください。
いつも同じ感想になりますが、内容が多岐に亘るだけでなく、一つ一つが丁寧です。一文は短いのに、よくこれだけの内容が詰め込めるなあと文章力にも感服します。バイデン政権の組織的な動き、まだまだ衰えないトランプと共和党。トランプの時と違って、日本国内の報道も地味になったので、これまで以上にメルマガから目を離せません。
ところで、ミャンマーのクーデターは驚きでした。ちょうどメルマガで現代史として採り上げられた後なので、余計です。改めて読み返しました。いわゆるロヒンギャの問題が、自分がぼんやり抱いていたイメージと違っていたのですが、通常の報道では理解が進まないと思います。今回のクーデターに対する国民の反応、欧米だけでなく日本の対応について、また落ち着いたらメルマガでの解説を期待しています。
いつもありがとうございます。
私としても、そこまで言っていただけると、メルマガ冥利に尽きます。
メディアへの寄稿などでは分量の制約がありますが、メルマガならいくらでも書けます。
とはいえできるだけコンパクトにしたいとは思いつつ、お伝えしたい情報を詰め込むとこうなってしまうのですが、そのように評価いただいて、本当にうれしく思うとともに、安心しました(笑)。
ミャンマーは本当に衝撃でした。まだ予断を許さない状況ですが、情報をフォローしつつ、来週にも見通しを立てるつもりです。よろしくお願いします。