2016/11/16 00:00 | 東南アジア | コメント(5)
ドゥテルテへの支持と反発
■フィリピン大統領、トランプ氏勝利で米国との「けんかはやめる」(11月10日付ロイター)
ドゥテルテの対米外交は米国の新政権発足により変化する可能性があると指摘していましたが(「ドゥテルテ外交④」)、トランプ勝利の直後、早速にこの発言。
さらに、いったんは中止を命令していた米国からの警察向けライフル購入計画についても、中止命令を撤回して、やっぱり計画を続行するとの指示を下したとのこと。
ドゥテルテの発言はブレるので、結論を下すのはまだ早いですが、これまでの路線をひっくり返すことなど彼には造作もない・・・ということは「ドゥテルテ外交③」で述べたとおりです。次のドゥテルテの一手に注目です。
さて、下北のねこさんから、「ドゥテルテ外交③」のコメント欄で、フィリピン国民の中にもドゥテルテに対して反発している人もいる、とのご指摘をいただきました。これは非常に重要な視点です。
当然のことながら、ドゥテルテの「麻薬戦争」に対しては国内でも強い反発があります。8割の国民が「満足している」という世論調査があるとはいえ、4,000人もの国民が殺害されて、懸念が生じないはずがありません。
麻薬戦争に対する批判の急先鋒はフィリピンの国内メディアです。フィリピンは、旧宗主国である米国の文化を色濃く受け継いでいる国であり、議会制民主主義、法曹重視、英語、大衆文化などにそれを見ることができますが、言論の活発さもその一つです。特に「エドサ革命」によりマルコス独裁を倒した歴史もあり、反体制の言論が極めて活発な国です。
そのゆえに、フィリピンの国内メディアは、人権や社会格差問題に対して敏感であり、リベラル色が強いです。このため、ドゥテルテに対しては、ダバオ市長、大統領選キャンペーン中から極めて厳しい批判を展開しており、大統領就任後の麻薬戦争に対しては猛烈な攻撃を浴びせています。
私も、マニラ出張の際、何人もの著名ジャーナリストから話を聞きましたが、彼らの弁は非常に辛辣で、ドゥテルテの麻薬戦争の狙いは恐怖と衝撃により犯罪を抑止することだが、そのために犠牲になっているのは名もない貧しい人たちである、こういった人々は殺されても誰も文句を言わないから、見せしめにされているのだ、ということでした。
これはこれで一面の真実でしょう。しかし、メディアの主張があまりに大きなプレゼンスを占めているのも事実です。
フィリピンのネット、SNSを見ると、熱狂的なドゥテルテ・ファンが多く、メディアのドゥテルテ批判に対して猛烈な批判を加えているのを見ることができます。冒頭の世論調査もそうですが、こうしたフィリピン国民の声は海外ではなかなか見えにくく、フィリピンの国内大手メディアのドゥテルテ批判ばかりが伝わってしまう傾向があります。
メディアはほとんどが財閥の傘下にありますから、実は中立性に疑問があるという声もあります。ドゥテルテは、財閥を含むマニラ・エリートとのしがらみが一切ないアウトサイダーですから(選挙キャンペーンにおいても彼は大口の献金をすべて断っている)、攻撃対象にしやすいのでしょう。
オバマ大統領を「売春婦の息子」と呼んだ発言も、タガログ語(「putang ina」)で行われましたが、これ自体は「shit」程度の意味しかなく、メディアに曲解ないし誇張されたという見方もあります。
話がそれましたが、ドゥテルテの強い個性と政策に対しては、支持と反発が混在しているのは事実です。重要なのは、では、なぜ彼を支持する人がそれでも多いのか、またこの支持は続くのか、という点でしょう。
私が思うに、こういう劇薬のような政策をやり抜くことができるかどうかは、政策の合理性だけでなく、おそらくそれ以上に、リーダーの信頼感にかかっています。
ドゥテルテには30年にわたるダバオ市政の実績があります。また、高学歴で、知性があり、エストラーダと違って、エリートから信頼を得る要素を備えています。
そして、最も重要なのは、人格です。戦争にせよ、テロ対策にせよ、薬物犯罪対策にせよ、人権を制限し、人命を奪いかねないほどの強烈な政策をとるためには、そのリーダーのためなら身を捨てても良い、と思わせるほどの人格的な信頼感が必要となります。
ドゥテルテは、フィリピンの政治家にはめずらしく、汚職と無縁、生活も質素です。酒、タバコ、ギャンブルといった娯楽は人を堕落させるので制限した方が良いという思想の持ち主であり、「ドゥテルテ外交②」で述べたとおり、社会的弱者の救済を信念としています。
あの奔放な振る舞いからすると意外かもしれませんが、実は極めて禁欲的で厳格な抑制の効いた人物像が浮かび上がります。このように、自分自身に対しても厳しいストイックな姿勢がフィリピン国民に信頼感を与えているのでしょう。
シンガポールのリー・クアンユーも、人権の制限をいとわない強権的な政策をとりましたが、それが支持されたのはリー自身の厳格な人格によるところが大きかったと思います。フィリピンの識者には、ドゥテルテをリー・クアンユーになぞらえる人もいます。
最後に補足すると、ドゥテルテは麻薬犯罪組織の壊滅だけでなく、犯罪者の更生プログラムにも力を入れています。訪中によって中国から巨額の経済支援を引き出しましたが、その支援対象の一つは更生プログラムでした。
なお、下北のねこさんは、暗殺の危険も指摘されていましたが、これも重要なポイントです。「ドゥテルテ・リスク」とも言うべき懸念すべき要素はいくつか存在します。これは稿をあらためて解説します。
最後に、参考文献。
エドサ革命以降のフィリピン現代史を詳細に分析した貴重な一冊です。ドゥテルテ政権より前の記述になりますが、フィリピン民主政の根底に流れる重要なポイントをつかむことができるので、今なお有用です。たとえば、フィリピンのリーダーにとっていかに学歴と知性といった要素が重要か、ということがよく分かります。
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5 comments on “ドゥテルテへの支持と反発”
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暗殺されるまでに・・
どれ程殺害出来るか・・
密かに・・指折り数えているのでは・・・???
とは言え・・
彼はベットの上で死ねるとは考えていない・・
恐るべき大統領・・・
トランプも・・その覚悟かな・・
その覚悟を途中で・・挫折させたのは・・オバマ・・
死んで一流になれなかった・・・(笑
麻薬戦争を当事者として必死に戦ってきた市長に、安全保障の問題は二の次になるのは致し方ないか。よく30年も生き延びたものだ。尊敬に値する。他国では麻薬側か、エリート側に癒着してしまう。
麻薬対策に関し、歴史的に考えればフィリピンと中国を批判することは難しい。
麻薬に関する米国の犯罪的偽善性にトランプが興味を持つとは思えない。アメリカファーストだ。あまりに深淵な暗部で、トランプだって本当の協力はできないのでは。自分の暗殺の心配をしなければならなくなる。ドテルテもあまり期待していないので失望もしないだろうが、オバマのようなドテルテの神経を逆なでするようなことは言わないだろう。安保、援助で協力という当り障りのない関係か。ウマは合うのでは。安倍さんもトランプ・ドテルテ・プーチンとウマがあうと思いますが(笑)。
オバマの人権発言へのドテちゃんのバカヤロウ発言。尤もだと思いますよ。
米西戦争、WW2と独立させてやるからとアメリカに騙され続けてきたフィリピン。独立を主張するサマール、レイテでは現地人が米軍に皆殺しにされた。何十万人も大量虐殺されてる。そのレイテの勇猛果敢なモロ族の生き残りの子孫がドテルテ。
自分のことは棚に上げ、倫理の高みから理想論を語りながら大量虐殺するアメリカに「人権」について説教されるいわれはない。オバマがいくら理想を語ろうと中東空爆で大量難民を発生させ、ヨーロッパを大混乱に陥れたオバマなど信用しない。ジョンソン大統領はベトナム人の全ての村を破壊し尽くすよう何度も命じ、「ベトナム人を人間として扱うな」と命じ、兵士は無関係な農民を遊び半分で狙い、家に火をつけたりソンミ村事件を起こした。こういうアメ公が戦前の日本を悪魔呼ばわりする。原爆投下を正当化したいアメ公。それに乗っかる中韓。
ドテちゃん、オバマでなくアメリカの新大統領と話し合いたいということかもしれませんね~。
私の尊敬する外務省OBのM氏の友人のフィリピン通が、P人の気質を語る….「P人はアメリカの悪口を言うが、本音は米軍に居てくれ、居てくれ」と。P人は口にする言葉と反対の気持ちを持ってると。ニクソン回想録にも同様なことが書かれてるようです。
エゲレスが7つの海を支配していた頃、使役・クーリー苦力として盗難アジアに中国人を連れて来た。その中国人が現地人に麻薬を売り一儲け。それが、盗難アジア華僑財閥の原点です。ドテちゃんが麻薬を追及すれば、麻薬の元締め中華に辿り着く。フィリピンの富をたった3%の中華P人が独占する。ドテちゃん暗殺を心配する由縁です。
広大なカリフォルニアの敷地にある大豪邸に住む中華P人は、言います。
「フィリピンは我々の植民地だ」
かつてリー・クアンユーさんの親戚(故人)を存じ上げておりましたが
あんな下品なよそ者の手先と一緒にされたら
リーさんはお怒りになるでしょうね…
トランプ・ドゥテルテ・プーチン・アベ等々には
各種メディアがとても気を使っていますね…
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)!!!
(‘-’*)(,_,*)(‘-’*)(,_,*)☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
本文中に取り上げられて、超とっても光栄です。
JDさんのレベルのブログにきちんと取り上げてもらえるには、少なくともこれくらいの情報鮮度が必要なんだなあって感じました。
JDさんやぐっちーさん、ベルドンさん、など、Gucci Postの連載陣は、それこそ生の出来事、少なくとも超良質な情報に接し、それをそれぞれの眼を通して記事にしてるわけで、私ごときがコメントしてもそれは感想であって、情報としての価値はないということをきちんと自覚しなければなあって思いました。
JDさんや、ぐっちーさんのブログはとても頭を刺激されます。いろんな考えが浮かんできます。ただ、わかったような勘違いだけはしないよう気をつけたいなあって思います。
(ベルドンさんのブログは、ツボにハマれば、むちゃくちゃ思い出刺激になります。ベルばらやアンジェリク、王家の紋章、塩野七生先生の著作、デイモスの花嫁、山本鈴美香・青池保子先生の海洋もの歴史漫画の色んなシーンが浮かびます。)
マリアちゃんには、本当に感謝だわ。(フィリピンの女の子って、みんなマリアちゃんばっかりなんでしょうか?花子さんみたいなもんなのかな?)
ただ、上半身裸の眼をとろ~んとしたひと目でそれって分かる麻薬中毒者や、詳しい内容もう思い出せないけど、ホモじゃなく、ゲイじゃなく、優しいオカマさんたちが、みんな否応なく麻薬中毒になっていく、コミュニティの構造、フィリピンの街や人の持つ本当の危険なんか忘れないうちにもっと書いておけばよかったなあ。
うまく思い出せないけど、特に外国人は、公務員や警官も含め人に対して油断してはダメなとこだそうです。
ドゥテルテさん、そういった意味での綱紀粛正も期待されてます。