2016/10/28 00:00 | 東南アジア | コメント(4)
ドゥテルテ外交③
(出張中に訪問したフィリピン外務省)
「ドゥテルテ外交②」の続きです。
前回は、ドゥテルテ外交の外交を形作る要素について説明しました。今回は、それをふまえて、ドゥテルテ外交がどこに向かうのか分析します。
まず、ドゥテルテ外交の背景事情について留意したいのは2点です。
●ドゥテルテはバカではない
彼の過激な言動をみると、あたかも「フィリピンのトランプ」、暴言を繰り返す裸の王様のように見えますが、実は、ドゥテルテは、頭脳明晰で、合理主義者、現実主義者です。その頭の良さは、国内では異論がありません。アンチ・ドゥテルテの急先鋒であるメディアさえ認めています。
考えてみれば、「フィリピンのトランプ」が90%の支持をとれるわけがありません。フィリピン国民は、彼のキャラクターの面白さよりも、実績とリーダーシップに強い期待をかけているのです。
(なお、ドゥテルテ本人は、「社会主義者」を自称していることもあり、実はバーニー・サンダースに共感しているそうです。「フィリピンのトランプ」よりは「フィリピンのサンダース」と言いたいところでしょう。)
そんな彼をポピュリストと呼ぶ人もいますが、エストラーダ元大統領などと違って、ドゥテルテは貧困層やミンダナオの人たちのみならず、マニラのビジネス界を含むエリート層から高い支持を受けています。
彼の外交が「反米」とすれば、それをもって喜ぶフィリピン人は一握りです。むしろ、多くのフィリピン人は、ドゥテルテの挑発的な言動を懸念しています。したがって、反米を打ち出すことをポピュリズムとみることは誤りです。
また、史上最強ともいわれる圧倒的な権力をもつドゥテルテでさえ、こと対米関係については、彼一人で決めることはできません。すでに閣僚、議会からは反発が出ており、ドゥテルテも、自分の発言は個人的な考えであって、具体的な外交政策はこれらの関係者と相談しなければ決められない、と述べています。
ここで、何よりも注視すべきは軍です。フィリピン軍はフィリピンが米国から離れることを絶対に許しません。この点、ドゥテルテが師と仰ぐフィデル・ラモス元大統領が公然とドゥテルテの外交を批判し始めた点に留意すべきです。
なお、ドゥテルテのチームについては、ペルドンさんからおたずねがあったので、来週に詳しく説明します。
●ドゥテルテは「親中」でもない
彼の華人のバックグラウンドをもって親中とする見方がありますが、これは誤りです。
フィリピン社会には多くの華人がいますが、インドネシアやマレーシアと異なり、フィリピンの華人は混血を含む社会的な同化が進んでいます。アキノやドゥテルテのように華人系のエリートに対してエスニシティを理由とした違和感が寄せられることはありません。
そして、これが重要なところですが、フィリピンの華人には、現代の中国や共産党に対するシンパシーはありません。たしかに財閥の多くは華人系ですが、それは経済的な実利の観点から対中関係を重視しているだけであり、一般的なフィリピン人の対中感情は、領土紛争や中国人観光客のマナーの悪さにより、極めて悪いです。
しかも、ドゥテルテはナショナリズムを重視しており、それが米国を冷遇する理由の一つです。中国の圧迫外交がフィリピンのナショナリズムと正面から衝突する場面があれば看過しないでしょう。
以上にかんがみると、「ドゥテルテ外交②」で挙げた背景事情の中で何が一番重要な要素かといえば、それは外交戦術、すなわち現実的な利益にあることが分かります。
反米思想は一つの要素ではありますが、中核ではないでしょう。中国でのスピーチなど見ると分かりますが、彼の発言は漫談調で、一種のエンターテイメントです。
要するに、ドゥテルテは、中国と米国を天秤に掛けることで国益の最大化を狙っているわけです。その底にあるのは現実主義、合理主義であり、実利を見出せば、おそらく、これまでの路線をひっくり返すことなど彼には造作もありません。
この考え方自体は外交としては正当であり、おかしいものではありません。問題はやり方です。
たしかにドゥテルテの手法は乱暴で、米中という超大国を相手に危険なゲームを仕掛けようとしています。いくら不用意な発言とかジョークといっても、米国としてはいちいち真に受けて対応せざるを得ません。米国のメンツをつぶすことは大きなリスクですから、そこは大いに憂慮すべきでしょう。
しかし、根っこにあるのが駆け引きであれば、たとえば米比同盟の見直しといった制度の改変に及ぶことはあり得ません。これがドゥテルテ外交のリスクを見極めるポイントとなります。
とはいえ、逆に言えば、今の外交によって利益を得ることができると考える限り、ドゥテルテの外交は変わらないでしょう。危険なゲームは続くことになります。
では今後の展開を読む上で注目すべきポイントは何か。次回述べます。
当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。
4 comments on “ドゥテルテ外交③”
コメントを書く
いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。
日本の役割を・・
どのように計ってるのか・・
JDの分析を・・・(笑
BSフジのプライムニュースでエドワード・ルトワックは「アメリカが大した軍事支援をしなかったので、フィリピンはアメリカに失望して、中国との妥協に走った」という解釈をしていましたが、このような見方はどの程度まで妥当なのでしょうか。
また、このようなドゥテルテを相手にして日本はどのように対応するべきなのでしょうか。
ドゥテルテの親日姿勢やダバオ市長としての実績の高さを見るにつけ、日本も肚をくくってフィリピンとの関係を大幅に前進させるべきではないかと思います。アメリカから期待されている仲介役・宥め役をこなすためにも必要だ・・・というのもありますが、それを抜きにしても、「フィリピンでビジネス関係を発展させ、親日世論を醸成し、将来的には軍事同盟」というところまで考えると・・・日本の国益上のビッグチャンスが到来中なのではないでしょうか。
オバマ大統領は大変怜悧な大統領ですよね、初っ端から自動車会社の救済やら
対外戦争の方向転換やら、皆保険の創設などまーよくやりましたね、有能な方
だと思います。
一方のドゥテルテ大統領はダバオ市長時代から型破りな人なんですね
フィリピンの事情は知らないですが、貴ブログを読む限り良いえばエネルギッシュ
悪く言えば汚職&犯罪が治らない国なんですね。
大統領になるや初っ端から派手に麻薬捜査(戦争?)、型破り外交で粗野な人物と
思いきや頭脳明晰でバランス感覚もある。
両大統領の気質、性格、経歴、ファッションが違いすぎて
お互い本能的、生理的に合わないと感じたんですかね。
北東アジア、東南アジアではオバマの理知的な外交より
ドゥテルテ流外交が有効なんでしょうね。
個人的にフィリピンから日本に来てる人って、結構好きです。カトリック教会の神父さんや、飲み屋さんのお姉さんとか、明るくて、優しくて人当たりがいいので話していて楽しいです。
ただ、一人だけ、マニラからきた美人で、それこそ木製バットみたいに長くてきれいな褐色の脚をしていて、歌がとてもうまくて、私がカラオケでグロリア・ゲイナーの I Will Surviveを歌った後に、もっとすげえ上手く歌って大恥を掻かせてくれた子だけは絶対許せませんが。それでも大好きです。
その子にフィリピンの大統領、ドゥテルテさんになって良くなるねって、褒めたら、本当にぶち切れられました。
ドゥテルテが逮捕して殺害した人たちには家族や子どもがいるんだよ。その子どもたちがドゥテルテを許すとは絶対に思わない。フィリピンは誰でも銃が持てるからいつかあいつは殺されるとか、知り合いのニューハーフ(麻薬をやってる確率が高いそう)がみんな警察に連行されて一人も帰ってこない、みんな土に埋められたとか、見る景色が違うと違うんだなあというのを実感しました。
ちなみに、マニラの人から見た、ダバオは東京から見た大阪みたいなものだそうです。訛りが強くて言葉はわからないし、マニラはスペイン系の混血が多く鼻が高くて、スタイルがいいのに対して、ダバオは鼻の穴が上向きで(ちょっと書くのは顰蹙ものなので以下省略)とか、いずれにせよ、混血が多い多民族でしかもそれぞれ島々に分かれて住んでいることで独特の対立感情もあるってことが想像されます。
地域感情もあるということは、意外にドゥテルテさん嫌っている人も多いかもしれません。
残された家族、特に子どもに対するケアはきちんとやっといたほうがフィリピンの治安やドゥテルテさんやその家族の安全のためにもいいんじゃないのかなあ。
個人的にはドゥテルテさん、外交上の最大の懸案である南沙諸島問題を棚上げにして、対中国のリスクを先送りして、しかも多額の援助を引き出し、国内は最大の懸念である治安問題を麻薬撲滅や夜間外出禁止を強行に進める、まるで戒厳令、ってことで解決しているなどよくやってるって思うのですが、強く進めることでドゥテルテさん自身の安全に対するリスクが生まれつつあることが気になります。
あとアメリカに対して悪口を言ってることも、怒ってました。まあ、オバマさんは悪い人でも人権を重んじる弁護士だし、ドゥテルテさんは悪い人は否応なくやっつける検事で相性は悪いでしょうねえ。