2016/10/27 00:00 | 東南アジア | コメント(2)
ドゥテルテ外交②
(出張中に訪問した聖アグスティン教会。マニラにある世界遺産で、私が訪問した前日の9月18日にドゥテルテ大統領が結婚式に出席するため訪れたとのこと。)
「ドゥテルテ外交①」の続きです。
米国を挑発し、中国に接近するドゥテルテ外交の狙いは何か。この背景にあるのは以下の3点です。
●外交の経験不足
ドゥテルテは、ダバオ市の政治を30年にわたり仕切ってきましたが、外交に関しては完全な素人。しかも、外交に限らず過激な発言を繰り返していますが、そのほとんどは彼一流のユーモア、レトリックです。
発言の直後に、「不用意な発言だった」と弁明し、撤回し、謝罪することは日常茶飯事。「あいつを殺す」と言ったあとに「あれは間違いだった、ゴメン」と謝った例は沢山あります。
特に外交に関しては、大統領に代わって閣僚が解釈、修正、撤回する場面が頻発しています。そのことをフィリピン人はよく分かっています。私が会ったフィリピン人は、有識者から市井の人に至るまで、ドゥテルテの過激な発言は「ジョーク」、「真に受けない」と述べていました。
ドゥテルテの演説を見ると分かりますが、とにかく彼の話は面白い。ちょっと高い声で、英語、タガログ語、ビサヤ語を混ぜながら、ボソボソしゃべるのですが、聴衆はウケにウケます。
過激な発言も、その後の弁明や謝罪も含めて、話芸の一部分であり、愛すべきキャラクターと受け止められています。そういうわけで、サービス精神を発揮して、口が滑るのは彼のスタイルであり、外交ではそれが許容範囲を超えた不注意な発言になっている面があります。
●個人的感情
第一に、人権侵害批判に対する反発。これは感情論というかプライドの問題です。
第二に、ミンダナオ島における米国人の活動(爆破事件、暴行事件など)に対する反発と青少年期の体験(左派思想)。ミンダナオ島の人たちの米国に対する愛憎は、沖縄の人たちの感覚に似ています。
また、ドゥテルテは「社会主義者」を自称しており、貧困層、イスラム教徒、LGBT、共産党といったマイノリティに対する配慮に強いこだわりをもっています。この左派思想が米国への反骨精神につながる面があります。この点は次回も述べます。
第三に、米国への従属という感覚に対する反発。これは歴史観とナショナリズムの問題です。
ドゥテルテは歴史に詳しく、マルコス時代とエドサ・レジームを超越した、ナショナリズムに基づく新たな国家像を作りたいという志向があるようです。また、植民地時代から続く、米国と結びついた「マニラ・エリート」に対する反発もあるとみられます。
●外交戦術
第一に、中国に対するアピール。目的は経済上の実利。これは次回詳しく述べます。
第二に、米国との駆け引き。目的はフィリピンの存在感を高めること。これも次回述べます。
第三に、和平交渉を進めている国内の反米勢力(イスラム独立勢力、共産党勢力)へのアピール。ドゥテルテはMNLFや共産党ゲリラのトップと親交を結んでいるフィリピン唯一の政治家であり、これら反政府勢力との和平は、麻薬戦争、連邦制の導入と並んで、彼の政策アジェンダの中でトップクラスの重要性をもっています。
このように、ドゥテルテの未熟さ、個人的事情、戦術的な駆け引きが混在して、彼の外交を形作っています。
では、こういった要因がどのように影響し、今後、ドゥテルテ外交はどこに向かうのか。これは次回述べます。
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2 comments on “ドゥテルテ外交②”
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戦術と戦略は・・
難しくありませんが・・
問題は・・
彼を支えるブレーンの層の厚さ・・
それが・・気になるのです・・
JDさんの見立ては・??・・・(笑
中国からは凄いお金がもらえるのだから
リップサービスは当然 とがめても仕方ない
中国は開発支援の結果の実利も厳しく回収するだろから
その時にフィリピンが強権を発動できるかどうかですね
支援の約束も中国の都合で焦らせれる可能性もある
日本は額が少ないが約束は守る。 それも
ドゥテルテはわかってるのでしょう
オバマやコロンビア大統領のようにノーベル平和賞を
もらっても理想だけで結果が悪いよりは、
何とかしようとするデゥテルテのほうが新興国向けの
政治家でしょう あせって国体を壊して
イラクもシリアも大変でしょう
国ごとに事情は違うし、アメリカも建国当時は
インディアンをバンバン殺してる 時間が必要
ドゥテルテのほうが”政治家”の定義にあてはまる
割合が多くプロかも