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2016/11/07 00:00  | 米国 |  コメント(8)

米国大統領選:最後の注目ポイント


今週火曜は11月8日、米国大統領選の投票日です。

全世界が注目する運命の日を直前に控え、本日は最後の注目ポイントを解説します。

トランプの追い上げ

「米大統領選、トランプ氏支持率がクリントン氏を逆転=WP/ABC」(11月1日付ロイター)
「米大統領選、クリントン氏が3ポイントリード=WP/ABC調査」(11月4日付ロイター)

WP/ABCの世論調査でトランプの支持率が逆転した、というニュースが世間を騒がせていますが、このHPを読んで下さっている人たちには、これが何の意味もないことはもうお分かりでしょう。

大統領選の予想は、選挙人団(electoral college)すなわち州ごとの動向を見ないと意味がありません。選挙人団を予想するサイトはいくつかありますが、定番サイトのうち最もトランプ寄りの予想をしているReal Clear Politicsの最新の予想を見てみましょう。

これによると、11月4日時点でヒラリー票は216、トランプ票は164。ヒラリーは依然大きくリードしています。

しかし、10月29日時点の272から大きく後退し、過半数の270を切っています。10月28日のFBIの捜査再開発表が影響を与えているのでしょう。トランプが追い上げを見せており、ヒラリー圧倒的優位から接戦に近づいている状況は否定できません。

トランプ勝利のシナリオ

ではトランプ勝利のシナリオはどのようなものか。これはいくつか考えられます。たとえばワシントンポストは4つのシナリオを提示しています。

前述のRCPの最新予想に基づいて、私が最もイメージしやすいと考えるシナリオを述べると、以下の3条件が満たされるときトランプは勝利します。

①前回の12年大統領選でロムニーが勝利した州で全勝
②トランプがリードしたことがある激戦州6州(GA、OH、AZ、NV、IA、FL)で全勝(※GA以外の5州は僅差)
③拮抗しているNCで勝利

この3条件をすべてクリアする可能性は極めて低いです。レッド・ステートを取りこぼすことなくすべて勝利した上で、さらに僅差でリードしている州を含む重要州の多くで勝利することを前提としているからです。

これまでの大統領選では、フロリダ(FL)(代議員数29)とオハイオ(OH)(同18)という大票田の2大激戦州を制した候補が勝つ、というのがセオリーでしたが(「米国大統領選の注目点②:各州の動向」「注目点③:激戦州の動向」参照)、トランプの場合、これだけ追い上げてなお、FLとOHの2州を制しても十分ではないのです。

もちろん、上記激戦州ではトランプがリードしたとの結果もありますから、全勝する可能性もゼロではありません。しかし、僅差のリードは誤差の範囲であり、どちらが優勢と言い切ることはできません。

しかも、今回の大統領選では、いずれの候補者に対しても多くの有権者がすでに投票態度を決めており、メール問題の再捜査がこれらの有権者に与える影響は限定されます。

したがって、トランプが前述の重要州ですべて勝利するのは、やはり至難の業です。

ペンシルバニアとミシガン

ここまではよく言われている話です。しかし、もう一つ、終盤戦において注目すべきポイントがあります。

それは、ペンシルバニア(PA)(代議員数20)とミシガン(MI)(同16)という、これまで民主党が6連勝しているブルー・ステート、それも代議員数が多い重要州において、トランプが猛烈な追い上げを見せていることです。

この二つの州は、「注目点③:激戦州の動向」で述べたとおり、「ラストベルト」すなわち移民と自由貿易によって打撃を受けたと感じる白人労働者が多く居住する地域を含んでいます。これはトランプが有権者の怒りを掘り起こした地域です。

MIはデトロイトの自動車産業があるのでイメージしやすいと思いますが、PAも北東部の代表州というイメージがありますが、実は東西に長く、西側は中西部に近い環境にあります。

この2州を万が一にもヒラリーが落とすようなことがあれば、ヒラリーは勝利とカウントしている票を36も失うことになり、前述のトランプ勝利の条件は大きく緩和されます。

もっとも、民主党も、当然のことながらこの状況はよく分かっています。このため、ヒラリーは、投票日の直前の遊説地にこの2州を選びました。

メール問題の再捜査により、不確実性が増したことは確かです。しかし、接戦の可能性が出てきたことで、ヒラリー陣営とヒラリー支持の有権者の危機感が増し、これまでの楽勝モードが一転、かえって万全の準備を行うに至った、という面もあるでしょう。

接戦・逆転のシナリオ

以上より、以下の結論が導かれます。

ヒラリー勝利の予想に揺るぎはないが、地滑り的勝利の可能性は低くなり、接戦になる可能性が高まっている
②トランプがクリアすべき条件は極めて厳しいが、PAとMIがひっくり返れば、万が一の可能性は高まる

いずれにしても、このように、選挙人団すなわち州ごとの動向を見なければ、意味のある分析はできません。全国的な世論調査を取り上げて、トランプが逆転した、という見出しを作るのは、メディアの話題作りに過ぎません。こういう無益な情報に踊らされないようにしましょう。

最後に少しだけ補足すると、「注目点②:各州の動向」でも述べましたが、米国の大統領選のシステムは、選挙人団の地理的分布と人口動態から、基本的に民主党に有利なものとなっています。

前述のワシントンポストの記事でも書かれていますが、共和党の劣勢はトランプの責任にとどまるものではなく、構造的な問題です。にもかかわらずここまで民主党が押し込まれているのは、絶大な不人気候補であるヒラリーの不甲斐なさとも言えるでしょう。

トランプ旋風をBREXITに重ね合わせる人もいますが、このように、投票のシステムが異なるので、とても同列には論じえません。

接戦の結果になれば、「ヒラリーのメール問題の捜査再開」で述べたとおり、ヒラリー新政権は出だしから相当苦労することになります。これは選挙結果が出たところでまた書きます。

ということで、まずは11月8日(日本で結果が分かるのは9日午後)を待ちましょう。

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8 comments on “米国大統領選:最後の注目ポイント
  1. カマキリマン より
    バックドロップ不発

    NW日本語版の「トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実」という記事がありましたが、トランプが敗北したからといってアメリカ国内の根本的な問題が消えてなくなるわけではなく、「オレたちにも声を上げる権利がある。手段がある。ずっと無視されたままじゃないぞ」と学習した白人貧困層はますます声を大きくしていくのかなと思いました。
    今回ヒラリークリントンが勝ったとして、次回の大統領選はどうなることか。
    「言葉遣いは礼儀正しいけど言ってる内容は結局トランプです」みたいな人物が出てきたらどうなるのか。

  2. ペルドン より
    中折れFBI

    こんな結論なら・・
    黙っていた方が良かった・・
    良かったが・・
    FBIのメンツにかけ・・
    口出した・・
    出したが・・形勢は一気にトランプに流れ始め・・
    オバマも口出した・・コーリー長官も慌てた・・

    米国民が如何に捕えるか・・結果は選挙に・・・(笑

  3. JFKD より
    中折れでも 見事命中

    ぺルドンさん、やはり正解はオバマでしたか。よく選挙戦当初から見抜きましたね。私は、ぐっちーが2度も間違えましたよ、とぺルドンさんが指摘してからやっと気付きました。皆、不満だ、何かおかしいと無意識にそう思っていても理性がそれを妨げた。言葉まで行かない。意識として気付かない。そこを上手くトランプは突いた。ピエロの必要とされる由縁だ。
    もうヒラリーが当選しても長く持たないだろう。まさに国民が捕えなくてはならないかもしれない。オバマより先に大統領にさせ、別の歴史を花開かせたほうがよほど良かった。世界の外交の歴史はまるで違ったかもしれない。難民もウクライナも南シナ海も。タイミングさえ誤らなければワルはワルなりに役に立つ。善人は手の施しようもない。

  4. JD より
    ペルドンさん

    FBIの捜査は選挙後に書くつもりでした。
    選挙前に発表したのは、選挙後まで情報を止めることで組織が取り返しのつかないダメージを負うことをFBIが怖れたからです。このタイミングであっても、​選挙前の発表の方がまだマシ、と判断したのでしょう。
    したがって、投票日前に起訴することがあり得ないことは最初から分かっていました。あるとすれば、せいぜい途中経過の発表であり、そうであればヒラリーに利することになります。
    ここまでは予測できたところです。だからこそ本稿の内容になりました。
    ただ、不起訴の決定まで突き抜けるのは予想外でした。これについては選挙後に書きます。

  5. JD より
    カマキリマンさん

    トランプ的な存在が今後、一定の有権者の声を代弁することは避けられませんし、これはこれで民主主義の帰結でしょう。
    問題は、今の二大政党が米国民の民意を適切に反映できているかという点にあると思います。特に共和党がどういう道を歩むのかです。
    これも選挙後に述べます。

  6. Hertopos より
    日曜日夕方、FBIが再調査の完了と新しいメールなしの確認発表しました。

    現地時間日曜日夕方、FBI長官から再発表があり、すべてクリア、FBIは7月の結論どおり、起訴に値する行為なしと再確認しました。まあすでに、いろいろけちがつきましたが、すくなくともヒラリーの勝利後にそうそう共和党が好き勝手にヒラリーを査問するのは、これでかなりやりにくくなりました。Market Futureが久しぶりに上向いてます。そして金相場のほうは下げそうです。ヒラリーの毅然とした態度に救われたものの、正直ここ一週間は差し迫った仕事以外に何も出来なかった。日本にいると、トランプサポーターの本当の怖さはぴんとこないのでしょうね。物理的にひどい目にあうかもしれないと言う恐怖があります。それが一番はっきり出ていいるのはヒスパニック系の選挙民です。ほんとうに、笑い事じゃないです。こういう感じだと、日本の再軍備とかありそう。まあ、天皇陛下とアメリカが嫌がるだろうけど。

  7. 牧神の午後 より
    2020

    このまま行くと、2018年の中間選挙は民主党にとって試練になりそうです。

    オバマ政権も最初は、下院で250位持っていたけれど、今は、200以下。上院でも過半数を失ってます。

    今回は、共和党から見れば私生児みたいな大統領候補が立ってしまったので、上下両院とも民主党が有利。

    でも、2018年には、民主党は史上最も人気のない大統領の元で、元々与党に不利な中間選挙を戦う事になる訳で、共和党の勝ち。

    こうなるとネジレ政権ですから、大した成果は上げられない。

    そうすると、2020の大統領選挙は、73歳の人気もなく、これという成果もない現職に共和党候補が挑戦するという構図になりそう。

    共和党から見て、客観情勢が有利なら、穏健派の候補で戦う方が勝ち易い。

    こんな事を考えながら、今回トランプ候補という鬼っ子を産んでしまった候補者選出の手続きの改革に共和党が着手するのではないかな? と思います。

  8. 下北のねこ より
    ボロ儲け

    昨日買いなおしたドル円、超思い切って50000円分が上ってる。(セントラル短資で1000円単位の50口50000円だぜぃ)
    自信に溢れたJDさん、ぐっちーさんの分析に感謝です。あたしゃ、臆病者なので、正しいというだけでは投資ができないくちなので、今回はいいおこずかい稼ぎになりました。開票開始前に利益確定しますです。ありがとうございます。☆-( ^-゚)v

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