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2016/11/15 00:00  | 東南アジア |  コメント(4)

アウンサン・スーチーの訪日


安倍総理大臣とアウン・サン・スー・チー・ミャンマー国家最高顧問との会談等(11月2日付外務省)

フィリピンのドゥテルテ大統領に続いて、もう一人の東南アジアの大物ニューリーダーの初訪日。

こちらはドゥテルテと違って、外交面での懸案や派手なイベントはありませんが、中国が取り込みをはかっているという意味ではフィリピンと状況が似ているところがあります。

アウンサン・スーチーは日本に先立ち8月に訪中していますが、このとき中国は、習近平国家主席、李克強首相が会談するなどの厚遇をみせ、しかも訪中の直前にコーカン族など少数民族武装勢力が停戦に応じるという事態も発生。中国が裏で手を回したのは明らかです。

少数民族武装勢力との和平は、ミャンマー政府にとって最重要課題の一つであり、アウンサン・スーチーも並々ならぬ力を注いでいます。

その背景にあるのは、ミャンマー全土の治安回復という意味ももちろんありますが、特にNLD政権にとって重要なのは、憲法改正のために避けてはとおれない、と考えられることです。

「ミャンマー総選挙:NLDの勝利」で述べたとおり、アウンサン・スーチーにとっては、国軍が大きな政治的権限を握る現行憲法を改正し、ミャンマーを真の民主国家にすることが悲願です。

当然、国軍にとってはおいそれと応じることができない問題ですが、国軍には相応の論拠があります。それは、内戦状態にあるミャンマーの治安を維持し、少数民族和平を実現するためには、国軍の力がどうしても必要、という現実です。

このためアウンサン・スーチーにとっては少数民族和平は、一刻も早く解決したい喫緊の課題となります。そして、この問題の鍵を握るのは中国です。ワ族コーカン族といった中国国境地帯にいる武装勢力は中国の影響下にあるからです。

そして、少数民族和平、汚職の撲滅を含めた法の支配の確立といった優先課題にリソースをとられ、経済政策まで手が回っていないのが今のミャンマーの現実です。

新政権が3月30日に発足して半年以上が経過していますが、いまだしっかりした形で包括的な経済政策が示されたことはありません。何度か発表されるという機会があったのですが、いずれも選挙公約の繰返しのような抽象論にとどまり、期待を裏切られました。

政策に十分手が回っていない根本的な理由は、NLDの人材不足です。これは昨年11月の選挙前に「ミャンマー総選挙」で指摘していたとおりです。

NLDに人材がいない結果、すべての重要判断がアウンサン・スーチーに委ねられ、このため政策決定が遅れるという危惧された事態が生じています。

先ほどの経済政策の策定もそうですが、外国投資委員会のメンバーの人選がいつまでも決まらず、政権発足後3か月もの間、外国直接投資が中断するという事態も生じました。

重要な政策決定は、アウンサン・スーチーとその側近であるウィン・テイン、ニャン・ウィン、ハンター・ミン、ウィン・ミン(下院議長)、ゾー・ミン・マウン(マンダレー管区首相)というNLDの幹部(高位の中央執行委員)の間でなされている、と言われます。

いずれも優れた人たちですが、これだけの人たちだけですべての政策を決めることには限界があるでしょう。実務的知見のある中堅人材の育成は喫緊の課題です。ここは、日本も貢献できる分野です。

なお、最近中央執行委員入りを果たしたピョー・ミン・テインは、15年の投獄経験を経てNLDの実力者となり、ヤンゴン管区首相という要職に就いた人物であり、46歳と若く、スーチー氏が後継者として期待しているともいわれる人物です。

参考文献です。新政権のミャンマーを理解するのに絶好の一冊が最近発売されました。

永井浩他編『「アウンサンスーチー政権」のミャンマー 民主化の行方と新たな発展モデル』

最新の状況を取り込みつつ、様々な分野のミャンマー専門家が多角的に分析しており、充実した内容の一冊です。特に朝日新聞ヤンゴン支局長の五十嵐誠氏による冒頭の論考は、新政権の特徴と課題(上記の国軍との関係含む)を精緻に分析しており、ここだけでも読む価値があります。

五十嵐支局長は、私も個人的に知っていますが、軍政時代からミャンマーに留学している筋金入りの専門家です。まだ若いですが、日本にここまで最新事情に精通したジャーナリストはいないだろうというほどの第一人者です。

最新の情報はありませんが、前政権までのミャンマーを歴史的・思想的に掘り下げたい方にはこちらが良いでしょう。

阿曽村邦昭他編『ミャンマー: 国家と民族』

値段は張りますが、ミャンマーの専門知が凝縮した一冊です。徹底的に勉強したい人の期待には十分にこたえてくれるでしょう。

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4 comments on “アウンサン・スーチーの訪日
  1. より:
    スーチー閣下

    ビルマ人と言うより・・
    教育の中身から・・ブリティシュ・ミャンマー人と見られていますが・・
    とすると・・
    思った程・・長くはないのでは・・
    気掛りですね・・・(笑
    中国の影が・・・

  2. ペルドン より:
    また・・ル・・が

    疲れると無意識に・・
    大変失礼をば・・JD閣下・・・(笑

  3. 下北のねこ より:
    カーリル

    図書館の蔵書検索サービスです。
    JDさんの推薦書、面白そうだし、高いので借りて読もうかなと思ったのですが、今回も岩手県立、盛岡市立になく、ここまでは仕方ないけど、国立大学法人岩手大学にもないのは困ったもん。東京大学まではともかく、こんなことではいつまでたってもトンペーにも追いつけないぞ。ヽ( )`ε´( )ノプンプン!

  4. maririnn より:
    職場のそばの

    東京、文京区図書館に本があり、すでに予約されています。どなたかJDさんのコラムを読んでいるみたいw

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