2015/11/06 00:43 | 東南アジア | コメント(3)
ミャンマー総選挙
■ミャンマー総選挙 スー・チー氏らヤンゴンで集会(11月5日付BBC)
ついにミャンマーの総選挙が次の日曜(8日)に実施されます。自由で公正な選挙が行われるのは1960年以来、軍政以降は初めてのこと。
1990年の総選挙では野党NLDが大勝しましたが、選挙結果を反映した政権は発足せず、2010年の総選挙ではNLDがボイコットしました。したがって、今回がまさにミャンマー民主主義の真価を問われる選挙になります。
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基本的な構図は、軍事政権をそのまま引き継いだ与党USDPとアウンサン・スーチー率いる最大野党NLDの一騎打ちです。現在のテイン・セイン政権は、2010年の発足以来、誰もが驚くほどに急速な自由化を進めており、国内外で非常に高い評価を得ています。
そうするとUSDPもかなり善戦するのかと思われますが、注意すべきは、ミャンマー国民は50年もの長きにわたってこの国を支配してきた軍事政権をとことんまで嫌い抜いていることです。このため、USDPに対してはかなり厳しい目を向けています。いかにテイン・セイン大統領に人気があっても、選挙の際に国民が見るのは「現政権」ではなく「USDP政権」=軍事政権です。
また、都市部では、後述するようにアウンサン・スーチーに対する批判の声が上がっていますが、農村部では、その知名度の高さから、カリスマ的な人気を誇ります。したがって、基本的には1990年の総選挙のときと同じで、NLDが圧倒的に有利といえます。
問題は、いかにNLDが支持を集めているとはいっても、過半数を獲るレベルまでいけるかです。ミャンマー立法府の特徴として、軍人議員の議席という制度があります。軍人議員は国軍司令官によって任命されるため、選挙を経ることなく議員になりますが、これが上下両院の25%を占めているため、NLDがトータルで過半数を獲るためには、総選挙で67%以上の議席を獲得する必要があります。
問題になるのは、USDPとの争いというより、少数民族政党との関係です。ミャンマーは7つの管区(district)と7つの州で構成されており、管区には主にビルマ族、州には主に少数民族が居住しています。NLDは管区では圧倒的な支持を集めていますが、州では少数民族政党がいるために多数を獲れるかが分かりません。
特にシャン州とラカイン州の少数民族政党は組織が強く、地元民の強い支持を得ているため、どこまでいけるか予測不能です。大ざっぱなイメージですが、管区で7~8割、州で4~5割の議席を獲るというのが合理的な予測ですが、これだとギリギリ過半数には届きません。
このため、NLDとしては、事前に少数民族政党と共闘しておくことが死活的に重要だったのですが、アウンサン・スーチーは少数民族政党との共闘に対して極めて消極的でした。少数民族政党の候補者が立つ選挙区にNLDの候補者を立て、少数民族政党から「約束が違う」などと非難されたこともあります。
もし今回の選挙の結果、過半数にギリギリ足りない結果に終わるとすれば(この可能性は十分にあります)、少数民族政党との共闘を選択しなかったことは痛恨の極みとなります。この少数民族政党に対する姿勢に見られるように、最近のアウンサン・スーチーには、「独裁的」とも非難される振る舞いが目立ちます。
たとえば、自身には憲法上大統領資格が認められないにもかかわらず、NLDの大統領候補を明らかにしない(自分は大統領でなくともそれを超える国のリーダーだ、などと院政を示唆するような発言もしています・・これは国の統治制度、民主主義を否定する発言とも取られかねません)、次世代のリーダー(元学生運動家のグループ「88世代」の若手スター)をNLDの候補者として起用しない・・・などです。
もっとも、最近の選挙予想は当てになりません(笑)。速報結果は10日に出ると言われていますが、大勢が分かるのはもっと先になる可能性もあります。
気になるのは、仮にNLDが政権をとった場合、どんな政策がとられるかです。上記のとおり、テイン・セイン政権の5年間の統治は、基本的には非常に評判が良いものでした。最大の功績は、経済開放を一気に進めたことです。ミャンマーに対する投資ブームが起こったのはご案内のとおりです。
USDP政権が続けば、これまでどおりの政策を進めることになるわけですが、NLD政権が発足すれば多少の混乱と停滞が起こる可能性は十分にあります。NLDには実務経験がなく、行政を動かすことができるテクノクラートの人材がまったくいないからです。
そもそもリーダーであるアウンサン・スーチーの頭の中は、法の支配の実現、そのための憲法改正でいっぱいで、経済に関しては知見も関心もありません。たとえば、同じように軍政が続いているタイにおいては、経済オンチの軍人が適切な政策を実施できず、経済立て直しのためには早く軍政が終わるべきだ、という議論になるのです(最近はソムキット副首相のような経済専門家を中心とするチームを発足させました)が、ミャンマーの場合、これと状況が真逆なわけです。
もっとも、テイン・セイン政権がやったことは、経済開放であって、それ以上でもそれ以下でもありません。現在のミャンマーには、産業政策も環境政策も存在しないも同然の状況です。この真の「経済政策」を実施する点については、USDP政権にとっても未知の課題であり、真価を問われるのはこれからと言えます。
そういう意味では、USDP政権であろうとNLD政権であろうと、本当に大変な時代はこれから始まるわけで、どっちの政党でなければいけない、という状況にはないとも言えます。
私はこれから東南アジア出張で、ミャンマーには再来週に到着します。おそらくその頃には選挙の結果も判明していると思いますが、現地の状況を見て、自分なりに感じたことをまた報告したいと思います。
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3 comments on “ミャンマー総選挙”
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勝利すれば・・私が実権を握る・・と声明・・
権力・・政権の二重構造になる・・
望ましい事だろうか・?
それでも・・
軍事政権よりも・・マシと言うのだろうか・?
いずれにせよ・・
日曜日に投票が・・無事・・終わらなくては・・
どんな結果になるとしても・・
軍のクーデター等・・起こらぬ事を・・・
記事に書いたとおり、大統領を傀儡として院政をしくつもりでしょう。スーチーにしてみれば、現在の憲法、統治制度がおかしいのだから、それに反しても何の問題もない、という思考回路と思います。
仮にNLDが大勝しても、さすがにもはや国軍が介入することはない、とみんな思っていますが、あまりにNLDが大はしゃぎすると、1990年の二の舞に・・という懸念は、たしかにあります。スーチーも、過去の失敗を教訓として学んでいれば良いのですが。
スーチーさん選挙区頑張ってください