2009/11/03 23:40 | 金融全般 | コメント(11)
CIT破綻について
有料配信の皆様には概論部分を既に緊急配信してございます。
合わせてお読みください。
プロの方がご判断を間違うようなレベルではないと思いますがこちらの読者には本当に個人の投資家の方も多く含まれており、余計な被害をお受けになる前にご連絡するべきだろう、と考えた次第。
内部者情報的なものも入っていますが、私本人は幸いCIT関連に何一つエクスポージャーを持っていない為、諸関係者と相談のうえ、問題ないだろうと判断し公開致します。
数々の銀行が救済さている一方で今回CITが救済されなかったことは注目に値します。
規模から見れば700億ドル、まあ、小さいとは言えないがありうるサイズの破綻です。ある意味この程度はToo Big の範疇ではない・・・ということ確認できたとも言えるでしょう。
注目点は二つ。CITがファクタリング(売掛金の割引売買)業務の第1人者だ、ということと、例のTARP支援企業の初めての倒産、ということ。
いずれのポイントを取ってもあとで見ると大きな判断ミスだった、と思われるに違いない要素に満ち満ちています。
まず、ファクタリング。
ご存じの通りアメリカ、およびその他の国、要するに日本以外では手形という商習慣がない。通常日本だと物を買うともちろん掛け売りも存在するのですが手形を渡し、先方がその期日になれば銀行に持ち込んで現金に変えるということがおき、更に手形そのものが信用補完を為すために流通し、誰かが発行した手形そのものが信用力を発揮し、通貨と同様の価値を有する訳です。
三菱商事が発行、或いは裏書きした手形なら、取りっぱぐれは無い訳で、それを第3者に渡し、必要になった誰かが現金化するという極めて効率的なマーケットです。三菱にとっても取り立てられるまではその資金を払う必要がない訳ですから、その資金負担コストの軽減はかなり大きなものがあり、本当に優れたシステムと言っていいでしょう。
余談ですが、現金を三菱銀行、住友銀行などに分けて預けておくより、さらに優良企業の手形を保有することで預け資産の分散まで図ることができるので昨今の金融危機下では日本特有の手形システムが意外な効果を発揮している、という説もあります。
これがないとなると、売り掛けたものは期日が来るまで入金されず、それまで現金がないために新たな仕入れがストップしかねない。
それを防ぐために売掛金を割り引く専門会社が存在しまして、これがファクタリングと呼ばれる機能でCITはその最大手でした。
これが倒産した、ということの意味はなんでしょうか。
別な言い方をすると、金融機関同士と異なり、一般企業間での資金流動性確保については連銀および政策当局は勝手にやってくれ、とさじを投げた格好だ。
日銀が現在に至っても、ただインターバンクにとどまらず、企業間金融にまで注意を払っている事実と比べるとこれは雲泥の差だと言っていい。
結果的には企業間金融におけるとんでもない流動性の枯渇が起きるだろうし、既に起き始めている。
まず、CITがあっさり吹っ飛んだので同業(ファクタリング業務)に対する与信はだれもとらない。従ってファクタリング業務そのものが停止することになるでしょう。
そうなると企業は金融機関から借り入れるか現金で仕入れるしか道がありませんね。ただでさえ与信の厳しい中、ファクタリングの道を閉ざされた企業に金を貸す人のいい金融機関などあるはずもなく、彼らは膨大なクレジットスプレッドを払ってマーケットから調達するのか、それでもできる所はまだいい、という話になるかもしれないし、CPなどで転がすとなると、財務状況のさらなる圧迫は必至で、ますます借りにくくなる企業が続出するのではないでしょうか。
一義的にはダウはもちろん、ナスダックに上場している会社はまだましで、それ以下の零細企業を直撃する可能性が高く、今までの金融緩和効果を根こそぎ帳消しにしかねないインパクトがあるかもしれない。
実際に・・・・かなりひどいことになっています。融資を受けねば次の仕入れができず、商売にならないため、飛んでもないレートを吹っ掛ける輩まで現れています。アメリカがこんな萬田銀次郎みたいな世界になるとは思いもよりませんでした。
こういう時に暗躍するのは中国の企業で、さすがというべきでしょうか。今回の金融危機の焼け太りは中国企業、ということになるのかもしれません。
ある資源開発会社はアメリカ国内の金の採掘権をある中国企業に渡して調達していました。例によって日本に最初にアプローチがあるのですが、どこもこの種の話は脳死状態です。
このまま行くとアメリカ国内の採掘権が気がついてみるとすべて中国企業が保有していたりすると・・・・どんなことになるんでしょうかねえ・・・・。
二つ目はTARP支援企業で初めての破綻が出た、という点。
これらの状況を勘案して百歩譲ってみると、もしかしたら本当は救済したかったのかもしれない。しかし、救済していないとなると要するに足りない・・・という現実があるのだろう、と思われますね。
既に使った分は不良債権となり国民負担第一号でもある訳で、これだけ短期間に不良債権となってしまうとなると、TARPそのものに対する締め付けも激しさを増すのかもしれません。
ということで、軽めに扱っている報道が多いのですが、私にはどうもそうは思えないもので、こちらのブログでは書かせて頂くことに致します。
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11 comments on “CIT破綻について”
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獰猛きわまりないカタルーニャの山岳軽装歩兵は、戦いで武器を打ち鳴らし
『聞け!聞け!鉄が目覚めるぞ!』
と叫んだ。
今回もウオール街の戦闘で、
札束を打ち鳴らし
『聞け!聞け!札束が目覚めるぞ』
と叫ぶ獰猛な戦士がいる事は確かだ。
CIT破綻の背景がわかってきました。多くの人が楽観になって「ブラジルが有望だ」とか言っている最中ですが、全然浮かれておれませんね。
加入してるプルのドル建て保険が心配になってきました^^;
手形が日本にしか無い、事も知りませんでした。
アメリカの中小企業って日々の資金繰りも大変なのですね。
アメリカも中国も本当に助け合いの精神を育むインセティブが無
い社会なんですね。
しかし、これアメリカに進出している、日本企業(自動車部品メ
ーカー)も資金繰りでエライこっちゃーになるのか?
さて、昨今「EV自動車」新聞、TVで持てはやされていますが投資
されてる方で、まさか本気にしてないですよね。
まさか、まさかアメリカの「ステラ社」のEV自動車見て「素晴ら
しいー、EV車は凄い!」と思って投資してないですよね?
ステラ社の車の製造技術は、たしかロータスの技術だったかと思
いますが、フェラーリやロータスの様なスポーツ車メーカーとし
てなら別に問題ないのですが、量産車メーカーとしてなら箸にも
棒にも掛からないメーカーだと思います。
ステラ社は資金が続く内にフェラーリやポルシェの様なブランド
イメージ(スポーツ車と聞くと、無意識にステラと連想してしま
うぐらい)を確立してないと大変でしょうね。
CITのことよく分かりました。
中国したたかですね、宮崎さんも書いていらっしゃいますが
あの狡猾さ(?)と日本はやっていけるのでしょうか。
手形制度が日本にしかないというよりは、国外では制度上ないわけではないが利用されず形骸化している、よって日本のように普通に企業間で簡単に決済手段として用いるほど信用力がなくほとんど使用されていない、使用しようとしても取引相手から断られるというのが正しいのではないか?もっとも裏書きで流通させたり、銀行が割り引いて現金化したり、銀行が手形を持ち寄って相殺したりするのは日本独自の制度らしいが…
さらにカリフォルニア州が発行したのも手形の一種のように思ったが違うんだろうか?
金融プロのぐっちーさんが日本式の手形システムが優れた制度というからにはまさにそうなのだろう。CIT破たんは確かに危機に違いないが、必要とされている今こそ日本の銀行がテガタシステムをアメリカに輸出できる最大の商機でもあるのではないか。
タイムリーな情報ありがとうございます。
処で、ネットでよく使われているPayPal取引もこの辺の影響を受ける可能性があるのでしょうか?・・
よろしく・・
>現金を三菱銀行、住友銀行などに分けて預けておくより、さらに優良企業の手形を保有することで預け資産の分散まで図ることができるので昨今の金融危機下では日本特有の手形システムが意外な効果を発揮している、という説もあります
その反面、日本の企業の買掛金は
単月の売上との比率では高いのでは?
結局商慣習としてサイトが長いため
各企業の運転資金需要が増えて
不必要に金利費用が生じているという
負の側面も無視できないと思いますが
どうなんでしょう
(そりゃ三菱商事振出or裏書の手形なら
いつでも割引可能でしょうけど
そんな優良な手形でなければ結局は
取引銀行の設定した枠内でしか
割引できないわけですし、
変な先に得意先振り出しの手形を
持っていく事もはばかられるでしょうから)
ま、それはともかくファクタリングで
売掛債権の流動化が頓挫するなら
在庫の流動化が流行るのでは?
日本でもどこかの物流会社がやってましたね
あるいは国内取引でもL/Cを開くとか
それこそ物流会社・銀行を巻き込んで
国内取引でもB/L発行するとか・・・
こんばんは グッチーさん
CITって、日本でいうとサラ金の親分かと思ってました。
ファクタリングの会社だったんですね。
日本では、ファクタリングがまだ浸透してないんで、ちょっと年齢の高いおじさん達
に説明すると、なんだそれって返事が返ってきます。
それと、他の方のコメント同様、手形は日本の文化だったんですね。
人生ゲームで、赤い紙の手形があるので世界的に活用されている仕組みって思ってました。勉強になります。
アメリカの中小企業は、大丈夫でしょうか?
ぐっちーさん、いつもその時知りたいこと、タイムリー♪
に教えて下さるから、うれしいです☆
CIT破綻がどんな問題を引き起こすのか、
メディアの報道見てるだけだと、
CIT自身の資金の問題とかは取り上げていても、
中小企業への融資の問題はあまり出てなくて。
どんな影響があるのかがわからなくて。
ぐっちーさんの解説で、CITの役割とその仕組みが具体的にわかって、
破綻の影響、事態の深刻さを感じることができました。
いつも大切なこと教えて下さって、
ありがとうございます☆
アメリカ、お気をつけていってらっしゃい♪
・・・ハニートラップも、お気をつけて(笑)
海外発ぐっちーめーる便、楽しみにしてます♪
元気に帰って来て下さるの、
しっぽ長くして、待ってます☆
私、まったくの理系でございまして、こーゆーのを読ませていただきますと読み続けていた甲斐があったというものです。(水着もいいんですけどね。)
初めてコメントさせて頂きます。
確かにチャプター11申請という状況ではありますが、一方でPrepackageということも報道されていたかと思います。
もちろんTARP対象先初の破綻というインパクトはありますが、個人的にはファクタリングを含むシステムは維持するために、あえてCITにチャプター11を容認した、すなわち金融債務の減価を明確にしてCITの再生を目指したのではないかと考えますが、やや甘いでしょうか?ご教示頂ければ幸いです。