2016/04/19 00:00 | 米国 | コメント(7)
米大統領予備選挙:NYの展望
本日4月19日に行われるNY州予備選は、共和党、民主党いずれにとっても極めて重要な選挙戦となります。
●共和党
4月5日のウィスコンシン州予備選は、「ウィスコンシンの展望」で述べたとおり、選挙戦の潮目を変える可能性がある、と述べました。結果は、テッド・クルーズが勝利、ドナルド・トランプが2位(ジョン・ケーシックが3位)。フロント・ランナーであるトランプが敗北する結果になり、形勢は一気にクルーズに傾きました(クルーズは、その後、9日のコロラド、16日のワイオミングでの党会合でも全代議員の支持を獲得)。
ところが、この一週間の世論調査をみるとトランプの勢いは止まっていません。NYの世論調査では、1位トランプ(53%)、2位ケーシック(22%)、3位クルーズ(18%)とトランプが圧倒的にリード。しかもクルーズはケーシックにも後れをとっています。ちなみに来週に控える大票田ペンシルバニアの世論調査でも、1位トランプ(43%)、2位クルーズ(27%)、3位ケーシック(24%)という状況です。
もともとNY(それに来週のペンシルバニアなど)は保守派のクルーズが得意とする地域ではありません。かつてクルーズはトランプをNY的価値観の持ち主(=真の保守主義者ではない)という言葉で非難しましたが、皮肉なことにこの言葉はNYでそのままブーメランのように返ってくる格好になりました。
とはいえトランプは、妊娠中絶した女性は罰せられるべきというリベラルなNY市民の支持を失う可能性がある大失言を犯しています。一方クルーズはウィスコンシンでの勝利で一気に流れを引き寄せたかに見えましたから、この世論の雰囲気と世論調査の結果のギャップには驚かされます。
不利な状況にあるクルーズは、強固なキリスト教宗教右派(evangelical)でありながら、ユダヤ人が過ぎ越しの祝祭(Passover)で食べるパン(Matzah)の工場を訪ねてユダヤ人票(ウォールストリートの票を含む)を狙うなど、積極的な行動に出ています。しかし、トランプの優位を崩すのは困難でしょう。
結局のところ、トランプにとって最も重要な課題は、共和党大会で党指導部の采配により他の候補者が指名される事態を防ぐことです。このため、トランプは、他の候補者が指名されたら自分は支持しない、コロラドの党大会は八百長であるなどと、さかんに党指導部を牽制する発言を繰り返しています。
トランプの牽制に対してはラインス・プリーバス共和党全国委員長が真っ向から反論しており、党大会の展開まったく予測がつかない状況になっています。焦点は、トランプがNY、そして来週のペンシルバニアなどで大勝利を重ねて、党指導部に有無をいわせないだけの正当性を得ることができるかです。
●民主党
4月5日のウィスコンシン州予備選では、バーニー・サンダースが勝利、ヒラリー・クリントンが敗北。こちらもフロント・ランナーであるヒラリーにとっては衝撃の結果になりました。
さらに、これに続くワイオミング州予備選でもサンダースが連勝。これでサンダースは、アイダホ、ユタ、アラスカ、ハワイ、ワシントン、そしてウィスコンシン、ワイオミングと7連勝。流れを引き寄せています。
NYでの世論調査をみると1位ヒラリー(54%)、2位サンダース(41%)とヒラリーがリード。しかし、差は縮まりつつあります。
ヒラリーは、NYにおいて上院選、予備選で敗北したことがなく、ホーム・アドバンテージをキープしています。しかし、万が一ヒラリーがNYで敗れるようなことがあれば、サンダースにかすかな勝機が見えてきます。
NY勝利のモメンタムと豊富な資金力を生かして、カリフォルニア(代議員数546)を制し、ヒラリーを支持する469人のスーパー・デリゲートを切り崩す可能性が見えてくるからです。この意味で、NYでの戦いは極めて重要です。
ここで注目されるのは、両者の論戦がかつてなく熱を帯びてきたことです。サンダースは、メール問題、ウォールストリートからの献金、多額の演説報酬、イラク攻撃支持やNAFTA支持などヒラリーのアキレス腱を取り上げ、「大統領になる資格はない」と主張し、これまで見られなかった激しい攻撃を開始しました。元々テレビ討論会でサンダースはヒラリーへの個人攻撃はしないと明言していたのですが、ここに来てついに牙をむいてきました。
これに対してヒラリーもサンダースに対して厳しい言葉で反撃を開始。なにやら共和党を彷彿させる白熱討論に突入しました。特に4月14日のテレビ討論会はお互いが相手の発言を制して大声で怒鳴り合うという今までになかった様相を呈しました。
これは、一つには、いつまでもヒラリーがサンダースを引き離すことができず、選挙戦が長期化したことで、候補者も支持者も疲れ果てたことから至った事態といえるでしょう。もっとも、共和党の醜い口論に比べればはるかにマシであり、民主党の品位を下げるレベルには至っていません。
サンダースは「大統領になる資格はない」という表現も言い過ぎということで後に撤回しました。メール問題の言及も非常に慎重です。こうしたサンダースの抑制されたスタンスは、賞賛される一方で、なぜもっと早くからヒラリーを攻撃しなかったのか、そうしたら状況は変わっていたのかもしれないのに、という見方もあります。
また、ヒラリーはNYで絶大な人気を誇りますが、実はサンダースはブルックリン出身。このため、サンダース側は、サンダースは「natural-born New Yorker」(生まれついてのNY人)、ヒラリーは「adopted New Yorker」(外からやってきたNY人)であるというキャンペーンをしています。
さらに、サンダースは予備選直前の4月15日にバチカンを訪問し、ローマ法王と会うという電撃的な外交を展開しました。これは、NY市民の30%を占めるカトリックの支持を得るために行ったとみられます。
最後に、4月6日には、ヒラリーの応援に駆けつけたビル・クリントンが、自身が大統領だったときに成立した1994年犯罪法について、フィラデルフィアの黒人団体から猛抗議を受け、論戦になるという事態が生じました。このことは、ビル・クリントンという巨大な存在が、ヒラリーにとっては強力な援軍にも深刻なリスクにもなり得る諸刃の剣であることをあらためて示しました。
このような状況の中で、ヒラリーがサンダースの猛追をかわすことができるか。民主党にとって予備選の最大の山場が来たといえるでしょう。
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7 comments on “米大統領予備選挙:NYの展望”
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共和党の初代大統領はリンカーン
リンカーンはアメリカ第1主義、高関税主義、インディアン差別主義
だったから、案外、トランプは共和党の源流正当派かも(笑)
アメリカ第1主義が、偉大なアメリカに
高関税主義が、日本や中国への為替安批難に
そしてインディアがメキシカンに、少し変化しただけ(笑)
乱闘戦・・
トランプ・・参謀総入れ替え・・この失言効いた・・コタエタ・・
ヨロメイタ・・別人になりましょう・・
サンダース・・負け前提の大勝負・・明日の女大統領には・・貸し作らねば・・
だが・・ここまで来ると君子も豹変するのです・・
法王様にも拝謁出来た・・キリスト教もユダヤ教も同根・・負けられるか・・パナマ帽子・・天の導きか・・・(笑
今回はともかく民主党が面白そうですね。
ヒラリーさんは多民族で多様な価値観を持つアメリカの現代的な良識の持ち主だと思いますし、サンダースさんは労働者階級を代表するような考え方で、貧富の差を解消しようとする古典的な社会主義。
そして見た目はともかく「大草原の小さな家」のお父さんのような筋の通った強さと良識にあふれる信頼感持てる人物。(アメリカの大統領選挙って、定期的にこういうタイプの方が出てきますね)
また、こう言っちゃ失礼ですが、支持者の考え方の質も共和党候補の人たちのを上回っているように感じます。
今日の結果が楽しみです。
たまにはヤンキーでNYを取り返さないと
いつも、ニューヨークは民主党が着目では
アメリカは質より、変革重視、 チェンジ、チェンジ(笑)
”中国、国家機密15万件漏えいの男に死刑判決”
なんだから、ヒラリーの秘密が漏洩したら当然、請求するでしょうね(笑)
人力陰謀説をもとにすると、民主党では
”漏洩の基準は漏洩されることはない”ようだから(笑)
それにしても、アメリカもその配下の国際団体も
中国に対しては人権とか女性差別とかいいませんね
戦争中でもないのに情報漏洩で死刑は、いくらなんでも厳しすぎる
JDさん、かんべえ氏をもちろんご存知ですよね。
かんべえ氏もここを読んでると思うんだけど…(ホントか、笑)
今夜、某FX会社ネット視聴可講演会を聴講しましたが、ヒラリーは勝つ、共和党はさてどうなるかという感じで話されてましたです(私の記憶が正しければ…)。
同じ見方になって討論にならないかもしれませんが、あとは共和党のバトル見物ですかね…?
大統領選挙を面白がって見るのも、一つの手ですが…
2015年8月20日 ロシア-中国空・海合同演習が日本海で行われた。
アメリカ海軍士官学校教授が、ロシア-中国戦略的提携の現実を強調している。中国・王毅は
「ロシア-中国関係はあらゆる国際危機に耐えられる」
ロシア兵器により現代化された中国の対艦ミサイルは、アメリカ空母を陳腐化させた。
ネオコンの代理人・ヒラリーが大統領になりプーチンを敵視すれば、ネオコンの戦争が実現する。
レーガンが、ネオコンを追い出しゴルバチョフと、冷戦終焉交渉をした。しかし、ブッシュとオバマは、アメリカ政府の支配をネオコンに奪われた。ネオコンの政策がなければ、中ロ提携は存在しなかったろう。
富を貯め込むことが人生の主目的であるクリントンは、ネオコンに操られるのは当然。
911から始まる長年のアメリカの戦争に対する厭戦気分が、アメリカ国民にはある。アメリカ国民がヒラリーを支持するだろうか。