2016/01/27 00:00 | 米国 | コメント(9)
米大統領予備選挙の注目点②:共和党の序盤戦
前回は、一般的・歴史的な視点から、序盤州である4州(アイオワ、ニューハンプシャー、ネバダ、サウスカロライナ)の見所について述べました。今回は、前回述べたポイントを踏まえて、今回の選挙戦をどう見るかについて述べます。
まずは共和党です。これまで述べてきたとおり、アイオワは、ドナルド・トランプ対テッド・クルーズの一騎打ちの様相を呈しています。
クルーズは、現在の有力な共和党候補者の中で最も右寄りの保守主義者であり、宗教右派とティー・パーティーからの支持を受けている人物です。クルーズの父親は牧師(preacher)で、本人も牧師の説教を思わせるような、危機をあおるような独特のスピーチを得意にしています。
前回述べたように、アイオワは社会的保守の影響力が非常に強い州なので、クルーズのようなバックグラウンドの候補者が最も有利に立つ傾向があります。なお、クルーズはキューバ系移民であり、このためカトリックと思う方もいるかもしれませんが、クルーズの父親はカトリックからボーン・アゲイン・クリスチャンに転向しており、クルーズ本人も南部バプティストです。一般的にカトリックで宗教右派の支持を得ることは難しいです(例外はあります)。ここは意外と勘違いされているようなので指摘しておきました。
一方で、クルーズは、ハーバード・ロースクールの最優秀者(magna cum laude)、ロー・クラーク、レンキスト最高裁長官の調査官という米国の知的エリートとしては最高レベルの学歴・経歴を誇っており、社会的保守の支持を得る割には意外とハイブローなインテリです。クルーズのユニークなところは、知的レベルが高いキャラクターであるにもかかわらず、ご都合主義とポピュリズムを振り回す傾向が強い点です。ここはある意味トランプに通じるところがあり、学識と教養を備えたトランプと評する人もいます。
独特のキャラクターのため、極めて不人気な人物としても知られます。序盤戦でトランプに唯一対抗できる候補者がこのクルーズであるところが、共和党にとってはある意味不幸なところです。
さて、トランプについては、先週、サラ・ペイリン元アラスカ州知事が支持を表明したことが話題を呼んでいます。ペイリンといえば、派手な美貌と強固な保守思想、そして失言の多さで有名な人物であり、2008年の大統領選ではジョン・マケインのランニングメイト(副大統領候補)になり、当初は保守層の支持を掘り起こしたものの、結局は恐るべき無知をさらけ出してマケインの足を引っ張りました。共和党の誇る大本命だったマケイン敗北の最大の戦犯と呼ぶ人もいます。
そのペイリンがトランプ支持。あのカオスな人物が今最もカオスな人物を支持するということで、ほとんどコメディーのような受け止められ方をされており、たとえば、タブロイド紙で「Lady and the Trump」(元ネタはディズニーのアニメーション映画「Lady and the Tramp(わんわん物語)」というジョークにされています。
しかし、まじめな話をすると、ペイリンによるトランプ支持は結構バカにできないインパクトをもっています。なぜなら、ここ最近トランプへの攻撃材料になっているのは、トランプは、実は保守主義者ではなく「NYの価値観」を体現する人物である、という主張だからです。
これは主にクルーズが唱えていた批判ですが、最近は『ナショナル・レビュー』誌のような老舗の保守雑誌などからも提起されるようになっています。ペイリンは、ティー・パーティーのような草の根の保守主義者から絶大な支持を得ている人物です。そのような人物から支持を得ることは、トランプにとっては非常に好都合で、特にアイオワの初戦で大きな追い風になる可能性があります。
さて、アイオワはこの二人がリードしており(もっとも実際にトランプを支持している人たちが本当に票を投じるかは、いまだ疑問をもたれています。これは最後まで分からないでしょう)、他の候補者の影が薄い状況ですが、共和党の本流を代表する有力候補は、マルコ・ルビオ、ジェブ・ブッシュ、クリス・クリスティ、ジョン・ケーシックの4人です。
私はこの4人のいずれかがどこかで盛り返してくると思っています。それがニューハンプシャーなのか、サウスカロライナなのか、スーパー・チューズデーなのかは分かりませんが、どこかの段階で誰かが抜け出して、共和党本流の候補として一本化することになるでしょう。
一番期待されていたのはマルコ・ルビオでしたが、童顔で損をしています。テッド・クルーズと同年齢の44歳ですが、実年齢よりも若く見えるため、「青二才」と扱われるのがウィークポイントです。
これら本流の候補者にとって何より大事なのは、アイオワとニューハンプシャーで、1位はとれないまでも、2位か3位につけて、大敗を免れることです。前回の記事で述べたように、共和党にとって最重要の州はサウスカロライナですから、アイオワとニューハンプシャーで1位がとれなくても、モメンタムさえ失わず、サウスカロライナで勝利すれば、まだまだ選挙戦は分からないということになります。
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9 comments on “米大統領予備選挙の注目点②:共和党の序盤戦”
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サンダースとトランプの善戦・・ブルムバークは白馬の騎士かブラックスワンか・?
トランプは対立候補を押し捲って・・ここまで来たし・・行きそうだ。
サンダースは泡沫候補から・・ヒラリーと対決出来る候補に・・(民主党有力議員は彼を認める時期に来たと発言)
いずれも・・マスメディアと専門家の予測には・・無かった事だ。
トランプは・・高卒者支持層とマスメディアに揶揄され続けているが・・
長年・・テレビショウ番組で・・視聴者に浸透効果が・・学歴とは無関係に出たのだろう。先入観念よりも・・切れるブレインを証明した。
英国人批評家から骨董品と切り捨てられたヒラリー・・同じ骨董品ならサンダースが掘り出し物に・・若者層からは見えた。
特にウォール街占拠層からは・・巻き返しの旗頭になった。ウオール街から巨額の寄付金を受け取っているヒラリーは・・それがアキレスとなり・・サンダースに突かれた。
サンダースは銃規制に賛成していない。これも強みになっている。
いずれ・・当初は無視していた・・ヒラリーのEメール問題を持ち出すだろう。国務省は・・残りの資料提出最終期限の一月延期を・・判事に求めた。残りに福があるのだろうか・?
映画ベンガルが全米で始まれば・・ヒラリーはボディパンチを受ける羽目になる。
頼りの夫クリントンは・・トランプにまだ彼には他の女問題があると・・ジャブされ・・足が止まったかのように見える。
出だしでは・・オバマと距離を取っていたヒラリー・・今では双生児のように離れない。オバマもヒラリーの頭を撫ぜている。
専門家はヒラリーは前回と同じ轍を踏んでいると指摘し始めた・・
JDさんには・・眠れない日々が始まる・・・(笑
ぐっちーさんのブログ読んできました。というか読んではいたんですが、なんか書き込むのに勇気がいるレベルの高さなので、書き込めないでいたんですが、ちょっと思ったことを書いていきます。
外れると恥ずかしいのですが、個人的にはトランプさん最後まで行くのではって思ってます。
昔、ロナルド・レーガン カリフォルニア州知事が勝った選挙がこんな雰囲気だったように記憶してます。国内外で(日本のマスコミも含めて)すぐにでも共産圏とか相手に戦争を仕掛けそうな危険人物としてもっとむちゃくちゃ言われていた感じでした。
それでも勝って、結果的に共和党出身を代表する名大統領みたいになってます。共和党支持者には、やんちゃでやらかしそうに見えても大丈夫というその時の免疫がついてるように思えるのです。
ただ、先の話ですがそれをカバーする副大統領候補が大切になってくると思います。(誰が大統領候補でもベストはコリン・パウエルさんだと思うのですが、いまなにやってるのかなあ)
ペイリンさんは、失言というより、不勉強発言のリスクがありそう。(アホはダメ)
レーガンさんは、予備選でやっつけた本命で秀才のパパ・ブッシュさんを副大統領にしたのが色んな意味で大正解だったように思います。レーガンさんが意外に軍事が下手で、パパ・ブッシュがとっても上手だったというのがなんか興味深かったです。
今度も選挙戦が始まるまでの本命だったジェフ・ブッシュが最後、副大統領候補なんてあるのかな。
トランプはたしかに天才ですね。それは認めます。
はじめまして。
コメントありがとうございます。
レーガンが勝ったときの雰囲気は、私はリアルタイムで経験していないので、興味深いですね。
ジョージ・H・ブッシュは、たしかに副大統領から大統領になるというめったにない成功例の人物ですね。大統領としての施政も今では高く評価されていると思います。
感謝しております。
JDさんは、とても優秀な方だと認識させて頂いた上で、本記事の本質的ではない部分について指摘をさせて頂きます。
「マケイン敗北のA級戦犯」
という表現についてです。
A級戦犯という表現は、日本人にとっては最上級の悪いイメージが広く深く根づいて
しまっています。このように表現すれば、一番悪い人とか、してはならない
事をしてしまった人というイメージを伝える事は容易いと思います。
しかし、極東軍事裁判にて勝った側が、負けた側に一方的に取って付けたような
「平和に対する罪」という新たな罪を作って被せたものがclassAの罪であると
認識しております。
日本が、国の存続に関わるような状況になって、誰もが勝てるような戦争とは
思えなくても、決して諦めず、死力を尽くして自分のできる限りを行ったという
自衛戦争が先の戦争だと認識しております。
国のために戦った人々を貶める事になりかねない表現を、社会を主導するべき
方々が、いつまでも、いつまでも、行うべきでしょうか。
このように考えるものがいるという事をお知らせさせて頂いただけですので、
お答えしていただくには及びません。
最後まで読んで頂きまして有難う御座います。
ありがとうございます。深く考えずにこの表現を使っていました。訂正しておきます。
早々に、一読者の意見を快く聞き入れ、対応して頂きまして
有難う御座いました。
ベンガルというのは、ベンガジのことですかね?
はい・・ベンガジ・・!
子供の頃見た・・「ベンガル竜騎兵」・・印象強く・・すぐ・・間違える・・
心理学の問題・・御指摘・・感謝・・・(笑
ぐっちーが・・トランプはすぐ消える・・と言ってるけれど・・
いいのかねぇ・・
すぐ消える玉じゃ無さそうだけど・・・