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2015/10/16 00:00  | 米国 |  コメント(1)

米国大統領選:民主党候補者のテレビ討論


米民主党討論会、クリントン氏が批判に反撃 個人攻撃は避ける(10月14日付ウォールストリート・ジャーナル記事)

共和党のテレビ討論会はすでに2回行われていますが(第1回の記事第2回の記事)、民主党はこれが初の討論会。15人が乱立する共和党に対し、民主党は、ヒラリー・クリントン、バーニー・サンダース、ジム・ウェッブ、マーチン・オマリー、リンカーン・チェイフィーの5人(「民主党候補者の出馬状況」参照)。

トランプにかき回された共和党の討論会と比べると、民主党の討論は平穏に終わった感があります。民主党候補者の成熟した人格のおかげもあるのでしょうが、「民主党候補者の出馬状況」で述べたとおり、民主党においては、共和党と異なり、ヒラリー・クリントンが突出したフロントランナーとなっているため、基本的なポイントは、ヒラリーの「自分との戦い」にどう対応するか(後述のスキャンダルにどう対応するか、新鮮味のなさをどうリカバーするか)にあります。おそらく、それもあって激しい論争にはならないのでしょう。

一方、最近の注目すべき動きとして、バーニー・サンダースの予想外の善戦があります。「民主社会主義者」を自称するサンダースは、リベラル左派の強い支持を得て、選挙資金を積み上げています。支持率については、特にアイオワニューハンプシャーの世論調査でヒラリーをリードするという衝撃の結果に至っています。

これら2州は、毎年最初に予備選が実施される州であり、両州のいずれかを制する候補者はその後の選挙戦において圧倒的優位に立つと言われます。逆に、ここで敗北した候補者は、選挙資金の問題もあり、撤退を決断することも珍しくありません。

もちろん、この後も選挙戦は続くので、ここだけで勝負が決まるわけではありません。その後のネバダ、サウスカロライナの2州も重要ですし(ネバダはヒスパニック票、サウスカロライナは黒人票が鍵を握ります)、さらにその後に控える「スーパー・チューズデー」と言われる3月1日の火曜には13州で同日に選挙が実施され、選挙戦の大勢はここで決することになります。

しかし、実際のところ、アイオワとニューハンプシャーの両方を落として最後に勝利した候補はほとんどいません。数少ない例外は、1992年のビル・クリントンです。クリントンは、アイオワとニューハンプシャーを落としながら、その後スーパー・チューズデーで盛り返して最終的な勝利を収めました。

しかし、その背景には、ニューハンプシャーで強い影響力を誇るポール・ソンガス(隣州であるマサチューセッツ州選出上院議員)が同州で1位を獲ることは当然と考えられていたところ、クリントンはソンガスに僅差で迫る2位という予想外の善戦をみせ、勢いをつけたという経緯があります。つまり、クリントンも、ニューハンプシャーで満足のいく結果が出せたからこそ最終的に勝利することができたといえます。

また、2008年の民主党予備選で、ヒラリー・クリントンは、まずアイオワにおいて、オバマはおろかジョン・エドワーズにも後塵を拝する3位という惨敗に終わりました。次のニューハンプシャーでも、事前の世論調査ではオバマにリードを許し、絶体絶命の状況に追い込まれましたが、この状況を一変させたのが「女の涙」です。これで流れを変えたヒラリーは、ニューハンプシャーで1位を獲るという逆転劇を演じ、首の皮をつなぎました。

さらに、同じく2008年の共和党予備選では、当初フロントランナーと言われたルディ・ジュリアーニが、アイオワとニューハンプシャーでは勝ち目がないと見て、ここでは勝負をせず、その後のフロリダとスーパー・チューズデーで勝負をかける戦術をとりました。しかし、序盤での敗北から勢いを失ってフロリダでも敗北するという無残な結果に終わります。

結果論ではありますが、このジュリアーニの戦術は失敗だったと言われています。というのも、ニューハンプシャーでは、当初、強い影響力を誇ったミット・ロムニー(隣州であるマサチューセッツ州の知事)が勝つと見られていましたが、結果的にはジョン・マケインが勝利し、番狂わせを演じたように、勝負事はやってみないと分かりません。また、アイオワで負けるとニューハンプシャーで勝つという傾向があります。さらに、全国的に知名度のある候補者は全国レベルで戦う方が合理的とも考えられたからです。

このように、序盤に選挙戦が行われる州、特にアイオワとニューハンプシャーは、選挙戦の命運を握る超重要州といえます。なお、近年、多くの州がその影響力を強めるために、自らの州の予備選の日程を早めようとする傾向にあります。これが問題になったのが2008年の民主党予備選におけるフロリダとミシガンです。両州は全国党委員会の決定に反して選挙日程を早めたため、選挙結果が後で無効になるという事態になりました。

そういうわけで、アイオワとニューハンプシャーの両州において、バーニー・サンダースがヒラリーを上回る支持を獲得しているという状況は、ヒラリーにとっては相当に危機感を感じさせるものです。最近、ヒラリーは、TPP交渉妥結を支持しないという、これまでの自らの行動と明らかに矛盾する発表をして周囲を驚かせましたが、この背景に労組を含む左派から強い支持を受けるサンダースへの対抗心があることは明らかです。

しかし、このような態度の変更は「flip-flop」と言われ、格好の標的になっています。ポリシーのintegrity(一貫性)を重視するか、expediency(ご都合主義)を重視するかで、後者をとったわけですが、ヒラリーとしては、少なくともどちらかの州では勝利をおさめることが至上命題となるところ、何が何でもという気持ちだったのでしょう。

とはいえ、これは選挙戦において大きな意味をもつキャラクターに響く問題ですから、非常にリスキーな判断です。特にヒラリーのような突出したフロントランナーが直面するのは、何よりも「自分との戦い」です。ヒラリーにとって本当の意味で試練となるのは、リビアのベンガジ領事館襲撃事件とメール問題の調査であって、ここで重要となるのはキャラクター、integrity、大統領としての資質ですから、バーニー・サンダースへの対抗がそれほど優先すべき課題なのかという疑問はあります。

他方、ここでもう一つ注意が必要なポイントとして、ジョー・バイデン副大統領が出馬するかという問題があります。いかに勢いがあってもバーニー・サンダースが最終的に勝利することは考えられませんが、バイデンは実績・実力ともに十分な候補者であり、仮に出馬すればヒラリーにとっては最大の強敵になります。

既に、サウスカロライナではバイデン優位という結果が出ていますが、前述のとおり、同州は序盤に選挙が行われる重要州の一つであり、しかも、ヒラリーはヒスパニックと黒人票に強みをもっているところ、黒人票の多いサウスカロライナで劣勢に立つのはヒラリーにとって非常に厳しい事態と言えます。

まだまだ先は長いですが、民主党に関しては、当面、ヒラリーがベンガジ問題とメール問題にどう対処するか、バイデンが出馬するのかが気になるポイントです。

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One comment on “米国大統領選:民主党候補者のテレビ討論
  1. ペルドン より:
    JDさん

    まだ・・一回目だからね・・
    それにしても・・ヒラリー候補・・練習に練習を積み重ね・・出てきた気配が濃厚・・ここで・・手を挙げるな・・と言う処では・・手を上げる・・(笑
    女性初の大統領・・というアピールがベンガジ・メール問題・・で消える可能性もあるかな・?

    バイデンが出れば・・ヒラリーの有利さも消えるでしょうね・・
    サンダース爺さん・・意外と善戦するのでは・?

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