2016/02/02 00:00 | 米国 | コメント(7)
米大統領予備選挙の歴史
アイオワの党員集会がとうとう始まりますね。現地時間1日午後7時=日本時間2日午前10時から集計が開始されるので、今晩には結果が分かるでしょうか。
さて、序盤戦の見通しについては、「序盤戦のポイント」で述べたとおりですが、今回は、スーパー・チューズデーの導入後の序盤戦の歴史を振り返ってみましょう。
ちなみに、スーパー・チューズデーが導入されたのは1988年です(用語自体は1974年からあったと言われる)。背景にあったのは、民意の適切な反映の要請です。
すなわち、アイオワ、ニューハンプシャーといった中部・北部の州から選挙戦がスタートすると、これらの州で勝利した候補が圧倒的に有利になり、結果として偏った民意が反映されてしまう、という批判がありました。特に、民主党では、1974年、まったく無名だったジミー・カーターがアイオワとニューハンプシャーで二連勝して、一気に波に乗り、最終的に指名を獲りましたが、このことは、極端にリベラルなアウトサイダー・タイプが大統領候補になってしまった、という反省を促すことになりました。
このような経緯から、アウトサイダー・タイプの候補者の指名を防ぐべく、後発州、特に南部の州の選挙戦での影響力を高めるため、同日に多くの州で選挙を行う、ということになりました。これがスーパー・チューズデーの始まりです。
なお、同様の趣旨で導入されたのが「スーパー・デリゲート(特別代議員)」です。これは、全国党大会において予備選の結果と関係なく投票できる代議員であり、民主党では1980年の大統領選でカーターがロナルド・レーガンに敗北したことを踏まえ、アウトサイダー・タイプの候補者をブロックするための制度として導入されました。
・1988年
(共和党)
アイオワ:ボブ・ドール
ニューハンプシャー:ジョージ・H・W・ブッシュ
サウスカロライナ:ジョージ・H・W・ブッシュ
(民主党)
アイオワ:ディック・ゲッパート
ニューハンプシャー:マイケル・デュカキス
・1992年
(共和党)
ジョージ・H・W・ブッシュ(現職)が全州で勝利
(民主党)
アイオワ:トム・ハーキン
ニューハンプシャー:ポール・ソンガス(2位はビル・クリントン)
スーパー・チューズデー:ビル・クリントンが南部で勝利
・1996年
(共和党)
アイオワ:ボブ・ドール
ニューハンプシャー:パット・ブキャナン
サウスカロライナ:ボブ・ドール
(民主党)
ビル・クリントン(現職)が全州で勝利
・2000年
(共和党)
アイオワ:ジョージ・W・ブッシュ
ニューハンプシャー:ジョン・マケイン
サウスカロライナ:ジョージ・W・ブッシュ
(民主党)
アル・ゴアが全州で勝利
・2004年
(共和党)
ジョージ・W・ブッシュ(現職)が全州で勝利
(民主党)
アイオワ:ジョン・ケリー
ニューハンプシャー:ジョン・ケリー
・2008年
(共和党)
アイオワ:マイク・ハッカビー
ニューハンプシャー:ジョン・マケイン
サウスカロライナ:ジョン・マケイン
(民主党)
アイオワ:バラク・オバマ(2位はジョン・エドワーズ、3位はヒラリー・クリントン)
ニューハンプシャー:ヒラリー・クリントン
・2012年
(共和党)
アイオワ:リック・サントラム
ニューハンプシャー:ミット・ロムニー
サウスカロライナ:ニュート・ギングリッチ
(民主党)
バラク・オバマ(現職)が全州で勝利
上記の結果をみると、「序盤戦のポイント」で述べたセオリーが導き出されることが分かるかと思います。何度も述べていることですが、アイオワとニューハンプシャーの両方で敗北すると一気に勝利が遠のきます。
しかし、両州で敗北しながら、その後、ジョージア、サウスカロライナという南部の大規模州で取り返し、スーパー・チューズデーで一気にフロントランナーに駆け上がったのが1992年のビル・クリントンです。
今回、ヒラリー・クリントンも、アイオワとニューハンプシャーでバーニー・サンダースに敗北する可能性が十分にあります。サンダースの強さはフロックなどではなく本物です。それは記録的な数にのぼる少額寄付者からも見てとれます。これは他のいかなる候補者もできないことであり、前代未聞の現象です。
しかし、それでもヒラリーは、マイノリティが多い大規模州であるネバダ、サウスカロライナで取り返すでしょう(サウスカロライナがヒラリーの「ファイアーウォール」と言われます)。そして、スーパー・チューズデーで一気に決める、という展開が予想されます。
こうしてみると、もしかしたら夫婦で似たようなドラマチックな展開をたどって勝利するのかもしれません。歴史とは興味深いものです。
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7 comments on “米大統領予備選挙の歴史”
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急に全面に・・本選挙では・・・?
代議員比例配分で獲得した代議員数は、撤退した場合には、
どうなるのでしょうか?
ブッシュは、ルビオに、・・・などの読み筋も合わせて
予想して頂けると各州の動向が俄然興味を増しますが
候補者が撤退すると、その候補者が獲得していた代議員は「リリース」されて、自分の意思で投票できます。撤退した候補者が他の候補者に支持表明すれば、通常は、その代議員は支持表明された代議員に投票することをプレッジするようです。
比例配分の所は撤退者の票を抜いて、改めて比例配分で獲得と思っていました。
という事は、(例えば)
ルビオがブッシュに「撤退表明して(しろ)」・・・(取り込めると踏んで)
トランプがブッシュに「最後まで闘え」・・・(ルビオ対策)
クルーズがブッシュに「俺を支持表明して(しろ)
などという事も行われているのでしょうか?
15%以上なら・・じゃなかつたかなぁ・?
うろ覚えで・・確かじゃないけれど・・・(笑
理屈の上ではあり得ますが、そういう話はあまり聞きません。
だいたい予備選は選挙が進むにつれ差が開く一方で、候補者単独で獲得した代議員で過半数をとるケースが多いと思います。また、撤退しても誰にも支持表明しないケースも多く、大勢が決したところで1位の候補者が撤退した候補者と話し合って(党としてはなるべく党大会前に代議員にプレッジしてもらいたいと思っているので)取り込むこともよくあります。
なお、今回の予備選に関しては、トランプはもちろんですが、クルーズもトランプ以上の嫌われ者なので、彼に支持表明する候補者はいないと断言できます。したがって、他の候補者が撤退した場合、支持表明するのであれば、この2人以外の候補者になることは間違いない(のでおそらくルビオになる)と思います。
それは、おそらく比例配分選挙区の足きり(threshold)のことではないかと。
予備選では、①比例配分、②勝者総取りの2通りの代議員配分制度があり、さらに①比例配分の中には純粋な比例配分と足きりを含む比例配分があり、②勝者総取りの中にも純粋型と変則型があります。どの制度を用いるかは党・州次第であり、しかも毎年変わります。
民主党は基本的に比例配分+足きり(15%)で統一しています。
これに対し共和党は州ごとの自由度が高く、たとえばアイオワは比例配分で足きりがありません。ニューハンプシャーは比例配分で10%の足きりがあります。サウスカロライナは勝者総取りの変則型で複雑ですが、これはサウスカロライナの展望で解説します。
また後半戦から勝者総取りが増えてくるのが特徴です。これはアウトサイダー候補を止めるのに役立つ制度ですが、中盤戦か後半戦のポイントを述べるときに説明するつもりでした。