ブログ記者によるオンライン新聞 グッチーポスト

The Gucci Post [ぐっちー編集長の金融・経済を中心としたオピニオンブログ News Paper]

2015/12/10 00:00  | 日本 |  コメント(4)

日本の外交技術

「中国とASEAN②」へのコメントに対する回答です。

【質問】
日本では一般に外交下手とされがちです。
もちろんそういう部分はあるのでしょう。
ただ、見様によってはアジアの国々以上にしたたかな印象も受けます。
ご覧になってその手腕をどう評価されていますか?

【回答】
私の手には余るような壮大なテーマですが(笑)、僭越ながら個人的な考えを述べてみます。まず言えるのは、日本の外交当局は、様々な制約が課された所与の条件の中で、かなりよくやっている、ということです。

日本外交の選択肢は実のところそれほど多くはありません。安全保障については「普通の国」としての実力を欠くため、米国と歩調を合わせなければならず、また脅威となる国家・テロ組織に対して実効的な手段をとることができません。

このため、軍事力ではなく経済力で外交力を発揮することが基本方針となります。その中で大きな強みだったのはODAでした。

しかし、主要援助国のODA実績の推移(外務省)のとおり、かつて米国に次ぐ世界第2位だった援助額は、10年前から大きく削減され、英国、ドイツ、フランスに次ぐ第5位に低下しました。日本は既にODA大国の座から下りてしまったのです。

このように、日本の外交力は、特にハードパワーの面において、かなり限定されています。

私が思うに、日本の外交当局ができることは、米国のような超大国やフリーハンドをもつ欧州の準大国のように、大所高所の戦略を創造的に構想することではありません。海洋国家としてのポジションと前述の国内的な制約を前提としながら、日米同盟のマネジメント、自由貿易体制の維持、法の支配の拡大といった個別のイシューについて、リスクを抑えて国益を最大化すべく、効率的に対応するという、戦術的・機能的な外交です。自由と民主主義の価値観を重視し、WTO・TPPといった自由貿易のルール化の主導権を握ることは、このような機能的な外交を展開するために必要な手段として導かれます。

そして、日本の外交がこういった課題にどれだけうまく対応しているかといえば、私個人の見方としては、おおむね最善を尽くしているとはいえると思います。特に最近、特筆すべきはマルチの外交における主導権の発揮です。

日本が「外交下手」と言われる最大の根拠の一つは、日本の外交当局がマルチの外交を苦手としていることでした。その背景には、マルチの外交では、バイの外交に比べて、言語力、ディベート力、欧州の宮廷外交的な根回しの技術といった、日本人が伝統的に不得意とするスキルが極めて高いレベルで求められる、ということがあります。

しかし、最近の外務省や経産省には、こういった能力に長け、欧米を圧倒するレベルまで技術を高めた人たちが(まだまだ少数ですが)相当数存在します。このことが顕著に現れたのがTPP交渉です。

「TPPの大筋合意と中国」で述べたとおり、TPPは、今後世界経済のスタンダードとなり得るルール・メイキングに成功したことに大きな意義があります。このルール・メイキングをめぐる交渉において、日本は強力な交渉力を発揮しました。

日本が交渉に入る前には、米国対その他の中小国という構図になり、ほとんど米国の思い通りのルールがそのまま採用されてしまうところでした。それが、日本が入ったことにより、米国対日本+その他の中小国という構図でまともな交渉が実現したと言われます。

おそらくこれほどまでに日本がマルチの交渉で主役級の活躍を演じた例は過去にありません。そういうわけで、日本の外交当局はかなりよくやっているといえる、というのが私の考えです。

ただ、これが「外交上手」と言えるものかはよく分かりません。まず「外交上手」が、前述のとおりマルチの交渉での外交技術が優れているとか、米国との関係のハンドリングが安定しているとか、そういった技術的、戦術的、マイクロ・マネージメント的な部分を指すのであれば、諸外国と比べても、十分に高いレベルにある、といえるでしょう。

おそらく、一般的に外交が「上手」とか「したたか」という場合には、こういった面を指しているのではないかと思います。しかし、世界の秩序を導くとか、そのためのグランド・ストラテジーを描いて実行するとか、そういった創造的・大戦略的外交が「上手」かといえば、それは正直言ってできていません。

なぜなら、前述のとおり、それだけの力が日本にはないからです。日本という国家の形がそういった外交を展開することを望んでいない、とも言えるでしょう。

もしこの部分を多少なりとも改善したいと考えるならば、日本の外交のリソースを増やすことです。最近の安保法制も、こういった文脈において評価されるべきものです。ODAだけでなく、パブリック・ディプロマシーの拡充もこの文脈で考えられる問題です(この分野における米国や韓国の積極性は、現実にどこまでうまくいっているかは別として、非常にインパクトがあり、戦略的です)。

最後に付け加えると、実際に日本の外交が他の国から「下手」と思われているのかと言えば、必ずしもそういうわけでもない、というのが私の印象です。

たとえば中国は日本の一挙一動を見て「軍国主義的」などとこじつけのような批判をしますが、その裏には、日本のあらゆる行為が中国封じ込めのための計算に基づいているという、陰謀論めいた見方が存在します。誇大妄想のような印象を受けますが、逆に言えば、それだけ日本の「戦略的外交」を怖れているとも言えます。

また、国際交渉における日本の段取り(特にロジ)の良さは世界的に見ても突出しており、信頼感は極めて高いです(逆に言えば、世界のほとんどの国の段取りが極めて粗雑であることの裏返しといえます)。個別のイシューを見れば、日本もまだまだ不十分なところもあります。それでも、総体としてみれば、日本の安定感は「ブランド」の域に達しているといえると思います。

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4 comments on “日本の外交技術
  1. ぺルドン より:
    だから

    このままでいてほしい国々がある。
    特に中・韓・・
    これ以上の軍備は阻止しなければならない・・国是・・
    理由・・中国・・徹底的に鉄拳制裁を受けた恨み深い・・

    米国・・戦略の失破・・日本軍事国家で同盟すべきだつた。

  2. ぽんた より:
    ありがとうございます!

    JDさま

    ありがとうございます!
    お忙しいなか丁寧にご対応いただき大変感謝しております。
    お礼のコメントが遅くなってしまい申し訳ございません。

    いだたいた回答、とても参考になりました。
    固有の制約がある、という前提を忘れてはいけませんね。
    ご指摘のあったTPP、確かに機能している象徴ですね。
    個人的にとても安心しました。

    引き続きブログを拝読させていただきます。
    どうか無理のない範囲で執筆してください。楽しみにしてます。

  3. sissi より:
    勉強になります

    すっかりJDさんのファンです(笑)

  4. anonymous より:
    圧倒するレベル

    こういった、(元)官僚の方々の生の声は貴重ですよね。
    メディアを介すと、とんでもないバイアスがかかっていると思います。

    東大とかに入った後も、世界を見据えて努力を怠らなかった方々は分野を問わず、
    正に「圧倒するレベル」に達しているなと感じます。
    JDさんもその一員なのでしょう。

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