2015/12/01 00:51 | 中国 | コメント(8)
中国とASEAN②
「中国とASEAN①」の続きです。前回は、ASEAN各国が中国のインフラ開発に対していかに期待をかけているか、ASEANに中国と日米のいずれかを選ばせるというアプローチにはまったく意味がない、ということを述べました。
今回は各論として、ASEAN各国の状況を具体的に見てみましょう。南シナ海の問題は、もちろんベトナム、フィリピンにとっては一歩も譲れない核心的な問題です。だからこそ両国とも中国に対して断固とした態度をとり、日米との軍事協力を進めています。特にベトナムにおける反中感情の高まりはものすごいものがあります。
とはいえ、だからと言って中国との関係を切り離すという結論はあり得ません。特にベトナム北部の経済は、華南の経済と一体化しており、中国との貿易なくして経済を成立させることは不可能な状態にあります。
インドネシアについては、高速鉄道計画が結局は中国に奪われました。インドネシアの対応に不誠実な点があったことはある程度否定できないと思います。しかし、これもインドネシアとしては自国の利益を最大化しようとした判断だっただけのことです。インドネシアが民主国家だからといって日本を中国より優先するという思考法などありません。もっとも、だからといって中国に接近しているわけでもありません。
ミャンマーも、NLD政権の外交について、アウンサン・スーチーは、欧米とインドに強いシンパシーを抱いており、日本と中国に対して悪感情を抱いていると噂されることから、日本と中国に対してどのようなスタンスで臨むのか注目されています。しかし、これも、同氏の個人的感情はどうあれ、日本と中国いずれに対しても、大所高所の方針として頭から関係を後退させるということはないでしょう。
アウンサン・スーチーは、その独裁的な振る舞いや統治経験の欠如がメディアで批判されていますが、現地の事情通の話を聞くと、実は極めて合理的・戦略的な人物であり、その行動はかなりの部分計算に基づいていることが分かります。挑発的な言動や88世代や少数民族政党との共闘を選ばなかったことは誰もが疑問に思いましたが、それが正しい戦術であったことは結果が証明しました。また、中国のミッソンダム(現在工事中止)については、選挙中ですら、中国批判を控え、政権を獲ってから慎重に検討すると述べたように、極めて冷静な対応をとっています。
要するに、ASEANのいずれの国も、現実主義、是々非々の外交をとっているだけのことです。そこには中国か日米かという外交方針の選択を行うといったイデオロギーや大戦略はなく、個別のイシューごとに、淡々と有利不利を判断しています。したがって、ベトナム、フィリピン、インドネシアが南シナ海をめぐって中国と対立しているから日米グループに入ってきたとか、インドネシアも加わってきたとか、民主国家の同盟だとか、一喜一憂してもあまり意味はありません。
さらに言えば、このことは英国にも当てはまります。習近平を歓待したとか強く当たったとか、一挙一動をみて英国の対中政策が変わったとか、日米に再び寄ってきたという意見を見かけましたが、ズレています。もちろん原発の購入など個々の問題を見れば、本当に英国は大丈夫かな?と思ったりしますが、本質的に英国の外交は現実主義であり、いいところだけをとるという、是々非々の対応をしているに過ぎません。ある意味でシンプル、ある意味で非常に合理的・戦術的で、当たり前の外交ともいえます。
自由と民主主義という価値観を重視し、現在の秩序の維持に国益を見出し、既存のシステムに挑戦する中国やロシアを抑え込もうとする米国は、実は、かなり特殊な国です。この米国外交の思想潮流については近いうちに詳しく書きますが、ポイントは、こういったある意味イデオロギー的な価値観、大戦略的な発想は、米国だけにみられるユニークなものということです。
そして、日本は、米国との関係を常に最優先せざるを得ないという意味で、また特殊な立場にある国です。それ故に、このような米国の特殊性を前提に物事を見がちです。この傾向は(私もそうなのですが)特に米国の仕事に多く関わってきた人たちにみられます。
言い換えれば、ASEANの国々は、日米中を天秤にかけながら国益を最大化しようとしており、非常にしたたかです。ASEANも英国も、米国に比べると、よく言えばフレキシブル、悪く言えばオポチュニストです。そして、世界の大多数の国はそんなものです。
ですから、南シナ海などの一局面をみて、だから中国はどこからも嫌われて孤立するとか、民主主義の国々が連携して中国を封じ込めるなどとみるのは、ナイーブに過ぎる見方であり、現実を見誤る意味で危険です。世界はそんなに日米に都合よくはできていませんから、最初から甘い幻想はもたない方が賢明です。
逆に、AIIB、高速鉄道、アウンサン・スーチーの日本に対する感情などをみて、過度に悲観する必要もありません。こういう視点をもって一つ一つの動きを追うことは骨が折れますが、大事なことです。このHPでは、注目すべき動きとその背景を地道に説明して、皆さんの参考になる分析を見せたいと思っています。
当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。
8 comments on “中国とASEAN②”
コメントを書く
いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。
①日本と中国いずれに対しても、大所高所の方針・・
お隣さんの方・・?
②米国は、実は、かなり特殊な国・・
NO1だから・・日本はNO2ではない。子分だから・・
聞きました・?
たった三か月で八兆円近く年金をすった国があるって。
周辺諸国から大切にされますよ・・・(笑
すみません、①はちょっと意味がわかりませんでした。
②は、まあ、そうですね。
株、買いすぎですよね。上がってきましたけど・・笑
K国でしょうか・・
片一方に対しては、関係、後退させまくりのような。
彼の国の外交も、ある意味特殊なのでしょうか。
ありがとうございます。理解しました。
彼の国は、たしかにかなり変わってますね。合理性では説明つかないところが多いです・・
毎度、勉強になります。
各国が国益のためにフレキシブルに動くのは当然と思っていましたが。
そうか、米国は特殊な国なのですね。
影響が強いせいか、これが世界のスタンダードという無意識の感覚が吹き飛びました。
欧州の旧体制から、フロンティアを夢みて渡米してきた移民にとっては世界戦略などの余裕はなかった。アイデンティティである反知性主義で未来を切り開いてきた。連邦制であり中央銀行なども受け入れたくなかった。しかしあっという間にフロンティアがなくなるほど大発展すると世界に合わせて自ずとあり余るパワーで帝国主義になるしかない。モンロー主義はだんだん言い訳になってくるし、それに代わるマハンのシーパワー世界戦略理論も用意されてくる。それに欧州の国際金融資本が米国でドル本位制とう云う私的中央銀行を確立してしまった。私的であるからには政府より信頼できるという逆説もあり得る。これに則って戦後は石油戦略で世界のドル本位制つまり世界の胴元制=世界の警察官を実現してしまった。最近は警察官辞めたと言って他国に戦闘を勧めているようだがしっかり武器を売っている。中国、ロシアも賭場に入れてもらえなければ空腹に耐えるしかない。中国は欲望に素直に従い脱出し、ロシアは未だに耐えている。イランもまた加入してくる(核を甘く見ない方が良いが)。ボーグ(先進国集団)の言うように抵抗は無意味だ。変動相場制と先物相場は秘中の秘の体制維持のための調整手段だ。この観点でだけユーロも正当化される。ぐっちー程になるとこの調整が読めるらしいが、いずれユーロは詰むとみているらしい。それに英国流の間接投資を注意深く抑え、投資銀行に直接投資をやらせてきたので景気循環も制御しているかのようだ。当然軍事力が担保だが確かに有史以来の特殊性だ。日本の立場が特殊なのは道理だ。価値観としては一応、支配層の胴元にとっての自由と民主主義という建前はある。冷戦の間は国民は福祉で大事にされたが、もうその必要はない格差社会だ。一番割を食ったのは特殊な日本だ。人民元はSDRとして冥加金を出し賭場の番頭になれたのかもしれないが、役員としての制約は増してしまい飼いならされる運命か。ロシアは相変わらずの扱いだ。ほころびが出るとするとそれはローマ市民権を連想させる。ぺルドンさんは未来を知っているに違いない。日本も今度は中国にカルタゴ扱いされなければいいが。アセアンは米国の裏庭南米に相当し、華僑の支配地域と思われますが、華僑と中共との関係・相性も知りたいところです。
いつも勉強させていただいております。
少し話は変わるのですが、、、
トルコとロシアがきな臭くなっておりますが、JDさんはどのようにご覧になって
おられますでしょうか?
ぜひ、JDさんの見解を教えてください。
お忙しいなかお疲れさまです。
的確な分析、拝読していていつも感心しております。
日本外交の実力に関する見方をお聞きできると幸いです。
今回のブログの文中に、
「要するに、ASEANのいずれの国も、極めて現実主義、是々非々の外交をとっているだけのことです。」
とのくだりがありました。
私は公開情報からしか判断できませんが、おそらくそうなのでしょう。
そこでお伺いしたいのが日本です。
日本では一般に外交下手とされがちです。
もちろんそういう部分はあるのでしょう。
ただ、見様によってはアジアの国々以上にしたたかな印象も受けます。
ご覧になってその手腕をどう評価されていますか?