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2007/06/11 10:09  | 中央銀行 |  コメント(8)

中央銀行の総「テマセック化」


現在のマーケットを見る上で無視できなくなっているのがこの問題。


従来ヘッジファンドなどのリスクマネーと呼ばれるものはそれなりのお金(代表的なのはスイスに置かれているような不透明ながら歴史も長く、そこそこソフィストケイトされた巨額なプライベートバンキングに流れるお金)だった訳ですが、これに一部の機関投資家のお金が加わり始めたのが1995年以降(これがLTCMの巨大化、ひいては破綻に結びつく。一般に不透明な・・・ブラックボックスの多い・・・運用に機関投資家のお金は不向きだが、彼らの「ノーベル賞」という肩書きがこれを可能にしたと今では分析される)、さらにそれまでシンガポールのテマセックおよびその傘下のGICの独壇場だった国家に蓄積された外貨準備のリスクマネー運用が世界中に広がり始めたのが2005年以降、といことでいまやHFのかなりの部分の資金の出し手が中央銀行だ、という誠に不可解な状況になっておりいます。


かんべえ先生はエコノミストの記事を引用され、「国富ファンド」とされていますが、要は世界中の中央銀行がテマセックになりつつあるという訳です。


溜池通信


テマセックはもともとたまった外貨準備ををシンガポール国内のさまざまな事業を支援するために使ってきました。シンガポールエアラインなどはまだこのテマセックが大部分の株を持っています。日本ではこれがまさに財投資金だった訳ですが、シンガポールはこのテマセックを「民間事業」としてその運用成績をミッションにした所が実に強かです。


一定の運用益が出なければ運用責任者、総裁などばんばんクビにしましたし、その傘下のシンガポールエアラインに早くから(1980年代から)原油デリバティブによる航空燃料の価格ヘッジをさせたのも彼ら。


日本の財投が非効率な道路建設などに塩漬けにされたのと好対照で、政府の国富の運用をするなら「その成績に鈴をつけるのだ」、と考えたのは実に頭が良い。日本は「運用成績」という発想がなかったためにこうやって巨大な赤字の塊を作ってしまった訳です。


ともあれ、こうやって「運用成績に鈴がついている」訳ですから、シンガポール国内にそうそう効率のいい投資チャンスがある訳がありません。面積が淡路島と同じですから、いくら淡路島に集中投資をしてもたかが知れている訳です。


と言う訳で、このテマセックは1980年台から完全にヘッジファンド化し、実際に世界のあちこちでリスクマネーとして飛び出してくるようになります。これがどれだけリスクマネーかというと、1990年代の「失われた十年」といわれた東京市場、特にだれも手をだせなかった「ドライアイスの塊」と言われた日本の不動産を先陣を切って買い捲くっていた訳ですから、これはどこから見ても「リスクマネー」としか言いようがない。


おかげで銀座8丁目から潮留、さらに品川にかけてはすべてシンガポール政府の持ち物になってしまいました。同じようなコンテクストではサウジアラビアの資産管理会社、SAMAが有名ですね。 そしてついに中国がブラックストーンに出資したという象徴的な事件がおきましたが、ロシア、ノルウェーなどの原油価格安定基金によるHFへの出資はとっくの昔に起きていますし、UAE,クウェートなども同じように有名です。


何が言いたいのかというとまず、これらの資金の特徴は巨大であること。そして国のお金ですから、良し悪しはともかくも、現状それほどのディスクロージャーが求められず、HFの運用者にしてはまことに都合の良い「お財布」であるとともに、一方ではディスクロージャーされないために本当の運用がどうなっているか、市場には完全にブラインドだと言う点が重要です。


このためHF自身の巨大化と共に彼らが大きく動いたときのリスクも肥大化しているのは確かで、現在のユーロ高ドル安は、何よりこれらのコンテクストの中で捉えられなければなりません。 日本の外貨準備がほとんどそのまま生でアメリカ国債に転換されている事に比べるとこれらのリスクポイントの高さがわかります。


例えば、日本の1000億ドルの外貨準備は1000億ドルのUST購入にしか結びつきませんが、これがHFを経由すると1000億の資本部分にその資本提供をした国のクレジットをバッファーにその上にローンを出す金融機関が出てくることになります。これが所謂「レバレッジ」でして、つまり、日本の外貨準備は1000億ドルの購買力しか発揮しないけれど、テマセックならその上の融資部分をあわせて少なくとも10倍、1兆ドルの購買力を示すことができる訳です。これが一気に逆に動く可能性ももちろんあるわけで、その意味でのインパクトは日銀の比ではありませんね。まあ、アメリカ国債なら流動性もあるでしょうが、これが不動産、それを取り巻くリート、ジャンクボンド、CDS等に流れ込んでいるとなると・・・・


こういうリスクが今の市場にはある訳です。 このあたりの話はウォールストリートでも最先端ですから、日経なんか読んでても絶対にわからんのですが、今年はこの「中央銀行のテマセック化」が運用担当者にとってのキーワードのひとつであることは間違いありません。この巨大化したHFを取り巻く中央銀行のマネーが動き出したときにどうやって流動性を確保していくのか、現時点ではおそらく誰も答えを持っていない筈であります。

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8 comments on “中央銀行の総「テマセック化」
  1. ふろー より
    手間節句

    テマセクについてですが、日本への出資比率は高くないとありますがどうなんでしょうか?

    http://www.asahi.com/business/reuters/RTR200705140068.html

    ロイターも意図的に間違えてる?

  2. ペルドン より
    中央銀行の・・・

    要は金は自らは動けないから、
    自分を使ってくれる手下が必要であり、そのすばしっこい手下がヘッジ・ファンドとすれば、何事にも理責めのドイツが規制を世界に求めるのは当然て゛しょうねぇ。

    それに金が必要以上に有り余っているから、イギリス人のように、何にでも賭ける、ということになるでしょう。

    かくして、ゴルディオンの紐と世界経済はなってしまった。これを解決したのはアレクサンドロス大王。一刀両断でありました。
    と言うことは戦争以外解決はないとなるのでしょうか??

  3. 子貢 より
    セマテックについては

    リー(李)一族の「貯金箱」という側面も忘れてはいけないと思います。ですから、収益率も求めるし、公私混同の出資もしているのではないでしょうか。

  4. K より
    Unknown

    中央銀行の破綻もあり得るという事ですか?

  5. B より
    なるほど

    勉強になりました。
    Muchas gracias.

  6. momo より
    おしえてください

    グッチー様
    いつもブログヨませていただいてます。さて、質問ですが、

    おかげで銀座8丁目から潮留、さらに品川にかけてはすべてシンガポール政府の持ち物になってしまいました

    これはどういうことでしょう?不動産がSGのSPCなどの持ち物になっているということですか。すみません私の理解ぶそくですが、具体的におしえていただけますか

  7. durian より
    テマセクのCEO

    テマセクの Executive Director兼CEO のHo Chin(何晶)女史は、Lee Hsien Loong首相の奥さんですからねえ。

  8. アルルの男・ヒロシ より
    レバレッジ

    なぜブラックストーンに中国が出資したのか、なぜSWFが最近もてはやされたのか、何となく分かりました。世界中でみんなで買いあさりあって、お互い様?ということで、アメリカの大富豪やイギリスの富豪、中東の石油王や中国の華僑がニコニコしあうんでしょうか。何だか格差社会の元凶ここにありって感じがしました。

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