2015/12/25 00:00 | 南アジア | コメント(1)
インドの高速鉄道計画と中国
■日印首脳会談(12月13日付外務省HP)
■[FT]日中、高速鉄道建設の受注バトルで火花(12月20日付FT記事(日経新聞和訳))
12月12日の日印首脳会談で合意されたムンバイ・アーメダバード間の高速鉄道計画に対する新幹線技術の導入。10月のインドネシアのジャカルタ・バンドン間の高速鉄道計画で中国に受注を奪われたのと好対照の結果です。
日中のインフラ輸出の競争はアジアのそこかしこで激化しており、これについてはFTも冒頭記事のとおり面白い記事を書いています。ただ、日本の論調をみると、インドは中国から離れ、日米サイドにつこうとしている、日印の協力関係は素晴らしい、中国に対する輝かしい勝利である、といった何か浮かれたような記事のトーンを感じます。
しかし、FTでも書かれているとおり、日本が受注に成功した最大の要因は、120億ドルを年利0.1%で50年間融資するという円借款の破格の条件でしょう。
たしかに現状、インドと中国との関係は極めて悪い状態にあります。最大のリスク要因は国境紛争。これは昨年9月に習近平が訪印している間に人民解放軍がラダックに侵入し、インド軍と対峙するというとんでもない事態になったように、準戦時状態ともいえるような緊張状態にあります。
スリランカでは、1月、10年間君臨した親中派のラジャパクサ大統領が腹心シリセナの謀反にあって大統領選に敗れ、新大統領となったシリセナは中国から距離を置く等距離外交をとっていますが、このシリセナの勝利の裏にはインドの介入があったともいわれます。
一方、経済関係をみれば、インドと中国の関係は深化を続けています。中国はインドにとって輸入相手国1位(11%、2位は米国(5%))であり、輸出相手国としても、1位米国(13%)、2位UAE(12%)に続く3位(5%)。政治安全保障の面では緊張関係にあっても、経済に関しては、当然のことながら中国は重要な存在です。
この構図は、東南アジアに関して「中国とASEAN」で述べたのと同じです。ベトナムが良い例ですが、現在中国との関係は疑いようもなく最悪です。南シナ海、石炭火力発電所、国民感情などトラブルの火種は無数にあります。しかし、経済依存の深さは否定しようもなく(輸入相手国として中国は1位(30%))、特にベトナム北部の経済は中国の華南経済圏と一体といっても過言ではありません。
台湾も、先月、中台首脳会談がありましたが、政治的には距離を置きたいけれども、経済発展のために中国との関係を深めざるを得ず、そのうち香港のようになるという見方もあります。
さらに、対中貿易の拡大にとどまらず、一帯一路のインフラ整備、膨大な数の中国人観光客によって人民元のアジアへの浸透は確実に進んでいます。それは8月の人民元の切り下げの際にみられたASEAN各国の通貨と人民元との連動性にも現れています。先月の人民元のSDR採用もこの動きを後押しするでしょう。
こういう現実をみないで、首脳会談の成果をとらえて東南アジアやインドがいよいよ対中国包囲網に加わったと述べたり、逆に、インドネシアなどの高速鉄道計画の顛末をみて、やはり彼らは中国に取り込まれているとかそんなことはないとか憤然として、中国への対抗を強調するのは、素朴で単純に過ぎる議論と思います。
こういう一面的な権力政治的な見方はインドやASEANではほとんど共有されていません。日本だけの奇妙な自国中心視点というか、日本の方が中国より優位に立っていることを絶えず強調したいナショナリズム的な作為すら感じます(これはむしろ私がうがった見方をしているだけと願いたいですが)。政治安全保障のような純粋な外交問題は別としても、こと経済、ビジネス、インフラについては地に足が着いた冷静かつ緻密な考察が必要でしょう。
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One comment on “インドの高速鉄道計画と中国”
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ウチの関白様に・・
言上・・
無駄か・・・(笑