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2015/11/09 00:00  | 中国 |  コメント(1)

中台首脳会談


中台首脳、1949年の分断後初の歴史的会談 習主席は台湾独立けん制(11月8日付ロイター記事)

私が外務省に入った頃(90年代後半)は、中台危機があり、東アジアの安全保障における最大の懸念事項は、朝鮮半島よりも台湾海峡でした。

あの時代、既に経済関係(「経済的相互依存」と書きたいところですが、中国経済への台湾の取り込みの側面が強い)はかなり進んでいましたが、両国(特に中国)は公式の場をともにする、あるいはともにするとしてもお互いの存在を認めるような外形がつくられることを徹底的に回避してきました。その慎重な対応は国連、APEC、WTOなどで現れています。

それがまさかの首脳会談。まさに歴史的な衝撃です。隔世の感がありますね。

背景には、台湾側には、総選挙を控え、民進党(独立志向)に遅れをとる国民党が挽回するためのウルトラCを求めていたこと、馬英九政権のレガシー作り志向があり、中国側には、こうした国民党の内情を見越して、会うことが「一つの中国」政策にとってマイナスではない、と判断したことがあるとみられます。

そして、習近平国家主席が国交正常化25周年ということでシンガポール(とベトナム)を訪問するというタイミングの良さです。両国は、前述のとおり、お互いの存在を認めるような外形がつくられることを徹底的に回避してきました。このため、会いたいと思っても、どう会談の場をセットするのかが問題になります。そういう意味で、今回のシンガポール訪問は絶好のチャンスでした。

シンガポールは、故リー・クアンユーが、中国との間ではの国交正常化の前から鄧小平、台湾との間では蒋経国との間で親交をもっていたように、首脳レベルで中国と台湾と太いパイプをもっている重要なポジションにありました。この国を両国の首脳が訪れることは違和感がありません。習近平がシンガポールを訪問している間に、馬英九もいて、出会ったのでちょっと会いましょう、というソフトな流れにすれば、お互いの存在を認めるような外形がつくられるような重い状況を回避できるわけです。

一種の歌舞伎ですが、外交ではよくあるテクニックです。たとえば、最近は多国間の国際会議が山のようにありますが(多すぎると言われるぐらいです)、この機会を生かして参加国がバイ会談を実施するということはいつも行われています。

日中韓首脳会談も元々はASEAN首脳会議で首脳が一堂に会するタイミングを生かして99年に初めて実施されました。中国や台湾がともに参加するAPECやWTO、北朝鮮が参加するASEAN地域フォーラム(ARF)も(実現はしていませんが)バイ会談を行う良い機会となります。今回のシンガポール訪問は、こうした定例化した会議より、もっとイレギュラー感の強い舞台ですから、より適切なセッティングといえます。

内容については、とりあえずこの歴史的会談を実施したこと自体が大きな成果といえる、というところでしょう。最初に述べた会談実現の背景、一般的な台湾市民の中国に対する警戒心からすれば、これをもって中台統一に近づく、と簡単に結論づけられるものではまったくありません。

ところで、歴史的にみれば、国民党と共産党の会談ですから、第三次国共合作といえなくもありません。ただ、一つ指摘するとすれば、台湾人にとっての「国父」とは蒋介石ではなく孫文です。蒋介石は、228事件で内省人を弾圧し、台湾撤退後は準戦時体制を強制したこともあって、台湾人の評価はかなり微妙です。

ちなみに台湾歴代総統の中で圧倒的に高い人気を誇るのは、蒋介石の息子、前述のとおりリー・クアンユーが親交を結んだ蒋経国です。台湾の現代史については、やや古いですが、たとえば本田善彦『台湾総統列伝』が参考になります。

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One comment on “中台首脳会談
  1. ペルドン より
    第三次国共合作

    歴史は・・
    そう簡単に・・苦渋の頁を・・忘れてはくれないでしょう・・・(笑

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