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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2015/11/16 00:00  | 欧州 |  コメント(3)

パリ同時多発テロ


トルコ、ロシア機の墜落、レバノンと続いて今回のパリでの同時多発テロ。これまで「イスラム国」は、シリアのアサド政権とイラクのシーア派勢力に対する戦いを優先してきましたが、ここにきて域外のソフトターゲットを狙う戦術に切り替えてきたようです。

さらに今回はローンウルフ型ではなく高いレベルの組織的な攻撃である点も注目されます。更なる攻撃の拡大を懸念せざるを得ません。直近の問題としてはCOP21を控えるフランス、そして他の関係国(特に英国など欧州)のテロ対策が焦点になりますが、大きな視点からすれば、難民危機への対応とEUの将来に波及していくことになるでしょう。

特に最近の英国、ドイツ、ハンガリー、ポーランドの政局や政策を見てもわかるとおり、反EU的なナショナリズムの高まりが欧州を覆いつつあります。EU自体が根本から揺さぶられることになるかもしれません。

一方で「イスラム国」への攻撃はより強化されることになるでしょう。ここは最近、急速に介入の度合いを強めているロシア、イランとの連携がますます重要になってきます。

同床異夢の状況をマネージするのは至難の業なので、まったく楽観視はできません。しかしロシアとしても、もはや一歩も引くことのできない状況に追い込まれていますから、実効的な連携を見出して欲しいところです。

ここからは余談ですが、フランスがターゲットになるのはシャルリー・エブド事件からの経緯も想起されるところです。私はこういう宗教対立を不毛に煽る、低俗で商業主義のメディアに対してまったく共感をおぼえません。

シャルリー・エブド事件が起きたとき、メディアは表現の自由を訴えるキャンペーンを展開し、シャルリー・エブドを守る立場を強調しました。もちろん、表現の自由が民主主義の根幹にあり、厚く保護しなければいけないのは当然のことです。

しかし、表現の自由も他者の人権との調整に服することは避けられないものであり(名誉棄損罪はその例)、あらゆるものに優先する神聖な権利ではあり得ません。米国憲法では「freedom of speech」が修正第1条(First Amendment)に書かれ、判例上は「二重の基準」の理論が確立されており、言論の自由が何よりも重要な権利、という考えが確立しています。

そして、日本の憲法学は米国憲法理論の強い影響下にあるため、同様に、表現の自由を特別に扱うという考え方が強く根付いています。しかし、欧州の憲法をみると、このように表現の自由を第一に扱うという形は必ずしもとっていません。

よく対比される例がボン基本法です。この基本法は、民主主義の体制を守ることをまず憲法の究極目的と位置づけ、それに反する活動は言論であって規制できるという構造をとっています。

また、米国の二重の基準も、そもそもはオリバー・ウェンデル・ホームズ判事が徴兵制度を否定する言論が保護に値するかという論点に対して、言論の自由も「明白かつ現在の危険(clear and present danger)」があれば規制できるとしたことに端を発し(判決は言論の制限OK)、またルイス・ブランダイス判事がニューディール立法を合憲とする上で経済的自由の制限を正当化するために作りだした経緯があり、表現の自由を神聖なものとして扱う趣旨ではありませんでした。

さらにヘイト・スピーチには保護の程度を下げるという理論もあります。メディアにしてみれば、言論活動が仕事ですから、当然のことながら自分の地位を守るためにその自由の保護を全力で訴えるのでしょう。しかし、言論の自由は大事だ、で終わるような単純な話ではないと思います。

もちろん暴力で言論を封じるのは論外ですから、シャルリー・エブド事件が正当化されることはまったくあり得ません。しかし宗教対立をあおる言論を完全に放置して良いのかという疑問はあります。

名誉棄損と違うのは個人の損害が発生していない点ですが、たとえば何らかの意味で信教の自由の侵害となると構成することもあり得るでしょう。一定の理論に基づいて憲法上の権利の調整を行う余地があるように思います(こういうのは憲法学者の仕事なのですが)。

最近では、インドでも宗教対立が深刻な社会問題となっています。先週末に与党BJPの大敗が明らかになったビハール州の選挙でも宗教対立をあおるような選挙戦が展開されました。こういった宗教的不寛容の問題はこれからますます世界的に深刻化し、大きな課題になると思います。

後半は完全に脱線しました。取りとめない話になりましたがとりあえず問題意識の共有としてお伝えします。

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3 comments on “パリ同時多発テロ
  1. ペルドン より:
    シャルリー・エブド事件&・・

    決して・・上質と言えない戯画で・・始まってしまった・・
    そんなものだと・・
    歴史の風刺・・と嘯くのにしては・・あの時でさえ・・多くの人命が失われた。

    今度は風刺画ではないが・・更に更に・・大きくの人命が掻き消えてしまった。
    彼等は誤爆で・・その程度の人間は・・毎日シリア・イラクで失われている・・と抗議するだろう。

    だとしても・・
    異なる時代に棲んでいる感がある。この違和感は決して消えない。
    法皇の言う第三次世界大戦の発端かも知れない。

    サラエボで皇太子が暗殺された時・・第一次世界大戦の悲惨さと人的・文化的破壊を・・損害を正確に予測した人間は少なかっただろう・・・

  2. カマキリマン より:
    「私は東スポ」「私は夕刊フジ」

    「私は東スポ」とか「私は夕刊フジ」とか真面目な顔しながら言わなくとも
    「私たちの社会には言論の自由がある」と安心していられるような社会がいいですわ。

  3. JD より:
    カマキリマンさん

    「私は東スポ」「私は夕刊フジ」・・それは・・イヤですね(笑)。

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