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The Gucci Post [ぐっちー編集長の金融・経済を中心としたオピニオンブログ News Paper]

2015/09/21 00:00  | 日本 |  コメント(8)

安保法制と法学者の役割①

Japan v South Africa 34-32 – Full Match Highlights and Tries

ラグビーワールドカップ、まさかスプリングボクスを破るとは。大変な快挙ですね。今回の日本代表は史上最強、しかも初戦はあの南アということで、これに絡めて南アの記事を書こうと思っていたところ、想像を遙かに超える事態が現実になり、ただ驚いています。

この件はまた日を改めて書くとして、今日の本題です。

安保法成立…集団的自衛権行使、可能に(9月19日付読売新聞記事)

議論を呼んだ安保法案ですが、ついに成立しました。この件については、「安保法制の合憲性をめぐる議論」「安保法制の採決をめぐる議論」で書いてきたことで尽きるのですが、コメントや質問を寄せられることが多かったので、少しだけ敷衍します。

私は、デモや市民団体の主張・行動には興味がないのですが、憲法学者の振るまいには興味があります。今回反対の論陣を張る学者の方々には、私が大学で直接ご教授いただいた方たちが多くおられますし、尊敬している方も多く、また、専門家の学識と知見に対しては、何事につけ最大限の配慮を払うべきと考えるからです。

しかし、今回の一件を見ていると、法学者の役割とは何なのだろうかと考えさせられます。

近代法治国家において、法的紛争は裁判所によって解決されます。これは、今回の安保法制に関しても例外ではなく、その憲法適合性は、「安保法制の合憲性をめぐる議論」で書いたとおり、最終的には最高裁で判断されることになります。

そして、裁判所の役割とは、一言でいえば、具体的合理性法的安定性のバランシングにあります。

具体的合理性を重視すれば当事者が納得いく結論を導くことができる。しかし、これを突き詰めると、場当たり的になり、当事者でない第三者や将来の当事者との関係で不公平になることがある。また、予見可能性も失われる。そこで、法的安定性が求められる。

法律をあらかじめ制定しておくことは法的安定性を確保する上で最も有効な手段だが、あまりに硬直的に過ぎると具体的紛争で合理的な解決ができなくなる。そこで裁判所は「解釈」という法技術を用いて、形式的には法律を守りつつ、実質的には当事者の状況に適合した結論を下す。この①当事者に適合した合理的な結論を見出すセンスと、②その結論を正当化するための解釈を導くプロセスこそが、裁判官の腕の見せ所なのです。

民事法という対等な当事者が向かい合う場面と、刑事法・公法という国家と個人という非対称な当事者が対峙する場面とでは、具体的合理性の中に正義統治論を読み込む点や、法的安定性を重視する程度が異なるという点で、同列に論じることはできません。それでも具体的合理性と法的安定性のバランシングというポイントはどの訴訟にも共通します。

説明を補足しておくと、憲法について言えば、他の全ての法律より上位にあり、これに反する法律は無効になるという特殊性があります。訴訟においては、裁判所が違憲審査権という権限を行使することで、紛争解決の土台となる法律を無効にするという、言わばゲームのルールをひっくり返す「切り札」としての役割を担うことになります。

ただ、これも、上記の「具体的合理性」の中で語られる話です。つまり、訴訟において、たとえばある刑法を適用すると処罰される人がいて、事実関係からするとその人に法律が適用されることには争う余地がないが、どう考えてもそれは不当である、具体的合理性を欠く、という場合に、そもそもその法律は違憲無効なのだ、という、負け筋のゲームの中で憲法(人権、まれに今回の平和主義や政教分離といった統治原理)という一か八かにかける、という文脈に位置づけられます。

ロナルド・ドゥオーキン『権利論』

少し話がそれましたが、元に戻ると、裁判官に求められるのは、①合理的な結論を見出すセンスと②その結論を正当化するための「解釈」を説得的に行うプロセスと述べました。①で必要な能力は(A)健全な市民感覚・常識、②で必要な能力は(B)プロの法律家としての知性です。

(A)が欠けると(B)があっても、あの人は頭はいいけど世間知らずな裁判官ということになり、(A)があっても(B)が欠けると、大岡裁きや遠山の金さん、あるいは盟神探湯と変わらなくなってしまいます。

さて、①について、裁判所(最高裁)が下す結論は法治国家においては絶対です。批判をするのは自由ですが、「ダメなものはダメ」と言っても生産的ではありません。世間知らずと思われる判決でも従わないといけないのが現実です。

では外野では何もできないかと言えば、そんなことはありません。一つには法律を変えることです。これは政治家の役割です。そして、判決にせよ法律にせよ、①結論の妥当性において求められるのは、上記のとおり、(A)健全な市民感覚・常識です。

これは、広く市民社会に適用される話であれば(たとえば殺人罪の時効の是非)、素人としての感覚がむしろ重要になります。ある特定の業界での慣行(たとえばデリバティブなど高度な金融取引)であれば、その分野の専門家の相場観が重要になります。いずれにしても、法学者の知性が期待される場面ではありません。

もう一つは、②の「解釈」のところで議論をすることです。なぜなら、判決の理屈を批判して、より適切な基準を設定したり、あるいは、この判決の解釈はこの場面だけに適用されるものであるとして、判決の射程を限定しておけば、次の裁判では、批判を踏まえて、より適切な基準が適用されたり、あるいは、前の裁判の「解釈」の範囲外であるとして、適用されず、結果として、より合理的な結論が導かれる可能性が高まるからです。

そして、②ロジックで求められるのは、上記のとおり、(B)プロの法律家としての知性です。ここに、プロの法律家、すなわち法学者が活躍する余地があるのです。

要するに、法学者の役割とは、法律(憲法含む)と裁判所の判断(判例)を所与のものとして、それらを整合的に組み合わせると真っ当な結論が得られるような論理を創造することであり、それに尽きます。

では今回の安保法案の合憲性をめぐる議論について考えるとどうなるのか。長くなるので、これは明日に回します。

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8 comments on “安保法制と法学者の役割①
  1. ペルドン より:
    JDさん

    行政法の安倍教授と話していたら・・
    最高裁が破棄した高裁判決よりも・・無視して理由をのべず棄却した最高裁判決の方が面白い・・

    憲法裁判所もしくは行政裁判所設立が・・早急に望ましい。
    望ましいか・・関白殿は乗り気ではないでしょう。
    法制局は便利な存在ですからね・・

    何時の日にか・・・(笑

  2. 科学誌印刷業者 より:
    志願者激減

     すでに高校では自衛隊への推薦を忌避しつつある。父兄に対して説得しうる論理が存在しないから当然であろう。これが高三の子を持つ小生から見た現実。
     米国は自分が欲する時には同盟国に参戦を要求しているが、同盟国からの要請によって参戦することはここ50年以上ない。これが国際社会の現実。
     自衛隊には自国を守りながら他国を守る二正面作戦を行う余力がなく、海外の在留邦人を救出する実力もない。
     米国はアジアから手を引きつつあり、アジアの安全保障を日本に負担させようという意図が見え見えであるから、侵略側から見ればチャンス到来となり、地域の不安定さを増大させるだけである。
     アホとちゃうか?

  3. ペルドン より:
    アホとちゃうか?

    軍略に関しては・・
    オバマは・・その通りですね・・
    で・・
    トランプがなれば・・
    又・・
    息を吹き返す・・
    中国のあからさまな軍拡・・
    プーチンの野望・・
    刺身包丁・出刃包丁・牛刀の店じまい・・まだまだ・・・(笑

  4. 過激派 より:
    中途半端

    地球の裏側で国を守れと自衛隊員に命をかけさせるのも無茶苦茶なら、公明の意見を容れてほとんど実効性のない法案成立に大騒ぎするのも白ける。

    賛成派が言うように「中国が云々」いうのなら、日本という国全体を徹底的にハリネズミ化すりゃいい。手を出したら痛い目にあうと思わせればいいんです。本来はそうした提案をしてさらに必要なら憲法改正の議論をすべきであると。

    It’s not so bad idea to have a nuke.

    とニヤリひと言言ってやれば、中韓はもちろん、米国の「ポチ」にならんでもいいですよ。まあ、そんな勇気ないか…。

  5. JD より:
    ペルドンさん

    マジレスするのが無粋ですが、本当はもっとセクシーなコメントをしたいですが・・憲法裁判所・行政裁判所は、憲法改正しないと無理ですからね。現実的ではないです。

    阿部泰隆教授でしょうか?行政訴訟の論文を参考にしたことがあります。行政法は、あまり面白くない分野ですけどね・・公法学までいけばセクシーですが・・笑

    裁判所は、主文があれば紛争解決できますし、判決理由には拘束力もありませんから、最小限(不要)でいいという議論はあります。その方が、法学者も自在に議論できますしね・・笑

  6. ペルドン より:
    JDさん

    随分セクシーな話・・
    な筈ですが・・(笑

    阿部 泰隆・・自称大龍・・
    面白い方ですね。

    行政法は司法試験から排除され。修習生時代チョッコ習うだけ。
    行政法を知らない裁判官が輩出され・・官僚にいいようにあしらわれてしまう・・これが持論・・

    論理の鋭さは・・政策研究大学院教授・福井秀夫先生かな・・建設省の元司法担当・・ワイン愛好家・・・(笑

  7. 科学誌印刷業者 より:
    共和党トランプ候補

    ペルドン様、
     トランプ氏は消える定めにある。共和党員はそれほどあさはかではないよ。いつも予備選序盤に出没する変人のひとりにすぎないと見ている。
     過激派様のおっしゃる通り、個別自衛権を研ぎ澄ますことが現実的でしょうね。
     外国から見れば、「派兵できるのか、できないのか、どっちやねん」であるし、派兵したとたんに国内では違憲差し止め訴訟の山になる。侵略側から見れば米軍より弱い自衛隊がひょろひょろ出てくるのはもっけの幸いでしょうね。
     

  8. ペルドン より:
    科学誌印刷業者 さまさま(一度付け忘れたから)

    オバマに対する批判的な動き・流れの観点からすれば・・
    最有力候補と視るな・・政治力学・感情論・・無視出来ない。
    JDもトランプを軽んじすぎるな。
    まだ・・共和党大統領候補戦・・緒戦・・・(笑

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