2005/09/02 08:42 | 金融全般 | コメント(4)
ハリケーンと金融市場、そして原油
ハリケーンの被害が広がるにつれて、金融市場にも影響が出てきつつあります。
一つはこの被害で経済が停滞する可能性があるため、利上げが見送られる、或いはせいぜい後1回で終わるのではないか、という見方。・・・これによって金利が下がる、特に短期債が急騰しているという見方があります。
過去の自然災害は、ハリケーン、トルネードなど、アメリカは国が広く災害の天国ですが、ほぼ、このパターンで金融政策が変わる事はありません。あるとすると、当面、保険会社などの支払いや、銀行などの資金流動性を確保するために意図的に短期金利を低め誘導していくという「緊急避難」的なオペレーションです。
このところ経済活動が弱い数字が良く出てくるので過剰反応している可能性もありますが、現状金融政策の変更に至るほどのものではありません。引き合いに出すのはよくないかもしれませんが、9・11の時もグリーンスパンは思い切り短期金利を低め誘導しました。今回は被害地域が金融セクターではないとはいえ、円滑な地域救済のために一時的に流動性を供給する結果、短期金利が低めに推移する可能性はあり、です。
一方、そのうちに、まもなく、被害総額がいくら、とあれこれ書かれだすと、その資金を捻出するために損害保険会社が国債を売った、などと憶測が出てくる事になりますので、これも予想しておきましょう。一方で、復興需要があるので、株が上がる、なんてエコノミストが必ず出てきますので、これも「ガセネタ」として無視して下さい。
この被害を原油価格の上昇やガソリン価格の上昇に結びつける向きもあるのですが、ここでは一貫して申し上げているように、原油などは究極の「戦略物資」の面が強く、金融商品のように一筋縄に予想出来るものではありません。何せ地面に埋まっているのでそうそう変わらないはずの埋蔵量だけでもコロコロ数字が変わる代物です。注意が必要です。
かんべえ先生の著書、「1985年」にも書かれていることですが、1985年に原油価格が下がった事がソビエトの崩壊を早めたことは事実です。なにせ86年3月には12ドルですから。これを偶然と見るのか、意図的に見るのか。かんべえ先生は「意図的」とまではお書きになっておりませんが、明らかにアメリカがソビエトにダメージを与えつつ、サウジが耐えられるぎりぎりの線を走ったと私は解釈しています。あれが無ければソビエト連邦はもう少し長らえられました。
では今はどうか?
ブリックスとひとくくりにされていますが、中でろくな工業発展をしていないのがロシアであります。純粋な資源輸出国、特に原油輸出国なのです。彼等は今の原油高のお陰で大変な外貨準備を得ています。こうやって色分けをすると、
原油高で得するグループ:アメリカ、特にブッシュ政権の支持基盤、ロシア、サウジなどの中東、南米の産油国等々。
明らかに損するグループ:中国、北朝鮮。
大変だけど何とかなるグループ:日本、欧州の各国
となり、アメリカの戦略にそって上手く色分けされていると思われませんか?
中国は大変な輸入国で、その量もうなぎのぼりです。ロシアに塩をおくりつつ中国を牽制するというのは、考えすぎでしょうか? しかし、原油を考える時はこの程度の想像力は必要だ、ということは覚えておいていただきたい、と思います。
日本は大変ですが、かなり省エネが進んでおり、何とか踏みとどまるでしょう。欧州はディーゼルエンジンが普及しており、安い軽油が使えますのでやはり何とか踏みとどまるでしょう。イギリス、ノルウェーなどが産油国と言う事も要素の一つですね。
その意味ではアメリカにとって悩ましいのは恐らくイランの存在です。あまり得させたくないのですが、あれだけの産油国なのではっきり言って「ラッキー」状態。突然日本のイラン油田の掘削権の取得を「黙認」し始めたのは、日本救済の側面を考えた・・・・という説まである! まあ、大変な世界であります。
ということで、中国を牽制する意味でも当面原油高は維持されますが、2?3年後にはまた20ドル位かもしれない、というのが私の考え方を引き続き保持致します。
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4 comments on “ハリケーンと金融市場、そして原油”
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いつも本当に楽しく読ませてもらってます。原油高の洞察さすがと感心させられました。それとやっぱり気になるのがLNGです。8・13の日経に載っていましたが、 10年後の世界の需要が3倍アメリカが10倍。日経に出たら終わりといいますが、LNGはほんと金のかかる仕事なんです。それで開発から最終消費まで20年とか25年という長期の契約を結んでインフラを整えるわけです。10年後に10倍のLNGを使おうとしたら、あんまり安い原油はありがたくないですよね。そうやってエネルギー供給を安定させておいて、次は一体何を考えているんですかね。
ぐっちさんではない方が同様のことを
おっしゃってたのをどっかで聞いたような。
でも、米支の冷戦、2-3年でケリつきます
かねぇ?あれだけ必死になってるシナが
アメリカにこれだけの短期で屈するって
のは、よほどドラマチックな展開だと思わ
れるのですが。
ド素人です。何かの折にご教授頂ければ。
原油に関する考察、興味深く拝見いたしました。分からないのは、米国の一部の人々がそのように考えたとして、マーケットは本当にその通りに動くものなのだろうか?動くとしたら、どのような手段で?です。
為替。円ドル相場は大局的には米国政府の意向に沿って動くという説がありますよね。プラザ合意などを見ますと、政治が為替に影響力を及ぼせるのは事実なのだ、マーケット原理主義者の言うことを信じてはならない、と感じます。でも、どうやって?
米国人の愛国心の強さは認めます。でも、市場は米国人だけで構成されてはいる訳ではないし、いわゆる投機筋が政府の意向に従うようには(ド素人である私には)思えません。実需が政治に従うことも考えにくい。
もちろん原油と円ドル相場は違うし、円ドル相場といってもプラザ合意は20年前です、一言では括れないとは思いますが、ド素人の素朴な疑問と言うことで。
himekamiさん
確かにLNGなど、気になることも多いですね。原油の場合、産地が偏っているためにコントロールしやすい側面があるのですが、LNGはもう少し幅広く生産地があるのではないでしょうか? もう少し調べてみますね。
おおみや%NEETさん
そのあたりはどうでしょうか。中国はマッタク予測がつかないですね。不確定要因です。
Forsterstrasseさん
原油は先にも書き込んだように産油国が限定されているので「つるむ」ことが可能です。しかも現物が限られているので値幅も大きいですね。
為替は、誤解を恐れずに申し上げるならアメリカのみ、コントロール可能です。基軸通貨がドルでそのドルを無尽蔵に持っているからです。現状はもっとコンロトール可能かもしれません。軍事力でアメリカにかなうところが無いからです。唯一の弱点は日本がアメリカ国債の約50%を持っているということですが、日本が反抗しない限り問題ないですね。
その意味ではコントロールが効きにくいのは金利、でしょうか。規模が大きいのも原因です。各国の通貨危機が金利の上昇がきっかけになることが多いのがそういう意味ではいい例かもしれませんね。