2007/08/15 09:44 | 金融全般 | コメント(17)
ブランド価値再考
ニューヨークは相変わらずすさまじいね。日本は関係ないとかおもってちゃだめですよ。株についてはバーゲンハンティングでいいと思いますが、金融システムという観点からいうと日本も対岸の火事という訳には行きません。
ここで説明したCLOをAAAだから、AAだからという理由で大量保有して、バッファーがみんなすっ飛んでしまい裸の王様ならぬ、幻の高格付け債券になっちゃった訳ですから大変です。まともに評価したらBもないんじゃないかな。
4000億円とかがいっぺんに投資不適格・・・これって不良債権てことです・・・に落ちた訳ですから大変です。しかもノーゲイン。二度と戻りません。笑っている場合じゃないですね。
今回クライマックスは何でしょうね?
まあ、10年前くしくもアジア通貨危機になった訳ですが、名のある大手金融機関が飛ぶとかいろいろ推測はできますが、多分そんなんじゃないと思います。一応アイデアはあるのですがあまり迂闊なことが書けないので・・・ヒントはアジア通貨危機です。皆さん考えて下さい。
という訳で今日はブランド価値のお話。
M&Aというとやれディスカウントキャッシュフローだとかイビタだとか小難しい単語が出てきます。しかし、こういう数字は誰でもいじれます。実は投資銀行家にとってM&Aに際して一番大事なことはこのブランド価値の算定なのです。日本風に表現するなら暖簾代。ここを間違うとすべてのディールが失敗します。
いくつか例をあげましょう。
HMVというCDの小売チェーンをご存知だと思います。駅ビルやイオンなどのSCに入ってますね。先日170億円で売却が決まりました。買ったのは大和SMBCプリンシパル。所謂はげたか・・・ではありません。自分で買って、事業を再生して上場するなり転売するというある種の再生ファンドですね。
しかし170億円・・・未公開ですが、売り上げはアジア全体で280億。日本に限ったら150億位でしょうか。しかもご推察のとおり、CDの売り上げは年々落ちており、頼みのDVDもその辺のコンビにで500円で売る始末です。
ツタヤが買った新星堂もタワレコもみんな赤字です。HMVだけ黒ってことはありえない。今後事業が伸びて売り上げがバイになる??という業界でも無いですよね。じゃ、資産が何かあるかといえばCD/DVDの在庫だけです。これも定価で評価すればたぶん50億くらいは持っているんでしょうが、売れ残ったらドンキに100円で投げなきゃいけあい。実際は5億くらいかもしれませんね。借入金も規模からみたら50億円くらいありそうですね。
それに160億円付けた訳です。じゃあ、大和は何を買ったのか、というとCDの在庫を買ったというよりはこのHMVというブランドを買ったことになりますね。これがブランド価値であり、かれらは在庫を引いてこれに100億円の価値をつけた。私はHMVブランドに100億円の価値があるとはどうしても思えない訳でかなり「ごくろーさん」的なディールです。
ユニクロがバーニーズの買収をあきらめました。
競ってきたUAEのイスティスマルは典型的な買収ファンドでユニクロが競ってくると確信していた。ところが柳井さんは・・・直接話していないので分かりませんが恐らく・・・そんなブランド価値はバーニーズにはない、と判断したのだと思います。
1100億円の見方ですが、バーニーズの場合は一つ一つの服にブランド価値が乗ってますからまあ、HMVよりは在庫価値が高いでしょう。しかし、規模から見て恐らく500億円程度の在庫評価でしょうか。そうするとブランド価値600億円。いくらなんでも高すぎるでしょうね。さらにもうひとつ。ユニクロが買う場合の難しさがあるのです。
つまりユニクロブランドと認識されることによるバーニーズブランド価値の低下ということ。「逆ブランド買収」と呼んでいるのですが、つまり、3万円のバーニーズのワイシャツを着ていると「なんだよ、それユニクロだろ?」 といわれるリスクを今のバーニーズファンがとるかどうか・・・・ですね。
ぐっちー的には今までバーニーズブランドを愛好してきた、ワイシャツに3万円を投資した連中が突然1000円のユニクロシャツの連中と一緒にされるリスクを負わないだろう・・・・と考えるんです。でも柳井さんはこのあたりは十分計算し尽くして飛びつかなかった。立派な判断です。
タイユバンロブションというフレンチのグランドメゾンがあります。恵比寿に立派なシャトーがあり六本木ヒルズにも出店。三ツ星シェフのジョエル・ロブションによるプロデュースですからブランド価値は十分・・・・でした(過去形)。料理も悪くないし、値段も一人3万円、まあ、高級フレンチとしては普通ですね。
しかし、以前に比べると客単価が著しく悪化している。ここはサッポロビールからフォーシーズに売却されたのです。フォーシーズ・・・聞きなれないですか。ピザーラです。宅配ピザの。
つまり、彼女を誘って「高級フレンチを食べに行こうよ!!」といって
「ロブション予約したよ」、っていったら、
「それ宅配ピザ屋がやってるフレンチでしょ??」
と言われて「あれま?」的なリスクをあなたとりますか??って話です。これも逆ブランドによるブランド価値の毀損。大変難しいM&Aに属します。私なら勧めないディールですね。売り先としてはより高いブランド価値が付帯できる所を選ばなきゃいけない。
一方、これを最大限に利用してM&Aで帝国を作り出したのが・・・あのルイ・ヴィトンです。ルイ・ヴィトンといえば無敵ブランド。ルイ・ヴィトンのマークさえつければ何でも倍の値段で売れるかもしれません。何せビーチサンダルが3万円で実際に売り切れる訳ですからすごい。
そしてこのブランドドライブを最大限にかけて成長してきたのがこのLVMHというグループです。これはまさにM&Aの鏡です。
実際はモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)といいます。
当初はアルコール飲料とブランド衣料・皮革の組み合わせは難しいと思われたのですがヴィトンのブランド価値が勝りました。
ファッション部門だけ見てもすごいです。え、あそこもルイヴィトンなの??とお思いになる筈。ファッションレザーグッズは
ルイ・ヴィトン
ロエベ
セリーヌ
ベルルッティ
ジバンシー
ケンゾー
エミリオ・ブッチ
フェンディ
ダナ・キャラン
トーマス・ピンク
マーク・ジェイコブス
クリスチャン・ディオール
となります。ちょっと驚かされますね。紳士靴のベルルッティ、確かに昔の手作り感は薄れたものの、
「何だよ、それってただのルイ・ヴィトンじゃねーかよ」、
とは言われませんね。むしろこのブランドドライブに加えヴィトンのデザイナーを派遣したりしてシナジーまで作り出す訳です。ディオールはこれで完全復活しました。今なら売却してもかなりの金額になりますね。他にもアルコール部門(あのクリュッグも傘下)、時計部門(タグ・ホイヤー、ショーメがそうです)など幅広くM&Aを繰り返しヴィトンブランドに集合させた訳です。
ということでこういうブランド価値の上下、力関係、シナジー、といった要素が実はM&Aのキーポイントなのです。この仕事、だからおもしろいんですよ!
ということでまた・・・
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17 comments on “ブランド価値再考”
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ご了承のうえ、ご利用ください。
御幼少の頃から蓄積、磨き上げてきた趣味を生かせる仕事であります、
とよだれを流しながら講釈されるのを楽しく読みました。
ユニクロ、競争相手が出なかったら、買ってしまったら、買収を検討した事態、いろんな意味で危なかったのかな。ぐっちー式嫌み・・・
花魁を落籍するのは、昔から傾国の美人になりかねない。駆け落ちが一番。
そんな相手がいるでしょうか?
カサノバが求められる理想像であります。でしょう・・・?
> 一応アイデアはあるのですがあまり迂闊なことが書> けないので・・・ヒントはアジア通貨危機です。皆> さん考えて下さい。
97年当時インドネシアを担当してた私には、真っ先に思い浮かぶのは、政治ですね。中国の政治・治安の問題が最大の問題になるような悪寒。。。
>ヒントはアジア通貨危機です。皆さん考えて下さい。
アジア通貨危機を経験していて、今不動産投機が盛んな国というと、まさかお隣さんですか?
>多分そんなんじゃない
この文の意味するところは「そんな甘い結末ではない」ということなのか「そういう種類の結末ではない」なのか。。。
ヒントが「アジア通貨危機」だけというのは厳しいなあ?(笑
当時とは各国の状況が違っていますので、シナリオだけ残して役者を入れ替えて考えるってことだろうか。
為替がどういう流れに向かうかだけでも、どうか聞かせてプリーズです。
ディオールはエディ・スリマンを起用してスリムなスーツを流行させたのがずばり当たりましたからねえ。「あの」カール・ラガーフェルトがディオール・オムが着たいという理由だけで42kg(!)ダイエットするという事件があったぐらいでしたから。
しかし、スリム化はいいんですけど、今のスーツ(別にディオールに限らず、たとえイオンやイトーヨーカドーに行っても)は私には窮屈です。身長173でウエスト79胸囲95で袖が入らない、手が挙がらない、肩幅が合わない。ディオールの「女性社員」がビジネススーツとして好んで着るっていうものいいんですけど、だったらディオールには筋骨隆々(腹がでている人間はいないでしょうが)な男はいないのかって言いたくなります。
ツタヤが買収したのはヴァージンじゃないですかね?
タワレコはドコモですよね
アジア通貨危機で食らったのは
インドネシア、タイ、マレーシア、韓国、ロシア、
ブラジル、アルゼンチンとかだっけ。
要は金を引き上げられて困るところが
困ったんだけど今回は外貨準備も積み上げてるし
同じ所は起こらないでしょ?中国も考えにくいと
思うんだよね。今回HFが金を注ぎこんだ所って
ブリックスとかビスタとかかな。中国とか
起こったら日本も不況になりそうだなー。
>ヒントはアジア通貨危機です。皆さん考えて下さい。
いつも興味深く拝見させていただいております。
クライマックスは急激な円高でしょうか。
97’5月に127円台から翌6月には110円台に
なっていますから今回もひょっとして・・・
ちがうかな
HMVジャパン(東京・港)の二〇〇七年四月期の売上高は約四百七十億円、営業利益は約七億四千五百万円。
新星堂を買ったのはツタヤの親会社であるCCC,
しかもタワレコじゃなくてヴァージです。
毎日暑いですね?。
先日、宅配ピザ屋で5000円ランチしてしまいました
セオリーも以前は好きでしたが、ユニクロ出資でなんだかな?って感じがします。
隣の国も心配
ヒント?
ってことはあなたの答えは正解ということが前提ですね。
1度2度は当てる事が出来ても、3回連続当てる事は相場の世界では不可能に近いはずです。
もし通貨危機があるならテーハミング。
経済力に対して、通貨が高すぎます。
もちろんあなたならそんなことは既にご存知で、他にもっと深い問題を知ってると思います。
毎日ブログ楽しみに見てます。
ヒント?
ってことはあなたの答えは正解が前提ということですね。
1度2度は当てる事は出来ても、相場の世界で3回連続で当てることあったとしても、それは実力ですか?
通貨危機があるならテーハミングでしょう。
経済力に対して通貨が高すぎます。
もちろんこんなことは誰でも知ってますので、他のものすごいことをあなたはご存知かと思います。
毎日楽しみにブログ見てます。
切り下げ・・・
ユニクロブランドと認識されることによるバーニーズブランド価値の低下はほぼ無いと思いますよ、ハッキリと別ブランドにすれば。消費者はそんなに賢くないです。スウォッチグループやアメリカでのレクサス-トヨタのように成功できると思います(安ければ・・・高いのでやめたのでしょう)。ロブションの件にしても、まず綺麗なお姉ちゃんは知らないでしょうし。
アメリカは金利を高めに誘導して利ざやを求める外国資本の流入を促し、資本を蓄積する一方で、国内消費で経済成長するという成長システムを採用していた。
アメリカはこのパターンの典型的な成長システムであり、慢性的な経常赤字であった。
サププライムローン問題などにより、住宅を中心とするアメリカの国内消費の縮小に気がつき、アメリカに資本を投じていた投資家らはアメリカの経済成長の持続可能性に疑問を抱く様になった。
過大評価された通貨に空売りを仕掛け、安くなったところで買い戻せば利益が出る?
この数日、
ドルに対して円は高くなっているけど、ユーロはドルに対して安くなっているよ・・・
円だけが過小評価されていたということかな
ドル・円・ユーロは、どこに落ち着くのでしょうか
資産が何かあるかといえばCD/DVDの在庫だけです。
>
再販制度を知らないわけじゃないよね
>株についてはバーゲンハンティングでいいと思いますが、金融システムという観点からいうと日本も対岸の火事という訳には行きません。
ほんとにそうだと僕も思っています。
アジア通貨危機というのは考えるに値するご指摘だと思います。
アメリカがこれからどういう行動にでるのかよく見ないとなりまへんなあ。なんか、やる事が想像できそうな気がしますが。