2007/08/08 14:29 | 金融経済解説 | コメント(6)
証券版ミートホープ
かんべえ先生にCDO,すなわち証券化商品の問題点はダンボール入り肉まんのようなものだ、と喝破して頂きました。誠にそのとおりであります。
さらに言いますとさっさと金が返せん! と判定できたベアースターンズはたいしたもん、ともいえまして、こういうハイ・イールドの原資産ほどこういう状況下では価値算出の難しいものはありません。いつものとおりどこにもきちんと説明が出てこないので以下、もう少し詳しくこの世界を解説します。長くなりますがこのあたりをきちんと理解していただくと今回のことが大体ご理解頂けるようになりますのでお付き合いください。
一般的に証券化商品はCDO(Collateralized Debt Obligations)と呼ばれますが、実際はいくつかの商品に分かれます。
まずCBO。
Bは「Bond」のBです。これは通常、ハイイールド債券を200種類くらい買いこんでファンドを組成、ハイイールドですから格付けではBより下のものばかりを買い込みます。もちろん投資適格の債券を買ってもかまわないですが、それなら特定の債券を買えばいい訳ですね。ハイイールドはどれが潰れるか予想がつかないので分散しいましょうね、というのがスタートの発想です。
しかし、すべて「債券」ですので今回問題になっているサブプライムローンが入る事(殆どの場合)はないわけですね。逆にGMなどはもちろん、CCとかCの低格付け債券がごっそりはいっている可能性がありますので、どういう債券が組み込まれているかは実は注意が必要です。
ただし、ほとんどが公募債で構成されていますので、時間さえかければ一つ一つを探し出すことは不可能ではありませんし、社債発行のディスクロが進んだアメリカでは発行企業内容もブルームバーグなどで把握可能です。
そしてこれらのプールに対するリスクを分散し、つまり何がしかの債券がデフォルトした場合、全体のプール自体が毀損しますのでその際の毀損を受け持つ順位をつけておきます。一般的に一番下の優先順位のプールをエクイティー(株式)、そして次がメザニン(Subordinateともいいますし、かなり細かく分ける場合もあります)、そしてその上にシニアと呼ばれるカテゴリーを設置、通常は格付けなどをつけましてそこを債券と称して売っているものです。
例えば総額で200Mil・200銘柄のハイイールド債券を自分で買ったとします。自分でこれを保有していてそのうちの1銘柄、つまり1Mil相当がデフォルトしたとすると「やられ1Mil」ですから資産は199Milに減ってしまいます。当然CDOでも同じことが起きる訳ですが、先ほどのようにこのやられた部分を押し付ける順位を決めているところが特徴で、この場合で行きますと一番したのエクイティーに投資した人がこの1MILををかぶりますので、エクイティーが10MIL発行されていればここに投資した人は元本が10%毀損します。
一方それより上のメザニン、シニアクラスはこの段階では全く毀損がありません。しかし、お分かりのようにあと9銘柄、合計9Milがデフォルトすればエクイティーはすべて飛んで、次にメザニンがこのリスクを負うことになるのです。これがCDOの基本的な建て付けです。しかし、ここに恐ろしいからくりがあるのですよ
下位に倒産した場合のバッファーがはいっているので発行時はそれこそAAなどの格付けがシニアの部分には付いています。原資産が分散していること、バッファーがあることにより、現在のような倒産確率が低い状態ですと、かなり高格付けをつける訳です。怖いのはこの原資産、200銘柄の債券の一つ一つを仔細に検討してリスクの所在を明らかにした上で格付けを振っている訳ではないことです。あくまで分散されていて、倒産したら、下からやられていくので上の方までは来ないでしょう、というきわめて乱暴な推論に基づいている訳です。
実際にはデフォルトが起きるたびに原資産は毀損しますので、同時多発的にデフォルトがおきればあったはずのバッファーはたちどころに吹っ飛び、次にデフォルトおきるとシニアが毀損することになるのですが、この時点でさえムーディーズなどの格付け会社は格付けを変更しません。そんな暇が無い訳です、数が多過ぎて。冗談だと思われるかもしれませんが本当です。 (今回はさすがにサブプライム入りの、次に説明するCLOについて格付けの見直しを発表しましたがこれも一部にすぎません)
全く同じ仕組みで中身がボンドではなくローンになるとこれはCLOと呼ばれます。LはLoanのLですね。
実は先のCBOの方は既にこういう原資産が毀損して、AAだったはずのカテゴリーがある日突然毀損していた・・・という体験をしています。例のテックバブルがはじけた2003年に経験積みなのです。CBOの債券部分が飛びまくりました。ところが、実はこの時同じ仕組みのこのCLOはセーフでした。
なぜか??
そのときまことしやかにいわれたのが、やはりローンは担保がついているから安全なんだという話。実際はゴールドマンやモルスタのセールストークなのですが、ここを境にCLO神話が生まれ、それまでシニアしか手を出さなかった投資家がエクイティーに手を染めていくことになります。しかし、これらのローンはGEやIBM向けのローンではありません。
CBOのローンバージョンですから格付けは同じくBより下のインベストメントグレードに達していないものを用いています。同じカテゴリーなのにボンドは「ジャンクボンド」とよばれ、ローンは「レバレッジドローン」とよばれるのがお笑いなのですが、担保といってもこの格付け程度の会社が持っている資産とはなんでしょう??
住宅ならサブプライムだし、普通の企業だと、海のものとも山のものともわからんようなバイオの特許(99%は実現せずに消滅する)などが担保になっている訳ですが(お得意の知的財産権)そんなものが本当に担保価値があるのだろうか・・・・・というのは当然おきる疑問です。ただ、実際にはスウェット・エクイティーといってこれに株式価値までつける場合があるのですね。
いずれにせよ、この時期を境にCLOに投資が集中、日本の銀行ももちろん、世界中の金融機関が殺到します。その結果・・・・
同じBの格付けのジャンクボンドがL+300なのにジャンクローンともいうべきレバレッジドローンはL+100を切るという事態が起きます。2005年あたりから拍車がかかり、原資産でそれだけのスプレッド差がでますので当然CBOのAAクラスとCLOのAAクラスにもかなりのスプレッドの差が着くはずですが、なぜかこちらはほとんど変わらなかったのです。
当然CLO利回りアップのためにCBOより質の悪いローンが組み込まれた訳でしてこの代表例がこの頃から飛躍的に伸びたサブプライムローンだった・・・という訳です。
更に今回事態を複雑にしているのがこのローンという商品特性。
ジャンクボンドなら社債という基準のもとに統一されたフォームに則り発行されていますのでその全容は誰にでも明らかです。一方ローンは個別契約です。
A銀行が出したB社へのローン、C銀行が出したD社へのローン、これらをまとめていますから、一つ一つ、それこそデューデリしなければ本当の価値がいくらかなどとはだれにも分かりません。しかし、格付け会社はボンドと同じく一つ一つのローンは全く審査していません。対数の法則とバッファーの金額だけで機械的に格付けを振っただけなのです。
2003年のケースと比べると当時CLOがセーフだったのはCBOより比較的質の高いローンが組み込まれていたのが本当の原因であり、今回のように利回りを上げるためにサブプライムを組み込めば同じことが起きる訳です。
この状況下ですから、ベアースターンズはそれでも状況が把握できただけ偉いとも言える訳ですね。その他はどれだけやられているか、全く不明状況が続いているというのが実情でだからこその信用不安という訳ですね。ローンを一つ一つ紐解いていくのは気の遠くなるような作業です。そのときの組成担当者が辞めちゃってわからない、なんて代物まであるんですよ、実際に。事がそれほど簡単ではないことがご理解頂けるでしょうか。
PS 実際にデフォルトすると確かにリセールバリューというのが残ってゼロにはならないという議論もあります。今回はそれについては触れて言いませんのであしからず。
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6 comments on “証券版ミートホープ”
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ご了承のうえ、ご利用ください。
一般的に
シニアローンとHY債だと、同じ企業でも
キャピタルストラクチャー上、シニアローンの方が上です。
それゆえ、CLOがCBOよりもクレジットの質が良いのは、
ある意味当然です。
2001?2003年にCLOがCBOをアウトパフォームしたのは、
シニアローンより先にHY債が毀損したからです。
キャピタルストラクチャーで上に位置するシニアローンの方が、
リカバリー率が高いこともあるでしょう。
つまり、クレジット市場が弱含む時に、
CLOがCBOをアウトパフォームしたのは
偶然ではなく必然です。
現在、CLOで懸案点となっているのは、サブプライムではなく、
コベナンツ・ライト案件やHY債の組入比率の増加です。
ちなみに、現在、CBOはほとんど発行されていないのではないでしょうか。
『馬をくれ、馬を!我が王国をくれてやるぞ!』
もっか無数のリチャード三世が、この台詞を叫びながら舞台を流離っているのですね。
ぐっちーさんは馬商人になったかな?
馬でなくても、ラクダでもロバでも今なら売れるな。
ところで
お気に入りのアーさん、アーさんにロバを売りつけ、二人乗りするんですかねぇ?!
騎手免許持っているのかな。
もうすぐ見に行きましょうか。二人芝居のリチャード三世
最近コチラのブログを見つけて
勉強させていただいてます。
いつも難しい内容をわかりやすく
説明していただいて、ありがとうございます!
これからもがんばってください!
いつも更新を楽しみにしています。これほどのものが、無料で見られるネット時代の有難味を感じているところです。
最近詳しい解説をしていただいているCDOについて一つお聞きできればと思い、書き込みをさせていただいた次第です。
これらの金融商品の価格下落で投資家が蒙る損失総額は、もともとの原資産の残高合計が上限になると考えて良いのでしょうか。それとも、レバレッジを効かせることで、1億ドルの債権を原資産とする金融商品で、1億ドルを超える損失が出ることもあるのでしょうか?
お忙しい中厚かましいお願いとは存じましたが、今後の書き込みの中ででもお教えくだされば幸いです。
いつも楽しく拝読しています。
とても勉強になっています。
先週からの様々なご説明で、CBOなど仕組み、問題となっている連鎖がよく分かりました。
ただ、(信用の収縮なので心理的な問題も大きいのでしょうが)やはり規模、といいますか、この腐った肉がどの程度出回っているのか、というのが大きいように思います。たとえば、過去の大規模なクレジットクランチと比べて比較していただけないでしょうか。
Economist誌などもいい調整だ、ぐらいの認識でしか書いていませんので(この雑誌がどの程度マーケットに精通しているのか知りませんが)、次のレクチャーで取り上げていただければと思います。
いつも楽しく見ております。
今回のサブプライムローン問題ですが、ファニー・メイやフレディ・マックへの影響は何かあるのでしょうか。また日本では2段階返済住宅ローンがありますが、返済額が増える頃、サブプライムローンと同様のことが起こるでしょうか。
何かの機会にこの2点についてお教えいただければ幸いです。