2007/07/23 10:41 | サブプライム | コメント(10)
モーゲージ市場のおさらい
このブログを読んでいただいている読者の皆様はすっかりおなじみのサブプライム問題。たいした問題ではない、というエコノミストをよそに「えらいことになる」、と唯一騒いでいたソースとして最近評価を頂くようになりました。
早い、ということはブログにとって重要ですが、「見通しという点」ではやはりマーケットでの経験がものをいう、ということが改めて分かりました。
さて、本件、現状整理しますとこういう感じだと思われます。
1.サブプライムが組み込まれたCDOに絡む、またはそこから派生するダメージ
2.サブプライムが引き起こしたMBSそのものに対するダメージ
3.更にMBSもしくはその周辺から派生するダメージ
このいずれをとっても、または複合するとなると、アメリカ金融市場そのものの成り立ちが問われかねない、ということです。いずれも株式は直接関係しない点が重要。つまり、あまりみんなが見ていない、債券というプロの市場で問題がおきていて、しかもその規模はデリバティブまで含めると膨大。本日はちょっと複雑ですが解説してみます。
ダウが崩れてももちろん影響は大きいのですが、それは一株式というミクロ市場のイベントに過ぎません。しかし、債券の場合、それを通じて国の金融政策が実行されているくらいですから、経済全体、マクロを揺るがす問題に発展します。
今回私が騒いでいるひとつの大きな理由として・・・
株式を担保に取るケース(株レポ)、もちろんプロの投資家にとっては資金調達の一手法として十分検討の価値がある戦略ですが、債券レポの場合は検討するかしないか以前にすでに通常の資金繰りの中に組み込まれている手法です。したがって、必要があれば摂取すればいい栄養が株レポであるとすると、債券レポは血液そのものに例えられます。したがってここが滞れば命がなくなる、ということですね。そこを忘れて議論をしている人がほとんどなので心配している訳です。
CDOはその意味ではマイナーな市場です。せいぜい年間1兆ドル程度(それでも十分大きいという説はあるけど)の発行市場で歴史もせいぜい十年位です。(もちろん投資適格債券が突然ジャンクに急落するなどというインパクトは少なくはない)。そして何より担保に出されるケースはほとんどない。
しかし、MBS(モーゲージバックセキュリティーズ)となると年間50兆ドル、累積総額ではその恐らく10倍はあるという市場、かつ、ごく普通の担保として金融機関同士がやりとりしているという代物です。これが急落した場合の担保価値の下落・・・というのは金融の根幹である信用に直結するのです。
更に問題を複雑にしているのがその商品設計そのもの。CDOの一部、そしてMBSのすべてには償還期限が無い・・・・といったらびっくりするでしょう?ちょっとおおげさですが、実はそれに近い・・・というのが本当の所です。
MBSを眺めて頂くと償還期限が30年以上なんてのは普通で50年などというものがざらにある。しかし、実際に償還期限を50年と考えてだれも取引はしておらず(もし表面上の償還どおり、これはリーガルマチュリティーと呼びますが、取り扱っていればあまり問題はおきません)ある一定の返済率を前提としてその前提の元に償還期間を予想して取引をするのです。
したがって、今のペースで住宅ローンの返済が続けばあと10年で終わります(Average life、及びWAM、weighted average maturity), その前提でいくとこの位の利回りで回ります(WAC, weghted average coupon) という前提条件で取引をしている債券なので、信じられないことですが、金利が1BP上がると突然2年が前提だったはずの償還が30年になったりするのです。
もちろんその逆もありますが(前提になる償還期間アベレージライフと呼んでいてほとんどの方はそれで判断しますが、実はWAM, 1BP動くとどれだけ償還期間が動くかという事を見なければそのリスクが判断できないことになりますね)、要はこのMBSという代物は、金利が上下することにより債券のデューレーションが伸び縮みするという特性を持ち、しかもその判断根拠になっている返済率はあくまで過去の住宅ローンの返済率に過ぎない、ということです。
当然新しいモーゲージプールは返済率の狂いが大きいし、古いものはより安定しているのですが、細かく見ていけば実際はそのプールに入っている個人個人の返済パフォーマンスはまちまちですし、そこまで見て買っている投資家は皆無です。
モーゲージファンドがこういう局面でひどくやられるのはこういう所を無視して、投信の一定のルール(アベレージライフは平均何年、とかCMBSは入れないとか一見安全に見える建てつけ)に法っていれば何でも買えてしまうから、とも言えなくはない。
さらにさらに・・・・これだけ巨大なマーケットの商品が更に元本と利息部分にストリップされて流通しています。IO,PO などと読んでいる商品がそうで、いうなれば償還期限の変化するゼロクーポン債券ですからそのボラティリティーはすさまじく、これらのWAC, WAMなどをまともに予想できる証券会社は少なくとも日本にはないし、アメリカでもベアスターンズなど、ごく一部の証券会社に限られます。
驚くべきことにモルガンスタンレークラスの投資銀行でも、これらの債券価格は前日引け値のUST基準では価格を算定できますが、日中の動きには付いていけません。これができるのは大手ではベアスターンズのみ、あとはモーゲージ専門のカントリーワイドなど、特殊な連中のみが算定できます。いうなれば究極のブラックボックスであります。
それもあくまで過去のデータに基づいた返済率を前提とする金利変動リスクの算定に過ぎず、突然今回のように返済するどころか差し押さえられてしまった場合の元本回収期間についてのデータは全くインプットされていません。
となると・・・
私の持っているMBSの償還期限は・・・・不明、という事態になり、投げるに投げられない(だれも価格が算定できない)という状態になっているという事です。 さらに当然大きなポジションを取っていただろう、ベアースターンズは報道どおり大きな損失を抱えていますから、いまさら人の面倒は見れない・・・という状況であり、何より重要なのがそんなものが担保になっているということなのです。だってアメリカ政府保証でしょ、って話なんですが、この急激な金利リスクを勘案している人実は誰もはいません・・・まじかよ、ってまじなんですから(笑)。
マーケットが急激に回復しないかぎり、この問題は半永久的に続く訳で、おそらく今どのくらいやられているかお互いに算定不能になっているためトリガーを引くことをためらっているのでしょうが、これが現実に分かってくると担保を処分してしまったり、ヘッジでUSTを売り始めたりということが始まりますので市場は大荒れになります。LTCMショックの最初の引き金は(MBSが原因ではありませんでしたが)このレポに出されていた債券の価値が下がり、追証を要求されたことでした。そこから信用収縮が始まった訳ですね。
今回はMBSが問題のルーツになっているだけにその被害は甚大なものになりそうです。
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10 comments on “モーゲージ市場のおさらい”
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ご了承のうえ、ご利用ください。
事の発端はMBS。まったく同感であります。
あまり普段気にしない点ではありますが、
MBSの評価モデルには、「住宅価格の動向」
がパラメータとして組み込まれています。
その感応度は非常に大きいです。
今のMBSモデルで組み込まれている
「住宅価格の動向」の予測を見てみると
非常に興味深いです。
米系証券会社のモデルでは、まだプラスの
数字が入っていると思います。高級住宅
が堅調ということと、基本的に楽観的
という姿勢があるとおもいますが、
実際にそこに現実的な数字を入れると
MBSの評価はすごい数字になってしまいます。
結局この問題は、
「住宅価格の動向の読み間違い」
が大きいのではないでしょうか。
ぜひお試し下さい。
バーチャル経済ですね、
金融だけが数学をネタにした錬金術の世界を構築してしまった。プラグマティズムは人間の欲望に火を付けやすい、
としても、
行きすぎた進化は是正されてきた歴史を見ると、現実の経済が被害を受けるにせよ、解決するでしょうね。
経済理論よりも哲学の方が事態を把握しやすいのではありませんか?
ぐっちーさんが述べた『英語を喋るだけでは役に立たない世界』が我々を待っている訳になる・・・
かき氷を作りながら考えるか・・・
一般的にはおっしゃるとおり経験則があまり働かない状況でプリペイメントリスクを正確に測定できているか、という疑問はありますね。それゆえ、今後も注意を要するというかまだ全容がはっきりしてないのではないか、という点にはまったく同意です。
ただ、すべてのMBSを一緒くたにしてしまうのはどうかと。やはり審査基準が一応きちんとしていてサブプライムそのものとあまりかかわっていないエージェンシー(ファニメやフレディマック=ぐっちーさんのいわれる「アメリカ政府保証」の部分だと思いますが)のMBSとサブプライムの寄せ集めのMBSとさらにその一部を切り取ったようなCDOなどとはかなり問題の所在は異なるのではないでしょうか。
小生に入った情報では、
実際に、金融恐慌が、起こりそうです。
世界金融の崩壊です。
CDOの中身はどうなっているんでしょうか。そうそう低格付けの債券だけで構成されているとは思えませんが。ま、私の理解は小学生程度ですが。
金利が1BP上がると突然2年が前提だったはずの償還
が30年になったりする
ゼロがひとつかふたつ足りない希ガス
詳しい解説ありがとうございました。
ようやく、事の重大さがおぼろげに解ってきました。
しかし、これってもし本当にトリガーひいちゃったら、とんでもないことになりますよね?
LTCMショック時のように、急に為替が円高に動いたら、それをきっかけにして円キャリートレードが動き、それをきっかけにして、日本から海外への投資が縮小し、それをきっかけにして……??
しかし、個人としてどう対処すればいいのでしょうか?…うーん…
ぐっちーさんのサブライム問題の見識、さすがプロと
思いますが、ポジショントークの可能性はありませんか?
この問題は、?どこで終わりなのか(どこまで波及するのか)??レバレッジとエクイティーの問題?誰がババを引くのか?・・・であると思います。
いつも読ませていただいております。
今後もよろしくお願いいたします。